グラディエーターII 英雄を呼ぶ声

リドリー・スコット監督による伝説的な映画の続編
妻を殺された男は復讐を誓い、ローマで剣闘士に
一大スペクタクルにして情感あふれる人間ドラマ

  • 2024/11/15
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グラディエーターII 英雄を呼ぶ声©2024 PARAMOUNT PICTURES.

リドリー・スコット監督による伝説的な2000年の映画『グラディエーター』の十数年後を描く続編が完成。出演は、『aftersun/アフターサン』ポール・メスカル、『ワンダーウーマン1984』ペドロ・パスカル、『ワンダーウーマン』のコニー・ニールセン、『マグニフィセント・セブン』のデンゼル・ワシントン、『クワイエット・プレイス:DAY 1』のジョセフ・クインほか。監督はもうすぐ87歳となるリドリー・スコット、脚本は『ゲティ家の身代金』のデヴィッド・スカルパが手がける。愛する妻と平穏な暮らしを送っていたルシアスは、ローマ帝国軍の侵攻により妻を殺され、捕虜として拘束。ローマ軍のアカシウス将軍への復讐を誓う。復讐を誓う男、ローマの残虐な双子の皇帝、非道な支配に不満をもつローマ軍の将軍、辛い過去をもつ将軍の妻、奴隷から成り上がり野心をもつ商人、それぞれの目的や思惑が交錯し、物語がダイナミックに展開してゆく。激しい戦闘シーンの数々が繰り広げられるスペクタクルであり、人々の信念や強い意志、愛憎が絡み合い観る者の心をゆさぶる、情感あふれるドラマである。

残虐な双子の皇帝が統べる帝政ローマ時代、剣闘士マキシマス・デシマス・メレディウスの死から十数年後。ローマ帝国は容赦ない勢いで国境を広げ、あらゆる文化を略奪し、生き残った者たちに命を賭けた戦いを見せ物として強いている。ヌミディアで平穏な暮らしを送っていたルシアスは、将軍アカシウス率いるローマ帝国軍の侵攻により愛する妻を殺され、捕虜として拘束。アカシウス将軍への復讐を誓うルシアスは、謎の奴隷商人マクリヌスに買われてローマへと赴く。そこで剣闘士(グラディエーター)となった彼は、復讐心を胸に、勝者のみが生き残ることができるコロセウム(円形闘技場)の戦いへと踏み出していく。

ポール・メスカル,ペドロ・パスカル

第73回アカデミー賞にて作品賞・主演男優賞を含む5部門を受賞した前作『グラディエーター』から約24年。素晴らしい作品になぜわざわざ続編を、という声も少なくないなか、名作の続編という重圧を受けとめ、それでもと覚悟の上でスコット監督が作り上げた渾身の第2作。登場人物たちそれぞれの信念や意思がかたちづくる個性、その目的と言動により展開していく物語のダイナミズム、印象的な台詞、激しい戦闘シーンによるスペクタクル。圧倒的な暴力による苛烈なシーンにかき消されることなく、表現力豊かな俳優たちが複雑な心情を丁寧に表現し、人のあらゆる結びつきが深みをもって描かれているところが大きな魅力だ。続編の製作が長い間ずっと検討されてきたなか、約24年後に完成したことについてスコット監督は語る。「『グラディエーター』の人気は高まる一方だった。人々の記憶に残り続けた。続編を考えるべきだとは思っていたが、どんなストーリーにするか考えるのに何年もかかったんだ」
 脚本家のデヴィッド・スカルパは、主要な登場人物のほとんどが死んでいる映画の続編を作る難しさを感じるなか、歴史上の人物とフィクションの人物を合わせて描くことにより物語を練り上げていったと語る。「私たちは歴史上の実在のローマを参考にした。(皇帝の)マルクス・アウレリウスとコモドゥス、(コモドゥスの姉)ルッシラは実在するが、(グラディエーターの)ルシアスはマキシマスと同様、実在の歴史上の人物ではない。この映画の双子の皇帝カラカラとゲタも実在の人物だが、彼らのライバル関係がどのように展開するかについては、創造的に自由な解釈をさせてもらったよ」
 またスコット・フリー・プロダクションのプレジデントであるプロデューサーのマイケル・プルスは、製作陣が続編に不可欠なことについて考え抜いたと語る。「ローマ帝国の世界と『グラディエーター』の忘れがたいキャラクターは、とても見事に作り上げられていた。それをさらに壮大なスケールで再現することが必要だった。私たちは、1作目と同様に力強い復讐の動機を求めながらも、新鮮で現代的でユニークなものを求めていた。予想以上に時間がかかったが、素晴らしいアイデアと人間ドラマを作り上げるには時間がかかる。結果が物語ってくれることを願っている」

