広瀬すず、杉咲花、清原果耶を主演に迎え、
脚本家・坂元裕二と土井裕泰監督が再タッグ
独特の“片思い”を映す、切なくもあたたかな物語
『怪物』『ファーストキス1ST KISS』などの脚本家・坂元裕二の書き下ろしの新作に、『流浪の月』の広瀬すず、『朽ちないサクラ』の杉咲花、『碁盤斬り』の清原果耶3人が主演。共演は、『春に散る』の横浜流星、『ミッシング』の小野花梨、『カラオケ行こ!』の伊島空、ロックバンドのmoonriders、『ミッドナイトスワン』の田口トモロヲ、『正体』の西田尚美ほか。監督は『花束みたいな恋をした』で坂元とタッグを組んだ土井裕泰が手がける。美咲、優花、さくらの3人は東京の古い一軒家で一緒に暮らして12年。それぞれが届きそうで届かない片思いを抱えていて――。揺らぎや疑問を抱えながらも大切な人を想い続け、優しさと共にある希望を描く。3人の独特の“片思い”を映してゆく、切なくもあたたかな物語である。
雪のある日、合唱コンクールを前日に控え、10歳の相楽美咲、9歳の片石優花、8歳の阿澄さくらは合唱団のメンバーと記念写真を撮っていた。それから12年、美咲、優花、さくらの3人は東京の古い一軒家で一緒に暮らしている。仕事、大学、バイト、それぞれの生活があり、家では3人で穏やかに過ごす日々。家族でも同級生でもないけれど、彼女たちはある理由によって強い絆で結ばれ、3人だけの日々を気ままに楽しんでいる。そしてあることをきっかけに、3人の片思いが動き出すが……。
『怪物』が第76回カンヌ国際映画祭にて脚本賞を受賞し、オリジナル作品を映画やドラマで積極的に発表し続けている脚本家・坂元裕二の書き下ろしによる最新作。彼女たち3人の詳細が前半で明かされ、そこから3人の思いの行方を観客が一緒に見守っていく構造になっている。制作のきっかけについて坂元は語る。「あるときふと、『広瀬すずさん、杉咲花さん、清原果耶さんの3人で、お話を作れないかな』と思ったんです。3人は間違いなく日本の俳優の宝物で、でもスターに揃ってほしいわけじゃなく、3人個々の重なってる部分と重なってない部分を見たくなって。彼女たちが同じ物語の中に出てくればそれが見えるかなと思ったんです」
そして『花束みたいな恋をした』の孫家邦プロデューサーと土井監督と共に映画にしたい、と考え、スタッフもキャストも快諾し企画がスタート。坂元は当初、3人がただ生活しているだけでストーリーもあまりない全編淡々とした日常を描く物語を考えていたものの、それとは異なる今回の内容を執筆した理由について、坂元は語る。「作品の内容とは別のモチベーションからですが、もっと強いストーリーを作らないといけないと思いました。今の日本の映像業界はアニメ作品に支えられて成立してますよね。実写作品はアニメが描いてるものから逃げずに、ちゃんと向き合うことを意識して作らないといけないんじゃないかって思ったんですよね。多くのアニメには目的意識の強い設定と物語があって、実写もそこを明確にしないと、アニメと向き合うことにならない。『静かな日常を描くものではなく、世界に抗う物語でなければいけない』と」
土井監督はこの物語を描くにあたり、学術的な知識によりロジカルに理解する必要があると考えていたなか、それよりも大事なことがあると思い、坂元ともたくさん対話をして作り上げていったと楽しそうに語る。「この作品のなかで描くことはあくまでも主人公たちの生々しくリアルな感情です。ファンタジーでありながらリアル。その世界観を映像としてどのラインで表現するのか、それが今回の最も大きな課題でした。スタッフや演者と共通認識を持って準備を進めていく必要がありましたから、それを見つけるためにクランクインの直前まで坂元さんには多くの質問をし続けました。多分ちょっとウザいくらいだったと思います(笑)」
不動産会社で働く22歳の相楽美咲役は広瀬すずが、大学で量子力学や素粒子について学ぶ21歳の片石優花役は杉咲花が、水族館でアルバイトをしている阿澄さくら役は清原果耶が、3人でかわいらしい姉妹のように。広瀬、杉咲、清原は互いの出演をとても喜び、共演のことや撮影中のこと、映画への思いについてこのように語っている。
