eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

ファーストラヴ

島本理生の直木賞受賞作を堤幸彦監督が映画化
公認心理師の由紀は“父親殺しの女子大生”を取材し……
心に傷を負った人間たちが確かなものを見出すさまを描く

ファーストラヴ© 2021「ファーストラヴ」製作委員会

累計発行部数35万部を超える、直木賞を受賞した島本理生の小説『ファーストラヴ』を、『TRICK』や『SPEC』の堤幸彦が監督を、ドラマ「八日目の蝉」の浅野妙子が脚本を手がけて映画化。出演は、『探偵はBAR にいる3』の北川景子、『サイレント・トーキョー』の中村倫也、『居眠り磐音』の芳根京子、『Silence−沈黙−』の窪塚洋介ほか。著名な画家の殺害事件の容疑者として、彼の娘である女子大生・聖山環菜が逮捕。公認心理師の真壁由紀は事件を取材するなかで思いがけない事実を知る。環菜の二転三転する証言、彼女の母親の冷ややかな態度、公認心理師として環菜から話を聞き、彼女の過去を調べていくなかで自身のことに向き合う真壁由紀、義弟で弁護士の庵野迦葉と由紀との関係。さまざまなつながりと背景のなか、事実が明らかになってゆく。事件の真相を追うミステリーであり、家族のわだかまりや闇について描くストーリーであり。バレンタインの時期に向いているような、ポップでシンプルなラブ・ストーリーでは決してないものの、心に傷を負った人間たちがそれぞれに自身を受け入れ、自分らしく生きてゆくきっかけを得るさまを描く、人間ドラマである。

北川景子,芳根京子

アナウンサー志望の女子大生・聖山環菜が、著名な画家である父・聖山那雄人を包丁で刺殺した容疑で逮捕。警察の取り調べで「動機はそちらで見つけてください」と環菜が言ったと報道され、彼女がサイコパスであるかのように連日マスコミで取り沙汰される。公認心理師の真壁由紀はこの事件を取材することになり、夫・真壁我聞の弟で弁護士である庵野迦葉と共に環菜に面会を重ね、彼女の動機を探るために話を聞いてゆく。しかし急変する態度や二転三転する供述に翻弄され真実がつかめないなか、環菜から面会で「ゆうじくん」という名前を聞いた由紀は、彼女の態度や反応からここに重要な鍵があると推測。また由紀は環菜に、過去の自分と似た「何か」があると感じ始める。

殺人事件の真相を追うミステリーであり、心に傷を負った女性たちを描く物語でもある本作。北川景子、芳根京子、中村倫也という人気俳優たちが複雑な事件とテーマに挑む姿も見どころとなっている。また女性の心理を中心に描く本作への取り組みについて、堤監督はこのように語っている。「正直なところ、自分には難しい題材だと思いました。私のような男性の立場からすると、女性のもつ深いところの痛みには届かないのではないかと思ったんです。実際にこれまで女性の心理をメインテーマにした作品はほぼ撮ってきていないので、これは本当に経験のない新しい旅になるなと。しかし結果、スタッフに支えられ、多くの方に地道に取材をし準備をしたことで、なんとか作り上げることができたと思っています」

中村倫也,北川景子

公認心理師・真壁由紀役は北川景子が、環菜の心理と事件の真相に真摯に向き合う人物として。本作でデビュー後初のショートヘアとなったのは、北川自身の発案とのこと。原作のキャラクター設定に合わせて髪を30cm 以上カットして堤監督との初タッグに臨み、プロデューサーとの意見交換も積極的に行ったという本作について、北川は語る。「この作品をご覧になる方のなかにも、今まさに苦しんでいる方、あるいは苦しみを乗り越えられた方……さまざまな方がいらっしゃると思いますが、どこかでこの作品と結びつくポイントがあるかもしれない。そこにこの作品をやる意義を強く感じたので、生半可な気持ちでは絶対にやらないと決めていました。この作品のためにデビュー以来初めてショートにしましたが、髪を切ったことでより由紀という役に近付けたような気がしています」
 堤監督は主役・北川景子について語る。「北川さんとは早い段階から“同じ船に乗っている感”がありました。いろいろな意見やアイデアも出してくれましたが、すべてが“言ってもらってありがたい”というタイプの発言ばかりでしたね。どのテイクを見ても誠実にやり切ってくれていたのは、この作品にとって財産だなと思います。非常に役にのめり込む方だと思うし、この作品をご自身の代表作にしたいんだという熱を感じられたのも嬉しかった」
 父親殺しの容疑者・聖山環菜役は芳根京子が、不安定で混沌とした複雑な感情を全身で表現。由紀の義理の弟で、由紀と共に事件を調べる弁護士・庵野迦葉役は中村倫也が、張り詰めた激しい展開のなかでひんやりとしたトーンと落ち着きをもたらしている。中村と芳根の魅力について監督は語る。「中村さんは面白い役者さんでしたね。どうすればあんな風に誰にも醸し出せないキャラ作りができるのか不思議なくらい、とても魅力的な役者でした。彼を見ていると自然体ってこういうことかなと思うし、その凄みが決して圧にならないところがすごいなとも思います。芳根さんのことは、私は敬意を持って“涙の魔術師”と呼んでいました。理屈と感情表現と体の動きがひとつのベクトルに入っている人なので、何をやってもわざとらしくならないんです。ある種の“化け物感”がある人だけど、彼女はまだ若いですから今後どんな女優さんになっていくのか本当に楽しみですね」
 由紀の夫で迦葉の兄・真壁我聞役は窪塚洋介が、環菜の父親であり、殺人事件の被害者となる画家の聖山那雄人役は板尾創路が、由紀の母親・早苗役は高岡早紀が、環菜の過去に関わる青年・小泉裕二役は石田法嗣が、環菜の元恋人・賀川洋一役は清原翔が、それぞれに演じている。個人的にゾッとしたのは、殺人事件の容疑者となった娘を見捨てて検察側につく環菜の母親・聖山昭菜というキャラクターだ。この人物を木村佳乃が神経質そうに演じていて、鳥肌がたつような嫌悪感がわく感じなど、どこか優等生的な雰囲気の木村のイメージとは異なる気色悪さに引きつけられた。

