三谷幸喜の脚本・監督によるオリジナル映画9作目
著名な詩人の妻が失踪し、現夫と元夫の5人が集結
役者たちの会話劇で引きつけるミステリー・コメディ
数々の舞台やNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」など、脚本家・演出家・映画監督として活躍する三谷幸喜が脚本と監督を手がける最新作。出演は、『キングダム』シリーズの長澤まさみ、『ドライブ・マイ・カー』の西島秀俊、『流浪の月』の松坂桃李、映画『首』の遠藤憲一、『耳をすませば』の小林隆、歌舞伎役者でありドラマ「VIVANT」の坂東彌十郎、『違国日記』の瀬戸康史、『記憶にございません』の宮澤エマ、NHK連続テレビ小説「虎に翼」の戸塚純貴ほか。ある日、著名な詩人の妻スオミが行方不明に。詩人は知人でスオミの元夫である刑事を屋敷に呼び寄せ、極秘に捜査を依頼するが……。スオミの行方と謎を追うミステリーであり、豪華なキャストたちの会話劇によるコメディであり、スオミと彼女を愛する5人の男たちのロマンスなどなど、エンターテインメントの要素がたっぷり詰まったユーモラスなドラマである。
その日、刑事・草野は部下の小磯を伴い、著名な詩人の豪邸を来訪。詩人の妻スオミが昨日から行方不明だという。スオミは草野刑事の元妻であり、彼女を案じる草野はすぐに正式な捜査を開始すべきと主張するが詩人は「大ごとにするな」の一点張り。やがて屋敷には、スオミの過去を知る男たちが続々と集まり、現在の夫と元夫の5人で、誰が一番スオミを愛していたのか、誰が一番スオミに愛されていたのか、とスオミの安否そっちのけで揉め始める。不思議なことに、彼らの思い出の中のスオミは、見た目も性格もまるで別人だった。スオミとは一体、何者なのか。彼女はどこへ消えたのか……。
2019年の映画『記憶にございません!』から5年ぶり、三谷幸喜の9本目となるオリジナルの映画監督作品。三谷監督が「恐れ多い話」としながらも、着想を得たのは、黒澤明監督の1963年の映画『天国と地獄』と語る。この映画を何度か観ているうちに、出演している役者(三船敏郎と仲代達矢)について、「この2人が同じ人を愛していたら?」というアイデアが浮かび、「いっそ事件関係者全員が同じ一人の女性を愛していたら、コメディになる」と考えて構想がまとまっていったという。そもそも演劇の脚本や演出を手がけ、演劇人として長く活動しているなか、1997年の『ラヂオの時間』から映画を約数年おきのペースで発表していることについて、三谷監督は「毎回自分が作るべき映画、自分にしか作れない映画ってどんな作品なのだろうか?と試行錯誤しています」とコメント。そして映画への思いと今回の作品で表現しようと考えたことについてこのように語っている。「映像的なことで言うと、僕より優れている方はたくさんいます。僕は映像作家ではないし、基本は舞台の人間なので長回しも大好きで、ワンシチュエーションの物語が好き。だから映画でもそういうものをやりたいんですが、意外とこれまでやっていなくて。初監督作品の『ラヂオの時間』は、もとが舞台劇だったこともありかなり演劇的でしたが、それ以降はなんとか僕にできる範囲で映像の世界に寄せたものをと考えてきました。ただ今回は一度原点に戻って、思いきり演劇的な映画を作ってみようと。限りなくワンシチュエーションに近いセリフ劇をやりたいと思ったところが、出発点でした」
