eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

漁港の肉子ちゃん

西加奈子の小説を明石家さんまの企画でアニメ化
充実の声のキャストと製作スタッフが結集し
港町で暮らす母娘の人情物語をあたたかく描く

漁港の肉子ちゃん©2021「漁港の肉子ちゃん」製作委員会

直木賞受賞作家・西加奈子の累計発行部数35万部超の小説『漁港の肉子ちゃん』をアニメ映画化。声の出演は、『風立ちぬ』『インサイド・ヘッド』『メアリと魔女の花』などアニメーションでも活躍する演技派の大竹しのぶ、本作で声優に初挑戦し映画デビューとなるフルート奏者でモデルのCocomi、アニメ『鬼滅の刃』の人気声優である花江夏樹と下野紘、『アウトレイジ 最終章』の中村育二、ドラマ「レンアイ漫画家」の吉岡里帆、マツコ・デラックスほか充実のメンバーにて。監督は『ドラえもん のび太の恐竜2006』『海獣の子供』の渡辺歩、脚本はドラマ『凪のお暇』の大島里美。そしてキャラクターデザイン・総作画監督は『耳をすませば』『もののけ姫』『かぐや姫の物語』などのスタジオジブリ一期生・小西賢一、美術監督は『スチームボーイ』『鉄コン筋クリート』の木村真二、アニメーション制作は『MEMORIES』『鉄コン筋クリート』などのSTUDIO4℃が手がけ、『海獣の子供』で渡辺監督とタッグを組んだ実力派が結集。企画・プロデュースは原作に惚れ込んだ明石家さんまが手がける。食いしん坊でお人好しの肉子ちゃんは、情に厚くて惚れっぽい。失恋する度に11才の娘・キクコと共に各地を転々とし、今度は母娘で北の漁港の町で暮らし始めるが……。小さな町にやってきた訳アリ母娘の暮らし、少女の友だちとの関係といった日常の風景をあたたかく描く。西加奈子の原作を制作陣が尊重し、声の出演者たちの個性や表現力を活かした、うまみたっぷりで味わい深い人情もののアニメーション映画である。

情に厚くお人好しの母・肉子ちゃんと、しっかり者で大人びた性格の11才の娘・キクりんこと喜久子。これまでダメ男に次々と何度もだまされ、肉子ちゃんが失恋する度に各地を放浪してきた母娘は、北の漁港の町へと流れ着く。肉子ちゃんはそこで出会った焼肉屋「うをがし」の店主・サッサンのもとで働き始め、キクコは小学校に転入する。土地の言葉を使い、運動神経がよく、友だちから「かわいい」と言われることが多いキクコは、大阪出身でもないのに大阪弁で思ったことをすぐ口に出し、町中でマトリョーシカと噂される母・肉子ちゃんを、最近ちょっと恥ずかしいと思っている。キクコは学校の友だちと仲良くなっていくなか、肉子ちゃんの次の恋が終わったらまたこの町を出て行くのかな、と不安がよぎる。そしてあることを機に、肉子ちゃんとキクコの秘密が明らかになり……。

漁港の肉子ちゃん

西加奈子の小説『漁港の肉子ちゃん』を充実のメンバーでアニメ映画化した本作。カラフルで優しい絵柄の子どもたちが親しめるアニメーションでありながら、ストーリーは人情物語として大人も楽しめる内容になっているのが特徴だ。本作の始まりは、企画・プロデュースの明石家さんまが、「直木賞受賞作の『サラバ!』で、文章での大阪弁の使い方がめちゃくちゃうまいなぁと思った」ことをきっかけに西作品をすべて読み、5年ほど前に「『漁港の肉子ちゃん』にすごく感動して、これはぜひ映像化したい! と思い、オファーをしたところ、西さんがすぐに許諾してくださり、この度ようやく実現しました」とコメントしている。また「日本が世界に誇れるもの、世界に向けて挑戦できるものはたくさんありますが、やっぱりアニメの文化はそのひとつ」とも。西加奈子はアニメ映画化について、喜びと共にこのように語っている。「劇場アニメ化が決まり、すばらしいキャスト、スタッフの方たちに集まっていただけたことは、私のあずかり知らない力が働いているとしか考えられません。肉子ちゃんに力があるのだと思います。自分の大好きな人たち、動物たちが、アニメとなって可視化されることが楽しみです」

