eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

ヴォイス・オブ・ラブ

セリーヌ・ディオンの半生をもとにフィクションとして
歌手としての成功、26歳年上の夫との愛情物語を中心に
エンタメ界の第一線で活躍し続ける姿を描く伝記映画

ヴォイス・オブ・ラブ©Rectangle Productions/Gaumont/TF1 Films Production/De l'huile/Pcf Aline Le Film Inc./Belga
©photos jean-marie-leroy

映画『タイタニック』のテーマ曲「My Heart Will Go On」や『美女と野獣』の主題歌「Beauty And The Beast」などの楽曲で有名なシンガー、セリーヌ・ディオンの半生を描く伝記映画。監督・脚本・主演はフランスで俳優や映画監督として活躍しているヴァレリー・ルメルシエ、共演はカナダの映画やドラマで知られるシルヴァン・マルセル、『天使にショパンの歌声を』のダニエル・フィショウ、カナダの舞台や映画で活動しているアントワーヌ・ヴェジナほか。1960年代のカナダ、フランス語圏ケベック州の田舎の家庭に14人兄弟の末っ子として生まれたアリーヌは、両親も子どもたちも音楽を愛する一家ですくすくと育つ。歌手を夢見るアリーヌを家族も応援し、彼女が12歳の時に歌のデモテープを地元で有名な音楽プロデューサーに送り……。13歳でデビューして20代で世界的なシンガーとなり、愛する男性への思いを貫いた恋愛と結婚、子どもを授かるまでのこと、歌手活動と子育てのこと、最愛の夫を亡くしたこと。セリーヌが生まれる前の1932年から2016年の時代を映し、彼女が生まれる前から50歳までの実話をもとに、フィクションとして敬意を込めて描かれたドラマである。

1968年のカナダ、アリーヌはフランス語圏であるケベック州の田舎の家庭に14人兄弟の末っ子として生まれる。フォーク・ミュージシャンである両親のもと、子どもたちも音楽を愛し、家族みんなで歌い演奏し地元のステージに立っていた。アリーヌは5歳の時に人前で歌い始め、その並外れた歌唱力が評判に。そして12歳になった時、歌手を夢見るアリーヌを家族も応援し、母は兄弟たちと作ったオリジナルの楽曲でデモテープを録音。それを街の有名音楽プロデューサー、ギィ=クロードに送る。アリーヌの歌声に感動したギィ=クロードは、翌年の1981年にレコードデビューを自らプロデュース。アリーヌは天才少女シンガーとケベック州で話題になり、15歳の時にはアルバムが地元で大ヒット、20歳の時にはヨーロッパ最大の音楽の祭典、ユーロビジョン・ソング・コンテストで優勝。アリーヌ自身は10代の頃から26歳年上のギィ=クロードに恋をしていたが、母から大反対され続けて苦しんでいた。そんな折、大物プロデューサーのデヴィッド・フォスターから勧められ、世界的に音楽活動をする準備を始め、2か月の間に英語を特訓。そして1992年にピーボ・ブライソンとデュエットした映画『美女と野獣』の主題歌「Beauty And The Beast」が、第65回アカデミー賞主題歌賞をはじめ数々の賞を受賞。アリーヌはギィ=クロードと結婚し、公私共にパートナーとしての生活が始まるが……。

