ホワイトバード はじまりのワンダー

小説『ワンダー』のその後、もうひとつの物語
いじめをしたことで退学になった少年が
祖母との対話により優しさ=勇気の真意を知る

  • 2024/11/29
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ホワイトバード はじまりのワンダー©2024 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC. All Rights Reserved.

「正しいことよりも親切なことを選ぶ」という台詞の通り、優しさを伝える物語として世界的なヒットを記録した2017年の映画『ワンダー 君は太陽』のその後を描く、もうひとつのストーリー。出演は、『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』のアリエラ・グレイザー、『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』のオーランド・シュワート、「X−ファイル」シリーズのジリアン・アンダーソン、そして『クィーン』のオスカー俳優ヘレン・ミレンほか。監督は『チョコレート』のマーク・フォースターが、脚本執筆にも参加している原作者の作家R.J.パラシオと脚本家のマーク・ボムバックが製作総指揮を務める。同級生のオギーをいじめたことにより学校を退学したジュリアンは、ユダヤ人の祖母と対話し、彼女が少女の頃にナチスの弾圧から逃れて暮らした時の話を聞く。人に優しく親切にすることが命懸けだった時代の話を通じて、少年が得心することとは。1940年代のナチス占領下のフランスを生きるユダヤ人の少女と、現在のアメリカのニューヨークで暮らす少年。それぞれの時代で青春を過ごす日々を描き、時を超えて渡される思いを描く。優しさという勇気を選択することについて、祖母と孫の対話により映すあたたかい物語である。

同級生のオギーをいじめたことにより学校を退学処分になったジュリアンは、新しい学校に転入するも自分の居場所を見つけられずにいた。そんななか、画家として成功しているジュリアンの祖母、サラがパリから来訪。サラはジュリアンのために封印していた自らの少女時代のことを彼に話し始める。
 1942年、ナチス占領下のフランス。ユダヤ人であるサラと彼女の両親に危険が迫っていた。サラの学校でナチスがユダヤ人の生徒たちを連行するなか、サラは同じクラスのジュリアンに助けられ、彼の家の納屋に匿われる。ポリオの後遺症により松葉杖で歩くことをいじめられていたジュリアンに何の関心も払わず、名前すら知らなかったサラを、ジュリアンと彼の両親は命がけで守る。サラとジュリアンの絆が深まるなか、終戦間近というニュースが流れるが──。

オーランド・シュワート,アリエラ・グレイザー

全世界1500万部を超え、55言語に翻訳された、アメリカの作家R.J.パラシオによる小説『ワンダー』を映画化し、世界的なヒットとなった2017年の映画から7年。前作では、普通ではない見た目で生まれてきた少年オギーが、初めて通い始めた学校でいじめや裏切りに出会うなか、家族に支えられ困難に立ち向かう姿が描かれていた。そして今回はいじめた側の少年ジュリアンのその後、彼と祖母の対話としてストーリーが展開していく。原作は作家R・J・パラシオが2012年に発表した小説『ホワイトバード』であり、小説『ワンダー』のアナザーストーリーだ。パラシオは、“いじめた側の救済まで描かなければ、『ワンダー』の真の世界観は完結しない”という意思のもとでこの物語を執筆。フォースター監督は小説『ホワイトバード』を新型コロナによるロックダウンの最中である2020年3月に読み、その半年後に映画化の企画がスタートしたという。監督は主人公のサラが納屋に隠れて生活する日々に、当時の自身の状況を重ねたことについて、2024年11月3日に東京国際映画祭で行われたジャパンプレミアイベントにてこのように語った。「この物語に共感したのは、自分たちもコロナ禍で外に出られなかったということもあります。私はあまり泣くことはないんですが、サラの気持ちがものすごく理解できて。最後の方は感情移入してしまい本当に泣いてしまいました。過去に泣いたのは(2004年にフォースター監督がジョニー・デップ主演でメガホンをとった)『ネバーランド』以来でした」