コニー・ニールセン,ジョセフ・クイン

愛する妻を亡くし復讐を誓うルシアス役はポールが、複雑な背景をもつルシアスの怒りや苦悩や意思、天性のリーダーシップを繊細かつ感動的に表現。舞台やインディペンデント系の映画、ドラマなどで活躍するなか初めて本格アクションに挑戦し、初の超大作の主演に抜擢された彼は大きな成功を収めている。製作陣は、ポールが28歳で舞台『欲望という名の電車』でオリヴィエ賞主演男優賞を受賞し、映画『aftersun/アフターサン』でアカデミー賞® にノミネートされたことから演技力は申し分なく、荒々しい『アイリッシュ・ラグビー』の経験者であることから肉体的なタフさがあると知り、“恐ろしいローマの剣闘士”として大作の主演が務まるかどうかを検討の上で決定。撮影前に週6日のトレーニングと徹底した食事管理を6か月間続けるというハードなトレーニングと肉体改造で戦士の体をつくり、撮影現場で演技をするポールを見て、製作陣はこの映画の主人公としての力量を確信したという。ポールはスコット監督作品の主役に抜擢された時のことを「信じがたいほど素晴らしい瞬間」だったと話し、このように語っている。「リドリー・スコットは映画界、特にこのジャンルの王様だ。リドリーがノックをしたら、ただイエスと言うんだ。巨匠の頭脳の働き方を見ることは、私にとって間違いなくキャリアのハイライトだった。そして、彼は自分の知識と才能を信じられないほど惜しみなく分かち合ってくれた」
 スコット監督がポールに初めて注目したのは、イギリス・アイルランドのテレビシリーズ『ふつうの人々』に出演していた時であり、ポールを抜擢した理由についてこのように語っている。「彼は、リチャード・ハリスと若いアルバート・フィニーを掛け合わせたような俳優だと感じた。彼はとても健全で、しっかりしていて、共感できる俳優だと思った。脚本のストーリーが展開するにつれ、彼のことを考え続けた。彼がとても優れた舞台俳優であることは知っていたし、それは私にとっては利点だ。舞台俳優たちは、私を素直にさせてくれる。私はとても視覚的で、稲妻のように動く傾向がある。彼らはテイクを重ねるごとに、ストーリーや登場人物について知りたがる」
 ルシアスを買った奴隷商人でローマの実業家マクリヌス役はデンゼル・ワシントンが、ローマ帝国のアカシウス将軍役はペドロ・パスカルが、残忍な双子の皇帝の兄カラカラ役はフレッド・ヘッキンジャーが、弟ゲタ役はジョセフ・クインが、それぞれに演じている。
 前作から引き続き出演する俳優は2人のみ、アカシウス将軍の妻であり故マルクス・アウレリウス皇帝の娘でマキシマスの元恋人ルッシラ役のコニー・ニールセンと、ルッシラの同盟者であるローマの元老院議員グラックス役のデレク・ジャコビだ。コニーは新しいストーリーが本当に必要だと思えない限り出演しないと決めていたと語る。「コモドゥスとマキシマスが2人とも死んでしまった今、どうやってストーリーを構築するんだろうと思ったわ。でも、彼らが考え出したものは本当に素晴らしかった。これは私にとって、人々の心を動かし、見守られていると感じさせながらも楽しませるという、大きな物語を語るチャンスだった」
 また現在86歳のデレク・ジャコビは引退状態にあったものの、スコット監督からの続編への出演依頼に喜んで快諾。監督は「彼に戻ってきてほしかった。いろいろな意味で、彼はローマの保守派の代表なんだ」と語り、デレクは「前作同様、この作品も壮大で素晴らしい物語だ。スリリングでありながら、人間の存在に関わる多くの点を描いているため、非常に感動的なんだ」と話している。
 また筆者が個人的に紹介したいのが、双子の皇帝の兄カラカラが飼っている猿のドンドゥスだ。かわいいのはもちろん、怯える演技などは迫真だ(単に役者の演技の迫力に本気でビビッていたのかもしれないが)。また兄弟帝が2人で話をするシリアスなシーンでカラカラがバストアップのショットでセリフを言うなか、彼の肩や頭を自由に行き来するドンドゥスの落ち着きのなさが面白く、フレッドもスタッフも大変だったなと。しかしそのシーンをそのまま映画に採用しているスコット監督は、動物が好きな人なんだなとも。そのほかのシーンでは、動物使いのスタッフらしき人がドンドゥスのそばにいることが多くなったのも、なるほどと理解できて面白かった。

