名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN

ボブ・ディランがスターダムを駆ける4年間
敬愛するミュージシャンと交流し、恋をして、
音楽に没頭し追求する青春のときを映す

  • 2025/02/25
  • イベント
  • シネマ
名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

アメリカの音楽シーンで60年以上、今も現役で活動している伝説的なミュージシャン、ボブ・ディランがロックのアイコンとなるまでの4年間の実話をもとに映画化。主演はプロデューサーとしても名を連ねる『DUNE/デューン 砂の惑星』のティモシー・シャラメ、共演は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のエドワード・ノートン、『マレフィセント』のエル・ファニング、『トップガン マーヴェリック』のモニカ・バルバロほか。監督・脚本・プロデューサーは『フォードvsフェラーリ』『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』など実録もので知られるジェームズ・マンゴールドが手がける。1961年、米ソ冷戦や公民権運動から若者文化の興隆など、社会・文化が大きく変わる激動の時代のアメリカ。19歳の青年ボブ・ディランはさまざまな出会いと音楽活動のなか、スターダムを駆け上がっていく。劇中では事実をベースにフィクションを交え、ボブの青春時代を「風に吹かれて」「時代は変る」「ライク・ア・ローリング・ストーン」など代表的な曲と共に描く。ひとりの無名の青年がアメリカの音楽シーンを牽引する存在にいかになっていったのか。その経緯をドラマティックに映す伝記映画である。

1961年、米ソ冷戦や公民権運動、若者文化の興隆など、社会や文化が大きく変わりゆく激動の時期のアメリカ。何者でもなかった19歳の青年ボブ・ディランは、時代の心を掴んだ歌の数々で、スターダムを駆け上がっていく。やがて“若者の代弁者”として時代の寵児となっていくなか、高まる名声とは裏腹に、周囲の期待と、本来の自分自身との軋轢に葛藤する。そして1965年7月、5日前に発表したばかりの新曲を携えてニューポート・フォークフェスティバルに出演。フォークの祭典のなか、ディランはエレクトリック・ギターを手に舞台へと向かい……。

ティモシー・シャラメ

ボブ・ディラン本人が製作に協力している話題作。クライマックスでは1965年の野外コンサートの有名なエピソードが描かれている。ミネソタからニューヨークへヒッチハイクでやってきた19歳の少年がロックのアイコンになっていくまで、敬愛するミュージシャンたちとの交流、2人の女性との恋愛、コンサートでの秘話、レコーディングなど彼の4年間が描かれてゆく。キューバ危機、ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺、公民権運動によるワシントン大行進など1960年代前半のニューヨークにおける社会情勢をあわせて描き、ディランの楽曲の背景にある当時の雰囲気を体感できることも興味深い。マンゴールド監督は、「この映画で描きたかったのはニューヨークで“ボブ・ディラン”が誕生した瞬間です」とコメント。また「(ディラン本人に)何度も会いましたし彼は脚本も読みました。正確に描けるよう、積極的にアドバイスしてくれました」と話し、脚本執筆と製作準備段階でディランと直接話すことができたことに感謝していると語る。監督はディランと会った経緯と話した内容について、2025年2月3日に東京で行われたジャパンプレミアにてこのように語った。「ディランとは長い時間を共に過ごすことができました。まず脚本のリサーチを重ね、執筆したものを彼に読んでもらいました。すると、とても気に入ってくれて、“会おう”と言ってくれたんです。実際にお会いして、彼から本当にたくさんのことを学びました。もちろん、ディランについて書かれた本や資料から事実は得られます。でも、彼と直接話したことで、そうしたものには載っていない、もっと個人的で感覚的なことを知ることができました。例えば、“この曲を書いたとき、どこに座っていましたか?”とか、“どの時間帯に作業していましたか?”といった質問をしました。映画というのは、その時代や場所、空気感を伝える力に優れています。単なる事実だけではなく、“その場にいたとき、どんな気持ちだったのか”という感覚的な部分を伝えることが大切だと改めて感じました」