ヘレン・ミレン,ブライス・ガイザー

画家として成功しパリで暮らす現在のサラ役はヘレン・ミレンが、チャーミングかつ毅然とした姿勢と穏やかな優しさと共に。サラの孫のジュリアン役は『ワンダー 君は太陽』から引き続きブライス・ガイザーが、自身のありかたを見失っているティーンエイジャーとして。ヘレンはサラというキャラクターとこの物語について、2024年9月27日(日本時間)にアメリカで行われたNYプレミアにてこのように語った。「私は祖母を演じています。今はとても成功した人生を送っていますが、若い頃はそうではありませんでした。贖罪と優しさの大切さについて描かれた素晴らしい物語です。いじめっ子で不愉快な人間であるがゆえに学校を退学になった孫に、自身の過去の話をします。仲間をサポートすることがいかに大切かを彼に理解させようとするんです」
 1940年代のナチス占領下のフランスを生きる少女時代のサラ役はアリエラ・グレイザーが、両親に愛されて育った少女が、残酷な現実と向き合い、ひたむきに生きのびる姿を表現している。サラを救うジュリアン役はオーランド・シュワートが、松葉杖で歩く姿を“トゥルトー(カニ)”とからかわれるも、数学の能力に秀で、サラへの恋心を抱くさまを純真に。監督は1940年代を生きるサラとジュリアンを演じたアリエラとオーランドについて、前述のジャパンプレミアイベントにて、「ふたりともこの物語の時代背景のリサーチをたくさんしてくれて、自分たちなりに作品を理解しようとしてくれました」とコメント。またアリエラとオーランドを起用した理由について、監督はこのように語っている。「観客が大好きになるようなキャラクターにしたかった。2人を見て、自分の初恋体験を思い出し、2人の間にある愛を自分も体験したいと思ってほしい。そういう愛を、説得力をもって表現できる俳優を求めていた」
 そして思いやり深いジュリアンの両親を母親ヴィヴィアン役はジリアン・アンダーソンが、父親ジャン=ポール役はジョー・ストーン=フューイングスが、それぞれに演じている。ジリアンは脚本を読んだ時の印象についてこのように語る。「ドイツ軍によるフランス侵攻という物語は、ある意味で馴染みがある。そして、それが何十年にもわたってコミュニティにもたらす影響も分かる。でも、それが個人にもたらす影響や、個人がする決断、そして人々がお互いに対して差し伸べる親切の手、それも自らの命を危険に晒してまで互いを思いやる姿が、とても新鮮だった」
 また舞台俳優として活躍するジョー・ストーンは、この映画の戦時下のストーリーには現在に通じるテーマがあると語る。「この映画は、孤立が中心のテーマだ。それは、僕たち全員が今体験していることだよね。他人に対する思いやりや、不屈の精神について語っていると同時に、孤立する中でどう生きるかについても語っている。フォースター監督はある時、ホロコーストの生存者が、誰か新しい人に会うとつい、『この人は自分を匿ってくれるほど親切な人だろうか?』と考えてしまうと語るのを聞いたことがあるらしい。ある意味で本作は、同じようなことを我々に問いかけているのだと思う。『誰かに助けの手を差し伸べる勇気が自分たちにあるだろうか?』とね」
 アートディレクターとして長年活動してきた原作者のパラシオは、劇中にお気に入りのシーンがあるという。「ジュリアンの母親を演じるジリアン・アンダーソンが、少女時代のサラ役のアリエラの髪にブラシをかけているシーンの照明に、心を奪われた。陽の光が差していて、とても美しい。非常に親密で、人間味や優しさに溢れていて、最高に美しい場面ができあがっている。マーク(フォースター監督)にも言ったのだけれど、フェルメールの絵に命が吹き込まれたような光景だった」

