オフィシャル・シークレット

K・ナイトレイ主演で英国諜報員の告発事件を映画化
勇気ある行動の顛末を本人、記者、弁護士、政府筋と
さまざまな視点から描くポリティカル・サスペンス

  • 2020/08/06
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オフィシャル・シークレットPhoto by: Nick Wall © Official Secrets Holdings, LLC

2003年のイラク戦争開戦前夜、イギリスの諜報機関GCHQ(英政府通信本部)の職員がある告発をした“キャサリン・ガン事件”をもとに映画化。出演は、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのキーラ・ナイトレイ、TVシリーズ「ドクター・フー」のマット・スミス、『ガーンジー島の読書会の秘密』のマシュー・グード、『007 スペクター』のレイフ・ファインズほか。監督は第78回アカデミー賞にて最優秀外国語映画賞を受賞した南アフリカ映画『ツォツィ』や、映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』で知られるギャヴィン・フッドが手がける。2003年、米英の政府がイラクへの武力行使に向けて準備を進めるなか、英国の諜報機関GCHQ(政府通信本部)で働くキャサリン・ガンは、デスクのパソコンに届いた極秘メールの指示に驚き……。大勢の人々が犠牲になる、国家による誤った行為に気づいた時、止めようと行動する人間はどれくらいいるだろうか。勇気ある告発をしたひとりの若い女性の実話をもとに描く、ポリティカル・サスペンスである。

マシュー・グード,マット・スミス,ほか

2001年9月11日の同時多発テロ事件以降、アメリカ政府はテロへの報復感情からフセイン大統領が大量破壊兵器を開発しているとして、イラク戦争開戦に向かっていた。2003年1月、英米両政府は武力行使の準備に入るなか、イギリスの諜報機関GCHQ(政府通信本部)で翻訳分析官として働くキャサリン・ガンは、アメリカの諜報機関NSA(国家安全保障局)から届いた極秘メールを見て衝撃を受ける。それは英米がイラク侵攻を強行するために、国連安全保障理事会5カ国の代表たちの盗聴を促す内容だった。驚愕し憤ったキャサリンは、反戦の意思のある元同僚の友人ジャスミンを訪ね、この極秘メールをマスコミに渡したいと相談する。紆余曲折ののち、2003年の3月に「オブザーバー」紙の一面に、マーティン・ブライト記者の告発記事として極秘メールの内容が掲載されるが……。

諜報機関のスタッフでありながら、勇気ある告発をしたひとりの女性に何が起きたのかを伝える緊迫感に満ちたドラマ。実話ベースなので派手なアクションがあるのでも陰謀が渦巻くわけでもないが、良心と信念によるものであっても「国家に背いた」ひとりの市民が、現代社会でいかに陰険に追い詰められていくかという生々しさは、観ていてゾッとするものがある。もともとはキャサリンの経験を本として出版したマーシャ&トーマス・ミッチェルの『The Spy Who Tried to Stop a War: Katharine Gun and the Secret Plot to Sanction the Iraq Invasion』があり、映画化の企画によりサラ&グレゴリー・バーンスタイン夫妻が脚本を執筆。製作スタッフから脚本を受け取ったフッド監督は、このストーリーに引き込まれたと語る。「この物語はものすごい状況にはまり込んだ、ごく普通の人間の物語を通して、時代を見ていくことができるのです」

