eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男

巨大企業による環境汚染とその被害者7万人
有害物質の隠ぺいに気づいた弁護士が人々と共に
問題解決へと進む実話をもとに描く社会派ドラマ

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男© 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

環境活動家でもある『スポットライト世紀のスクープ』『アベンジャーズ』のマーク・ラファロが、1人の弁護士の実話に心を打たれ、彼の活動を自身の製作・主演で映画化。共演は、『レ・ミゼラブル』のオスカー俳優アン・ハサウェイ、社会活動家としても知られる『ミスティック・リバー』のオスカー俳優ティム・ロビンス、『インデペンデンス・デイ』のビル・プルマンほか。モデルとなった弁護士ロブ・ビロットがコンサルタントとして参加し、監督は『エデンより彼方に』のトッド・ヘインズが手がける。1998年、オハイオ州の名門法律事務所で働く企業弁護士ロブ・ビロットは、ウェストバージニア州の農場主から環境汚染についての調査依頼をされるが……。フォーエバーケミカル(永遠に残る化学物質)にまつわる大企業の隠ぺい、健康被害に苦しむ7万人の人々、企業弁護士でありながら巨大企業の闇に気づいた戸惑いと葛藤、長年に渡る訴訟の継続による重圧、家族との不和、さまざまに苦悩しながらも不遇を乗り越えて活動に身を投じていること。実話をもとに、信念をもって現在も活動を続けている人々の姿を描く社会派のドラマである。

1998年、オハイオ州の名門法律事務所で働く企業弁護士ロブ・ビロットは、祖母の知人だというウェストバージニア州パーカーズバーグの農場主ウィルバー・テナントから環境汚染の調査依頼をされる。テナントは大手化学メーカー、デュポン社の工場廃棄物により土地が汚染、190頭もの牛が病死したと訴える。ロブは農場を訪れて異常をきたした牛や荒廃した土地を目の当たりにし、裁判所に廃棄物に関する資料開示を請求。“PFOA”というワードを調べたことをきっかけに、事態の深刻さに気づき始める。デュポン社が発ガン性のある有害物質の危険性を40年間も隠ぺいし、その物質を大気中や土壌に放ち続けてきたのだ。やがてロブは7万人の住民を原告団とする集団訴訟に踏みきる。しかし巨大企業の権力と資金力に対して厳しい法廷闘争となり……。

アン・ハサウェイ,ほか

2016年1月6日のニューヨーク・タイムズ紙に掲載された新聞記事に感銘を受けたマーク・ラファロがすぐに映画化に動き出し、『スポットライト世紀のスクープ』『グリーンブック』などの製作会社パーティシパントと共に企画を進めて2019年に完成した本作。数十年前に決着した訴訟ではなく、現在も続いている裁判に関わる原告と弁護士の活動を伝える誠実な内容となっている。大企業により世界的に普及しているアイテムに関わる危険性を含む内容をメジャーな作品として映画化した、スタッフやキャスト、関係者たちの胆力に頭が下がる。もともと告発を描く作品のファンであるというヘインズ監督は、自身の監督作では初めての挑戦となる本作をつくるにあたり、心がけたことを語る。「事実に忠実であること。登場人物たちや彼らの経験の特異性、個性に敬意を払うこと。それでいて観客がきちんとストーリーを追えて、引き込まれる作品にすること。それが最初から最大のチャレンジだった」

弁護士ロブ・ビロット役はマークが、実直ないち弁護士が抜き差しならない状況に追い込まれながらも、健康被害に苦しむ人々を支えるために決意し、心を砕く姿を真摯に表現。プロデューサー兼主演であるマークは、ロブ・ビロット本人と最初からメールや電話のやりとりを重ね、しっかりと取材を行い役作りをして臨んだそうだ。もと弁護士であるロブの妻サラ役はアン・ハサウェイが、仕事にかかりきりの夫に不満をもちながらも理解しようと努める女性として。ロブを見守る法律事務所のスーパーバイザー、トム・タープ役はティム・ロビンスが、環境汚染を訴える農場主ウィルバー・テナント役はビル・キャンプが、ロブの弁護団に加わるベテラン弁護士ハリー・ディーツラー役はビル・プルマンが、フィル・ドネリー役はヴィクター・ガーバーが、それぞれに演じている。また劇中には、サラとロブ・ビロット夫妻、デュポン社の工場で働く母から先天異常で生まれ、手術を何度も受けてきたウィリアム・“バッキー”・ベイリー、内臓疾患を患っているジョー・カイガーとその妻ダーリーン、農場主ウィルバーの弟ジム・テナント、といった実在する関係者たちも出演している。バッキーはこの映画と、息子に愛情を注いで育ててきた母への思いを語る。「脚本を読んで、彼らがやろうとしていることにすごく元気づけられたんだ。母は何年もの間、デュポン社と闘うなかで、話をしても真面目に取り合ってもらえず、嘘つきと言われてきた。(それでも信念をもち続けた)そんな母にものすごく感謝しているよ」

