教皇選挙

バチカン市国の元首でカトリック教会の最高指導者
ローマ教皇を選出するコンクラーベの内幕を描く
疑念と宗教をテーマに政治的な側面も映すスリラー

  • 2025/03/17
  • イベント
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教皇選挙© 2024 Conclave Distribution, LLC.

バチカン市国の元首にしてカトリック教会の最高指導者、ローマ教皇を選出するコンクラーベの内幕を、ジャーナリスト兼作家のロバート・ハリスの小説「CONCLAVE」をもとに映画化。出演は、エグゼクティブ・プロデューサーも担う『007』『ハリー・ポッター』シリーズのレイフ・ファインズ、『ラブリーボーン』のスタンリー・トゥッチ、『ブルーベルベット』のイザベラ・ロッセリーニ、『レイジング・ケイン』のジョン・リスゴーほか。監督はNetflixオリジナル映画『西部戦線異状なし』のエドワード・ベルガーが手がける。ローマ教皇が急逝し、新教皇を決めるコンクラーベのために世界各国から100人余りの枢機卿がバチカンに集結。そこで異例の事態が次々と起こり、現場を執り仕切る首席枢機卿のローレンスが苦悩するなか、さらなる事件が発生する。秘密主義で行われる教皇選挙の舞台裏を、緻密なリサーチにもとづきリアルに描く。リベラル派と保守派の激しい対立や足の引っ張り合いなど、疑念と宗教をテーマに、政治的な側面も映すスリラーである。

カトリック教会の最高指導者ローマ教皇が心臓発作で急逝。新たな教皇を選出するためのコンクラーベが行われることが決まり、それを執り仕切る首席枢機卿のローレンスが準備に追われるなか、世界各国から100人余りの枢機卿がバチカンに集結。有力候補4人がしのぎを削る選挙戦は混戦模様となり、1日目と2日目に4回の投票を重ねても必要獲得票数の72を誰も得ることができない。リベラル派と保守派の思惑が交錯するなか、スキャンダルや陰謀の発覚によって有力候補が次々と脱落する異例の事態に。そして3日目の投票中、厳戒態勢下のバチカンを揺るがす大事件が発生する。

レイフ・ファインズ,スタンリー・トゥッチ

イタリアのローマにある世界最小の独立国でありカトリックの総本山バチカンの宮殿を舞台に、外部との接触を一切断って行われるコンクラーベを密室劇さながらに描く。期間中に教皇たちが滞在する聖マルタの家のセットでは、テレビがなくスマートフォンがつながらないというのみならず、窓には鎧戸がおろされて密閉され、外部からの介入や圧力を徹底的に遮断する様が描かれている。ハリスはイタリアでハリスの著作を扱っている出版者を介して、バチカン国務省長官と会い、コンクラーベの期間中に枢機卿たちが寝泊まりする聖マルタの家、投票が行われるシスティーナ礼拝堂などを見学。「過去のコンクラーベに関する入手可能な記録をすべて読んだ」と話し、緻密なリサーチにもとづき執筆。そして原作の小説を『裏切りのサーカス』の脚本家ピーター・ストローハンが脚色し、第97回アカデミー賞にて脚色賞を受賞。ストローハンはこの物語の特徴と脚色について、原作者のハリスを讃えて語る。「これは何より最高の政治ドラマだ。理想主義、精神性と現実的な政治との緊張関係を考察し、妥協や時として権力に伴う腐敗と、高潔さや無私無欲との闘いという昔ながらの物語だ。それらが普段、私たちが目にすることのない世界で起きる。でも私が何より素晴らしいと思ったのは、この世界一保守的な密室に、ロバートが密やかに、そして大胆に入って行って、あっと驚くような展開に持っていくことだった」
 ベルガー監督がハリスの小説の魅力について、「ロバートは権力争いの世界に生きるキャラクターを作り上げる達人だ。グローバルな舞台で展開する大きなドラマと、そこに登場する人物たちの個性を見事に表現してくれた」とコメント。そして映画のための脚色に引き込まれたことについて、2024年12月16日付の「Screen Daily」にてストローハンの脚本を賞賛しこのように語った。「彼(ストローハン)の脚本を読むたびに、スリラーのような素晴らしいストーリーというだけでなく、魂があり、第二の意味があり、単なるストーリー以上の深い何かがあった。それが映画の真のテーマだった」