行方不明となった詩人の妻スオミ役は、長澤まさみがミステリアスかつユーモラスに好演。劇中で長澤は上品でコンサバな奥様風、鮮やかな色彩のフルレングスのワンピースや大きなピンクの花柄のチャイナドレス、迷彩のつなぎでサバゲールック、三つ編みヘアにセーラー服などなど、コスプレさながらその時々でさまざまなスタイリングが華やかだ。これまでに長澤はドラマや舞台で三谷作品に出演し、映画は今回が初めて。三谷映画への出演について、彼女はこのように語っている。「三谷さんの作品に出たい俳優さんはたくさんいらっしゃって、ずっと順番を待っているような状態。三谷さんは俳優の新たな可能性、新たな一面を引き出してくれる方なので、映画で初めてご一緒できるのは本当に嬉しかったです。でも台本を読ませてもらった時に、すごく難しい役だなという印象を受けて。どういう風にスオミを演じればいいのか、なかなか想像がつかなくてすごく苦しみました。でも絶対にできない役は三谷さんはやらせない方だと分かっていたので、台本を勉強するのみだなと。撮影をするのが怖いなと思いながら、毎日を過ごしていました(笑)」
三谷監督は長澤のことを、「近年どんどんお芝居がうまくなっている。より的確に、きめ細やかになっています」と称え、多面性のある役を長澤にアテガキしたことついて、このように語っている。「僕から見ると、俳優としてのスキルは驚くほど上がっている。このタイミングで、長澤さんの今現在持っている引き出しを全部開けてみたくなったんです。となるとこれは普通の役じゃつまらないなと」
スオミの現在の夫である著名な詩人・寒川しずお役は映画の本格出演は初となる坂東彌十郎が、4番目の夫であり堅物で悪気なくやや支配的な刑事・草野圭吾役は西島秀俊が、最初の夫で現在は庭師の魚山大吉役は遠藤憲一が、2番目の夫でさまざまな事業を展開するグリーンヘアーのYouTuber十勝左衛門役は松坂桃李が、3番目の夫で草野の上司である情に厚い刑事・宇賀神守役は小林隆が、草野の部下・小磯杜夫役は瀬戸康史が、常にスオミのそばに現れる謎の女・薊(あざみ)役は宮澤エマが、寒川の世話係である乙骨(おっこつ)直虎役は戸塚純貴が、それぞれに演じている。
なかでも特に個人的に面白かったのが、後半のセスナ機のシーンで瀬戸演じる小磯が陥るシチュエーションだ。あのシーンは撮影前日に三谷監督のアイデアで大幅に変更になったそうで、ドリフやタケちゃんマン(バラエティ番組『オレたちひょうきん族』のビートたけしのキャラクター)のコント的な、いきなりのシュールでナンセンスな展開で、思いのほか長めに続くのも可笑しかった。
「できるものなら、すべてのシーンを1カットでやりたいくらい長回しが好きです」と監督が自身で話す、三谷映画の見どころのひとつである長回し。そのためもあり撮影開始の1ヵ月前からメインキャストたちは入念なリハーサルを行った。なかでも監督は気に入っているシーンとして冒頭の草野と小磯が寒川と対面し、寒川がスイカを食べて種を飛ばしながら室内を歩き回って話すところをあげ、「全員にいろんな動きをつけて、4分くらいの長回しになりましたが、それを可能にできる役者さんが揃っていたので、うまくいった。撮っていても楽しかったです」とコメント。そして後半でスオミが5人の夫たちと話すシーンも長回しで撮影したことについて、三谷監督はこのように語っている。「4分半以上あるシーンでしたが、ずっと長澤さんだけを見ていても十分もつ。彼女はそれだけの力と魅力を持つ人。膨大な台詞を語りながら、コロコロと表情を切り替えていかなくてはならない、とてもハードなシーンでしたが、彼女は素晴らしかったです」
またラストには「最後まで楽しい映画にしたい」という監督の意図により、舞台のカーテンコールさながらのミュージカルシーンが陽気に展開。監督はこのシーンについて、「台本の準備稿にはミュージカルシーンはなかったのですが、今作は全体が舞台劇に近い作りなので、エンディングもカーテンコールがやりたくなった。出演者が歌い踊るかつてのMGMミュージカル風にね」とコメント。メインキャスト全員で歌い踊る曲「ヘルシンキ」の作詞は三谷監督、作曲は『ザ・マジックアワー』(2008年)以降すべての三谷映画の音楽を担当する荻野清子が担当している。ミュージカルシーンでは、撮影開始の1ヵ月前から歌とダンスの特訓をした長澤、舞台出演も多い瀬戸と宮澤が華やかなパフォーマンスを披露。