エル・ファニング,ティモシー・シャラメ

ボブ・ディラン役はティモシーが、19歳の無名の少年がロックミュージシャンとして成功していく姿を熱演。主演でプロデューサーも務めるティモシーはディランへの感謝と敬意を、2025年2月に東京で行われた来日イベント「SPECIAL RED CARPET EVENT in TOKYO」にて、「この作品を通して、本当に自分の人生を変えてくれたアーティストと出会いました。それこそが、この映画を作る上でのかけがえのない経験でもありました」とコメント。また映画への思い入れについてこのように熱く語っている。「この映画が扱うのは1961年から65年だ。どの時代のボブが好きかによるけど彼の人生で最も記録の少ない時期だ。当時の音楽と時代の精神、さらに、枠に収まらない男の精神も描いた。ボブ・ディランは人気が高く崇められている。生きた映画でなきゃ!挑戦して良かった。ボブ・ディランへの忠実な讃歌さ。彼の音楽を人々に聴いてほしい。一生の宝になるよ」
 ディランの恋人となるシルヴィ・ルッソ役はエル・ファニングが、ボブをひとりの青年として純粋に愛し、自身の道を模索する女性として。シルヴィは当時のディランの実在の恋人スージー・ロトロがモデルであり、1963年初頭に撮影された、セカンドアルバム『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』のジャケット写真にディランと2人で写っていることでも有名だ。名前をシルヴィと別名に変えていることについて、ティモシーは語る。「この初恋を、ボブは今日に至るまでとても大切にしている。マンゴールド監督の脚本を読んだボブの唯一の要求は、彼女(スージー)の名前を(シルヴィに)変えることだったほどだから」
 ディランの才能に気づくフォークシンガーソングライターのピート・シーガー役はエドワード・ノートンが、ディランと何度もステージで共演し彼のもうひとりの恋人となる“フォークの女神”ジョーン・バエズ役はモニカ・バルバロが、ディランと文通し彼の才能を評価するミュージシャンのジョニー・キャッシュ役はボイド・ホルブルックが、ディランが憧れていたアメリカを代表するフォークミュージシャンのひとりウディ・ガスリー役はスクート・マクネイリーが、ディランをはじめ数々のミュージシャンのマネージャーとして知られるアルバート・グロスマン役はダン・フォグラーが、ディランの友人でロードマネージャーのボビー・ニューワース役はウィル・ハリソンが、プロモーターのハロルド・レヴェンタール役はP.J.パーンが、音楽学者のアラン・ローマックス役はノーパートレオパッツが、ディランのバンドメンバーのオルガン奏者アル・クーパー役はチャーリー・ターハンが、ギタリストのマイク・ブルームフィールド役はイーライ・ブラウンが、ピート・シーガーの妻トシ役は初音映莉子が、ルースマンのジェシー・モフェット役はビッグ・ビル・モーガンフィールドが、音楽プロデューサーのジョン・ハモンド役はデヴィッド・アラン・バッシュが、それぞれに演じている。
 ティモシーは役者たちの取り組みについて、「俳優全員が、実在の人物を心から大切に演じていた」と話し、マンゴールド監督は、「ありのままの、本物の音楽映画だ。全員がハマり役だよ」とコメント。ティモシーは自身がディランから受けた影響の大きさと、出演者たちの思いについて、「SPECIAL RED CARPET EVENT in TOKYO」にてこのように語った。「ボブ・ディランという存在が、自分にどれほど大きな影響を与えたのかは、言葉では言い尽くせません。同じように、共演者であるエドワード・ノートンやモニカ・バルバロたちも、それぞれのキャラクターを演じるなかで、ディランの持つスピリットに触れ、心を動かされていたと思います。その結果、この作品は独自の魂を持つ、唯一無二の映画となりました。ぜひ劇場でじっくりと時間をかけてご覧いただきたい、そう思える作品に仕上がったと自負しています」

