eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

いのちの停車場

内科医で作家の南杏子の小説を吉永小百合主演で映画化
金沢で在宅医師となった咲和子は、診療所のスタッフと共に
患者たちを看るなかで終末期医療への思いを深めてゆく

いのちの停車場©2021「いのちの停車場」製作委員会

現役の医師である作家・南杏子の小説を吉永小百合主演で映画化。共演は、『新聞記者』の松坂桃李、『ラストレター』の広瀬すず、『任侠学園』の西田敏行ほか豪華な顔合わせで。監督は『八日目の蝉』の成島出、脚本は『家族はつらいよ』シリーズなどの平松恵美子が手がける。東京の救命救急センターで働いていた医師・白石咲和子はあることを機に退職し、金沢に帰郷。老齢の父と同居し、地元の診療所で在宅医師として勤め始めるが……。在宅医療をテーマに、老々介護の夫婦、末期がんの芸者や女流棋士や元高級官僚、小児がんの8歳の女の子といった、さまざまな患者と向き合う家族、医師や看護師の姿を描く。重厚なテーマでありながら、深刻さだけではなく、生きる力や希望、ぬくもりや優しさを丁寧に表現。観た後の感覚が重くならない、誠実な人間ドラマである。

西田敏行,広瀬すず,吉永小百合,松坂桃李,ほか

東京の救命救急センターで働いていた医師・白石咲和子は、ある事件の責任をとって退職。金沢に帰郷して高齢の父と実家に同居し、地元の診療所「まほろば診療所」で在宅医師として勤めることに。陽気な人柄で患者たちから慕われている院長の仙川徹、亡くなった姉の子を育てている訪問看護師の星野麻世がこれまで対応してきた、近隣の5名の患者のもとを咲和子は訪問。何よりも患者の生き方を尊重する方針に、これまで大病院で病気やけがを治すことを最優先にしてきた咲和子は戸惑う。そんな折、東京から咲和子を追いかけてきた医大卒業生の野呂がスタッフに加わり、一緒に在宅診療の患者さんの治療や死に寄り添ってゆくなか、咲和子は「まほろば」の一員として、その人らしい生き方を、患者とその家族と共に考えるようになってゆく。そして咲和子の父が難しい病を発症し……。

ただひとつの正解を示すのではなく、答えのないなかで懸命に命と向き合い、無力さに歯噛みしながらもできることを積み重ねてゆく人々を描く。在宅治療の現場で起きるさまざまなこと、尊厳死という医療制度のタブーについても真摯に見つめてゆく。映像としては難しい面もあるこの物語の映画化が決まった時の思いについて、原作者の南杏子は語る。「映画化のお話をいただいたときは夢かと思いました。原作者としてこれ以上の幸せはありません。多くの方々の力で小説が三次元に立ち上がり、新鮮な命が吹き込まれるのを楽しみにしています。吉永小百合さんに主役を演じていただけるのは本当に感激です」
 122本目の出演作にして初の医師役を演じた吉永小百合は、2021年4月14日に東京で行われた「ワールドキャンサーデー LIGHT UP THE WORLD 点灯式」に登壇した際、本作の出演について自身の子どもの頃の思い出と共にこのように語った。「今回は志願してドクターの役を演じさせていただきました。小さい頃から体が弱くて、病院の先生にはずいぶんお世話になりました。演じてみると、今までの役のなかで一番難しかったかもしれないなと思います。作品のなかでは、小児がんの方とのシーンもあり、寄り添う大切さ、というのをこの作品で改めて知りました」
 成島監督は映画のテーマについて語る。「死と生は表裏一体。この映画のテーマでもある、どう死ぬか? については、どう生きるか? ということをしっかりと見せていきたいと思っていました。重いテーマでしたが、松坂くんやすずちゃん、若い二人が太陽のように、撮影現場を明るく照らし、西田さんや吉永さんが、全体をやさしく包み込んでくれたことで、おおらかに“生”を描くことができました。誰にでも死は訪れるという意味で、これは誰にでも起こりうる物語です。映画をご覧になった方ひとりひとりが、人生やいのちの大切さについて考えるきっかけにしていただければ、大変嬉しく思います」

