監督・岸善幸×脚本・宮藤官九郎×原作・楡周平
東北に移住した青年と地域の人々との出会いを描き、
復興や現状への思いを示すヒューマン・コメディ
釣り好きのサラリーマンが東京から東北に移住してみたら、思いがけない人生に。楡周平の小説を、東北出身の岸善幸監督の演出と宮藤官九郎の脚本により映画化。出演は、『ミステリと言う勿れ』の菅田将暉、『わたしのお母さん』の井上真央、そして竹原ピストル、三宅健、池脇千鶴、小日向文世、中村雅俊ほか。2020年、新型コロナウイルスのパンデミックにより自身が勤める東京の会社がリモートワークとなったことを機に、釣り好きの晋作は宮城県の三陸の町で“お試し移住”をスタートする。都市部から移住してきた会社員というよそ者と地域の人々との出会いと交流のあるあるを誇張してユーモラスに描きつつ、東日本大地震を経験し、その後の日々を過ごしてきた住民たちの気持ち、震災後の東北地方の復興や過疎化といった現状に対する市民目線の心情を素直に描いてゆく。人肌のぬくもりのあるヒューマン・コメディである。
2020年、新型コロナウイルスのパンデミックによるリモートワークを機に、東京の大企業に勤める釣り好きの晋作は、宮城の三陸の町にある4LDK・家賃6万円の神物件に一目惚れ。海の近くの三陸の町で気楽な“お試し移住”をスタートする。仕事の合間に海釣り三昧の日々を過ごすなか、町内では東京から来たよそ者の晋作に気が気でない人、興味津々の人、いろいろだ。晋作は、宇田濱町役場で空き家問題を担当する大家の百香とその父・章男のサポートに感謝し、クセ強めの地元民たちとの距離感ゼロの交流にとまどいながらも、ポジティブな性格と行動力で溶け込んでいくが……。
三陸の架空の町・宇田濱を舞台に展開する悲喜交々を描くヒューマン・コメディ。楡周平の小説を原作に、コロナ禍の日本、過疎化に悩む地方、東日本大地震を経験して今に至る住民たちの心情、地域外の人間の視点による戸惑い、そこからどうしていこうか、といったさまざまなことを、映画オリジナルの要素を加えてユーモアと共にあたたかく表現している。岸監督は自身のドキュメンタリー作品である2013年の「ラジオ」にて、東日本大震災で津波の被害を受けた人々と対話を重ねてきた経験があり、人はどんなに苦しいときでも日々の会話や出来事で笑う瞬間があることを実感し、そうした感覚を今回の自身で初めて手がけるコメディの演出に活かしたという。そして山形県出身の岸監督は宮城県出身の宮藤と東北人あるあるの話で盛り上がったとも。岸監督は宮藤の脚本と今回の演出について語る。「宮藤さんに初めてお会いしたとき、原作の東北人キャラについて笑い合うことができ、この作品を宮藤さんの脚本でつくってみたいと思いました。自分にとっては初めてのコメディ作品ですが、宮藤さんならではの笑いを大切に演出することを心がけました」
宮藤官九郎の脚本作品に初めて出演する菅田は、「宮藤さんの作品はこれまでたくさん観てきましたので嬉しかったです」と話し、岸監督と以前から話していたこと、今回の撮影現場で感じたことについてこのように語っている。「岸善幸監督と『あゝ、荒野』を撮り終わった後、次は笑える作品が良いよねと話していました。沢山涙を流したからか自然と笑顔を求めていたように思います。そんな中、脚本に宮藤官九郎さんが加わると聞きました。上がってきた脚本は悲しみの先に笑顔を作ろうとする人たちの物語でした。岸さんの生活力と宮藤さんのセンス、お2人の想いが温かい願いとなってこの作品は生まれたんだと思います。沢山の方に届き、少しでも笑顔になってもらえたら幸いです。ちなみに目標通り撮影現場は笑顔でいっぱいでした。僕自身沢山笑い、ほんの少し泣きました」
