リュミエール!リュミエール!

“映画の父”リュミエール兄弟の映像を修復し上映
カンヌ国際映画祭総代表のフレモー監督が丁寧に解説
映画の始まりを観る、ドキュメンタリーの第2弾

  • 2024/11/6
  • イベント
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リュミエール!リュミエール!© Institut Lumière 2024

映画の始まりといわれる、世界初の有料上映を1895年にパリで行なったルイ&オーギュスト・リュミエール兄弟。彼らの貴重な映像のみで構成し制作された2017年のドキュメンタリー『リュミエール!』の続編が完成。監督・脚本・編集・プロデューサー・ナレーションは前作と同じく、リュミエール研究所の所長でありカンヌ国際映画祭総代表であるティエリー・フレモーが手がける。映画好きならなんとなく見たことがあるだろう、有名な1895年の『工場の出口』をはじめ、続編ではリュミエール社が1895年〜1905年に製作した1422本のシネマトグラフ作品の中から110本を厳選・修復し美しい映像に。今回は劇場初公開となる75mmフィルム作品『水宮の落成式』『動く歩道の光景』も紹介。フレモー監督の解説により130年前の映像など各作品が丁寧に紹介されていくドキュメンタリー映画である。

フランスのルイ&オーギュスト・リュミエール兄弟は、映像を撮影・現像・上映ができる装置“シネマトグラフ”を1895年に発明。同年12月28日にパリにて、リュミエール兄弟は自分たちで撮影した映像『工場の出口』などを世界で初めて有料上映。パリ、ニューヨーク、京都、当時の人々の日常や世界の町並みが映されてゆく。

リュミエール!リュミエール!

日本を含む33か国以上で公開され、ドキュメンタリーとして高い評価を得た前作『リュミエール!』の続編。当時の各国の文化や人々の暮らしぶりの雰囲気がわかるのも興味深い。個人的には、以前に京都芸術大学で現代美術の系譜を学んでいた時に、資料としてリュミエールの『工場の出口』の映像を見て、スクリーンでみてみたいと改めて思ったため、それが叶ってしみじみとした。人々が集まって映像を見るという仕組みの始まり、130年前の人たちが驚き喜んだことから、今の映画のカルチャーにつながっていることが実感できる。音楽はリュミエール兄弟と同時代に生きた、2024年に没後100年を迎えたガブリエル・フォーレによる楽曲を使用。「シシリエンヌ」「パヴァーヌ」などの代表曲ほか美しい旋律が映像を彩っている。
 第1作も続編もリュミエール作品のみをつなげたドキュメンタリーで、続編である今回は、リュミエール兄弟の代表的な映像や、今回が初お披露目となる映像についてより深く楽しむことができるよう、比較や考察がなされている。世界初の有料公開映像である『工場の出口』は、何種類ものパターンがあるなかから今回は3つを比較して紹介。当時に実際に上映された作品がどれなのかを推察している。続編は2024年11月1日に第37回東京国際映画祭の「ガラ・セレクション」で日本初お披露目となり、フレモー監督のトークショーが実施。監督は「リュミエールが残した素晴らしい遺産を21世紀の皆さんに届けるという責任を感じているし、それは私の任務。何故ならば私はリュミエール兄弟に恋をしているからね」と笑顔で話し、続編への思いをこのように語った。「修復を経た美しい映像を選ぶと共に、シネマトグラフの発明家であり最初の映画監督であるリュミエールの、その両面を打ち出すようなドキュメンタリー映画にしたかった」