ティモシー・シャラメ,ほか

「40曲も歌った。ギターもハーモニカもすべて生だ。何テイクもね」
 劇中の歌唱シーンは歌も演奏も吹き替えなし、ティモシー本人のパフォーマンスだ。彼は5年かけてギターとハーモニカを習得、ボイストレーニングで研鑽を積み、ボイスコーチと共にディランのパフォーマンスを研究し続け、ディランとしての演奏をマスター。撮影現場では事前に録音した音源を流しながら演技を撮影する予定だったなか、ティモシーが自身で生演奏し歌うと主張、議論の末に現場でティモシーの生演奏を撮影することに決定したという。ティモシーは演奏シーンについて語る。「生の歌と演奏にこだわった。できるなら加工は避けたい。挑戦してよかった」
 なかでも注目の演奏シーンは、クライマックスである1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルと、ディランがスタジオでバンドと共にレコーディングをするシーンだ。レコーディングのシーンには本物のミュージシャンが起用され、セッションの臨場感が気持ちいい。プロダクションサウンドミキサーのトッド・メイトランドは、「マイクも楽器もすべて当時と同じものだ。この映画は完全にライブだ。イヤモニなどの装置もない」と説明している。個人的には、入院しているウディ・ガスリーにディランが静かに歌うシーンも沁みるものがあった。
 またディランが「ミスタータンブリン・マン」や「ライク・ア・ローリング・ストーン」などを録音した、コロンビア・レコードの伝説的なレコーディング・スペースというスタジオAは、鑑識技術(フォレンジック)により丁寧に再現。マンゴールド監督と10年仕事をしてきた製作デザイナーのフランソワ・オデュイは、細部へのこだわりについて語る。「サウンドルームのサウンドポードとミキシングボードも再現しました。 すべてのバッフル壁やカーテン、同じ床、楽器、マイク、スピーカーもすべて合わせました」

タイトルの『名もなき者(A COMPLETE UNKNOWN)』は、アメリカの音楽誌「ローリング・ストーン」が2004年に発表した<最も偉大な500曲>で1位に選ばれたディランの代表曲「ライク・ア・ローリング・ストーン」の歌詞の一節より。“名もなき者”だった無名のディランが、唯一無二のミュージシャンとなっていくはじまりを示している。また第97回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞に、脚色賞、音響賞、衣裳デザイン賞の8部門でノミネートなど、さまざまな映画賞で注目されていることも話題となっている。
 現在83歳のボブ・ディランは、2023年に40枚目のスタジオアルバムをリリース。これまでに大勢のミュージシャンがカヴァーしている名曲「風に吹かれて」などで知られるディランは、2016年にミュージシャンとして初めてノーベル文学賞を受賞。またピュリツァー賞の特別賞を受賞、フランスの最高勲章であるレジオン・ドヌール勲章、民間人に贈られるアメリカ最高位の勲章である大統領自由勲章などが贈られている。彼はこれからも生涯ミュージシャンとして活動を続けていくだろう。
 マンゴールド監督はディラン本人と具体的に話したこと、彼が映画製作に協力してくれたことへの感謝について、2025年2月3日に東京で行われたジャパンプレミアにてこのように語った。「脚本やアイデアについて感想は伝えてくれましたが“ここが抜けている”といった指摘は一切なかったですね。むしろ、とても協力的で助けてくれました。例えば、映画には『Masters of War(戦争の親玉)』という楽曲が登場します。この曲は6分もあるので、映画のなかですべて流すのは難しいと思っていたのですが、ディランが“大丈夫、俺もライブで全部は歌ってないから”と言ってくれたんです(笑)。そうした形で、彼は作品に対して柔軟で、制作を後押ししてくれました。彼の言葉、彼の存在が、この映画に魂を吹き込んでくれたと思います」
 最後に、ティモシーが「SPECIAL RED CARPET EVENT in TOKYO」にて観客に伝えたメッセージをご紹介する。「自分にとって、この映画に関わることはひとつの使命のように感じていました。ただ、普段からアートというものは観る人の解釈に委ねられるべきだと考えています。皆さんがご覧になった時に、私と同じように感じるかどうか、愛していただけるかどうかは分かりません。でも、少なくともこの作品は、観る価値のある映画だと確信しています。ぜひ劇場で体験してください」

作品データ

公開 2025年2月28日より全国公開
制作年/制作国 2024年 アメリカ
上映時間 2:21
配給 ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題 A COMPLETE UNKNOWN
監督・脚本・製作 ジェームズ・マンゴールド
出演 ティモシー・シャラメ
エドワード・ノートン
エル・ファニング
モニカ・バルバロ
ボイド・ホルブルック
ダン・フォグラー
ノーバート・レオ・バッツ
スクート・マクネイリー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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