広瀬「現場中、人としても役者としてもどんどん信用できる距離感になって行くのが、演じた美咲としても嬉しいことでした。清原さんはどことなく無邪気なところに“さくら”を感じましたし、杉咲さんはまっすぐで優しいところが“優花”に似ていると感じました。3人それぞれの想いと距離感、坂元さんのセリフと土井監督が紡いでいく世界観。その化学反応がどう起きるのかが、一ファンとして楽しみです。この作品が、ふわっと包みこむような優しい映画になったらいいなと思っています」
杉咲「すずちゃんは飄々としていながら、誰に対しても平等で穏やかなところがすごく素敵でした。カメラが回っていない時から本番に移行していくまでの温度変化がフラットなところも自分にはない要素だったりして、すごいなぁと思うことばかりでした。果耶ちゃんはいつも愛とユーモアのあるコミュニケーションを欠かさずにいてくれて救われることがたくさんありました。ひとつひとつのシーンに対して緊張感を持ちながらもアグレッシブに挑んでいく姿勢は頼もしくもあって。お二人から勉強になることがたくさんあった日々でした」
清原「すずちゃんはいつも美咲としての佇まいを保ちながら、大きな引力でみんなを引っ張ってくれていました。花ちゃんは感情を共有しながら同じ歩幅で日々を紡いでくれて、その温かさにいつも胸を打たれていました。そんな尊敬する皆さまと重ねた彼女たち3人の生き様を、是非見届けてくださると嬉しいです。観てくださった方々の心の隙間に、優しく寄り添うような作品になりますように」
子どもの頃に合唱団でピアノの演奏をしていて今はスーパーの店員をしている高杉典真役は横浜流星が、典真と付き合っている桜田奈那子役は小野花梨が、ある事件の加害者である増崎要平役は伊島空が、優花の母・木幡彩芽役は西田尚美が、街で演奏しているストリートミュージシャン役はmoonridersが、児童合唱団の指揮者・加山次郎役は田口トモロヲが、3人が家でいつも聞いているラジオのパーソナリティ津永悠木の声は松田龍平が、それぞれに演じている。
坂元は広瀬、杉咲、清原3人の出演について自身の提案でありつつも、実はプレッシャーを感じたと2025年4月5日に行われた公開記念舞台挨拶にて語った。「やはり広瀬さん、杉咲さん、清原さんという今の時代を代表するトップ俳優の皆さんがでてくれるのだろうかと話をしていたんですけど、いざ出てくれることなったら、そこから逃げ出したくなった。でもそこでなんとか自分なりの仕事をして。それで皆さんに委ねることができた。<中略>3人の温かくて、やさしくて、美しい登場人物たちをただただ一緒に見守るように観ていただけたら」
土井監督は主役クラスの3人の共演について、感謝と共に語る。「言うまでもなく、広瀬さん、杉咲さん、清原さんはすでに主役としてそれぞれ強い光を放つことのできる俳優ですが、今回は、その光をぶつけ合って強いハレーションを起こすのではなく、3人でひとつの光を生み出すこと、それをテーマとしてこの作品に向き合っているのだと感じていました。その特別な光を放つ瞬間に幾たびか立ち会えたことは、自分にとってもかけがえのない経験でした」
坂元はこの映画の挑戦について語る。「まだ企画も何もできていない最初の頃に、『劇伴のない映画にしましょ』って提案したんです。もうこれ、念願です。僕は役者さんのお芝居が見たいので、音楽で『笑ってもいいですよ』『泣いてもいいですよ』っていう状態を作らなくてもいいのにっていうのがあるんですけど、でも簡単なことではなくて。前作の『花束〜』も新しいものを作った自負が僕らの中にあるし、メジャー作品の枠内で何かチャレンジしたいという思いが今回もあったので、『この座組みだからこそできることをやりましょう。劇伴のない映画作りましょう』って。<中略>合唱があるから、むしろ他に音楽は必要ないですし、路上ミュージシャンやラジオが出てくることも劇伴をなくすために取り入れたものです」
土井監督は、坂元からの「音楽をあまりいれずに俳優たちの芝居をシンプルに見せてほしい」という希望をうけて制作したことについて語る。「それは僕にとってもチャレンジではありましたが、編集で全ての場面が繋がったとき、ラストの合唱の場面が唯一無二の説得力をもって伝わってきて、この映画にとってはとても意味のあるアプローチだったと感じています」
