eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

ブラック・クランズマン

黒人刑事が白人至上主義の秘密結社KKKに電話で入会!?
驚きの潜入捜査の実話をスパイク・リー監督が映画化
切実なテーマを含みつつ、ユーモアと共に痛快に描く

ブラック・クランズマン©2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

2018年の第71回カンヌ国際映画祭にてグランプリを受賞した、スパイク・リー監督の最新作。出演はデンゼル・ワシントンの実子であり『マルコムX』で映画デビューをしたジョン・デヴィッド・ワシントン、『スター・ウォーズ』シリーズ新3部作のアダム・ドライバー、『スパイダーマン:ホームカミング』のローラ・ハリアー、『ストレイト・アウタ・コンプトン』のコーリー・ホーキンズ、『アンダー・ザ・シルバー・レイク』のトファー・グレイスほか。アメリカのコロラドスプリングスの警察署で初めてアフリカ系アメリカ人の刑事となったロン・ストールワースの回想録『Black Klansman』を、スパイク・リーが監督・脚本・製作を手がけて映画化。警察署で情報部に配属された若手の黒人刑事が、白人至上主義を掲げるアメリカの秘密結社KKK(Ku Klux Klan)に電話で入会を希望。先方と会うことがすぐに決まり、白人刑事と組んで潜入捜査を開始する。嘘のような本当の話である実話をもとに、フィクションを織り交ぜつつ事件の捜査を痛快に描く、クライム・エンターテインメントである。

ジョン・デヴィッド・ワシントン,ほか

1970年代半ばのアメリカ・コロラド州、コロラドスプリングスの警察署にて、ロン・ストールワースはアフリカ系アメリカ人で初めての刑事に就任。事件捜査を希望していたが、書類管理担当の記録室に配属され、黒人差別をする白人刑事からの嫌がらせなどに辟易していた。ダメ元で署長に潜入捜査官になりたいと伝えると、“ブラック・パンサー党の演説会への潜入”という黒人のロンにしかできない任務を受ける。集会の当日、ロンは党の女性幹部パトリスと出会い、党の主席クワメ・トゥーレの演説を聞く。そして捜査の結果、事件性なしという結論に。任務が解かれるとロンは情報部に異動。ある日、白人至上主義の秘密結社「クー・クラックス・クラン」の新聞広告が気になり、KKKコロラドスプリングス支部に電話する。先方から気に入られたロンはKKK関係者と会うことになり、白人刑事と2人で1人の“ロン”を演じ、「俺は電話担当。白人刑事を別に用意し、彼が連中と会う」という奇抜な潜入捜査を提案する。

かなり大胆不敵な潜入捜査を実行したアフリカ系アメリカ人のもと刑事ロンの回想録をもとに映画化した快作。1970年代半ば、インターネットやSNSや監視カメラといった情報網が今ほど発達していなかった時代だからこその驚きのなりすまし捜査の実話を、フィクションを交えてエンターテインメントとして描いている。映画では、人種差別により起きた残酷な出来事の数々を映しながらも、批判に終始するのではなく、黒人と白人のギャップを刑事たちがジョークで話すシーンや、ブラック・ミュージックや’70年代のファッションなど、シリアスとコミカルとカッコ良さを織り交ぜて、映画ファンが楽しめるように工夫している。リー監督と何度もタッグを組み、本作でも共同脚本を手がけたケヴィン・ウィルモットはこうした面白さについて語る。「(製作の)ジョーダン・ピールからの注文はひとつだけ。『笑える作品にしろ』だった。ぼくらがこの作品を通してしようとしていたことは、重くなりがちな人種問題とヘイトグループの姿をスクリーンに映し出すこと。そして、この国で長い間行われてきた恐ろしいことを示すことだった。そのためには、そのテーマを使って人を惹きつける方法を考えなければならなかった。ロンがKKKに潜入できたのも、よく考えてみると笑えてくる。ストーリーを語るうえで、そういうおかしさというか、ばかばかしさをすべて出したいと思ったんだ」