アントワーヌ・ヴェジナ,ダニエル・フィショウ,ほか

「この映画はセリーヌ・ディオンの人生をモデルにしたフィクションである」という言葉から始まる本作。劇中では実在の人物名であるセリーヌとレネ・アンジェリルではなく、アリーヌとギイ=クロードという名前に変更されている。その理由としてルメルシエ監督は、「最大限に事実に基づいた物語を作らなければ」という思いから少し自由を得て、映画としてある程度の演出やフィクションを加えながらも、「(実話から)数メートル離れてリスペクトの心をもって創作」ができた、とコメントしている。なにより、「My Heart Will Go On」や「Beauty And The Beast」などで5度のグラミー賞ほか多数の賞を受賞、アルバムの累計売上は2億5000万枚である「唯一無二のアーティストであるセリーヌへの敬意を表している」とのこと。また本作ではセリーヌのシンガーとしての輝かしい半生を描きつつ、天才的な若手歌手と26歳年上のベテランプロデューサーであるセリーヌとレネ・アンジェリル(劇中ではアリーヌとギイ=クロード)の恋愛と結婚生活を描くことに力点を置いている。2人の愛を中心とした作品にしたことについて、監督は語る。「これはセリーヌの人生の核となる部分だからです。ルネとセリーヌは、お互いがお互いを見つけたようなものです。ルネは自らの家を抵当に入れて、セリーヌの最初のアルバムを出しました。世間は彼らを批判してきました。年齢差があること、体外受精で子供を産んだこと……ルネはセリーヌに仕事を押し付けた人だと考えられていました。しかし、彼女にも大きな野望があったのです。彼女のような大スターが1人の男性と添い遂げて彼の死まで人生を共にしたことは感動的です」
 セリーヌが以前に自身の結婚について語ったコメントを、本作のプレステキストに寄稿した音楽ジャーナリスト・伊藤なつみ氏のエッセイ「セリーヌ・ディオンとアリーヌ・デューの間で」より引用する。「結婚したのは1994年。ちょうど英語のアルバムを3枚発表して、どれもヒットして順風満帆だった頃ね。初来日公演を行なったのも、この年よね。レネは私より26歳年上だから、かなりの人が驚いたわ(笑)。もちろん、それまで他の人を好きになったことはあるけど、12歳の時からずっと一緒で、私の歌手活動に人生のすべてを捧げてきてくれた人。レネには感謝の気持ちはあるし、この人と一緒になったら、一生愛してもらえるし、絶対に幸せになれると確信したのよ。告白は、ツアー中に滞在していたホテルのエレベーターの中よ(笑)」

才能豊かなシンガーであるアリーヌ役は監督・脚本・主演であるヴァレリー・ルメルシエが、まさかの5歳の子ども時代から50歳まですべてを自身で熱演。撮影は特殊効果のスタッフと共に明るさのニュアンスを調整。身長177cmで57歳のルメルシエ監督を5歳の子どもに見せるシーンについては、美術やセットデザインを手がけたアートディレクターのエマニュエル・デュプレイはこのようにコメントしている。「今回の撮影でヴァレリーが子ども時代を演じる時には、すべての彼女が触れるもの、座る椅子や机、ノートなどを特大サイズにして、トリックで効果を出しました」
 そしてアリーヌのプロデューサーであるギィ=クロード役はシルヴァン・マルセルが、アリーヌをサポートする母親役はダニエル・フィショウが、アリーヌを見守る兄ジャン=ボバン役はアントワーヌ・ヴェジナが、それぞれに演じている。
 この映画では、セリーヌの故郷であるカナダのケベックを彼女のルーツとして尊重し、そのエリアのリアリティを重視していることが特徴。キャストの9割がケベックの俳優であり、撮影もケベックで行われた。監督は地域の精神性を大切にしたそうで、アリーヌ一家の会話はケベックなまりのフランス語とも。2016年1月にセリーヌの夫、ルネ・アンジェリルが他界した時の葬儀は、ケベック州政府が取り仕切る国葬だったということは驚きだ。兄ジャン=ボバン役のアントワーヌは、セリーヌがカナダでいかに愛されているかについて、この映画に出演した喜びと共に語る。「セリーヌ・ディオンはカナダ人にとって我々の国民的記念碑です。今回はフランス人であるヴァレリーが、“距離をもって”映画化したのが功を奏したのだと思います。私も1人の俳優として、このプロジェクトを陰ながら支えることができたとしたら本望です」
 そしてルメルシエ監督は、この映画をケベックの関係者たちが気に入ってくれたことがとても嬉しかったと語る。「正直に言うと、ケベックの共同製作陣の反応が怖かったです。国民的歌手であるセリーヌ・ディオンに触れているのですから。しかし上映後、ルネをよく知っている人たちが私を呼び、彼に再会することができたよ、と言ってくれました。また彼らは私がカップルの関係や絆をうまく描けている、と言ってくれました」

ヴァレリー・ルメルシエ,シルヴァン・マルセル,ほか

劇中のセリーヌの歌唱はすべてフランスの実力派の若手歌手ヴィクトリア・シオが担当し、さまざまな楽曲が楽しめる。セリーヌ・ディオンのヒット曲「My Heart Will Go On」「I'm Alive」、これまでにさまざまなアーティストがカヴァーしているエリック・カルメンの「All By Myself」といった人気曲を歌うシーンなど。またストーリーに合わせてエルヴィス・プレスリーの「Love Me Tender」やルイ・アームストロングの「What A Wonderful World」など誰もが知っている名曲が流れることも。またアリーヌがステップアップのために英語やダンスのトレーニングを経て少女から大人へと成長し、ギィ=クロードと再会するシーンでは、グレン・メデイロスのカヴァーで大ヒットしたジョージ・ベンソンの「Nothing‘s Gonna Change My Love For You」が流れ、パーマヘアが向かい風を受けてふわっとなびき、並びの良い白い歯がキラッと光るといった、あえてコテコテの’80年代テイストを押し出すといった瞬間芸的なユーモアも楽しい。