声の出演は俳優、声優、芸人、タレントとさまざまなメンバーが登場。お人好しでマイペースな肉子ちゃんこと菊子役は、変幻自在の大竹しのぶが愛すべき強烈なキャラクターとして。謎のデザインと色調の服をまとい、スベるギャグを連発し、時にはウザく娘にとって恥ずかしい母であっても、ひたむきで愛情深い大きな存在として表現。アフレコの現場では、さんまが大阪弁の台詞のイントネーションを指導し、現場で次々とひらめくアイデアに対して、大竹が即座に応えていくという息の合った当意即妙のコミュニケーションに渡辺監督が感動したそうだ。11歳の娘キクりんこと喜久子(キクコ)役はCocomiが、落ち着いていて読書好きの大人びた女の子として。声優初挑戦で今回が映画デビューのCocomiは、原作を読み込みアフレコの現場でも懸命に努力したとのこと。彼女がもともとアニメファンで中学生の時に声優の養成所に通っていたと知っていたことからさんまが推薦し、渡辺監督やスタッフたちがアフレコのテストで声を聞き、少女らしい声質の良さが高く評価されたそうだ。
 キクコの小学校の同級生で、自分の意思とは関係なく突発的に顔を動かす少年・二宮役は花江夏樹が、キクコが毎日一緒に登下校しているクラスメイトのマリア役は一般オーディションから選ばれた14歳の石井いづみが、若い頃の肉子ちゃんの親友みう役は吉岡里帆が、テレビで話題の霊媒師ダリシア役はマツコ・デラックスが、またトカゲと、キクコや肉子ちゃんの心情を代弁するイケボ(イケメン系ボイス)のヤモリの声は下野紘が、漁師のゼンジほかいくつかの役は山西惇が、受付ロボットほかいくつかの役は八十田勇一がそれぞれに演じている。なかでも中村育二が声を担当した、漁港にある焼肉屋「うをがし」の店主サッサンことサスケのキャラクターがとてもいい味わいで、終盤でキクコに静かに語りかけるシーンはかなり染み入るものがある。
 またネコほかいくつかの役にゆりやんレトリィバァ、セミの声に宮迫博之と、製作の吉本興業、プロデューサーの明石家さんまに関わりある面々が声の出演をしているのも面白い。劇中では笑いにつなげる表現がコテコテで、個人的には「どうして今この映像?」と物語への集中が途切れるような感覚がいくつかの場面であるものの、これこそがヨシモト流とあえて全面に押し出しているのかもしれない。

