エジソンズ・ゲーム

発明家のエジソン、実業家のウェスティングハウス、
出資者のJ・P・モルガンと実在した人物が多数登場
1880年代後半の熾烈な“電流戦争”を、実話をもとに描く

  • 2020/06/02
  • イベント
  • シネマ
エジソンズ・ゲーム©2019 Lantern Entertainment LLC. All Rights Reserved.

人々を照らす灯りが炎から電灯へと移り変わる19世紀後半から、アメリカで電気の送電方式をめぐる熾烈な競争となった“War of Currents(電流戦争)”の実話に着想を得て描く。出演は、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のベネディクト・カンバーバッチ、『シェイプ・オブ・ウォーター』のマイケル・シャノン、『女王陛下のお気に入り』のニコラス・ホルト、『スパイダーマン』シリーズのトム・ホランドほか。監督はドラマ「glee/グリー」シリーズのアルフォンソ・ゴメス=レホン、脚本・製作総指揮は『ギヴァー 記憶を注ぐ者』のマイケル・ミトニックが手がける。改良型の白熱電球を完成させた発明家のトーマス・エジソンは、直流による送電方式で電灯の普及を開始。実業家のジョージ・ウェスティングハウスは、より効率的な交流方式を提案するが……。産業界や経済界の有名人たちが多数関わり、“電流戦争”として今に伝わる出来事と、発明家エジソンの激しい競争心を映すドラマである。

ベネディクト・カンバーバッチ

1880年のニューヨーク。電気によって「夜を葬る」と宣言し、自らフィラメントを改良した白熱電球を電気で点灯するデモンストレーションに成功したトーマス・エジソンは、天才発明家と称されている。エジソンは大統領の仕事でも気に入らなければあっさり断り、妻と2人の子どもたちと共に自由に過ごしている。1881年に彼は「エジソン・エレクトリック」を設立し、優秀な若手の人材たちを率いて発明と研究に明け暮れ、直流による送電方式で電灯を普及。しかし実業家のウェスティングハウスは、交流方式による送電の方が優れていると考えていた。パワーの強い交流方式は発電機1基でも遠くまで電気を送れるため、より多くの人々に安価で電気を供給できるからだ。「エジソン・エレクトリック」に採用された、オーストリア移民の発明家ニコラ・テスラも交流方式の方が効率的だと提案するも、エジソンに一蹴される。そして1886年、ウェスティングハウスは交流式の実演会を実施。その成功のニュースで、実演会で使われたのはエジソンが改良した電球だったと聞き、エジソンが激怒。新聞記者を集め、ウェスティングハウスが提案する交流式は感電しやすく、危険で死を招くと言い放ち、ネガティブ・キャンペーンを仕掛ける。

1880年代後半のアメリカで実際にあった“電流戦争”に着想を得た作品。劇中には、発明家のエジソンとテスラ、実業家のウェスティングハウス、出資者のJ・P・モルガンと有名な人々が多数登場している。内容としては、電気の送電にまつわる専門用語や関係者の矢継ぎ早の会話、アメリカ史では知られているだろうことなどがほぼ説明なしでどんどん展開し、かなりの情報量が詰め込まれていて。正直、1回観るだけでは伝わりにくく、2回観て筆者はようやく把握できた。身長の高いベネディクトが低い役を演じるのに、アングルやトリックなどいろいろ工夫されている不自然さが個人的にちょっと気になったものの、それはそれとして。本作でエジソンを演じたベネディクトは、役作りとエジソンの人物像についてこのようにコメントしている。「(役作りでは)“産業の父”という皆が持っているイメージから彼を引き離すようにした。彼はビジネスや裁判での争いに執着したが、同時に良い行いもしていた。人間らしい欠点もあるものの、やはり非凡な人だったんだ」

マイケル・シャノン,ニコラス・ホルト

30代前半〜40代くらいまでのトーマス・エジソン役はベネディクトが、天才的な発明家であり権利や名誉にこだわり、実業家としての野心と強い競争心のある人物として。本作の製作総指揮にも名を連ねるベネディクトは、一流の発明家である自負からの傲慢な言動、競争相手を出し抜くためなら手段を選ばない強引さなど、観ていて共感しにくいエジソンの影の部分をシリアスに演じている。総合電機メーカー「ウェスティングハウス電気会社」の創設者である裕福な実業家ジョージ・ウェスティングハウス役はマイケル・シャノンが、相手を尊重して粘り強く交渉しようとする思いやりのある人物として。オーストリア帝国(現在のクロアチア)からの移民である発明家ニコラ・テスラ役はニコラス・ホルトが、エジソンに心酔する彼の秘書サミュエル・インサル役はトム・ホランドが、ウェスティングハウスの妻マーガリート役はキャサリン・ウォーターストンが、エジソンの妻メアリー役はタペンス・ミドルトンが、以前はエジソンと組んでいた時期もあったものの、のちにウェスティングハウスの大切な右腕となった、高い技術をもつ電気技師フランクリン・ポープ役はスタンリー・タウンゼントが、モルガン財閥の創始者J・P・モルガン役はマシュー・マクファディンが、それぞれに演じている。

