eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

アメリカン・ユートピア

デイヴィッド・バーン×スパイク・リー監督が初タッグ
アルバムツアーのステージを基にした舞台を映画化
多国籍メンバーが躍動的に現代へのメッセージを表現

アメリカン・ユートピア©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

1991年に解散したアメリカのバンド、トーキング・ヘッズの元フロントマンで、グラミー賞受賞アーティストであるデイヴィッド・バーンによるステージを、『ブラック・クランズマン』のオスカー受賞監督スパイク・リーが映画化。2018年にデイヴィッド・バーンが発表したアルバム『アメリカン・ユートピア』のワールドツアー後、2019年の秋からそのツアーのステージをブロードウェイのショーとして再構成してボストンとニューヨークにて上演。バーンがリー監督に声をかけ、リー監督がショーを観て感動し、映画化が実現した。装飾を最小限に人物を際立たせるシンプルなセットで、デイヴィッド・バーンがミュージシャンたちと一緒に揃いのグレーのスーツに裸足で歌い、踊り、語りかけ、今を生きる人々へ彼らの表現を響かせてゆく。ミュージカルでありコンサートであり、ポエトリーリーディングでもある、ユニークな躍動感のあるライヴ映画である。

デイヴィッド・バーン

デイヴィッド・バーンがひとり、プラスティック製の“脳”を持って舞台に現れる。アルバム『アメリカン・ユートピア』の最後の曲「Here」を歌い、人間の神経細胞のつながりや脳の進化について語り、私たち大人の周囲とのつながりについて、観客に語りかける。バーンは各楽器を携えたミュージシャンとダンサーたちと共に数曲を演奏し、ナチスが台頭し始めたファシズムの時代に、個人の独立した精神を貫こうとしたダダイストの話をする。そのひとりフーゴ・バルの歌詞を取り入れたトーキング・ヘッズ時代の曲「I Zimbra」などを演奏し、「Everybody’s Coming to My House」にどんな気持ちが込められているのかを話す。

デイヴィッド・バーン×スパイク・リー監督の初タッグにて、エネルギッシュに引きつけるステージ映像である本作。バーンのライヴ映画としては、トーキング・ヘッズ時代にジョナサン・デミ監督による1984年の『ストップ・メイキング・センス』が知られているものの、本作には異なる魅力があり、本国アメリカでも高い評価を得ている。デイヴィッド・バーンは映画化について語る。「今回のショーは自分のこれまでのショーとは、まるで違うものになるので映画化すべきだと思った。いま、世界で起きていることを表現したかった。ミュージシャンとして、これまでより責任のある行動に出たかったんだ」
 デイヴィッド・バーンから話を聞いたスパイク・リー監督は、ボストン公演を鑑賞した時すぐに映像化のアイデアを得たと言う。「素晴らしいショーで、僕の役割はカメラの動きについて考えることだと思った。ショーを見た時、どう撮影すればいいのか、すぐにつかめたんだ。バルコニーの上から見たら人物たちの動きに決まったパターンがあることが分かって、上から撮る方法を思いついた」

デイヴィッド・バーン,ほか

舞台では、メインであるスコットランドからの移民であるデイヴィッド・バーンが、カナダ、ブラジル、フランスなど多国籍のメンバー11人と共演。2021年5月には69歳になる白髪のバーンが仲間たちと共に歌い、踊り、演奏しては観客に語りかける、その姿はとてもカッコいい。歌い手として声のトーンや響きの心地よさというだけでなく、表現者として発するもののくっきりとした感覚が、みていてどこかすがすがしい。そして共演のメンバーは、カナダ出身のパーカッション担当のジャクリーン・アセヴェド、ブラジル出身のパーカッション担当グスタヴォ・ディ・ダルヴァ、アメリカ人であるパーカッション担当のダニエル・フリードマン、ダンスとヴォーカル担当でヴォーカル・キャプテンであるクリス・ギアーモ、パーカッション担当のティム・カイパー、ダンスとヴォーカル担当のテンデイ・クーンバ、キーボードとバンドリーダー担当のカール・マンスフィールド、ギター担当のアンジー・スワン、ベース担当のボビー・ウーテン・3世、ブラジル出身でパーカッション担当、ドラム・セクション・リーダーであるマウロ・レフォスコ、フランス出身でパーカッション担当のステファン・サンフアン。
 リー監督は舞台でメンバーをみた時に、新鮮な驚きがあったと語る。「パーカッションはマーチング・バンドのようで、振り付けも素晴らしいと思った」
 実際にこのステージでは、楽器を固定せずにマーチング・バンドのような形式で各人が装備し、演奏しながら歌い踊るという高度なパフォーマンスをこともなげにしているところがとてもクールだ。デイヴィッド・バーンはこうした表現をはじめ、この舞台の面白さについてこのように語っている。「視覚的にも感情に訴える力においても、これまでと異なるインパクトがあるからね。すごくエキサイティングだと思った。複数の人物が“ひとつ”となって動く姿を観客たちは目撃し、体験できるんだ」
 そして観客とパフォーマーたちとのケミストリーについて、デイヴィッド・バーンは「観客たちがそこにいることがすごく重要だった。何か通じ合うものがあった」と語り、リー監督も「観客と舞台の人々の間に何かが生まれた。魔法のような感覚があった」とコメントしている。