キーラ・ナイトレイ,ほか

英国の諜報機関GCHQの翻訳分析官であり、告発者となるキャサリン・ガン役はキーラが、政府からの重圧に押しつぶされそうになりながらも周囲のサポートを得て、信念を貫き通す女性として表現。キャサリンの夫ヤシャル役はアダム・バクリが、何の相談もなく重大な決断をした妻の行動にショックを受けながらも、妻を信じて支える愛情深いパートナーとして。劇中にある通り、ヤシャルがリークをきっかけに大変な状況に陥ったのは事実であり、夫がイスラム教徒のクルド系トルコ人であることはキャサリンの告発に何の関りもないものの、イラク戦争に関して米英の過ちを告発した妻の立場が、夫の存在により複雑になりかねないという難しさがあるなか、夫婦の確かな結びつきは観ていてホッとする。「オブザーバー」紙の記者マーティン・ブライト役はマット・スミスが、同紙の従軍記者でMI6局員とテニス仲間であるピーター・ボーモント役はマシュー・グードが、同紙のアメリカ駐在記者であるエド・ブリアミー役はリス・エヴァンスが、人権法律事務所リバティの弁護士ベン・エマーソン役はレイフ・ファインズが、ベンの旧友でキャサリンを訴える側の公訴局長であるケン・マクドナルド役はジェレミー・ノーサムが、キャサリンの元同僚で反戦運動に通じているキャサリンの友人ジャスミン役はマイアンナ・バーリングが、それぞれに演じている。
 キャサリンが逮捕され釈放された後、仲の良かった同僚の女性がキャサリンのもとを訪れて手短に話すシーンには、個人的に染みるものがあった。この映画では一貫してブレることなく、キャサリンの告発を支持していることがよく伝わってくる。スタッフとキャストの意思がとてもクリアである感覚が、観ていて気持ちいいことも特徴だ。

17年前の出来事を描いている本作は、登場人物の多くが存命している。そのため役者の何人かは撮影前にそれぞれ演じる本人に会い、話をして役作りをしたという。キーラは当時の関連資料を読み込み、キャサリン本人と会って彼女の心の変遷について聞き、彼女の当時の思いや確信について、「その気持ちを理解して演じることができたのです」とコメント。またレイフは人権派弁護士ベン・エマーソン本人と会い、その強烈な個性に気圧されたという。毒殺された元KGB職員アレクサンドル・リトビネンコの未亡人マリーナ・リトビネンコの弁護士を務めたことでも知られるベン・エマーソンという人物について、レイフは語る。「彼と数分話しただけで、難しいケースを引き受ける人間の力を感じ取ることができます。なぜなら、彼の仕事に対する姿勢には道徳的な緊迫感があるからです」
 面白いのは、マットは自身が演じた記者マーティン・ブライト本人とすでに知り合いだったことだ。ブライト氏が「ニュース・ステーツマン」誌の政治部の記者をしていた時に、マットが出演するTVシリーズ「Party Animals」のアドバイザーをしていたとのこと。当時の自分と同じ年齢であるマットが自分以上にしっかりと表現してくれたと語るブライト氏は、この映画でキャサリンの物語に加えて告発報道の舞台裏を描くことにも注力した監督の方針と、記者として製作に協力したことについて語る。「ビッグニュースを報道するとはどういう感じなのか、それをどう捉え、どう脚本にしていくのか。私たちは報道ルームの躍動感について長い時間をかけて話し合いました。ジャーナリストとして、報道現場でのドラマがこれまでうまく描かれていないことに苛立ちを覚えていたからです。だから、報道の仕組みと記者の生活を正確に表現することに心を砕いたのです」

キーラ・ナイトレイ,レイフ・ファインズ,ほか

フッド監督は製作にあたり、キャサリン本人や記者や弁護士、安全保障の専門家といった関係者たちに直接話を聞き、さまざまな資料を読み込んで1年かけて取材。そしてキャサリンと5日間かけてじっくりと話をした理由について、監督は「彼女の口から本当に起こったことを、ありのまま私に話してほしかったのです」とコメント。そして事実を映画として描く上で難しかったこと、心がけたことについて監督はこのように語っている。「本当に難しかったのは、どうすれば真実から逸脱することなく映画にできるのか、ということでした。私たち製作陣が心を砕き、誠実に語る物語が、俳優の演技をとおして透けて見えることが重要です。ドラマチックに作りながら、重要な事実は正確に語られなくてはならないのです」
 撮影はイギリスのマンチェスター、リヴァプール、ヨークシャーにて実施。中央刑事裁判所の内観は、リヴァプールにある州四季裁判所にて撮影した。また、キャサリンを演じるキーラがGCHQで極秘メールをプリントアウトする重要なシーンを撮影する際に、キャサリン本人が来訪したとも。そして後日に完成した映画を観たキャサリンは、その時の思いをこのように語っている。「映画はほぼ正確に描かれていましたので、私は過去に連れ戻されました。目の前で繰り返される場面を見て、とても奇妙な感覚に襲われました。感情の波が押し寄せてきたのです」

