ジョン・レノン 失われた週末

ヨーコから離れ別の女性と暮らした18カ月
ジョンがソロとして最も成功した時期の
貴重な映像や逸話を含むドキュメンタリー

  • 2024/04/18
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ジョン・レノン 失われた週末© 2021 Lost Weekend, LLC All Rights Reserved

ジョン・レノンとオノ・ヨーコが別居し、ジョンがアジア系アメリカ人の女性メイ・パンと暮らした18カ月間とは。1973年秋から75年初頭のその時期について、メイ・パン本人の証言と貴重な映像や写真で伝えるドキュメンタリー。監督はTVシリーズを手がけるイヴ・ブランドスタイン、MVやCMなどを手がけるリチャード・カウフマン、大学教授を経てドキュメンタリーなどを手がけるスチュアート・サミュエルズの3人が共同で務める。ジョンとヨーコの個人秘書で、プロダクション・アシスタントを勤めていた中国系アメリカ人のメイ・パンは、ヨーコの強い希望でジョンと過ごすことになり……。ビートルズのファンの間で“The Lost Weekend(失われた週末)”として知られる、ジョンがヨーコから離れて別の女性と過ごした18カ月間の出来事を、その別の女性であるメイ・パン自身の証言と当時の映像や写真、関係者たちの証言により構成。ゴシップ的な内容のみならず、貴重な映像や音源、ジョンの肉筆によるイラストや意外なエピソードなども紹介されている興味深いドキュメンタリーである。

音楽好きの19歳である中国系アメリカ人のメイ・パンは、ビートルズが英国で設立した会社アップル・コアをマネージメントするアラン・クラインが、米国で運営している「アブコ・レコード」に入社。ビートルズはすでに事実上分裂していたなか、前衛映画(『ハエ(原題:Fly)』(1970)と『アップ・ユア・レッグス・フォーエヴァー(原題:Up Your Legs Forever)』(1971))を撮影するために渡米したジョンとヨーコの製作助手を務める。そこでメイは2人に気に入られ、彼ら専属の個人秘書に指名。憧れのスター夫妻の間近で夢のような日々を過ごしてゆく。しかしベトナム反戦運動のシンボルとなっていたジョンは、第37代アメリカ大統領リチャード・ニクソンの政権とFBIに睨まれ、行動を監視される。ビートルズ解散後の対応やソロ活動への賛否などのストレスが重なり、ナーバスになっていったジョンは衝動的な浮気を繰り返すように。そんななかヨーコは、困難な結婚生活を解決に向かわせる“安全策”として、当時22歳のメイにジョンの恋人になるよう求める。メイは最初に断るも、ジョンと過ごすうちに2人は本気の恋に落ちてゆく。そして1973年9月22日、ジョンはニューヨークの自宅ダコタハウスを離れ、メイと2人でロサンゼルスへと旅立つ。

ジュリアン・レノン,ジョン・レノン

ビートルズのファンの間で知られる“The Lost Weekend(失われた週末)”は、ジョンのプライベートな日々であり、実際のところはほとんど知られていないなか、その時にジョンと一緒に過ごしたメイ・パン本人や関係者の証言、貴重なアーカイヴにより構成されたドキュメンタリー。この映画のどこに興味をもつかは人それぞれで、個人的には前半と後半で印象が変わった。前半は、メイ・パンの生い立ちと3人の痴情のもつれに関わる内容で、ゴシップばかりがこのまま続くのだろうか、とやや辟易したものの、後半には音楽的な貴重なエピソードや演奏シーン、当時の写真なども多数あり、最後に紹介されるメイ・パンが成し遂げたジョンの息子ジュリアン・レノンとジョンに関わるエピソードなどはハートウォーミングだ。前半でメイが「私の物語は私が書く」と話す昔の映像では、若さの傲慢さからやや嫌悪感を感じさせる面もあるが、中盤〜後半にかけてはメイ・パンの目線によるジョンとの愛に満ちた日々や当時の出来事が興味深く、考えられた構成となっている。映画化については、まず監督とプロデュースを共同で務めた3人のうちのひとりであるイヴ・ブランドスタインが、1983年にすでに自伝本『Loving John』を発表していたメイに、映画化の話を約25年前に打診。その時はメイが時期尚早と感じたために一旦は見送り、メイが約5年前に自身の人生を打ち明ける準備を始めたことから、監督とプロデュースにリチャード・カウフマン、スチュアート・サミュエルズが加わって製作を進めていったという。監督による言葉として、このドキュメンタリーの意図についてこのように語られている。「私たちは、メイ(の当時のエピソード)が支配的な物語の“脚注”になっていて、女性の物語はしばしば歴史のなかに埋もれてしまうということを物語っているように感じていた。そして1970年代前半の女性の経験には背景があり、そこでは若い女性たちは今日のような発言力をもっていなかったことに気づいた。メイは最終的に記録を正したいと思った」

