eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

キネマの神様

日本映画の黄金期と現代を舞台に描く山田洋次監督最新作
50年前に精魂込めた脚本が、ダメ親父に新たな道を示す
映画への深く大きな愛を表現したあたたかな家族のドラマ

キネマの神様©2021「キネマの神様」製作委員会

1950〜’60年代ごろの日本映画の黄金期と現代を舞台に、山田洋次監督が描く最新作。出演は、他界した志村けんから主役を引き継いだ沢田研二、『キャラクター』の菅田将暉、『いちごの唄』の宮本信子、『そして、バトンは渡された』の永野芽郁、ミュージシャンでありNHK連続テレビ小説『エール』などで俳優としても活躍する野田洋次郎、『海辺の映画館―キネマの玉手箱』の小林稔侍、そして北川景子、リリー・フランキー、寺島しのぶほか豪華な顔合わせで。ギャンブル漬けで借金まみれのゴウは、妻子にも見放されつつあるダメ親父。ただ映画だけは長年ずっと愛し続け、行きつけの名画座で昔の作品を観たことから、約50年前の時代に思いをはせる。作家・原田マハが自身の家族、経験をもとに執筆した小説を原作に、山田監督が修行時代を過ごした1950〜’60年ごろの撮影所についても描く。映画への深く大きな愛を作品として完成させた、あたたかな家族のドラマである。

菅田将暉

ギャンブル漬けで借金まみれのゴウは、妻の淑子と娘の歩にも見放されつつあるダメ親父。しかし若い頃に助監督をしていたことから、映画だけは長年ずっと愛し続けている。ある日、かつて撮影所で一緒に働いていたもと映写技師で、現在は名画座の館主であるテラシンのもとで昔の名作を観たことで、約50年前の時代へと思いをはせる。
 助監督をしていた当時のゴウは、映写技師のテラシン、時代を代表する出水宏監督やスター女優の桂園子、また撮影所近くの食堂の娘・淑子らに囲まれて夢を追い求めていた。しかしゴウは、念願だった初監督作品「キネマの神様」の撮影初日に事故で大怪我をしたことで、すべてを投げ出し諦めてしまう。あれから約50年後の現在、「キネマの神様」の古びた脚本を見つけた孫の勇太が、ゴウにある提案をして……。

W主演のひとりである志村けんの他界、コロナ禍による撮影の中断、新たに沢田研二を迎え、現在の状況を脚本に反映して撮影を再開。そして2度の公開延期を経て、ようやく公開となる本作。経緯としては、2020年3月1日に撮影を開始し、3月末には撮影全体の約半分である過去パートを終了する予定だった時、志村けんが新型コロナウイルスによる肺炎が悪化して入院し、出演を辞退。その後まもなく3月29日に急逝し、大きな衝撃が広がったことは私たちの記憶にも新しい。この映画への思い入れについて、山田監督は2021年6月28日に東京で行われた完成披露試写会にて、このように語っている。「一時はどうしようかと思い呆然としていましたが、沢田研二さんがピンチヒッターとして志村さんとは全く違うゴウを演じてくれました。大変な出来事を経て完成した作品となりますので、亡き志村さんを思い出しながら観ていただきたいです」
 志村けんの役を沢田研二が引き継いだ理由は、2人が以前に同じ事務所の先輩後輩であり、何度も共演していた盟友関係にあったからとのこと。沢田研二はあくまでも志村けんの役を継いだ、と思ってのことか、ほぼコメントをしていないものの、出演決定の際に一言、しっかりとこう話している。「志村さんの、お気持ちを抱き締め、やり遂げる覚悟です」

菅田将暉,野田洋次郎,永野芽郁,北川景子

約50年前に撮影所で助監督をしていた若き日のゴウこと円山郷直役は菅田将暉が、映画監督を目指して夢を追う青年として。ゴウとともに撮影所で映写技師として働くテラシンこと寺林新太郎役は野田洋次郎が、真面目で誠実、実直な人物として。映撮影所近くにある食堂「ふな喜」の看板娘・淑子役は永野芽郁が天真爛漫に。そして銀幕女優である桂園子役は北川景子が、ゴウの師匠である映画監督・出水宏役はリリー・フランキーが演じている。そして現代、ギャンブル漬けで借金まみれのゴウ役は沢田研二が、ゴウの妻・淑子役は宮本信子が、名画座「テアトル銀幕」の館主となったテラシン役は小林稔侍が、父を更生させるために奮闘するゴウの娘・歩役は寺島しのぶが、ゴウの孫・勇太役は前田旺志郎が、テアトル銀幕でバイトをする水川役は志尊淳がそれぞれに演じ、さらに片桐はいり、原田泰造、松尾貴史らが出演している。
 山田監督は前述の完成披露試写会にて、本作の俳優たちへの思いをこのように語った。「今回のキャスト陣はほとんどの方と初めてで、新しい人と巡り合える喜び、楽しみが僕にとって大きな刺激となり楽しかったです」