楽曲は、アルバム「アメリカン・ユートピア」から5曲、トーキング・ヘッズ時代の代表曲から9曲を選曲し、全21曲を演奏。「Everybody’s Coming to My House」は、劇中でバーンとメンバーたちが歌うのは、家に人が来ることを内心快く思っていないバージョンで、エンディングではデトロイトの高校生合唱部の解釈により、家にみんなを喜んで招き入れる朗らかなバージョンが流れる。同じ映画のなかで、ひとつの曲を正反対の異なる解釈で表現しているのもユニークだ。そして楽曲のなかでも特に、“ブラック・ライヴズ・マター”を訴えるジャネール・モネイのプロテスト・ソング「Hell You Talmbout」を全員で歌うシーンが胸に響く。この曲では白人の暴力の犠牲となった黒人たちの名前を連呼して追悼し、彼らの写真が画面に次々と映し出されてゆく。そして2019年10月から2020年2月まで上演していた当時、移民や人種の問題を今の社会で変えるべく、選挙に行くことの大切さを強く訴えてゆく。日本語字幕を監修した音楽評論家でブロードキャスターのピーター・バラカン氏は、本作の見どころについて語る。「何ヶ所かでバーンはお客さんに話しかけます。例えば人々の政治意識の低さを軽く指摘しながら、撮影の時点で翌年に予定されていた大統領選挙に備えて投票登録を促します。また様々な国の出身者がいるバンドのメンバー紹介をする時、幼児のころにスコットランドからアメリカにきた自分も含めて多くの移民がいて、移民がいなければ何もできない、というさりげないコメントは印象的です」
 またデイヴィッド・バーンは、舞台の衣装を“ミディアム・グレーのスーツ”に決めた理由とその効果について語る。「一体感のある服装にしたいと考えた。その方がパワフルな印象を与えるからね。そこでスーツを選んだ。そして、照明デザイナーに“何色のスーツがいいと思う?”と尋ねたら、ミディアム・グレーがいい、という答えが返ってきた。照明を消すと見えなくなるし、明かりをつけると、ぱっと浮かび上がると言われた」。そして衣装をみたバーンは、「このバンドにビジネスシューズは似合わないな」と思い、「よし、裸足になろう!」と決めたそうだ。

デイヴィッド・バーン,ほか

本作では、ボストン公演ののちにニューヨークのハドソン劇場で行われた公演を収録。このニューヨーク公演は2019年10月から2020年2月まで上演され、“コロナ禍”以前の、観客と出演者たちの親密な雰囲気がよく伝わってくる。世界的にまだコンサートやステージの上演が本格的に再開はできていないなか、バーンと仲間たちによる躍動感あふれる話題のステージを、リー監督のセンスと臨場感と共に映画として楽しむことができる作品となっている。
 共に1980年代からニューヨークを拠点に活躍してきたバーンとリー監督は、HBO公式Youtube チャンネルによるデイヴィッド・バーンとスパイク・リーの対談動画にて、最初の出会いは「よく覚えていない」ものの、「互いに憧れの存在だった」とコメント。リー監督は、「(トーキング・ヘッズの)初期のアルバムからのファンだった」と語り、バーンは「『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』が私にとって大きなインスピレーションになりました」と話している。また映画のタイトルの意味についてリー監督が、「そういえば聞いてなかったな、『DAVID BYRNE`S AMERICAN UTOPIA』のタイトルの意味は? ユートピア、平和と愛。つまり魔法の世界」と聞くと、バーンはこのように答えた。「そう。でも明らかに私たちはユートピアには住んでいません。しかし、私はこれを実現できるという証拠を示している。スピーチする必要はない、ただ見てくれればいいのです」

2021年4月16日更新

作品データ

公開 2021年5月7日よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2020年 アメリカ
上映時間 1:47
配給 パルコ
原題 DAVID BYRNE`S AMERICAN UTOPIA
監督・脚本 アリス・ウィンクール
監督 スパイク・リー
出演ミュージシャン デイヴィッド・バーン
ジャクリーン・アセヴェド
グスタヴォ・ディ・ダルヴァ
ダニエル・フリードマン
クリス・ジャルモ
ティム・ケイパー
テンダイ・クンバ
カール・マンスフィールド
マウロ・レフォスコ
ステファン・サンフアン
アンジー・スワン
ボビー・ウーテン・3世
ライター:あつた美希 CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。これまでに取材した人数は600人以上、2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を担当。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。