筆者も劇伴のバランスはとても大切だと常々感じている。映画も音楽も大好きであるために、アンバランスだと気になって内容に集中できないこともあるからだ。派手なSFやスペクタクルながら日常のトーンの音楽を合わせるのは素敵ながら、日常の静かな物語に大袈裟で過剰にドラマティックな音楽を合わせるのは、俳優にも物語にも不粋に感じることがある。3人の暮らしを中心に描く『片思い世界』では、劇伴への制作者たちの思い入れが丁寧に反映されており、ストーリーに自然な流れでやわらかな合唱や音楽が落ち着いたトーンで用いられ、俳優たちのセリフや演技を最優先にしているところが魅力的だ。劇中で子どもたちが歌うオリジナルの合唱曲「声は風」の歌詞は坂元が担当し、「卒業ソングにしたかったので、本当にスタンダードに“旅立ちの歌”を子供たちに向けて書けたらなと思いました」とコメントしている。
坂元はこの映画への深い思い入れについて朗らかに笑顔で語る。「『棺桶に入れたい作品ができた』って言う方がいて、なんだよ羨ましいなって思ってたけど、この作品はそう思えましたね。タイトルとモチーフが浮かんだとき、『ああ、これで最後でいいかも』と思ったし、制約はあるにせよ、たぶん書きたいものが書けました。『自分の38年の脚本家人生は、これを書くためにあったんだな』と思いますし、『第一作目がこれだったら、こんなに長い間書いてこなくて済んだのに』って思ってます(笑)」
土井監督は前述の公開舞台挨拶にて、「この映画の制作にはけっこう時間がかかっていて、やっと観ていただけるんだという、それだけで感無量」とコメント。2025年3月27日に東京で行われた公開直前イベントにて、監督は観客へのメッセージをこのように語った。「この物語は少女の時に出会った三人が12年間一緒に暮らしているという、とても小さな物語なんですが、それがとても大きな世界につながっています。今、世界ではいろいろなことが起きていますし、いろんな思いを抱えて生きている人がいますが、そういう人たちの気持ちを代弁しているような、そんな映画だと思います。そういうものを最後に感じていただけたら、ぜひご家族やお友だちに広めていただけたらうれしいなと思います」
また坂元は公開舞台挨拶にて、観客へのメッセージをこのように伝えた。「春ということで、新社会人や大学に入ったばかりの方もいらっしゃると思います。そうした方も、うまくこの世の中でやっていけるだろうか、この社会で歩いていけるだろうか、言葉は通じるだろうか、人と触れあうことができるだろうかという不安を抱えている方もいらっしゃると思います。そうした方たちの背中を押すような、温かい作品になったと思います」
そして最後に、広瀬、杉咲が公開直前イベントにて、清原が公開舞台挨拶にて伝えた観客へのメッセージをご紹介する。
清原「わたしはこの作品を観たときに、思い続けること、願うこと、祈ること、この先もあきらめないように生きていきたいと思いました。皆さまにとっての大切な人や、大切な場所を、ずっと温かく思い続けられるよう切に願っております」
杉咲「存在することに対しての肯定を、ここまで実験的に描いた物語もなかなかないんじゃないかと、個人的に感じています。この劇場が明るくなったときに、隣にいる友人、恋人、もしくは、はじめましての方のことを、よりイメージしてみようと思えるような映画になったらうれしいです」
広瀬「小さな光を信じたくなるような、とてもいとおしく、尊い時間をこの作品の中で生きさせていただけたことが、わたしにとって宝物の時間だったなと感じられる作品です。映画を観た後に外に出たらまたちょっと価値観が変わるような、違う目で世界を見つめることができる。そんなきっかけになったらいいなと。ぜひ楽しんでください」
公開 | 2025年4月4日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開 |
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制作年/制作国 | 2025年 日本 |
上映時間 | 2:06 |
配給 | 東京テアトル、リトルモア |
脚本 | 坂元裕二 |
監督 | 土井裕泰 |
出演 | 広瀬すず 杉咲花 清原果耶 横浜流星 小野花梨 伊島空 moonriders 田口トモロヲ 西田尚美 |
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