堤監督らしい映像の見どころは冒頭からある。大学の校舎を上空から俯瞰で見下ろして魚眼窓にズームしていくシーンは、カメラを搭載したドローンが上から降りてきたところを撮影カメラマンが両手でキャッチして、そのまま魚眼窓まで導くという独特のカメラワークで実現。一方で、堤作品の持ち味であるカット割りで見せる予定だった3つのシーンを、役者の芝居を見た監督が長回しに変更したということも。その場面とは、由紀が過呼吸に陥るシーン、ラスト近くに由紀が病院で話すシーン、そして由紀と環菜の最後の面会室でのシーンである。監督は日常的にカット割りを積極的に取り入れていること、本作では長回しに変更と判断したシーンについて、このように語っている。「ワンカットで見せることの方が強いということは、十分知っています。でも私はもともと映画界の人間ではないし、自分のカットワークでその感情を上回るものを作り出したいと思い、ドラマ、映画の壁をなくしながらその戦いをずっと続けてきました。でもこれらのシーンに関しては、自分の思い描いていたカットワークではどんなに手練手管を尽くしても勝てない!と。数十分のリハーサルでそれを目の当たりにしたんです」
 そしてこの物語のテーマとタイトル『ファーストラヴ』について、堤監督は語る。「一言では難しいですが、今思えばあの時は……とあたたかみを感じる瞬間のことかな、と思います。登場人物の誰しもにそういう瞬間はきっとあったはずだし、いろいろな辛い思いをしたがゆえに、そのあたたかさはより心に沁み入るはず。それは、本編に出てくるさまざまな運命を背負った人々が、本当は誰にも見捨てられてはいないということになると思っています。多くの心の闇を見たからこそ、次のあたたかさ=心の灯とまた出会うことができるかもしれない。抽象的ですがそういうことなんじゃないかと。そう感じるカットは私のなかではいくつかありますが、その発見はご覧になる方に委ねるべきだとも思っています」

芳根京子,ほか

主演の北川景子は2021年1月12日に東京で行われた完成報告イベントにて、この物語への思いと観客へのメッセージをこのように語った。「脚本を読んだときに、人にはみんな大なり小なり悩みや苦しいことトラウマや過去が絶対あるんだなと思い、そういう重みに折り合いをつけて必死に生きていると思うと、私もこれでいいんだな、それでいいんだよ、と言ってもらえたような気がして軽くなった。何も気にせず映画館に来てください、と言えないことが心苦しいですが、一生懸命、皆さんに届くように作った作品です。由紀が環菜へかけた言葉が一筋の光になったように、この映画をご覧になったことで苦しい状況でもちょっとだけ進んでみようかな、と思っていただけたら良いなと思っています」
 さて、日本におけるジェンダーギャップを改めて実感する今。世界経済フォーラムが2020年11月に発表した「ジェンダーギャップ指数2020」では、日本はジェンダーギャップ指数がG7(先進7ヶ国)で最下位というのみならず、153か国中121位という相当低いところにあるという客観的な事実がある。原作者の島本理生氏が本作に寄せたコメントは一連の出来事よりも前に発表されたものだが、現状に当てはまるところがあるのは、それだけ長く根深くあることだからだ。島本氏のこの映画へのメッセージをご紹介する。「近年、女性が理不尽に対して声をあげる、という流れが少しずつ生まれているなかで、映画『ファーストラヴ』を鑑賞し、そのスリリングな面白さはもちろんのこと、今の日本においてこの映画は社会的にも非常に重要な作品だと確信しました。原作者として関わることができたことを心の底から嬉しく思いました。殺人事件の容疑者でありながら、混乱した痛みを抱える環菜の内面が、緻密な脚本と演技によって見事に表現されていて、傷ついたまま沈黙してきた女性たちはこの映画を観て、これはいつかの自分だ、と感じる瞬間がたくさんあるのではないでしょうか。一作家として、又、思春期の頃から堤幸彦監督の作品に夢中になってきた一ファンとして、とにかく一人でも多くの方に観てほしい、と力を込めて訴えたいです」
 心に傷を負った人間たちがさまざまな出会いにより、自分らしく生きてゆくきっかけを得るさまを描く本作。最後に、堤監督が前述のイベントにて語ったメッセージをお伝えする。「島本先生の原作が非常に深い。女性の持つ心の奥の闇を見つめて光を当て、あたたかいものを醸し出す、という作品はこれまで自分ではあまりなかったので、初めて取りかかる挑戦だった。編集はすごく悩み、何パターンも作っては皆さんの意見を聞いて作っては壊し、みんなで作り上げた。厳しい時代ではありますが、この作品の中に流れる、辛いことの先にあるあたたかいものに必ず共感できる点がある。こういう時代だからこそ観ていただきたい作品です」

2021年2月12日更新

作品データ

公開 2021年2月11日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2021年 日本
上映時間 1:59
配給 KADOKAWA
監督 堤幸彦
脚本 浅野妙子
原作 島本理生
出演 北川景子
中村倫也
芳根京子
板尾創路
石田法嗣
清原翔
高岡早紀
木村佳乃
窪塚洋介
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。