大手電気機器メーカーの会社員であり東京から三陸にお試し移住をする西尾晋作役は菅田将暉が、楽天的で人懐こい明るい青年として。菅田と7年ぶりにタッグを組んだ岸監督は語る。「晋作という人物の優しさや繊細さ、感情の振れ幅は見事で、現場ではただただ笑い転げていました。菅田さんの表現領域が広がっていくような瞬間があって、それを目の当たりにできたことが本当に嬉しかったです」
菅田は岸田監督と共に目指したこと、作品の実際の感触について語る。「誰が観ても笑って楽しんでもらえる大衆性を持った映画を、岸さんと作ることがひとつの目標でもあったのですが、人を楽しませる笑いというより傷を癒すような笑いが多かったと思います。“笑い泣き”か“泣き笑い”かの違いで言うと、岸さんは“泣き笑い”で、宮藤さんは“笑い泣き”みたいな。撮影中はその間を行ったり来たりする感覚でした」
晋作の移住先の大家であり、宇田濱町役場の総務企画課に勤める関野百香役は井上真央が、震災を経て家族や地域の人たちと共に淡々と過ごしてきたしっかり者として。漁師である百香の父・関野章男役は中村雅俊が、百香を見守る宇田濱の男たちによる「モモちゃんの幸せを祈る会」のリーダー、酒処「海幸」二代目店主・倉部健介役は竹原ピストルが、同会のメンバーで水産加工場に勤める高森武役は三宅健が、同会メンバーで宇田濱町役場・税務部に勤める山城進一郎役は山本浩司が、同会メンバーで町役場・総務企画課に勤める平畑耕作役は好井まさおが、百香の幼馴染で同じ課の同僚・持田仁美役は池脇千鶴が、晋作が勤務する会社の社長・大津誠一郎役は小日向文世が、それぞれに表現している。
またこの映画のインスパイアソング「シオン」は、GReeeeNから改名したGRe4N BOYZが担当。幸せを祈るような思いで制作したとコメントしている。
撮影は三陸の架空の町・宇田濱町のモデルとなっている宮城や岩手の海沿いの街にて。企画・プロデュースの佐藤順子は、理想的な家を熱心に探して決めたという、晋作が移住する百香の家について語る。「晋作が移り住む家は、日の出が見える物件にこだわって探し、気仙沼で撮影をさせていただきました。この映画が地元の方々との交流のきっかけになって少しでも観客の皆さんのお力になれることを願っています」
また劇中では、三陸エリアの食材を用いたさまざまな料理が登場するのも魅力だ。鯵のなめろうやタラの芽の天ぷらや切り込み(塩辛)といった定番から、郷土料理のあざら(白菜の古漬けと魚のアラの酒粕煮込み)やどんこ汁や芋煮汁(豚肉入り、味噌味)、酒処「海幸」特製のハモニカ焼き(メカジキの背びれの付け根の塩焼き)やモウカノホシ(ネズミザメの心臓の刺身)など、どれもとても美味しそうだ。宮藤は自身の脚本で食のシーンをこれほどたくさん描くのは初めてだと話す。「僕があんまり食に興味がないので、自分の書いた映画でこんなに食事のシーンが出てくるのは初めてなんです。東北って本来は食がひとつの大きな売りなのに、今までピンときていなかったんですよね。どんこ汁も骨が喉に引っかかるから子供の頃は嫌いだったんですよ。それを『美味い美味い』と言って晋作が食べるのは、自分で書いていても新鮮だったし、菅田君が本当に嬉しそうに食べているのが僕の映画じゃないみたいですごく好きなんです」
菅田は2024年11月2日に行われた第37回東京国際映画祭の公式上映の舞台挨拶にて、撮影時に体重が増えたことと1番印象的だった料理について笑顔でこのようにコメントしている。「この映画の撮影中に、実は7キロぐらい太ったんです(笑)。食べすぎてしまうぐらい本当に美味しかったです。1番美味しかったものは難しいですけど、印象に残っているのはハモニカ焼きです」
また菅田は2024年12月9日に行われた完成披露舞台挨拶にて、「個人的には、ご飯がすごくおいしそうな映画なんで、食べたくなったら南三陸地方にも足を運んでいただければと思います」とも。