トファー・グレイス,アダム・ドライバー,ほか

コロラドスプリングスの警察署で初のアフリカ系アメリカ人の刑事となったロン・ストールワース役はジョン・デヴィッド・ワシントンが、賢く度胸のある気質を青年らしいカジュアルな勢いをもって表現。ロンのふりをしてKKKに実際に潜入する白人刑事フリップ・ジマーマン役はアダム・ドライバーが、ユダヤ系であることを隠し、KKKメンバーから憎悪と疑いの目を向けられることで自身を見つめ直す微妙な心理を丁寧に。ブラック・パンサー党(黒人が自衛するため1966年に結成した組織)の幹部パトリス役はローラ・ハリアーが、自らの思想と正義をはっきりと主張する女性として。ローラは役作りについて、撮影前にコロラド大学の同窓会に連絡して当時の黒人学生組織(BSU)の活動について調べ、パトリスのモデルとなったブラック・パンサー党の女性リーダー、アンジェラ・デイヴィスの自叙伝を読んだとのこと。さらにリー監督が’70年代にブラック・パンサー党のリーダーを務めていたキャスリーン・クリーバーを自宅に招いた時に、同席して話をしたとも。
 ブラック・パンサー党の主席クワメ・トゥーレ役はコーリー・ホーキンズが、KKKの最高幹部トファー・グレイス役はデビッド・デュークが、仕立てのいいスーツを身にまとい雄弁に白人至上主義を訴え続ける様子を淡々と、KKKコロラドスプリングス支部のメンバー、ウォルター役はライアン・エッゴールドが、同メンバーでアフリカ系とユダヤ系への激しい憎悪をむき出しにするフェリックス役はヤスペル・ペーコネンが、フェリックスの妻コニー役はアシュリー・アトキンソンが、それぞれに演じている。

原作者のストールワース氏は、本作の脚本の読み合わせに立ち会い、リー監督や俳優たちとさまざまな話をしたとのこと。その時のことをジョンは語る。「ストールワースは、惜しげもなく自分のことを話してくれた。当時、社会で起こっていたことに対する感情だけでなく、潜入捜査のこと、刑事になった方法、彼が築いた人間関係についてなど、いろんなことを教えてくれたんだ。驚いたのは、KKKに潜入捜査を遂行するために、彼が所属していた地元の警察署がたくさん協力してくれていたことだ」
 ストールワース本人は原作の回想録について、「わたしは1冊の本を書こうと思っただけ」と話し、映画化への思いをこのように語っている。「この話を、世間の人に観てもらう価値がある、政治的なメッセージになると判断した人がいることに不思議な感じがした。アメリカの人種問題や、トランプの政治について政治的なメッセージを投げかけるつもりはなかった。スパイクの素晴らしい才能のおかげで、それらの点をつなぐことができた」。そしてリー監督への感謝について、このように明るくコメントしている。「スパイクが、わたしの物語に価値を見出して、映画化したいと思ってくれたことに感謝している。それから、できあがった作品も、すごく気に入っている。と言うか、自分の人生の一部を、スパイク・リーが映画化して不満に思う人なんて、いるわけがないよ!」

ジョン・デヴィッド・ワシントン,ローラ・ハリアー

本作ではサウンドトラックやファッション、アフリカ系アメリカ人の俳優が活躍する映画トークなども見どころ。楽曲は、プリンスがピアノの弾き語りで歌う「Mary Don’t You Weep」、しっとりとした歌とコーラスで聴かせるコーネリアス・ブラザーズ&シスター・ローズの「Too Late to Turn Back Now」、そしてジェームズ・ブラウンのファンクナンバー「Say It Loud - I’m Black and I’m Proud」などを使用。ロンとパトリスの会話には映画『ヒットマン』『コフィー』などのタイトルがあがり、ロンのカラフルなソウル系ファッション、パトリスの小さな顔が映える大きなアフロヘアーなど、ソウルフルなエンターテインメント性が楽しめる。また字幕監修を、浪速の和製ファンクバンド、オーサカ=モノレールのヴォーカリスト中田亮が手がけているのもユニークだ。