デンゼル・ワシントン

公式HPの予告編にもある通り、劇中には苛烈な戦闘シーンが多い。なかでもスコット監督が前作からやりたいと考えていた、人間対サイの戦いは目を引くシーンのひとつだろう。2000年の当時、本物のサイでやるには危険すぎるし、CGIでやるには費用がかかりすぎるという理由で見送られた内容を、今回は見事に実現。精巧に作られた機械製のサイをはじめ、人間がヒヒ役の動きをしてCGIで本物さながらに変身させた攻撃的なヒヒとのバトル、そして大掛かりな模擬海戦などが展開し、観客はコロシアムで戦いを観戦している市民の目線でハラハラさせられる。さまざまな大作を経験してきているデンゼルも、『グラディエーターII』の規模について「これまでで最大の作品」と話し、ユーモアを交えてこのように語っている。「巨大だ。まるでステロイドを使ったセシル・B・デミルのようだ。リドリーは戦闘シーンに100人ではなく、1000人もの男を使っている。馬は20頭じゃない。400頭もの馬がいる。この作品では、どこを見てもローマの世界なんだ。美しい衣装や鮮やかな色彩に身を包み、剣や盾を持った何千人もの兵士たちや馬との撮影現場は、私にとって映画以上のものに思えた。それ自体がひとつの世界なんだ。人々はその光景に圧倒されることだろう」
 この映画ではマルタやモロッコに美術セットを実際に建築し、CGIで規模を拡大するという手法を主に採用し、ロンドン郊外のスタジオでも撮影。マルタではローマの歴史的な建造物の数々を、全長約8キロのエリアに再現。ローマのコロセウムは、17世紀に建造されたマルタのリカソリ砦で、約46フィートの高さの美術セットを作り、ポストプロダクションのデジタル処理で2倍のサイズにしたという。コロセウムの観客のローマ人として500人以上のエキストラが集められるも、縮小版の円形闘技場でも満員にするには人数が足りなかったため、多くの観客がデジタルで追加されたという。スコット監督は今回の撮影では常時8〜12台のカメラで撮影し、ドローンやダッシュカムも追加。各シーンは芝居のように演出され、セットのあちこちで同時多発的に撮影が進行していたそうだ。スコット監督はそうした撮影現場におけるカメラマンとの関わり方について語る。「私は俳優とはリハーサルをしないが、カメラマンとはリハーサルをする。彼らにもセットでは衣装を着てもらうんだ。だって、映り込んでしまうかもしれないからね」
 スコット監督と長く仕事を続けているプロダクション・デザイナーのアーサー・マックスは、この映画はこれまでで最も野心的なコラボレーションであると語る。「すべてにおいて、これまでの作品よりもっと大きく、もっと精巧だよ。『グラディエーター』をもっと巨大にした作品だ。リドリーの映画作りに対するアプローチは常に没入的だ。彼はすべての段階、すべての部門に関与する。彼は多くのことを期待するから、彼と仕事をするのは大変なことかもしれない。そして僕は挑戦が大好きなんだ」