都市から地方への移住という現代的な話を起点に、震災からの復興や地方の過疎化という社会的なテーマを交えつつ、三陸エリアの魅力を改めて伝え、人間ドラマとしての楽しさや共感のある物語。岸監督は完成披露舞台挨拶にてこの映画について、笑顔でこのように語った。「この作品は、笑って、笑って、本当に笑って、最後にホロっとする映画です。脚本の宮藤官九郎さんの力を借りて、人と人がつながる時に必要なことを一生懸命、スタッフ・キャストが一丸となって作った映画です」
菅田はこの映画が表現していることと物語のジャンルについて語る。「笑顔に向かっていくお話ですけど、決してめでたしめでたしでは終わらないところが結構好きなんです。生きていれば楽しいことも悲しいこともあって、その中で生まれるあらゆる気持ちを無視しないで、今もこれからも笑えたらいいよねと。人は常にひとつの感情で動いているわけではなくて複合的ですし、その人生と生活が描かれている作品なので、ジャンルとしては“ライフ”という感じがします」
そして井上はこの映画に込められている思いについて、このように語る。「心の奥に静かにしまっていた想いと向き合うことは、誰でも痛みを伴うことのように思います。一歩前に進もうとする時の葛藤を、自分なりに見つめながら百香を演じました。朝になれば陽はまた昇るように、再生の物語として見ていただけると嬉しいです」
脚本を執筆した宮藤は、震災の話に抱く思いや、この物語に共感したことについて語る。「僕は宮城県出身なのに、そういえば自分の地元を正面から描いたことはまだなかったんです。子どもの頃は父親と南三陸で魚釣りをして遊んだりしてて、コロナ禍の趣味として、また釣りを始めていたこともあって、自分の好きな分野の話だし、舞台も方言も知っている土地と言葉だし、僕自身も地元に住んでテレワークで仕事できないかなと考えたことがあったので、他人事とは思えない物語でした。震災の話になると、僕は疎外感を味わうというか、なんかこう切なくなるんですよね。ずっとモヤモヤしてたんだけど、それに対する答えを現時点で言葉にするならこういう感じかなとしっくりきたんです。それが僕の一番言いたかったことかなと思います」
最後に岸監督より、この映画で描く家族のかたちや幸せのこと、そして観客へのメッセージをご紹介する。「映画やドラマで描かれる以上に、現実の家族の形とか幸せの価値は、新しい捉え方がされていて、すでに根差している。それは都会だけのあり様ではなくなっていて、もうどこにでも見られる光景になっている。それぞれの幸せがあっていいし、そうあるべきだと思います。結局は、人と人が出会うことから、はじまることなので、いくつもの組み合わせ、いくつもの新しい形が生まれてくるのは必然で、緩やかに、縛られず、一緒にいる。この作品を見て、そういう生き方もあるということを感じてもらえたら、何よりです」
公開 | 2025年1月17日より全国公開 |
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制作年/制作国 | 2024年 日本 |
上映時間 | 2:19 |
配給 | ワーナー・ブラザース映画 |
脚本 | 宮藤官九郎 |
監督 | 岸善幸 |
原作 | 楡周平『サンセット・サンライズ』(講談社文庫) |
出演 | 菅田将暉 井上真央 竹原ピストル 山本浩司 好井まさお 藤間爽子 茅島みずき 白川和子 ビートきよし 半海一晃 宮崎吐夢 少路勇介 松尾貴史 三宅健 池脇千鶴 小日向文世 中村雅俊 |
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