ルイ(1864-1948)とオーギュスト(1862-1954)のリュミエール兄弟は、フランスの発明者であり、「映画の父」と呼ばれているのは周知の通り。1895年のシネマトグラフの発明をはじめ、スチール写真術の研究により1907年に世界初のカラー写真技法、リュミエール・オートクロムの発明も。ルイとカメラマンによりシネマトグラフで撮影された映像は、1本約50秒、全部で1422本あり、合計すると約20時間ぶんあるという。
 続編は約50秒の映像110本で構成され、さまざまな撮影場所でたくさんの人たちが登場する。フランスのリヨンにあったリュミエール工場の出口の映像はもちろん、リュミエール工場でカンナをかけている作業員の男たち、リヨンで過ごすルイとオーギュストの家族、エジプトのギザにてスフィンクスとピラミッド群、ラクダで移動する遊牧民たち、フランス東部のシャモニー登山の様子、さらにはフランス陸軍のエリート山岳部隊、アルペン猟兵達の行進、そしてベトナムの小さな村ナモの子どもたちの姿など世界各地でさまざまなシーンをとらえている。フレモー監督はもともと柔道家で親日家であり、劇中で小津安二郎監督作品についても触れていて、東京国際映画祭のトークイベントにて日本映画への期待をこのように語った。「最近の日本のフィルムメーカーの中では、シンプルな映像の中に力強い美しさのある濱口竜介監督と是枝裕和監督はリュミエールの継承者と言えるだろう。最近のフランス映画は大仰な映像になり過ぎて…。その点ではリュミエールの魂は現在の日本映画に継承されていると思う」

リュミエール!リュミエール!

リュミエール兄弟によるシネマトグラフの撮影期間は1895年〜1905年の10年間で、ルイとオーギュスト本人たちに加え、専属の撮影=上映技師(カメラマン)たち30〜50人が各国に赴き現地を撮影。まだ海外を行き来する手段が開発途中にあったなか、スイス、イギリス、イタリア、ロシア、アメリカ、エジプト、スペイン、メキシコ、カナダ、ベトナム、カンボジア、日本と数々の国を訪問し、各国の人々の姿を撮影し、映画として各国で上映された。

「映画は皆を、世界中を楽しませ豊かにする。これ以上の誇りはない。」2017年の前作『リュミエール!』よりルイ・リュミエールの言葉。

2025年は映画誕生130周年(いろいろな見解はあるもひとつの説として)。リュミエール兄弟と仲間たちが10年間で撮影した1本約50秒の映像は合計1422本。そのうちまったくの未発表のものも約1000本、当時に公開されて以来公開されていないもの、現在修復中のものなど映像はまだまたたくさんあることから、東京国際映画祭でフレモー監督はこのように朗らかに語った。「パート3、パート4を作る可能性はある。日本の観客の皆さんには『3回目の旅がしたい!』と言っていただきたいものです」

リュミエール!リュミエール!

前作の製作では2016年にまず130本の映像を修復。その後、CNC(フランス国立映画センター)、ゴールデングローブ財団、リュミエール研究所の協力により、2024年にはさらに300本を修復。今後はシネマテーク・フランセーズ、リュミエール研究所、CNCのフランス映画アーカイブが所蔵するネガフィルムとポジフィルムを使用し、全部で1,400本近くの映画(約1,000本のいわゆる「未発表作品」を含む)を修復していく予定とのこと。モノクロの古いドキュメンタリーなんてストーリーもないし何が楽しいの、という気持ちもわかる。ただ映画が好きなら、今は特に興味がなくても、映画という仕組みの始まりの頃の映像を、いずれ観ようかなと思う時もあるかもしれない。その時にふとこういうドキュメンタリーがあることを思い出してくれたらと筆者は考える。フレモー監督は映画への思いとリュミエール作品への思い入れについて、ジャン・リュック・ゴダール監督と以前に話した時の会話を引用し、東京国際映画祭にてこのように語った。「リュミエールの映画を観ることは、まさに温故知新。彼らはシネマという芸術を残しただけではなく、映画館に足を運び映画を観るという習慣を残した。映像メディアが氾濫する昨今だけれど、映画という表現形態はこれからも一層重要性を増していくはず。ジャン・リュック・ゴダール監督とスイスの道を歩いた時、彼は『ほかでは観ることのできないものを観ることが出来るのが映画だ』と言った。リュミエールはシネマトグラフ発明当時からそれを実践していたわけで、今もその冒険は続いています」

作品データ

公開 2024年11月22日よりシネスイッチ銀座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2024年 フランス
上映時間 1:45
配給 ギャガ
原題 LUMIERE! THE ADVENTURE CONTINUES
監督・脚本・編集・
プロデューサー・ナレーション
ティエリー・フレモー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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