アカデミー賞の作品賞を受賞した映画の続編が、同じ監督によって作られるのは、フランシス・フォード・コッポラ監督による1972年の『ゴッドファーザー』の続編、1974年の『ゴッドファーザー PART II』以来のこと。もし『グラディエーターII』がアカデミー賞の作品賞を受賞すれば、約50年ぶりのシリーズ2作連続受賞となることから、大きな注目を集めている。スコット監督は、アメリカの雑誌「EMPIRE」2024年10月号のインタビューで「私がこれまでに作ったなかで最高の作品だ」とコメント。また監督は大作を製作する気概について、映画の公式資料でこのように語っている。「この規模の映画を撮ることには、大きな興奮がある。大きなストレスを感じなければならない。実際、ストレスを受け入れなければならない! 私はそうしている。そのおかげで飛び続けられる。ディテールにディテールを重ねる仕事だ。そして、アイデアを広げれば広げるほど、相乗効果を見出すことができる」
 デンゼルはスコット監督について、敬意とユーモアと共に朗らかに賞賛する。「撮影現場は大人たちがおもちゃで遊ぶ子どものようだった。丘を上がったり下りたりするローマ兵を見ていると、『キング・オブ・キングス』や『十戒』のような古い映画のことを考えてしまうんだ。『グラディエーターII』はそんな感じだ。そしてそれはリドリーの才能の反映でもある。こういうことを言うと嫌われるだろうけど、彼は不機嫌な年老いた天才なんだよ。私は彼が大好きだ。私は彼を愛している。彼は先見の明がある」
 スコット監督は、「Film Stories」の2024年11月13日の記事「Ridley Scott interview | Gladiator II, Alien 3, tennis, art and baboons(リドリー・スコットのインタビュー | グラディエーター II、エイリアン 3、テニス、アート、ヒヒ)」にて、さらなる続編『グラディエーターIII』を製作しているのかと問われると、「もちろん。すでに取り組んでいる」と回答。また「HOLLYWOOD REPORTER」の2024年11月7日の記事「Ridley Scott Will Never Stop Directing: “Shut Up and Go Make Another Movie”(リドリー・スコット監督は監督業をやめない:「黙って次の映画を作れ」)」では、記者からの死ぬまで監督を続けるかという質問に対して、近ごろ新作を完成させたクリント・イーストウッド監督を例に挙げ、「クリントは94歳で私は今86歳だから、まだ何日か残っているよ」と軽やかに回答(クエンティン・タランティーノが10本目の映画を制作したら引退と言っていることについて聞かれると、「信じないよ」と即答しているのも面白い)。さらに、「『グラディエーターIII』を観たい。すでにアイデアはあるんだ。『ゴッドファーザーPART II』をベースにしたアイデアをずっともっていた」と具体的に話している。渾身の続編に続き、すでに第3作も進行中とは! それとは別に、スコット監督の次回作であるビージーズの伝記映画も、いろいろありながら製作が進んでいるとのこと。もうすぐ87歳のスコット監督は、イーストウッドばりに生涯現役を突っ走り、これからも私たちに作品を届け続けてくれる。監督の活躍も『グラディエーター』のさらなる続編も引き続き楽しみだ。

作品データ

公開 2024年11月15日より全国ロードショー
制作年/制作国 2024年 アメリカ
上映時間 2:28
配給 東和ピクチャーズ
原題 Gladiator II
監督 リドリー・スコット
脚本・原案 デヴィッド・スカルパ
キャラクター創造 デヴィッド・フランゾーニ
原案 ピーター・クレイグ
出演 ポール・メスカル
デンゼル・ワシントン
ペドロ・パスカル
コニー・ニールセン
ジョセフ・クイン
フレッド・ヘッキンジャー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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