アリエラ・グレイザー,ジリアン・アンダーソン

撮影はチェコ共和国のプラハにて。1780年くらいから現存するスタンパック製粉場の敷地内にある既存の2階建住居を改装し、2階部分をラフルール家のアパート、1階をボ一ミエ家の住居空間として制作。またユネスコの世界遺産に登録されている中世の都市クトナー・ホラを、サラやジュリアンが暮らす村として撮影。サラが両親と暮らすアパートの外観、サラがパンを買うブーランジェリー「バルー」、ジュリアンが映写室でフィルムを回す映画館「マーニュイ」なども。映画館の内部の撮影は、プラハに現存する古い映画館「オレチョフカ・シネマ」を使用し、撮影ではアールデコ様式の内装を物語の時代背景にあわせた美術に変更した。そしてサラたちが通う学校の撮影は、13世紀半ばに建造されたグラブシュテイン城にて。サラとジュリアンが過ごす美しい花が咲き誇るメルニュイの森は、実際のブルディの森に何百株ものミッドナイトブルー色の花をトラックで運んできて敷き詰めて撮影され、幻想的でとても美しいシーンとなっている。

アメリカの作家である原作者のR・J・パラシオは、長年アートディレクター、本のデザイナー、編集者として多くの本を担当し、2012年に小説『ワンダー』でデビュー。この小説は全世界1500万部を超えるベストセラーとなり、55言語に翻訳、映画も世界的にヒットした。その後の著書に『もうひとつのワンダー』『365日のワンダー ブラウン先生の格言ノート』、そしてこの映画の原作である『ホワイトバード』などがある。原作『ワンダー』シリーズの日本語の翻訳を手がける翻訳者の中井はるのは、小説『ホワイトバード』にある台詞について、現在の情勢と重なるものがあるのではと、2024年11月26日に行われた公開記念トークイベントにて紹介した。「『光を光で包まないと、闇で覆われた人は光が見えない』というセリフなども、現実に戦争が起きている今の社会にもズシッとくるし、みなさんの心にも響くのではないでしょうか」

この映画はそもそも約2年前に公開を予定していたなか、ハリウッドでの脚本家のストライキと重なり延期になったとのこと。ただスタッフもキャストも、今こそが公開のタイミングであり、この時期にこそ公開されるべき作品であると語る。原作者のパラシオはNYプレミアにて、ヘレンの出演が決定した時に「本当に特別なものになる!」と確信したと話し、フォースター監督への感謝をこのように語った。「映画化にあたりマーク・フォースター監督が加わり、彼は撮影や照明に芸術性をもたらし、映画ではもうあまり見られないような壮大でありながらとてもやさしく美しい質感に仕上げてくれました。この映画化には本当に感激しています」
 ヘレンはこの映画について、「和解、友情、勇気、仲間のために立ち上がることについて描かれています」と話し、観客へのメッセージをこのように語っている。「希望を感じてほしい。人間というものは捨てたものではないと感じてほしいの。同時に、特定の態度や行動に潜む危険も察知してほしい。でも何よりも、希望を感じてほしいわ」
 最後に、フォースター監督がジャパンプレミアイベントで観客に伝えたメッセージをご紹介する。「確かにこの映画は、戦争という時代背景のなかで描かれる“優しさ”だったり“愛”の物語なのですが、私たちが映画をつくっていた時は戦争が起きていなかった。でも今はいろいろなところで争いや戦争が起こっています。その中で優しさとはどういうことなのか、人間同士は信じ合わないといけないし、対話があれば問題は解決できるのではないかという希望をもつことなど、こんな時代だからこそ、なおさら物語を通じてそのことを感じてもらいたい」

作品データ

公開 2024年12月6日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2024年 アメリカ
上映時間 2:01
配給 キノフィルムズ
原題 White Bird
監督 マーク・フォースター
原作・脚本・製作総指揮 R.J.パラシオ
脚本・製作総指揮 マーク・ボムバック
出演 アリエラ・グレイザー
オーランド・シュワート
ブライス・ガイザー
ジリアン・アンダーソン
ヘレン・ミレン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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