eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

HOKUSAI

時代を超え大勢の芸術家に多大な影響を与え続ける
浮世絵師・葛飾北斎の人生をオリジナルの物語で描く
柳楽優弥と田中泯のW主演による人間ドラマ

HOKUSAI© 2020 HOKUSAI MOVIE

「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をはじめ、印象的な浮世絵で世界的に名高い江戸時代の絵師・葛飾北斎の半生を描く物語。『誰も知らない』『太陽の子』の柳楽優弥と、ダンサーであり俳優としても活躍する『いのちの停車場』の田中泯がW主演し、共演は『海よりもまだ深く』の阿部寛、『太陽の家』の永山瑛太、『悪と仮面のルール』の玉木宏、ドラマ『知ってるワイフ』の瀧本美織、『るろうに剣心 最終章 The Final』の青木崇高ほか充実の顔合わせで。監督は、『相棒』シリーズや『探偵はBARにいる』シリーズの橋本一が手がける。腕はいいが貧しい暮らしをしている絵師の勝川春朗(のちの葛飾北斎)は版元の蔦屋重三郎と出会い、「なぜ絵を描いている?」と問われ……。ほとんど資料が残されていない北斎の人生について、史実や作品が生まれた年代などをもとに創作したオリジナル・ストーリーで描く。絵を描くこと一筋にのめり込み、70代の時に「冨嶽三十六景」で大きな成功を収め、90歳で他界するまで描き続けた絵師の人生を映すドラマである。

阿部寛,柳楽優弥

文化・文政時代の江戸の町。町人文化が隆盛であるなか、腕はいいが貧しい暮らしをしていた絵師の勝川春朗(のちの葛飾北斎)は、絵や本の版元で出版販売もしている耕書堂の店主・蔦屋重三郎と出会う。その縁で美人画の喜多川歌麿や役者絵の東洲斎写楽らと知り合い、北斎は各人の表現に衝撃を受けるなか、自身は描きたい主題が見極められずに苦悶。浪々の旅に出た北斎は海辺で衝動的に絵を描き、その後江戸に戻り「江島春望」を書き上げて重三郎を訪ねる。美人画が主流のなか、波と富士を描いた絵を重三郎から認められ、北斎は自身の独創性を確信する。そしてさまざまな主題や独自の手法で絵師として人気を得るなか、北斎は戯作者の曲亭馬琴や柳亭種彦と組んで挿絵を描きますます充実。妻のコトとの間には娘のお栄が生まれる。それから20数年後、北斎はますます意欲的に絵を描き続けるなか、脳卒中で倒れる。命は助かるも、右手に痺れが残り体も思うように動かなくなるが、それでも描くのをあきらめず……。

若い頃のことはほとんど資料がない葛飾北斎の人生をオリジナル・ストーリーで描く物語。同時代に活躍した美人画の喜多川歌麿や役者絵の東洲斎写楽、『南総里見八犬伝』の滝沢馬琴、武士であることをふせて妖怪モノの戯作者として活動する柳亭種彦といった作家たちとの関りを描くのも興味深い。企画・脚本の河原れんとプロットの段階から参加した橋本一監督ら製作陣は、歴史的資料を徹底的に調べ、残された事実をつなぎ合わせて物語を構築。2020年11月9日に第33回東京国際映画祭にて特別上映した時の舞台挨拶にて、河原は本作に込めた思いをこのように語った。「葛飾北斎という人は、江戸時代に90年も生きた人で、そんな人の人生をわずか2時間にまとめるのは不可能な話なんです。そこで、本当に何を描きたいのかなと思ったときに、やはり北斎が描いた”絵”に焦点を当てて、どんな絵を描いたのか、その絵を描いたときに、北斎は誰と出逢い、どんな気づきがあったのだろうか、影響を受けた北斎の次の絵はどんな風に変わったのかと、私なりに考えながら作品を作り上げました」
 橋本監督は企画の段階から感じていたことを語る。「北斎が描く波の進化や、彼が晩年になぜ波を描き続けたのか? を青年期から見せていったら、いろいろなことが考えられる面白い映画になるような気がしたんです」

玉木宏

勝川春朗こと青年期の葛飾北斎役は柳楽優弥が、自分らしい絵を求めてもがき苦しみ追究してゆく姿を熱く、老年期の北斎役は田中泯が、より良い絵を描くために飽くなき探求をし続ける姿をくっきりと表現。北斎の腕を見込む版元の蔦屋重三郎役は阿部寛が、武士でありながら身分をふせてご禁制の戯作を執筆し続ける柳亭種彦役は永山瑛太が、美人画で有名な喜多川歌麿役は玉木宏が、現代では役者絵が大人気ながらも活動期間が10カ月で歴史的に謎の人物・東洲斎写楽役は浦上晟周が、北斎と友人づきあいをする耕書堂で働く瑣吉こと戯作家の滝沢馬琴役は辻󠄀本祐樹が、北斎の妻コト役は瀧本美織が、北斎の娘で父の助手をし自身も絵師として知られるお栄(応為)役は河原れんが、晩年の北斎を長野県の小布施に呼び寄せる豪商の高井鴻山役は青木崇高が、民衆の文化を厳しく取り締まる幕府配下の武家組合の組頭・永井五右衛門役は津田寛治が、江戸中にその名を轟かせた 歌麿の絵のモデルとなる花魁・麻雪役は芋生悠が、それぞれに演じている。

