弾圧を生き延びたハンガリー系ユダヤ人の建築家が
アメリカに移住。家族を愛し建築に情熱を注ぐ
その数奇な半生を映し出す重厚な人間ドラマ
第二次世界大戦下の弾圧を生き延びたハンガリー系ユダヤ人の建築家がアメリカに移住し、キャリアと人生を立て直そうとする姿をじっくりと描く長編。出演は、『戦場のピアニスト』のエイドリアン・ブロディ、『博士と彼女のセオリー』のフェリシティ・ジョーンズ、『メメント』のガイ・ピアース、『憐れみの3章』のジョー・アルウィン、『トゥモローランド』のラフィー・キャシディほか。監督・脚本・製作は本作が長編映画3作目となる、『シークレット・オブ・モンスター』『ポップスター』のブラディ・コーベット、共同脚本はコーベット監督のパートナーでノルウェー生まれの映画監督モナ・ファストヴォールドが手がける。ハンガリー系ユダヤ人の建築家ラースローは戦時下の弾圧を生き延びるが、妻と姪と引き離されてしまう。家族と新しい生活を始めるためにラースローは単身アメリカへ移住するが……。ハンガリーで一流建築家だったことがアメリカでは通用しないこと、言語も文化も違う異国の地の人々や仕事での戸惑いやストレス、移民として差別されること、アメリカンドリームの暗黒面、薬物中毒、そして支え合う夫婦の結びつき。家族を愛し建築に情熱を注ぐひとりの建築家の数奇な半生を215分かけて描き出す、シリアスな人間ドラマである。
ハンガリー系ユダヤ人の建築家ラースロー・トートは、第二次世界大戦下のホロコーストから生き延びたものの、妻エルジェーベトと姪のジョーフィアと強制的に引き離されてしまう。家族と新しい生活を始めるためにアメリカのペンシルベニアへ単身移住したラースローは、そこで裕福で著名な実業家ハリソンと出会う。ラースローのハンガリーでの実績を知ったハリソンは彼の才能を認め、ラースローの家族の早期アメリカ移住と引き換えに、礼拝堂の設計と建築を依頼する。しかし母国とは文化もルールも異なるアメリカでの設計作業には多くの障害が立ちはだかり……。
2024年の第81回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞、36歳のコーベット監督が建築家ラースローの約30年の半生を重厚に描くフィクションだ。上映時間は215分(前半100分+15分の休憩+後半100分)、前半で移民がアメリカンドリームに挑むさまを、後半では衝撃と苦難と混迷、大切な支えを映してゆく。コーベット監督は移民である主人公がアメリカで経験すること、そしてこの映画についてこのように語っている。「『ブルータリスト』では、芸術的な才能を持つ移民が、斬新で大胆かつ新しいことに挑むと、批判を受けることを描いているんだ。本作ではラースローが建築を担当した建物も批判の対象となる。評価され称賛されるまでには時間がかかるんだ」
この映画の多くの時間は苦悩や葛藤、批判にさらされながら挑戦を積み重ねていくことがシリアスに描かれているなか、救いはラースローとエルジェーベト夫妻の結びつきにある。コーベット監督の公私のパートナーであり長編3作すべてで共同脚本を担っているファストヴォールドは、この物語が生まれたきっかけのひとつについて語る。「私たちは脚本を書きながら、ラースローとエルジェーベトの協力関係、友情、そして恋愛関係が進化していくのをとても楽しんでいたの。それが『ブルータリスト』を生み出した最初のキッカケだった」
ハンガリー系ユダヤ人建築家のラースロー・トート役はエイドリアンが、アメリカに移住し、葛藤と苦悶をしながらも建築に情熱を注ぐさまを真摯に表現。エイドリアンはこの映画について、「忍耐力を持ち、素晴らしきもののために努力できる人の物語だ」とコメント。ラースローを演じるエイドリアンをみて、彼がホロコーストを生き抜いたポーランド系ユダヤ人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンを演じてオスカーを受賞した『戦場のピアニスト』を思い出す人も多いだろう。彼はラースローの役作りにおいて自身の生い立ちと、『戦場のピアニスト』での経験に通じるものがあったと語っている。「僕がラースロー・トートに成りきる時は、歴史的事実を礎として役作りをしていったんだ。その時に自分の人生の引き出しから2つのことを引っ張り出してきた。ハンガリーの難民の息子として生まれたこと。そして、『戦場のピアニスト』でウワディスワフ・シュピルマンを演じたことだ。ラースローとシュピルマンは全く異なる人物だ。しかし数ヵ月間にわたってシュピルマンについてのリサーチを行いながら役作りをしている時に、当時の世界を覆っていた恐怖を深く理解したんだ。それは今も僕の中に残っていて、ラースローが経験した恐怖も理解できるし、彼が難民としてアメリカに渡らざるを得ないと知らされた時の落胆も理解ができる」
ラースローの妻エルジェーベト役はフェリシティが、ラースローに建築を依頼するアメリカ人の大富豪ハリソン役はガイ・ピアースが、ハリソンの息子ハリー役はジョー・アルウィンが、ラースローの姪ジョーフィア役はラフィー・キャシディが、それぞれに演じている。
ブルータリズムとは、戦後の復興計画のなかで1950年代からイギリスで見られるようになった建築様式のこと。コンクリートやレンガが剥き出しのミニマリスト的な外観であり、装飾より構造そのものを見せる手法で知られている。コーベット監督と共同脚本のファストヴォールドは、ブルータリズムの物理的かつ心理的な意味に共感したという。監督は語る。「我々は戦後の心理状況と、ブルータリズムを含む戦後の建築様式はリンクしていると考えた。劇中で建築される建物は、ラースロー・トートが30年間抱えていたトラウマを具現化したものであり、2つの世界大戦を経た人間が生み出した予期せぬ産物だ。戦時中に生まれた素材が、50〜60年代にマルセル・ブロイヤーやル・コルビュジエなどによって、住宅や企業の建物に使われたことに詩的な部分を感じたんだ」