漁港の肉子ちゃん

本作は名作へのオマージュもいろいろ。ジブリ作品『となりのトトロ』については、冒頭で肉子ちゃんが爆睡しているシーンに加え、かの名シーンとそっくりの劇中の構図について、美術監督の木村真二が笑顔で語る。「肉子ちゃんとキクコがバス停で並んで立っているところ。実は『トトロ』のバス停のシーンは、30年以上前に僕も描いていたんですよ」。また肉子ちゃんが深夜にこっそり電話で話しているシーンで影絵のように浮き上がる、その影のカタチにも注目だ。また本作が見知らぬ土地にやってきた母娘が暮らす“ほのぼのとした田舎の風景”のイメージとして、木村はフランス映画『ショコラ』を参考にしたとも。そして肉子ちゃんとキクコが2人でフレンチトーストを作るシーンは渡辺監督によるもので、映画『クレイマー、クレイマー』の影響とのこと。明石家さんまが『クレイマー、クレイマー』を好きだとは知らずに入れたシーンで、渡辺監督は「さんまさんに話したら、いたく喜んでくださいました」とコメントしている。
 そしてサウンドトラックも充実。インパクトがあるのは主題歌で、吉田拓郎が1970年にリリースしたデビュー曲『イメージの詩』を10歳の子役・稲垣来泉がカバー。この楽曲は明石家さんまにとって「人生の教科書」という“最愛の曲”で、今回は吉田拓郎から快諾をもらい、吉田の盟友・武部聡志が編曲、GReeeeNがサウンドプロデュースを手がけ稲垣の歌唱指導をGReeeeNのHIDEが担当。人生や男と女についての渋い歌詞を、あどけない声でひたむきに歌う様子が印象的だ。そしてエンディングテーマ『たけてん』はGReeeeNが書き下ろし、「笑わせたい誰かが居る、笑って欲しい誰かが居る。そして幸せになって欲しい人が居る。そんな気持ちを込めました」とコメントしている。またキクコ役のCocomiが、サウンドトラックにフルート奏者として参加。本作のサウンドトラックと劇伴音楽を手がけた『思い出のマーニー』などの村松崇継による提案で、「肉子ちゃん”おはよう”」「ゆっくり家族になっていく」「私は決められない」「ささやかな希望、あふれ出る光」の楽曲でCocomiが演奏しているのも話題に。劇中では肉子ちゃん役の大竹しのぶがちょっとデタラメな鼻歌でエディット・ピアフの『愛の賛歌』を歌うシーンは、さんまのアイデアによりアフレコ現場で追加したシーンとのこと。舞台『ピアフ』でこの歌を歌い、アルバム『SHINOBU avec PIAF』も発表している彼女にそれをふるあたり、遊び心が効いている。

本作では、原作の物語や出演者の個性や持ち味はもちろん、制作陣の創造性を尊重。企画を進めるなか、明石家さんまと渡辺監督はシナリオ作り、台本読み、コンテ確認などさまざまな打ち合わせを1年近く重ねていくなか、コンセプトやマーケティングの話が出た時に、「作り手がおもしろいと思うことが大切」とさんまが明言し、方向性がよりクリアになっていったそうだ。小さな町で暮らす母娘の日常を描く人情物語をアニメ作品にすることについて、総作画監督の小西賢一は「普通だったら、アニメでこの企画を通せるのはジブリくらいしかないんじゃないかな」と笑顔でコメント。そしてコミックのアニメ化ではなく、小説をそのままアニメ映画化することのやりがいと魅力について小西賢一はこのように語っている。「結果的に、本作は非常にアニメ向きだったと僕は思います。やっぱり自分たちのアニメーション映画を作るからには、自分たちのキャラクターを作りたいという想いは、渡辺さんも僕も持っていたので、その願いを今回の作品で実現することができた。非常にありがたい、大事な機会でしたね。自分でも誇れる、これからにつながっていく絵柄が生まれたと思います」
 そして映画の方向性は物語のトーンに合わせて、アニメで主流のデフォルメした世界ではなく、リアリティのあるナチュラルな芝居を軸にすることに決定。渡辺監督は本作の演出について語る。「本作を演出する上では、キクコの気持ちの流れを大切にしました。小説の文学的な読み味をギリギリまで再現したくて、ちょっとモノローグにこだわった部分があるんですよ。この物語は劇的なドラマがそれほどあるわけじゃなくて、キクコ自身の気持ちの動きが、ほんの少しずつ、ストーリーを動かしていく。だから、キクコというキャラクターをじっくり待つことにしたんです。アニメーションが持っている独特の時間の流れ方に、彼女の気持ちの変化がうまく合っていけるかどうかがポイントでした」