後からミュージカルシーンが追加されたことから、当初西島は「聞いてない」と驚き、最初のリハではかなり気が重かったと話し、「皆の動きがバラバラだったりはしますが、一生懸命踊っているうちに“楽しいかも”と思えたのは自分でも発見でした」と笑顔でコメントしている。ダンス未経験者が多い夫たちのミュージカルシーンについて、監督は楽しそうに語る。「歌い踊る姿がなかなかイメージできない西島さんや松坂さん、遠藤さんや彌十郎さんが必死に踊りの稽古をしている姿は感動的で、しかも本当に申し訳ないですが、本人たちは大変だろうけど、見ていると楽しくなり、気持ちが明るくなる。彼らが懸命に稽古をして本番に臨んだことがスクリーンを通じて伝わり、それもまたお客さんの胸を打つポイントとなると思います。長澤さんの圧巻のパフォーマンスとキャストそれぞれの個性が輝くダンスで、ミュージカルシーンは間違いなく今作の注目シーンとなりました」
この映画には5つの顔がある、と三谷監督は2023年12月に東京で行われた製作報告会にて紹介。一つ目がミステリー、二つ目がコメディ、三つ目が恋愛映画、四つ目が長澤まさみ作品、五つ目が三谷幸喜作品という。詳細が気になる場合は、東宝の公式HP内にある2023年12月13日付の記事「三谷幸喜監督最新作『スオミの話をしよう』製作報告」でひとつひとつ丁寧に説明され、ほかにもいろいろな質疑応答の内容が記載されているので読むのも楽しいだろう。製作報告会にて、舞台やドラマを多数手がける中、なぜ映画を撮るのかと記者から問われた三谷監督は、このように回答した。「TVと映画と舞台に関して言うと、TVは脚本しか書かないですが、舞台と映画は自分で演出もします。自分のテリトリーといいますか、舞台から来ている人間なので、バックボーンは演劇だと思っています。定期的に年に一、二本は舞台をやるようにしています。やはり、舞台と映画の違いとなると、『どれだけたくさんの人が観てくれるか?』という部分にあると思います。『悔しい』という言い方も変ですが、映画の力というのは計り知れないし、舞台はどれだけロングランをしたところで映画を観てくれる人の数には敵わないんです。しかも映画は良い形で残れば、100年後、200年後の人にも楽しんでもらえる媒体なので、そこに憧れはありますね。なので、僕が映画を作る時は、できるだけたくさんの人が喜び、楽しんでくれるというのが前提としてあります。逆に自分が本当にやりたいこと――『別に誰も見なくても良い、これは自分がやりたいものだ』と思ってやるものは舞台になります。それを何年かやっていると、そうじゃない、たくさんの人に喜んでもらえるものが作りたくなるんですね。そんな時に映画を作らせていただいています」
そして“五つ目の三谷幸喜作品”として、「毎回、試行錯誤を繰り返していますが、今回は手応えがあるというか、面白い作品になっていると思います」と話し、映画への思いをこのように語った。「これまでの作品と同じように、カンヌとかヴェネツィアには全く縁がない作品ではありますが、今の日本のお客さんには必ず楽しんでもらえる作品になっていると思っています。今、数少ないオリジナルの映画作品です。原作もないしアニメでもなく、TVが元になった作品でもありませんが、そんな一本として、来年の日本映画にちょっとでも貢献できればと思っております」
公開 | 2024年9月13日より全国公開 |
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制作年/制作国 | 2024年 日本 |
上映時間 | 1:54 |
配給 | 東宝 |
脚本・監督 | 三谷幸喜 |
出演 | 長澤まさみ 西島秀俊 松坂桃李 瀬戸康史 遠藤憲一 小林隆 坂東彌十郎 戸塚純貴 阿南健治 梶原善 宮澤エマ |
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