マーク・ラファロ,ほか

本作の製作にあたり、スタッフたちが何十年も前から進行中の実話をもとに人々を引きつける長編映画を作ることは、容易ではないと認識していたなか、登場人物のモデルとなった実在する人たちが快く協力してくれたことに感謝しているとのこと。ロブ・ビロット本人は、映画により大勢の人々が実情を知ることについて、「公衆衛生に対する脅威がどんなものなのか、どれほど広範に及ぶものなのかを人々に理解してもらえる最大のチャンスだ」とコメントしている。
 ヘインズ監督はこの作品のテーマについて語る。「この『Dark Waters』は、ひとつの地域、ひとつの国の大気汚染・水質汚染として始まったものが、結果として世界中の人々の血を汚染する問題になる(なりかねないことを示し)、直接の被害者になっていないとしても、我々を地球の住民として結びつける(作品だ)。大規模な人災において、私たちは常につながっている。正義を求め、自分たちの命を守る、終わりなき戦いのなかで我々をつなげてくれるのは、知識とアウェアネス(気づき、認識)だ」

主人公のモデルでありこの映画のコンサルタントであるロブ・ビロットは、PFOA/C8の危険性を明らかにした功績により、「第二のノーベル賞」とも言われる、スウェーデンのライト・ライブリフッド賞を2017年に受賞したことをはじめ、環境や弁護士にまつわる数々の賞を受賞。血中にPFOA/C8が入ってしまった人々のための、デュポン社と同社から独立したケムール社と3M社に対する訴訟は今も継続中であり、ビロットも弁護士として関わっている。実際のビロット夫妻についてアン・ハサウェイは、互いを尊重し合う姿や誠実な人間性に感動したと語る。「ふたりは価値観を共有しているの。共によい人間であること、ほかの人に尽くす人間であることが大事だと考えている。ふたりとも信じられないくらい謙虚で、堅実な人たちだった」
 そしてロブ・ビロットが観客に望むことは、彼自身の名前やストーリーを知ることではなく、ひとりひとりの人間が世界をよくすることができる、と気づいてもらうことだと語る。彼は「この映画を見て人々に理解してほしいことのひとつは、ひとりの人間には信じられないくらいの力があるということ」と話し、アメリカの法律制度を称えてこのように語った。「一個人が、巨大な多国籍企業やその他の強大な組織を相手に、裁判所に行き、対等の立場に立ち、正義を得ることができる。信念を貫き通す個人が強い。自分の信念のために闘い、追求し続けることで、真の変化が起きえるんだ。とても克服できそうもない権力に立ち向かい、劇的な変化を起こすことができる。そして僕ら全員にとって、世界をよりよい場所にすることができるんだ」

マーク・ラファロ

テフロンのフライパンは、空焚き禁止、強火禁止、と説明書きにはあるけれど(メーカーや種類による。筆者のものにはそう明記されている)、それを読み、守っている人がどれだけいるだろうか。フライパンは強火にかけるレシピも多いし、水洗いの後で水分をとばすために火にかけるとか、食材を入れる前にフライパンだけを火にかけて温めるとか、筆者も含めてついついしている人も少なくないだろう。空焚き禁止、強火禁止の言葉にここまで深刻な理由があるとは、と思う場合がほとんどではないだろうか。最近のテフロンは安全という説明もあるなか、だいぶ前に買ったものやいただきものの手持ちのテフロンの調理器具などについては、各人が自分のもっているものの説明書をよく読む、販売元に問い合わせる、調べるなどして、改めて安全性を第一に慎重に扱うことが大切だ。そして映画においては、PFOA/C8の危険性や巨大企業による隠ぺいは衝撃的ながら、フォーカスするのはそこではない、とヘインズ監督とマークは語る。監督はこの映画のメッセージについてこのように語っている。「この映画には、僕らの政治、環境、そして規制において今起きていることに対する差し迫った注意喚起がある。僕らは水、大気、絶滅危惧種、そしてもちろん気候変動に対する環境統治が体系的に壊れてきたのを見てきた。だから今、すべてが危機に瀕しているんだ。この映画を早く市場に出して、この件について人々に話してもらい、この話を聞いてもらいたい。人々の経験を通して、この問題を見てもらわないといけないという切迫感があるんだ」
 そして主演と製作を務めたマーク・ラファロは、この映画の意義について語る。「僕らが伝えているのは、コミュニティの力添えを得て、大きな変化をもたらす個人の力だ。最終的なメッセージは、僕らはお互いを必要としているということだと思うよ。僕たちのために何かをやってくれる人は、僕ら以外にいない。世界をよりよくしてくれる人は他にいない。僕たちが一緒になってやるしかないんだ。水に関するこの物語は、あらゆる政治的分断、イデオロギー、性別、人種、宗教を超えるものだ。きれいな水の重要性について、僕らは本質的に理解している。こうした大きな問題を、こういう形で描くことで、世界にポジティブな変化が生まれていくと思う」

2021年12月3日更新

作品データ

公開 2021年12月17日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 アメリカ
上映時間 2:06
配給 キノフィルムズ
原題 DARK WATERS
監督 トッド・ヘインズ
出演・製作 マーク・ラファロ
出演 アン・ハサウェイ
ティム・ロビンス
ビル・キャンプ
ヴィクター・ガーバー
メア・ウィニンガム
ウィリアム・ジャクソン・ハーパー
ルイーザ・クラウゼ
ビル・プルマン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。