漁港の肉子ちゃん

西加奈子はこの物語について、「私の理想の世界を描きました。自分で書きながら、全ての登場人物を愛さずにいられませんでした」とコメント。西加奈子自身は、1977年テヘラン生まれ、カイロ・大阪育ち。2004年に『あおい』で小説家としてデビューし、2007年に『通天閣』で織田作之助賞を、2013年に『通天閣』で河合隼雄物語賞を、2015年に『サラバ!』で直木賞を受賞。絵画や絵本も手がける人物だ。実写映画化された小説は『きいろいゾウ』『まく子』『さくら』などがある。『漁港の肉子ちゃん』への思い入れと作家である自身について、西加奈子は語る。「『漁港の肉子ちゃん』を書いたきっかけは、震災前に石巻と女川を訪れた際、女川の漁港で焼肉屋さんを見たことです。『港町で魚が美味しくても、お肉が食べたくなるよなぁ』と思って、そこから妄想が膨らんでゆきました。焼肉屋さんに、みんなから愛される女性が働いていてくれたらいいなぁ、そしてその女性はいつも美味しいお肉をお腹いっぱい食べていてくれたらいいなぁ、そして、その人には大切な娘がいてくれたら・・・、という具合です。その後、執筆中に震災がおきました。書くことに悩みましたが、結果、作家としての傲慢さが勝ち、書くことを続けました。『自分の作品で傷つく人が必ずいる』ということを、改めて考えるきっかけになりました」
 渡辺監督は原作の魅力と、映画化への思いをこのように語っている。「原作はやはり西加奈子さんらしいというか、女の人が年齢を重ねていくなかで感じる、さまざまな心理の変化や自意識を、いろいろなキャラクターに細かく振り分けていて。ありのままであることを受け入れる、自分のなかで自分を肯定していく、という部分がすごく繊細に描かれていました。かつて西さんが宮城県石巻市と女川の漁港を訪れた後に書かれた物語で、その後、東日本大震災が起こって…意図したわけではないのに、いろんな意味で、避けては通れない雰囲気を内包しているような、不思議な運命にある作品だと感じました。女性の物語ではありますが、二宮くんやサッサンなど、男性のキャラクターも本当に素敵で。原作のストーリーをしっかりと紡ぐことができれば、ちゃんと1本の映画になると確信しましたね」

本作は、アニメ界のカンヌと呼ばれるという第45回アヌシー国際アニメーション映画祭2021に正式招待され、2021年6月17日、18日に「Fortune Favors Lady Nikuko」としてインターナショナルプレミア上映が決定。大竹しのぶはこの映画について、2021年5月26日に東京で行った完成報告会にて笑顔でこのように語った。「本当に良い映画です。西加奈子さんの原作もとても素敵で、完成した作品もすごくあたたかくて、さんまさんってこんなに良い映画を作る人なんだなと思いました(笑)。映画館が再開して、安心して皆さんに観てもらえることを強く強く願っています」
 そして渡辺監督はこの作品のテーマ性について、このように語っている。「この映画を作りながら僕が考えていたのは、『どんな人も、みんな一度は誰かを笑わせている』ということです。そして、生まれたわけでもなんでもないけれど、『ここにいたい』と思った場所が、たぶん、その人にとって故郷になるのではないか。もしかすると、『この人といたい』と思えば、血縁を超えて、肉親のようになれるのではなかろうかと。そんなことに、もう一度気づいてもらえる映画になるといいかなと思っています」

2021年5月31日更新

作品データ

公開 2021年6月11日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2021年 日本
上映時間 1:37
配給 アスミック・エース
英題 Fortune Favors Lady Nikuko
企画・プロデュース 明石家さんま
原作 西加奈子
監督 渡辺 歩
キャラクターデザイン・
総作画監督
小西賢一
脚本 大島里美
音楽 村松崇継
アニメーション制作 STUDIO4℃
声の出演 大竹しのぶ
Cocomi
花江夏樹
中村育二
石井いづみ
山西惇
八十田勇一
下野紘
マツコ・デラックス
吉岡里帆
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。