グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜

太宰治の未完の遺作が、戯曲から映画に!
戦後の日本を舞台に、大人の男女の悲喜こもごもを描く
実力派俳優の共演による恋愛喜劇にして人間ドラマ

  • 2020/02/14
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グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜©2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ

太宰治の未完の遺作を、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が戯曲として完成させ、2015年に初上演した作品を成島出監督が映画化。出演は、2020年12月に公開予定の映画『新解釈・三國志』の大泉洋、初演時にキヌ子を演じて当たり役と高い評価を得た小池栄子、2020年に公開予定の『喜劇 愛妻物語』の水川あさみと濱田岳、『ここは退屈迎えに来て』の橋本愛、『春待つ僕ら』の緒川たまき、『ゼロの焦点』の木村多江、2020年4月公開予定の『糸』の松重豊ほか。監督は『八日目の蟬』の成島出が手がける。文芸誌の編集長で、気弱で女に甘い田島周二は、何人もの愛人たちと別れて妻子とやり直そうと決意。闇物資の担ぎ屋・キヌ子にニセの妻を演じてほしいと頼み込み……。復興へと向かう戦後の日本を舞台に、個性的な大人の男女の悲喜こもごもを軽快に描く。昭和の日本を映すレトロなビジュアルも印象的なコメディにして人間ドラマである。

橋本愛,大泉洋,皆川猿時,小池栄子

終戦から3年、人々が活気を取り戻しつつある昭和の日本。闇稼業で小金を稼いでいた文芸雑誌の編集長の田島周二は、気弱で優しく女に甘いことから何人もの愛人を抱えていたが、女性たちと別れて妻子とやり直そうと決意。田島は文士・漆山連行のアイデアに従って、知人の女性にニセ女房を演じてほしいと頼み込む。普段は泥だらけで大食いで金にがめつい担ぎ屋ながら、実は美人であるキヌ子は、割のいい報酬とおいしい食事を条件に引き受ける。ニセ夫婦となったキヌ子と田島は、愛人たちのもとへ別れるために訪問を開始。まずは日本橋の花屋で働く戦争未亡人・青木保子のもとへ向かうが……。

意外にも軽妙な人間喜劇である太宰治の未完の遺作を、イメージにハマる実力派俳優の顔合わせで戯曲から映画化。原作や舞台にあるシニカルな苦味がややマイルドに、より女性たちを尊重する思いやりをさりげなく感じるのは、成島監督と女性の脚本家・奥寺佐渡子のタッグによるところだろうか。ケラリーノ・サンドロヴィッチによる2015年の舞台(仲村トオルと小池栄子のW主演)は、第23回読売演劇大賞にて最優秀作品賞、最優秀女優賞、優秀演出家賞を、第66回芸術選奨文部科学大臣賞の演劇部門を受賞したことで知られている作品。そもそもは舞台を観てとても気に入った成島監督が映画化を申し出たそうで、その時の思いを監督はこのように語っている。「まず舞台の出来が非常によかった。KERAさんの脚色が素晴らしく面白くて、小池栄子のキヌ子が抜群だったんです。KERAさんに映画化したいと言ったら『自由にやってください』と快諾してくださって、ありがたかったな」

大泉洋,松重豊

優しくて女好きで流されやすいモテ男にしてダメ男、文芸雑誌の編集長である田島周二役は、大泉洋が情けなくも人間味のあるいい塩梅で表現。困っている好みの女と出会ってはサポートするうちにねんごろに、というパターンで愛人が増えてゆく、めげない懲りない甘え上手の憎めない男を、持ち前の愛されキャラを発揮してコミカルに演じている。大食いで怪力の担ぎ屋で実は美人である永井キヌ子役は、小池栄子が生き生きと。みなぎる生命力と強い意志がくっきりとしていて、孤独な生い立ちであろうともいつだって今を楽しんでいるところ、高を括っていた田島を本気で蹴りだすシーンは実に爽快だ。原作に“鴉声(からすごえ)”とある、パンチのあるしわがれたダミ声で話すので、小池がいつもとは違う印象に見えるのも面白い。田島の愛人たちは、日本橋の花屋で働く戦争未亡人・青木保子役は緒川たまきが、挿絵画家の水原ケイ子役は橋本愛が、田島のかかりつけの女医・大櫛加代役は水川あさみが、そして青森に娘とともにずっと疎開している田島の妻・田島静江を木村多江が、田島を尊敬する編集部員・清川伸彦役は濱田岳が、愛人との別離にニセ夫婦を提案する作家・漆山連行役は松重豊が、挿絵画家のケイ子の兄・水原健一役は皆川猿時が、道端で占いをしている易者役は戸田恵子が、採石場の親方役は田中要次が、ドレスのデザイナー役は池谷のぶえが、バーのママ佳乃役は犬山イヌコが、闇市のブローカー役は水澤紳吾が、それぞれに演じている。