ブルータリズムで有名な建築家には、ル・コルビュジエ、マルセル・ブロイヤー、ウィリアム・ペレイラ、モシェ・サフディ、デニス・ラスダン、アリソン&ピーター・スミッソンなどがあげられる。架空の建築家ラースローは、ブルータリズムの先駆者である数人の建築家を参考に創作された。コーベットとファストヴォールドはリサーチと脚本の執筆を進めるなか、特にニューヨークのホイットニー美術館を建築したハンガリー生まれのマルセル・ブロイヤーと妻との関係性や、彼が欧米の両方で批判されながらも耐え続けた事実に強く惹かれていったという。監督は語る。「ブロイヤーは晩年、建築家としての評価を下げていた。ただし今となっては20世紀で最も偉大な建築家の1人として名が挙がる人物だ」
『ブルータリスト』では、アルフレッド・ヒッチコックが『北北西に進路を取れ』で採用したビスタビジョンのさまざまな種類のカメラとレンズが使用されたことも注目。主に撮影が行われたハンガリーでは現在も首都ブダペストにフィルム撮影のラボが2ヶ所あり、規模の大きな長編を低予算で、しかも全編フィルム撮影を実現するために大いに役立ったという。コーベット監督はハンガリーでの撮影について語る。「ハンガリーでは今でもフィルムで撮影する文化がある。残念ながらほかの国では事情が違う。だからこそ、ハンガリーという国で再び撮影したいと思ったんだ」
また後半のラースローとヴァン・バーデンがインスティテュートに使う大理石を探しにいく印象的なシーンは、イタリアのカラーラの採石場にて。非常に静謐で美しい映像ながら、このシーンでは「資本主義が地球から搾取している」意が込められているというのは皮肉だ。監督は風景やシーンの表現について語る。「カラーラのシーンでは、資本主義が地球を蝕んでいることを見せたかった。また、その風景は登場人物の内面も表しているんだ。本作では、すべてが登場人物たちの内面を示唆している。ラースローが生み出す空間や彼の暮らす場所も、彼自身を表現しているんだ」
コーベット監督は2024年9月1日の『SCREEN DAILY』の記事「Brady Corbet, director of 215-minute Venice title ‘The Brutalist’, says it is “silly” to talk about runtimes(215分のヴェネツィア映画『ブルータリスト』の監督、ブラディ・コーベットは上映時間について話すのは「愚か」だと言う)」にて、「これは信じられないほど難しい映画だった」と話し、「私は7年間この映画に取り組み、10年近く毎日緊迫感を感じていたのでとても感慨深い」とコメント。そして2024年12月21日の『The Guardian』の記事「The Brutalist director Brady Corbet: ‘If you’re not daring to suck, you’re not doing much’(『ブルータリスト』の監督、ブレイディ・コーベット:「下手な映画に挑戦する勇気がないなら、大したことはしていない」)」にて、すでに次回作を進めていて、実験的で原始的なものになるだろうと説明。肉体についての内容になる予定で、NC17(アメリカで最も厳しい年齢制限)に指定されるだろうとも。
また監督はこの映画を含む自身のこれまでの3作品について、「僕の長編映画3作に共通しているのは、歴史の皮肉を描いているところ」と説明。しかし「未来についてシニカルになることは拒否する」と、2024年9月9日の『The Hollywood Reporter』の記事「‘The Brutalist’: Venice Winner Brady Corbet Opens Up About the Tireless Seven-Year Journey Behind His Buzzy Epic(『ブルータリスト』:ヴェネツィア映画祭受賞者のブラディ・コーベットが、話題の壮大な作品の裏にある7年間の疲れを知らない旅について語る)」にて語っている。資金難や俳優の変更など紆余曲折を経て7年かけて完成した『ブルータリスト』への強い思い入れと、子どもの頃から俳優として活動した後に監督となり、映画業界について考えていることについて、同記事でこのように語った。「この映画には、みんながやってはいけないと言うことが沢山ある。でも私の経験では、一番大切にしている人が勝つんだ。だからこの映画の道のりは何年もの間、私がほとんどすべての人と対立してきた道だったと想像できるだろう。私生活では実は対立を嫌うタイプで、何年も何も言わずに放っておく(笑)でも映画に関してはそうじゃない。自分の人生をこのひとつのメディアに捧げてきた。7歳の頃から映画のセットで働いてきたが、それが私にできる唯一のことだ。私は高校を中退した。だからこれが私にとってすべてなんだ。そして、将来の人々にとってこの環境がより健全なものであってほしいと思っている」
公開 | 2025年2月21よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開 |
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制作年/制作国 | 2024年 アメリカ、イギリス、ハンガリー共同制作 |
上映時間 | 3:30 |
配給 | パルコ ユニバーサル映画 |
映倫区分 | R-15+ |
原題 | THE BRUTALIST |
監督・共同脚本・製作 | ブラディ・コーベット |
共同脚本 | モナ・ファストヴォールド |
出演 | エイドリアン・ブロディ フェリシティ・ジョーンズ ガイ・ピアース ジョー・アルウィン ラフィー・キャシディ |
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