広瀬すず,吉永小百合,松金よね子,泉谷しげる

東京から故郷・金沢に戻り、「まほろば診療所」で在宅医師となる白石咲和子役は吉永小百合が、新しい仕事や環境に戸惑いながらも、在宅治療におけるさまざまな出来事に熱心に取り組んでいく人物として。吉永小百合は役作りのために、クランクインの数ヶ月前から、栃木の診療所の医師たち、東京女子医科大学救命救急センター長の医師から、在宅医療と救命救急医療、それぞれの指導を受けたとのこと。本作への思いについて、吉永小百合はこのように語っている。「“いのちの停車場”とは、最期の時を迎えた人々が安らぎの時を持ち、家族や親しい人に別れを告げて旅立っていく場所、という意味だと捉え撮影に臨みました。そこに寄り添う医師役は大変難しい役でしたが、観た方が命について考え、前向きに生きることにつながる作品になればと思います」
 「まほろば診療所」の訪問看護師・星野麻世役は広瀬すずが、同診療所の院長・仙川徹役は西田敏行が、咲和子を追いかけて「まほろば診療所」へやってきた医大卒の野呂聖二役は松坂桃李が、スタッフみんなで行くお店「BAR STATON」のマスター柳瀬尚也役は・みなみらんぼうが、末期の肺癌患者である芸者の寺田智恵子役は小池栄子が、在宅治療を強く望む胃瘻患者・並木シズ役は松金よね子が、妻を大事に思いながらも老老介護に疲弊しているシズの夫・並木徳三郎役は泉谷しげるが、脊髄損傷の四肢麻痺患者であるIT会社の社長・江ノ原一誠役は伊勢谷友介が、その妻・静香役は中島亜梨沙が、原作にはない映画オリジナルのキャラクターで、癌が再発したプロの女流囲碁棋士・中川朋子役は石田ゆり子が、末期の膵臓癌患者である元高級官僚の宮嶋一義役は柳葉敏郎が、その妻・宮嶋友里恵役は森口瑤子が、小児癌患者である8歳の少女・若林萌役は佐々木みゆが、その母・若林祐子役は南野陽子が、咲和子の父・白石達郎役は田中泯が、それぞれに演じている。

撮影は石川県金沢市を中心に。“世界で最も美しい駅14駅”のひとつに選出された金沢駅、有形文化財であるアーチ型の浅野川大橋、桜が美しい桜坂、断崖に作られた階段状のW坂、花街にある木造風の梅の橋など、趣のある風景を映している。また正月に咲和子がまとう着物は特注の加賀友禅で仕立て、亡き母の形見という設定もあり古典的な柄と上品な色合いが美しい。エンディングテーマ「いのちの停車場」は、作曲をクラシックギタリストの村治佳織が、作詞を大勢の有名アーティストに提供してきた作詞家・小椋佳が担当している。

松坂桃李,広瀬すず,佐々木みゆ

原作者の南杏子は、自身の人生を自分らしく切り開いてきたパワフルな経歴の持ち主だ。日本女子大学を卒業し、出版社に勤務して育児雑誌を担当した後に、自身の子どもが2歳の時に33歳で東海大学の医学部に学士編入。38歳で卒業後、都内の大学病院老年内科などに勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを勤める。帰国後、都内の高齢者医療専門病院に内科医として勤務しつつ、自身の仕事周辺を題材にした執筆活動を行うようになり、2016年に終末期医療や在宅医療を描いた『サイレント・ブレス』にて作家デビュー。2018年の『ディア・ペイシェント』は2020年にNHKでドラマ化、2020年5月に『いのちの停車場』を発表。現在も都内の終末期医療専門病院の内科医として勤務し、医療をテーマにした作品を執筆し続けている。南氏は『いのちの停車場』に込めた思いを語る。「在宅医療との出合いは、研修医時代にさかのぼります。大学病院の医師たちが強いられる嵐のような医療ではなく、ベテラン医師による、日だまりのような、あたたかく美しい医療を目の当たりにしたのです。それは、患者さんの置かれた場所から始まる診療であり、互いに生きる仲間としてリスペクトを伴った関係でした。本作『いのちの停車場』にはそんな思いを込め、患者さんそれぞれの世界を支える存在として在宅医を描こうと努めました」

在宅治療、老々介護、末期癌の患者と向き合うこと、尊厳死といった医療現場のさまざまな出来事をテーマにしながら、患者とその家族と、医師や医療スタッフたちの関係、彼らの生きるための底力や希望、家族のような結びつきを丁寧に描く本作。南氏の映画へのメッセージをご紹介する。「『いのち』の終わりが、ほんの少しでもあたたかいものでありますように――。日々の診療で感じる自身の思いを込めて、一人一人の患者さんを描きました。人生のさまざまなステージに立つあらゆる年代の方々に観ていただきたい」
 最後に、成島監督の観客へのメッセージをご紹介する。「病院での診察が教科書通りの基本問題ならば、在宅医療は応用問題だと喩えたお医者さんがいて。例えばひとつの治療方法に関しても、ある家庭ではやってください、ある家庭ではやめてください、ということが起きる。在宅医療では、病院のルールに患者さんを当てはめるのではなく、それぞれの家庭のルールにあった対処法を医者が考えていくのだと。そう考えると、この映画もひとつの答えをゴリ押しするのではなく、映画をご覧になる人それぞれが創り出す答えを尊重すべきではないかと思うようになりました。いろいろな家庭を旅するように巡るなかで、咲和子がどう変わっていくのか? ラストシーンは、観てくださる方に委ねたいと思っています」

2021年4月26日更新

作品データ

公開 2021年5月21日より丸の内TOEIほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2021年 日本
上映時間 1:59
配給 東映
監督 成島出
脚本 平松恵美子
原作 南杏子
出演 吉永小百合
松坂桃李
広瀬すず
南野陽子
柳葉敏郎
小池栄子
みなみらんぼう
泉谷しげる
石田ゆり子
田中 泯
西田敏行
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。