「この映画が、今でも何も変わっていないことを人々に気づかせてほしい。15年経っても同じことの連続で、本当に衝撃的な状況です。このことを知らない、新しい世代にもきちんと伝えなければなりません」(キャサリン・ガン本人)
 こうして声をあげことはリスクがとても大きく、本当に難しい。国家や政府、組織への重大な裏切りや契約違反として、法的に罰せられ、市民としてある意味で抹殺されるかのような状況に陥る可能性があるからだ。キャサリンのケースは、百戦錬磨の人権派弁護士がつき、政治的な背景の事実に、彼女のその時点での告発が間違っていなかったと裏付ける状況があり、その証言をとることができたという大きな幸運があった。こうした引き寄せも、彼女の判断と行動が正義と良心に基づいたものだったからだろう。
 参考までに、イラク戦争に関する映画としては、ロブ・ライナー監督の『記者たち 〜衝撃と畏怖の真実〜』、クリスチャン・ベイル主演の『バイス』、ポール・グリーングラス監督、マット・デイモン主演の『グリーン・ゾーン』などがある。記者のマーティン・ブライト本人は、イラク戦争について語る。「これは、主要機関のすべてを蝕んだ戦争でした。司法制度も、政治システムも、情報機関も、報道もすべて蝕まれた。私たちの公的な生活に大きな影響を与え続けているのです。キャサリンが暴露したことは、単純な不正行為をはるかに超えています。彼女が明らかにしたことは、私たちの国家と国際機関の中心が間違っているということだったのです」
 キャサリンはこの映画が伝えるメッセージについて語る。「これは、国益とは何なのかということに対する実例です。全体のなかに多くのことが隠れています。何が国益なのか、いったい誰が決めるのか」

「キャサリン、君は政府に仕えている」
 「政府は変わる。私は国民に仕えている。政府が国民を守れるよう私は情報を集める。政府が国民にウソをつくためではない」
 劇中にもある、当局の取り調べを受けて言ったキャサリンの言葉だ。キャサリンは2003年に誠実に倫理を擁護した情報専門家に授与されるサム・アダムス賞を受賞(ベトナム戦争中のCIA内部告発者であるサミュエル・A・アダムスにちなんで名づけられた賞)。当時はイギリスで2人暮らしをしていたキャサリンとヤシャル夫妻は、現在は夫と娘とともに夫の出身地であるトルコに住み、イギリスでも活動をしているそうだ。
 実際にあったイラク戦争に関わる告発事件を実話ベースで描くというシリアスな内容ながら、ドラマとして観やすい内容になっている本作。これは監督の演出と俳優たちの表現によるところが大きい。人気俳優や演技派たちが惹きつけ、告発者、その家族、記者たち、弁護士たち、検事、諜報機関、政府筋、とさまざまな視点からひとつの出来事の顛末を追い、それぞれのストーリーを真摯に伝えているのが本作の魅力だ。フッド監督はこの映画のテーマについて語る。「テーマは“あなたならどうする?”だ。職場で衝撃のメールを見たらどうする? 内容は違法で非道だ。多くの業界で起こりうるだろう。いつ声を上げる? 職を失うかもしれないし、自由を失う危険もある。共感できる点は多いと思う」。そして観客へのメッセージについて、このように語っている。「いろいろ感じて考えてほしい。自分なら同じことをするか。彼女を批判する人もいるかもしれない。彼女は裏切り者か、愛国者か。作品は答えを提供しない。観て感じて、鑑賞後にみんなで語り合ってほしい」

作品データ

オフィシャル・シークレット
公開 2020年8月28日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2018年 イギリス
上映時間 1:52
配給 東北新社
STAR CHANNEL MOVIES
原題 OFFICIAL SECRETS
監督・脚本・製作総指揮 ギャヴィン・フッド
脚本 サラ・バースタイン
グレゴリー・バーンスタイン
出演 キーラ・ナイトレイ
マット・スミス
マシュー・グード
リス・エヴァンス
アダム・バクリ
レイフ・ファインズ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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