本作では1970年代のアメリカを描いているものの、人種差別や政治的な背景など内容には現代性が強く反映されている面がある。ロンを演じたジョンは本作のテーマについて語る。「この作品のテーマが色褪せることはない。現代にも共通する問題だからこそ、コロラドスプリングスの警察署で、ロンの目的達成のために職員たちが協力していたことを知って、安心したような、驚いたような、嬉しいような気持ちになったんだと思う。1970年代のコロラドスプリングスでできたなら、今でもきっとできるはずだ。この作品に描かれているのは、僕らのことだ。今の社会の人々の行動が映し出されている。フィクションじゃない」
 そして製作のジョーダン・ピールは、本作への思いについてこのようにコメントしている。「現在のアメリカは、善い人と悪い人の感覚を失いかけているように感じる。ナチ主義、白人至上主義、KKKは悪い人たちで、ヘイトグループだ。この映画は、大勢の人を惹きつける作品ではないが、人種差別や白人至上主義の思想が揺り戻ってきているアメリカで、わたしたち1人1人の道徳的な指針をリセットする役割を担っている」
 そしてリー監督は、第71回カンヌ国際映画祭にてグランプリ(最高賞パルムドールを受賞した『万引き家族』の次点)を受賞した時の記者会見にて、現在のアメリカに対するメッセージを本作に込めた思いとともに、このように語った。「この映画は警鐘を鳴らすと思う。今まで我々は、事が起こっているにも関わらず、大丈夫と思い込み、ぼんやりと過ごしていた。今の状況はめちゃくちゃで、ウソが真実として吹聴されている。それがこの映画が描くことだ。批評家を含め誰が何と言おうと関係ない。我々はこの映画をもって歴史の正しい側に立っている」

「America First(アメリカ第一主義)」「Make America great again(アメリカを再び素晴らしい国にしよう)」。現在のアメリカ大統領が口癖のように言う言葉は、そもそもKKKの最高幹部として知られる実在の人物デビッド・デュークが昔から長年ずっと唱え続けているモットーだという。本作でデビッド・デュークを演じた俳優トファーは、徹底した差別と憎しみに満ちた人物の役作りをするために、1ヶ月間ずっとデビッドの過去の映像を見てスピーチを聞き、「人生のなかで最低な1ヶ月」を過ごしたのち、撮影に入り演じるなかで、「本当に最悪でつらい気持ち」になったとも。
 この映画の本編では1916年にテキサス州ウェイコで起きた17歳の黒人少年ジェシー・ワシントンのリンチ事件をはじめ、実際にあったゾッとするような差別的な出来事を示すシーンがあり、映画のラストには、2017年にヴァージニア州シャーロッツヴィルにて白人至上主義者による集会の参加者が反対デモに車で突っ込み、反対デモ参加者のヘザー・メイヤー氏を轢き殺した事件のニュース映像が流れる。そうした切実な内容をしっかりと含みながら、ユーモアやロマンスを織り交ぜてエンターテインメントに仕上げている本作について、リー監督は観客へのメッセージとともにこのように語っている。「この作品は、僕らが暮らす現代社会に対する実験なんだ。それから、愛と憎しみの文化抗争に対する実験でもある。映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)のなかでラジオ・ラヒームがつけていたナックルリングみたいに。映画『狩人の夜』(1955年)で、ロバート・ミッチャム演じるハリー・パウエルの指のタトゥーみたいに。愛 V.S. 憎しみ。僕たちは、成功することを祈るしかない。この映画に共感してくれる人たちがいることを願っているよ」

2019年3月22日更新

作品データ

公開 2019年3月22日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開
制作年/制作国 2018年 アメリカ
上映時間 2:15
配給 パルコ
原題 BlacKkKlansman
監督・脚本・製作 スパイク・リー
脚本 チャーリー・ワクテル
デイビッド・ラビノウィッツ
ケヴィン・ウィルモット
原作 ロン・ストールワース
製作 ジェイソン・ブラム
ジョーダン・ピール
出演 ジョン・デヴィッド・ワシントン
アダム・ドライバー
トファー・グレイス
コーリー・ホーキンズ
ローラ・ハリアー
ライアン・エッゴールド
ヤスペル・ペーコネン
ポール・ウォルター・ハウザー
アシュリー・アトキンソン
アレック・ボールドウィン
ハリー・ベラフォンテ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。