出演は、当時19歳〜20代前半だった当時の映像と、現在73歳のメイ・パン、1980年に40歳で射殺され他界する前の30代のジョン・レノン。そしてジョンの息子であるジュリアン・レノン、ジョンの最初の妻でジュリアンの母であるシンシア、ビートルズのポール・マッカートニー、有名ミュージシャンであるデヴィッド・ボウイやエルトン・ジョンほか。音楽業界の関係者たちも当時のジョンとメイについてさまざまに証言している。
 劇中の音楽には、ジョン・レノンの「イマジン」、ジョン・レノン&オノ・ヨーコの「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)」、エルトン・ジョンの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」、そしてビートルズの曲など当時のシーンを彩ったさまざまな楽曲が使用されている。

オノ・ヨーコ

この“失われた週末”の期間は、ビートルズ解散以降のジョンのソロとしてのキャリアのなかで最も多作で、商業的にも成功した時期ということについて、監督は語る。「彼らが一緒にいる間、ジョンはポール・マッカートニーと共に3枚のソロアルバムを制作し、エルトン・ジョンとコラボレーションし、ハリー・ニルソンのアルバムのプロデュース、リンゴ・スターのための作曲、デヴィッド・ボウイのシングル『フェイム』の共作を手がけ、ソロでの唯一のNo.1ヒットソング『真夜中を突っ走れ』を録音した。この曲は1974年のマディソン・スクエア・ガーデンでの感謝祭でエルトン・ジョンとともに披露されたが、それは彼の最後の公衆でのステージとなった」
 劇中では2人が一緒にいた時期の音楽活動にまつわるさまざまな写真や映像が紹介される。ジョンがハリー・ニルソンのアルバムのプロデューサーを務め、1974年3月にリンゴ・スターやキース・ムーンとロスでレコーディングをしていたスタジオにポールと彼の妻リンダが訪問し、彼らと一緒にセッションした映像や、1974年11月にマディソン・スクエア・ガーデンで開催されたエルトン・ジョンのコンサートにジョンがサプライズで出演し、「真夜中を突っ走れ」を歌った時のライヴ映像(最後の公衆でのステージ)が紹介されている。また派手に酒を飲み歩いた仲間たち“ハリウッド・ヴァンパイアズ”(ジョンやリンゴ、アリス・クーパー、ハリー・ニルソン、キース・ムーンらがメンバー)の夜遊びのシーンや、ビートルズが解散の正式書類に同意するサインをした1974年12月の映像(法的な解散の時)、そして当時のジョンとメイの私生活を写したものなど貴重なプライベートショットもたくさんある。なかでもジョンがメイに渡した手描きのスケッチや落書きなどを、劇中でアニメーションのシークエンスとして生かしているところはかわいらしい。そしてジョンと最初の妻シンシアとの長男ジュリアン・レノンのインタビューでは、ジュリアンがジョンとメイを過ごした思い出を語り、本物の家族のように親しい関係にあり、ジョンが他界した後もずっとメイとの温かなつながりが今も続いていることがわかる。メイはジョンの最初の妻シンシアと彼女の息子ジュリアンとの結びつきについて語る。「最後に会ったのは彼女が亡くなる1年前で、私が英国に会いに行ったの。その頃は、彼女のご主人が亡くなったばかりで、『大丈夫ですか?』と問いかけると『あなたが来ると信じていた』と言われたわ。彼女は息子ジュリアンに何かあった時、私が傍で面倒を見ることを察していた。それほど信頼を寄せてくれていたの。ジュリアンもだいぶ年を取り、私の助けは必要ないわ。でもいつも彼の傍にいるつもりよ。彼もそのことを理解してるわ。なぜなら、ジュリアンが作ったアルバム『ジュード』のジャケットの絵は、私が撮った(幼少時の)ジュリアンの写真だから」

ジョン・レノン,ほか

「僕にとってたったひとつの答えは愛だ」
 劇中ではジョンの有名な言葉のひとつが紹介されている。現在のメイはジョンと過ごした日々についてこのように語る。「“失われた週末”として知られるジョンとの時間は、文字通りロサンゼルスでのクレイジーな週末だったと多くの人が思っているでしょう。一方でジョンと私が18カ月にわたって正式に交際し、人生を共にし、愛し合っていたことを知っている人もいます。しかし私たちの関係が1970年から彼が死ぬまで続いていたことを知る人は少ないのです」
 監督はこのドキュメンタリーで伝えたいこと、観客へのメッセージをこのように話している。「特に重要なのは、ジョンが幼い息子ジュリアンと再会し、ジョージ、ポール、リンゴという“兄弟”との友情を取り戻し、ビートルズ以降で最も多作なソロアーティストとなるようジョンを鼓舞した、思いやりと共感力のあるメイにスポットを当てることだった。本作が、私たちが発見した事実と、50年以上の歳月をかけて語られた真心と傷心を分かち合うものであるための作品であることを願っている」

作品データ

公開 2024年5月10日より角川シネマ有楽町、シネクイント、新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開
制作年/制作国 2022年 アメリカ
上映時間 1:34
配給 ミモザフィルムズ
原題 The Lost Weekend:A Love Story
監督 イヴ・ブランドスタイン
リチャード・カウフマン
スチュアート・サミュエルズ
出演 メイ・パン
ジョン・レノン
ジュリアン・レノン
ポール・マッカートニー
デヴィッド・ボウイ
エルトン・ジョン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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