そもそもルメルシエ監督がセリーヌの伝記映画を作ろうと思い立ったきっかけは、セリーヌの夫が他界した後の2016年12月にワールドツアーでコンサートを観た時に、孤独とそれに打ち勝つ勇気に感銘を受けたことだという。そして彼女に関する資料と数カ月間かけて向き合い、彼女の楽曲のみならず、故郷や家族、生き様についても親しみを感じたと語っている。「昼夜問わず何ヶ月もの間、セリーヌ・ディオンの映像を観て、音楽を聴き、彼女にまつわる本、雑誌、新聞を読破しました。また、彼女の母、夫、家族についての書物も読み、自分の新しい友だちのように感じるまでとなりました。この家族の強さこそ伝えたかったもので、この土台があったからセリーヌは常に地に足をつけることができたのです。ケベックの街、人々、彼らの歌への愛も大好きになりました」
 そして脚本を執筆中に、自身の映画『パレ・ロワイヤル!』の脚本の共同執筆者であるブリジッド・ビュクが参加し、主要なキャストの名前を架空のものに変更。「このアイデアで現実そのままでなくても良くなり、すべてが好転した」と監督はコメント。フィクションの要素として、アイスクリームを用いたプロポーズや最初のオーディションで母に靴を借りたこと、料理のピューレに指で文字を書く、ラスベガスでさまよう、といった「映画的」なエピソードを入れていったそうだ。監督は、セリーヌ本人とは会えるとしてもコンサート前に5分だけ、となりそうだったこと、セリーヌとルネが以前に住んでいた家での撮影などについては、今も健在の彼女の人生からは距離を置きたかったことから、ともに辞退したとのこと。セリーヌ本人とこの映画との関わりについては、前述の伊藤なつみ氏のエッセイより再び引用する。「当初は、ヴァレリーがセリーヌの許諾なしに脚本を書き始めたが、その後は『ALINE』として本人へのオマージュとしての映画を作るということで、曲の使用をレコード会社と本人から了解を得た。セリーヌ本人は映画の存在は知っているものの、内容などには関与せず、黙認ということになっているらしい」

ヴァレリー・ルメルシエ

最新のサウンドを好む若い世代にはそれほど響かないアーティストかもしれないけれど、大人世代や映画ファンには認知され支持されているだろう大御所アーティストのセリーヌ・ディオン。筆者はセリーヌの3度目の来日公演である1999年の東京ドーム公演に行った時に、ロングドレスをまとって仁王立ちでバラードを素晴らしく歌い上げる姿に胸を打たれた。歌うことへの純粋な献身とか、観客へのサービス精神とか、パフォーマンスへの全力ぶりが清々しいのだ。13歳の歌手デビューから、浮き沈みはあれども酒や薬物への依存やスキャンダルといったことはなく、人気歌手として多忙に過ごしながらも恋愛をして結婚し、子どもを産み育て、愛する夫を看取り、第一線で今も活躍し続けているという、前向きでバイタリティにあふれる人物であるセリーヌ。この映画で語られる、14人兄弟の末っ子から始まる彼女の成長と成功のストーリーは興味深く、知ると人に話したくなるような内容になっている。
 そして現在、セリーヌ本人は、2021年11月に公演予定だったリゾート・ワールド・シアターでの公演は筋けいれんにより延期。新型コロナウィルス対策により延期となっていた、勇気をテーマとした北米ツアー「Courage」が2022年3月9日から再開予定とのこと。またセリーヌのHP「CelineDion.com」では、公式なドキュメンタリー映画を制作中であることを発表。製作はソニー・ミュージックエンタテインメントのプレミアム・コンテンツ部門とSMEカナダとヴァーミリオン・フィルムズが提携、監督はドキュメンタリー作品で知られるアイリーン・テイラー・ブロドスキーが手がけるとのこと。公開の時期など詳細については未定ながら、こちらの作品も楽しみだ。

参考:「CelineDion.com

2021年11月26日更新

作品データ

公開 2021年12月24日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2021年 フランス・カナダ
上映時間 2:06
配給 セテラ・インターナショナル
原題 Aline the voice of love
監督・脚本・主演 ヴァレリー・ルメルシエ
出演 ヴァレリー・ルメルシエ
シルヴァン・マルセル
ダニエル・フィショウ
ロック・ラフォーチュン
アントワーヌ・ヴェジナ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。