エンドロールに流れる主題歌「うたかた歌」はRADWIMPS feat.菅田将暉として、本作で共演している菅田と野田の初タッグによるもの。作詞作曲をした野田は、もともとは主題歌と意識して制作した楽曲ではなく、「撮影中に歌の言葉の断片みたいなものをちょっとずつためていました。全部の撮影が終わった時に、感謝の気持ちを込めて『監督にこのデモをお渡しください』という感じで贈ったのが最初です」とコメント。そして野田からデモを受け取ったプロデューサーが曲に感銘を受け、主題歌に決定したそうだ。この曲に込めた思いについて、野田はこのように語っている。「撮影時に僕たちが通ってきた感情みたいなものを歌詞で残しておきたい、僕らが生きたあの撮影所の雰囲気を音にできないかと思いこの曲を作りました。僕自身本当に大好きな曲ですし、『キネマの神様』があったから生まれた曲で、あの世界が音としてもこの世にずっと残っていって欲しいという願いがずっとありました。この映画で描かれている世界の美しさみたいなものがいつまでもいつまでも、この曲を聴くことでよみがえってくれたら嬉しいです」
 そしてVFXの監修は、『ALWAYS 三丁目の夕日』『永遠の0』『STAND BY MEドラえもん』などの山崎貴監督が担当。ゴウたちがテアトル銀幕で映画を観るシーンで、桂園子の瞳がクローズアップされ、若き日のゴウが働く撮影現場の様子が映っているところである。山崎監督は今回の参加について、山田監督への敬意を込めてこのようにコメントしている。「敬愛するレジェンドが僕の何かしらに期待してくれて、仕事を頼んでくれるなら、それは何を置いてもはせ参じなくてはと思いました。僕は邦画の歴史にも大変興味あるので、雑談するなかでかつての巨匠たちの生の姿を教えていただけることもとても楽しかったです。日本映画の様々な歴史的瞬間を体験してきた方ですから」

宮本信子,沢田研二

この映画の始まりは、2018年に原作者の原田マハと山田監督が対談をしたことから始まったとのこと。原田氏は映画館で初めて観た作品が『男はつらいよ』(第一作)で、山田監督作品に思い入れがあり、山田監督も小説『キネマの神様』を読み、原田氏と会って話したことで映画化へのアイデアが湧いてきて、企画が進んでいったそうだ。

映画化にあたり、山田監督は、「ゴウの青春時代を新たに描くことで、“過去”と“現在”、ふたつの時代が映画のなかでつながる、“映画の神様”を信じ続けた男とその家族に起こる奇跡、愛と友情の物語とした」とのこと。映画では山田監督が修行時代を過ごした1950〜’60年ごろ、映画全盛期の時代の撮影所が描かれ、当時の活気が伝わってくる。2020年1月下旬の制作決定の発表に寄せて、山田監督はこのように意気込みを語った。「その昔、映画が娯楽の王座を占め、また日本映画が世界中の関心と尊敬を集めていた黄金時代があった。あの頃の撮影所はまさに夢の工場として活気に溢れていて、通俗娯楽映画から映画史に残る芸術作品まで続々と作られていた。この時代に華やかな青春を過ごした映画人の喜びと悲しみの人生を、映画製作百年の歴史を持つ松竹を舞台としてドラマチックに描きたい」

当初は松竹キネマ合名社の設立から100年目の2020年に公開予定だったため、「松竹映画100周年記念作品」と銘打っている本作。映画の資料には製作陣からの思いがこのように示されている。「本作は、数々の名画を生み出してきた松竹映画100年の歴史を見つめ、これから100年の映画界へのバトンになってほしいという希望が込められた作品です」
 油断できない状況がまだまだ続くなか、コロナ禍を乗り越えて劇場映画が復活していってほしいという思いと共に、映画関係者のこれからの課題についても含め、観客へのメッセージを、2021年3月29日に東京で行われた完成報告会見にて、山田監督はこのように伝えた。「映画人にとっての大きな課題は、このコロナの時代を通り過ぎてしまうと映画を配信で見る習慣がついてしまうのではないかということですね。ですが、そんなことはないと思っていて映画は消えないと思っていて、映画館の中で語り合い、拍手したり、楽しく見るものであり続けたいと思っています」

2021年7月21日更新

作品データ

公開 2021年8月6日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2021年 日本
上映時間 2:05
配給 松竹
監督・脚本 山田洋次
脚本 朝原雄三
原作 原田マハ
出演 沢田研二
菅田将暉
永野芽郁
野田洋次郎
北川景子
寺島しのぶ
小林稔侍
宮本信子
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。