終戦から3年後の昭和の日本を描く本作は、「戦争を経て復興しようとする時代のパワーとか、世界観というものが出したい」という監督のこだわりを、舞台美術や衣装や装飾のスタッフたちがビジュアル化に注力。撮影は、田島が編集長を務める文芸誌の編集部と大櫛先生のいる病院、田島の部屋は、茨城県笠間市の筑波海軍航空記念館にて。また清川の家と青木が勤める花屋の外観は、東京都小金井市にある江戸東京たてもの園、採石場は栃木県栃木市の田政鉱業と群馬県高崎市のクラシエフーズ、田島を偲ぶ会を行う庭園は、山梨県山梨市の根津記念館などで撮影。主要な登場人物たちの衣装のほとんどは、ヴィンテージの生地を使用してオリジナルのデザインで制作。カラフルなキヌ子の洋装、田島の仕立ての良い上質なスーツ、愛人たちそれぞれの個性が表現されているファッションや、妻・静江の着物など、レトロでモダンなデザインや着こなしが目を引く。

大泉洋,木村多江

太宰治による原作は、太宰が39歳の時、1948年6月13日に愛人の山崎富栄と玉川上水で入水自殺をしたその時に執筆していた作品。朝日新聞の連載小説として依頼を受けたもので、第1回目の掲載は1948年6月21日、太宰の死後となった。内容の構想自体は以前からあったものと言われていて、太宰が他界した時には連載の13回分の原稿が遺されていたという。この小説について語る太宰のコメントを、『もの思う葦』より引用する。「唐詩選の五言絶句の中に、人生足別離の一句があり、私の或る先輩はこれを『サヨナラ』ダケガ人生ダ、と訳した。まことに、相逢った時のよろこびは、つかのまに消えるものだけれども、別離の傷心は深く、私たちは常に惜別の情の中に生きているといっても過言ではあるまい。題して『グッド・バイ』現代の紳士淑女の、別離百態と言っては大袈裟だけれども、さまざまの別離の様相を写し得たら、さいわい」

原作者である太宰治の意図は“別離百態”であり、男女の別れを皮肉を含みながらもコミカルかつ軽やかに描く意図があったようだが、戯曲と映画はケラリーノ・サンドロヴィッチと成島出監督というオリジナルの人間ドラマの紡ぎ手によってそれだけでは決してない、幸せに向かってゆく人々のたくましさを明るく大らかに描くストーリーとなっている。太宰の未完の小説を新たな戯曲として完成させたKERA氏はこの物語について、2015年の初演時にこのように語った。「太宰治の未完の遺作をスクリューボール・コメディに仕立てあげる試み。太宰フリークに文句言われたって知ったこっちゃありません。ドライでスピード感のある、粋な群像喜劇になるはず。いつも以上に気楽にお楽しみいただきたい」
 2020年は舞台『グッドバイ』がケラリーノ・サンドロヴィッチの脚本で、生瀬勝久が演出・出演を務め、藤木直人、ソニンの出演で2月16日まで上演。生演奏のヴァイオリンで一部ミュージカル仕立てになっていて、映画とはまったく異なるエピソードや演出もいろいろあるので、舞台と映画の両方を楽しむのも一興だ。
 一方、『八日目の蟬』などシリアスな人間ドラマで知られる成島監督は映画化にあたり、当初は脚本家の奥寺佐渡子とともに熟考して、敗戦から3年目の日本を「深い人間ドラマの側面も掘り下げて描きたい」と思っていたとも。が、コメディでいこう!と決めたことについて、監督は語る。「これは笑って楽しめるコメディに徹しよう、と考え直しました。KERAさんの舞台がもっていた人間の愉快なおかしさを、シンプルに映画で表現しようと。そこに人間の強さ、生命力も感じさせて、愛される映画にしたいと思ったんです。大泉さんと小池さんなら何の心配もなくそれが成立させられますからね。中身なんかなくたっていい。笑いって大事なんだ。笑って笑って、復興に向かう時代や人々のパワーを感じて、『人生っていいもんだ』と力をチャージできる作品にしたい。そう考えながら撮っていました」
 撮影では、監督が各キャラクターの“生まれてから映画が始まる直前までの人生表”を作成して渡したことも、演者たちの役作りにとても役立ったとのこと。個人的には、コメディのなかにも登場人物たちの仁義の切り方や、キヌ子や愛人の女性たちの恋愛観など、それぞれに異なる思いや個性が尊重され、さりげなく丁寧に描かれていることに、製作陣のぬくもりや優しさを感じた。
 また2020年1月23日に東京で行われた完成披露試写会の舞台挨拶にて、大泉洋はユーモアを交えて、小池栄子はおすすめの見どころとともに、このようにメッセージを伝えた。
 大泉「太宰治が書き切れなかった遺作で、すごいワクワクして台本を読んだのを覚えています。観始めたら、ノンストップであっという間に終わる映画だと思います。楽しく観ていただいたら、あなたたちも我々と無関係ではないんです!あなたちはプロデューサーなんです!しっかりネットに『ああ面白かったな』『大泉洋がずっとかっこよかった』とそう書くのがあなたたちの仕事なんだ!」
 小池「こんな愉快なキャストの皆様と、とっても素敵なコメディを作れたと思っています。どこを切り取っても美しいシーンとなっていますので、終戦後の復興に向けての力強いパワーというのを、ぜひ感じてほしいです」

作品データ

公開 2020年2月14日より新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 日本
上映時間 1:46
配給 キノフィルムズ
監督 成島出
脚本 奥寺佐渡子
原作 ケラリーノ・サンドロヴィッチ(太宰 治「グッド・バイ」より)
出演 大泉洋
小池栄子
水川あさみ
橋本愛
緒川たまき
木村多江
皆川猿時
田中要次
池谷のぶえ
犬山イヌコ
水澤紳吾
戸田恵子
濱田岳
松重豊
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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