劇中の美術セットでは、エジソンの電球と電気椅子を“歴史的に正確に”再現したとのこと。アート・ディレクターとしてのキャリアも長いプロダクションデザイナーのヤン・ロールフスは、その制作についてこのようにコメントしている。「電気椅子の重要なデータをコピーして、電球はエジソンとまったく同じように作った。図面や新聞の切り抜きを使って、アメリカのトーマス・エジソン研究所の協力も得られたんだ」
 また1893年に開催された一大スケールのシカゴ万博の風景は、ロンドンのアレクサンドラ・パレスの外観とブライトンのロイヤル・パビリオンの内観のショットに、当時の白黒写真にカラーをつけた動画のモンタージュとVFXの技術をあわせて作り上げた。

ニコラス・ホルト

本作の脚本・製作総指揮を務めたマイケル・ミトニックは、ハーバード大学を卒業後、イェール大学演劇科で脚本の修士号を修めたのちに、脚本家と作詞作曲家として舞台で戯曲作品を手がけてきた人物。映画では『ギヴァー 記憶を注ぐ者』、テレビではマーティン・スコセッシやミック・ジャガーらによるTVシリーズ「Vinyl」の脚本なども。そもそもこの映画のアイデアは、ミトニックがイェール大学演劇大学院に入学した初日に出された、“歴史からミュージカルのアイデアを発想しよう”という課題で書いたものとのこと。そして卒業後にクリエイターとして活動を始めたミトニックはエージェントから提案され、映画として脚本を書き直した。その際に改めて、米国議会図書館やピッツバーグの歴史博物館を訪れ、膨大にあるエジソンのノートや日記を読み込み、エジソン研究の第一人者である歴史学者ポール・イスラエルの協力も得たとのこと。ミトニックはこの映画の脚本について、「たっぷりと時間をかけてリサーチした。公文書、新聞、資料を読み、徹底的に調べ上げたんだ」とコメントしている。
 アルフォンソ・ゴメス=レホン監督はニューヨーク大学、アメリカン・フィルム・インスティテュートを卒業後、マーティン・スコセッシ、ノーラ・エフロン、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥといった、さまざまなジャンルで活躍する著名な監督たちのアシスタントを務めるなか、「glee/グリー」などTVシリーズの監督を手がけてキャリアを積む。本作ではゴメス=レホン監督の師匠のひとりであるマーティン・スコセッシが製作総指揮を手がけ、ゴメス=レホン監督による“ディレクターズ・カット版”の製作を後押ししたそうだ。

この映画が着想を得た、1880年代後半にアメリカで繰り広げられた電気にまつわる熾烈な競争“電流戦争”とは。これから世界的に広く普及するだろう電灯への送電方式を、誰の技術でどこが掌握するのか。送電方式として、直流か交流のどちらが優れているのか、直流派のエジソンV.S. 交流派のウェスティングハウスとテスラ、どちらが制するか、という構図だった。互いに所有する特許や技術や設備など利害からの対立といった側面もあり、激しい競争となるも送電システムとしては結局、効率や利便性、費用の面からより向いていた交流式が広く普及していった。現在、交流式は電気を家庭に送電するのに使用され、直流式は家電機器全般などで使用。どちらか片方だけが良いのではなく、それぞれの特性を生かして直流と交流の両方が社会を支える基盤のひとつとなっている。

「Genius is one percent inspiration, 99 percent perspiration.
 (天才とは、1%のひらめきと99%の汗<努力>である。)」
 エジソンのとても有名な言葉だ。この映画で個人的に不思議に思ったのは、どうしてこんなにエジソンのダークサイドを改めて暴くような内容にしたのだろう、ということだ。偉大な発明家であったのと同時に、目的のためには裏工作や訴訟をどんどんする面があったのは知られているし、常人離れした能力があれば、それと同じくらい問題があるのも予測はつく。有名人の欠点や私生活の悲劇を知らしめて、観客の興味を引くように見えるのは、映画として後味がいいものではあまりない。実在した人物のこうした面をわざわざたくさん描くなら、敗北や失敗を経て本人が学んだことや変わったこと、のちに生かしたことなどを知りたいと思うが、それがほとんど伝わってこないのは少し残念だ(何があろうとも絶対に、良くも悪くも言動がブレない人物かなとも思うが)。電流戦争後、エジソンは開発・研究など努力を生涯し続けるなか、キネトグラフ、キネトスコープの特許を取得し、映画の上映に関してやはりトラブルを起こしながらも、“映画”という新たな産業を創ったとも。
 最近は実話ベースの映画がとみに多いなか、伝記ものは実在した人物の実際のエピソードを描くにあたりスタッフもキャストも真摯に取り組むことからか、全編シリアスでユーモアはほぼなく情報過多で、観ていて堅苦しく感じることは少なくない。この映画にもそうした感覚があるものの、それでも実話をもとにした偉業のエピソードや、今につながる近現代史の一部を知るのは興味深い。こうした作品はもやっとする面があるかもと承知の上で、それはそれとして淡々と観るといいかもしれない。

作品データ

公開 2020年6月19日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 アメリカ
上映時間 1:48
配給 KADOKAWA
原題 The Current War: Director’s Cut
監督 アルフォンソ・ゴメス=レホン
脚本・製作総指揮 マイケル・ミトニック
出演 ベネディクト・カンバーバッチ
マイケル・シャノン
トム・ホランド
ニコラス・ホルト
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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