葛飾北斎は描くことへの探求心から、師匠以外の技法を学ぶことは禁忌だった当時に西洋画、狩野派、土佐派などさまざまな技法を学んでゆく。そして人物画が主流だったなか、風景画の浮世絵という新機軸を打ち出したこと、みたものから自身が受けた印象や感動を劇的に描き出すといった独自の様式を創出していったことは本当にすごいことだ。北斎は1760年に生まれ、6歳で絵を描き始め、14歳で彫師(版画の原版となる版木を彫る人)となる。1778年に勝川派に入門し、1年後に勝川春朗の名で絵師としてデビュー。その後1794年に勝川派を抜けて琳派に入門し、2代目俵屋宗理を襲名。1798年に宗理を門人に譲り、北斎辰政と改号。40代からは戯作家・滝沢馬琴や柳亭種彦と組み10年間で190冊、1400点ほどの挿絵を手がけるなどさまざまな作品を発表し続け、絵師として円熟してゆく。そして1831年に70代で発表した「冨嶽三十六景」シリーズで大成功を収め、1834年の「冨嶽百景」など1849年に他界するまで現役の絵師として活躍し続け、生涯で約3万点の作品を遺した(制作年や年齢は諸説あり)。

田中泯,ほか

映画に登場する「江島春望」「神奈川沖浪裏」などを復刻した貴重な版画は、アダチ伝統木版画技術保存財団から借り受けて撮影。そして「神奈川沖浪裏」の下絵、「生首図」「男浪」「女浪」などの肉筆画は、出演者への浮世絵の作画指導で参加した東京藝術大学の向井大祐氏と松原亜実氏が実際に描いたとのこと。ラストでは「男浪」「女浪」を北斎が描く姿をユニークな演出で見せるシーンも。また個人的に引きつけられたのは、「神奈川沖浪裏」などの版画を制作するシーンだ。この場面では道具をアダチ伝統木版画技術保存財団から借り、本物の彫師と摺師が出演し実際に制作しているそうで、鮮やかな手つきと集中して進められる作業が、見ていてどこか気持ちがいい。

2020年に生誕260周年を迎えた葛飾北斎。同年に日本のパスポートデザインに『冨嶽三十六景』が採用、2024年には新紙幣の千円札に『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』の採用が決定したことも話題に。ゴッホ、マネ、モネ、ゴーギャンといった印象派の画家をはじめ大勢のアーティストやクリエイターに多大な影響を与え、アメリカの雑誌『LIFE』の「この 1000 年で偉大な功績を残した 100 人」に唯一の日本人として選出されたとも。国籍も時代も越えて影響を与え続ける北斎の人生を描いた本作。橋本監督は前述の東京国際映画祭での舞台挨拶にて、映画で目指したことについてこのように語った。「この映画を作る際に、なぜ北斎はここまで世界中で認められて、人気があるのか。特に波の絵は見ただけで沸き上がってくる気持ち、あのワクワク感はどうやって創り出したのかという答え探しを目標にしていました。そして言葉のない絵と同様に、日本語が分からない、言葉が分からない人が見ても伝わるような映画を目指しました」
 コロナ禍により2020年の公開から延期され2021年5月の公開となった本作。2021年5月13日に東京で行われた本作のトークイベントでは、W主演の柳楽優弥と田中泯が観客へのメッセージをこのように伝えた。
 柳楽「1年越しではありますが、こうして公開することができたことを、嬉しく思っています。今まで経験したことのない延期という状況に戸惑いもありましたが、こういう時代の中であるからこそ、『HOKUSAI』という映画が持つ力強さ、生き方様、北斎自身の強靭なエネルギーをこの映画を通して皆さんに伝わると嬉しいです」
 田中「老年期から最後まで演じさせていただきましたが、北斎は特別なことをして過ごしたわけではなく、好きなことを精一杯やって、運良く全うできた人だと思います。生き抜く強さは人によって差があると思いますが、みんな同じように持っていると思います。うまく発揮できるかできないかは、私たちは考え続けていかなければいけない。北斎の生き抜く強さは誰にでもあるはずです」

2021年5月21日更新

作品データ

公開 2021年5月28日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2020年 日本
上映時間 2:09
配給 S・D・P
原題 HOKUSAI
監督 橋本一
企画・脚本・出演 河原れん
出演 柳楽優弥
田中泯
阿部寛
永山瑛太
玉木宏
青木崇高
瀧本美織
津田寛治
辻󠄀本祐樹
浦上晟周
城桧吏
芋生遥
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。