レイフ・ファインズ,ほか

コンクラーベを執り仕切るイギリス人の首席枢機卿ローレンス役はレイフ・ファインズが、責務を負う立場にありつつも信仰心の揺らぎを感じ、自らの良心を試されていく姿を繊細に表現。レイフはローレンスという人物と物語の魅力について語る。「ローレンスは政治的な緊張関係にあふれたコンクラーベを、心ならずも執り仕切る立場に置かれている。本当は修道院生活を望んでいるのに、争いの渦中にいるんだ。信仰に誠実である彼が、選挙を倫理的かつ道徳的に、そして透明性をもって進行させるために直面するさまざまな課題が、本質的にドラマチックなんだ」
 ベルガー監督は原作ではイタリア人である主人公を、レイフが演じるために設定をイギリス人に変更したことについて、2025年2月3日付の「Screen Daily」にてこのように語っている。「(登場人物の)国籍は重要ではなく、内面の資質の方が重要だ。レイフは登場人物の豊かな内面を目で表現し、背後で起こっている疑問や悩める心情に観客を誘(いざな)うことができるためぴったりだと思った」
 コンクラーベにおける有力候補4人のひとり、ローレンスの親友であり枢機卿団のリベラル派における事実上のリーダー、アメリカ人のベリーニ枢機卿役はスタンリー・トゥッチが、カナダ人で穏健な保守派のトランブレ枢機卿役はジョン・リスゴーが、ナイジェリア人のアデイエミ枢機卿役はルシアン・ムサマティが、イタリア人で強硬な伝統主義者であり豪華な装飾品をまとうテデスコ枢機卿役はセルジオ・カステリットが、そして教皇選挙のキーマンとなるベニテス枢機卿役は数年前に建築設計士から俳優に転身し今回が映画初出演となるカルロス・ディエスが、修道女の責任者であり毅然とした佇まいのシスター・アグネス役はイザベラ・ロッセリーニが、それぞれに演じている。
 監督は映画制作において原作者のハリスや脚本家のストローハンと連携し、熱心にリサーチをした理由について、2024年10月23日付の「THE HOLLYWOOD REPORTER」にてこのように語っている。「私たちはたくさんリサーチした。<中略>そしてツアーをたくさん行った。私とレイフには宗教の教師がいた。既知のことに関して本当に正しくやりたかったんだ。世界中のカトリックの教徒や司祭は、自分たちの役割を真剣に受けとめているから。彼らに『私の人生を描いている。賛成するかもしれないし、そうでないかもしれないが、正しく描かれている』と思ってもらいたい」

原作者のロバート・ハリスは2016年に小説「CONCLAVE」を発表。執筆のきっかけは、アルゼンチン人で、初の非ヨーロッパ国出身の現教皇フランシスコが選出された2013年のコンクラーベに関するテレビ報道を見ていた時に、枢機卿たちの顔が聖職者というより政治家のように見えたことだという。「選挙の仕組みについて調べようと決めた。調べ始めるとすぐに、コンクラーベにはドラマとしての可能性が山ほどあることがわかった」
 映画の撮影現場には、脚本家のピーター・ストローハンが常に監督と共に参加。ベルガー監督はセリフについて細かく確認やアドバイスをストローハンに求めながら進めていったそうだ。そして撮影はローマの伝統あるチネチッタ撮影所を中心に、バチカンの宮殿や選挙会場となるシスティーナ礼拝堂を具現化した巨大なセットにて行われた。

イザベラ・ロッセリーニ

こうした作品はカトリック教徒ではない人には、教義や仕組みに親しみがないことから伝わりにくい面もある。専門用語の解説が公式HPにあるので、先に用語について読み知っておくのも理解の一助となるだろう。またベルガー監督は「カトリック教会は世界最古の家父長社会」とコメント。ラストシーンには家父長制に対して、これからの新たな可能性を示唆するイメージが含まれているという。最後に、ベルガー監督が疑念と宗教というテーマに惹かれたこと、それが信念をもつことにつながるというメッセージを、前述の「THE HOLLYWOOD REPORTER」の記事よりご紹介する。「それ(疑念と宗教というテーマ)が、私がこの映画を撮るきっかけになったんです。レイフが経験するあの感情、心の旅。政治スリラーの素晴らしいテーマであり、宗教スリラーだけではない。これはどこでも起こり得ることだ。<中略>だから表面的には興味深いと思うが、もっと深いレベルでは、レイフが経験していることに本当に共感した。<中略>危機を乗り越え、信念を洗練し、目的を持っていると信じることは、私たちの多くが人生のどこかの時点で経験すると思う。仕事や目的の純粋さを洗練することは絶え間ない闘いであり、調整を続けるのは興味深い道だ。そして、再調整を続けるのは実は非常に健全な道といえる」

参考:「Screen Daily」、「THE HOLLYWOOD REPORTER

作品データ

公開 2025年3月20日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2024年 アメリカ・イギリス
上映時間 2:00
配給 キノフィルムズ
原題 CONCLAVE
監督 エドワード・ベルガー
脚本 ピーター・ストローハン
原作 ロバート・ハリス著「CONCLAVE」
出演 レイフ・ファインズ
スタンリー・トゥッチ
ジョン・リスゴー
イザベラ・ロッセリーニ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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