サンダーボルツ*

超人でも英雄でもない無法者たちがチーム結成!?
連携もままならない彼らは謎の敵に対抗できるのか
過去に傷をもつ奴らの、鮮やかな再生とはじまりの物語

  • 2025/05/12
  • イベント
  • シネマ

※本記事は映画本編のネタバレを含みます。未鑑賞の場合はご注意ください。

サンダーボルツ*©2025 MARVEL

最強でもヒーローでもない、挫折ばかりで犯罪経験ありの“超クセ強な無法者”チームが熱い! 出演は、『ミッドサマー』『オッペンハイマー』のフローレンス・ピュー、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』のセバスチャン・スタン、『007 慰めの報酬』のオルガ・キュリレンコ、『ブラック・ウィドウ』のジュリア・ルイス=ドレイファス、『トップガン マーヴェリック』のルイス・プルマンほか。監督はドラマ「スター・ウォーズ:スケルトン・クルー」や人気ミュージシャンのMVを多数手がけるジェイク・シュライアー、脚本は『マイティ・ソー バトルロイヤル』『ブラック・ウィドウ』のエリック・ピアソン、製作はマーベル・スタジオを率いるケヴィン・ファイギが務める。漆黒の闇で人々を瞬時に消し去る謎の敵がニューヨークを襲来。アベンジャーズなき今、無法者たちの寄せ集めチームは、もう一度自身を信じて強大な敵に立ち向かっていく。連携も共闘もままならない、ならず者たちの行方、それぞれの過去へのある種の贖罪のため、今後の自身のあり方を変えていきたいという意志により、渋々ながらも力を合わせていく流れ、善悪や敵味方の境界線より目的のために手を組んで突き進んでいく姿がユニークで面白い。英雄でも正義の味方でもない、それでもと、アベンジャーズのいない世界に新たに登場する新チーム“サンダーボルツ*”の力強い始まりの物語である。

NYの街に突如として現れた大きな黒い影。瞬く間に市民を消し去っていく謎の敵により、世界は再び大きな脅威と直面する。しかし、数々の敵から世界を救ってきたアベンジャーズは、そのピンチに姿を現さない。誰がこの脅威から世界を救うのか、というCIA長官ヴァレンティ−ナからの問いかけに立ち上がったのは、かつて洗脳されヒーローと対立した過去を持ち、現在は国会議員であるウィンター・ソルジャーことバッキーだった。彼は仲間として、過去に犯罪経験のあるエレーナ、USエージェントことジョン・ウォーカー、レッド・ガーディアンことアレクセイ、ゴースト、タスクマスターらと組むことに。そしてボブと名乗る謎の男も加わる。ヒーローじゃないため誰も空を飛べず、戦闘手段は肉弾戦のみ、好戦的な彼らは連携も共闘もままならず……。

ハナ・ジョン=カーメン,オルガ・キュリレンコ,ワイアット・ラッセル,セバスチャン・スタン,デヴィッド・ハーバー,フローレンス・ピュー

超人でも完璧でもないルーザーたちが目的のために手を組み強敵に立ち向かい、自身のアイデンティティを再構築していくきっかけを見出す、再生のはじまりの物語。個人的にはここ数年のマーベル作品で一番のお気に入りだ。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と同等くらいの楽しさながら、『サンダーボルツ*』は主にエレーナの視点で展開するため、マッチョな展開のなか、家族や周囲を思いやることや自身のこれからについて悩むなど、女性として自然に共感し観ることができる。また『ワンダーウーマン』のように美麗で完璧ボディのヒーローも素敵でありつつ、フローレンスのようにスタイルも美貌も抜群というより市井の一般人に見えるかわいい風貌の女性が、長年の訓練を重ねた格闘の技術とスキルで屈強な相手を次々と倒していく、という表現も痛快だ。
 そして『サンダーボルツ*』では、メンタルヘルスについて、うつの精神世界とそこへのアプローチのイメージをストーリーに落とし込んでいるのが特徴。これまで超人的ヒーローを中心に描いてきたMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)で、自身の過去や現状に苦悩する人間が周囲の協力や理解、信頼関係、強い意志と積極的な行動によりヒーローになり得る、という傷ついた人間たちの物語を、幅広い世代に伝わりやすくエンターテインメントとして昇華していることがとても新鮮だ。シュライアー監督は2025年5月1日の「The Hollywood Reporter」の記事「How ‘Thunderbolts*’ Director Jake Schreier Infused a Bit of ‘Beef’ Into the MCU(『サンダーボルツ*』のジェイク・シュライアー監督がMCUにいかにして「ビーフ」を注入したか)」にて、「親しい友人がうつ病に苦しんでいて、彼の様々な経験に基づいて描いた」と話し、今回の取り組みについてこのように語った。「このような物語を語る上で、登場人物たち(と似たような)経験に苦しむ人たちに最も感じてほしくないことは、私たちがその問題を単純化したり、あるいは解決できると言っていると感じさせること。重要なのは、他者と共に耐えることはできるが、決して消えることはない、という考え方なんだ。そのことを念頭に置いて、できるだけ正直にそのまま、感情的な部分を損なわないように気をつけた瞬間がたくさんあった。こうしたことで苦労している人の多くは、私が知る限り最も面白い人たちだ。だから、この作品にはコメディの要素を取り入れたいとずっと思っていた。マーベル映画だからという理由ではなく、コメディが世界に対して誠実だと感じたからだ」
 そしてフローレンスは2025年4月29日(日本時間)、アメリカ・ロサンゼルスで行われたワールドプレミアにて、この映画がすでに観た人たちから高い評価を得ていること、この作品への思い入れを朗らかに語った。「面白いことに、映画を作っているときから“これは特別な作品になる”ってみんなが感じていたんだよね。そして初めて完成版を観たとき、“やっぱり特別なものだ”って確信が持てた。今ようやくそれが世の中にも伝わって、自然と話題になって、良い反応が生まれているのを聞くと、本当に満たされる気持ちになるの。もうすぐみんなが実際にこの映画を観られると思うと、すごく嬉しいわ」

ワイアット・ラッセル,セバスチャン・スタン,ハナ・ジョン=カーメン,デヴィッド・ハーバー,ほか

幼い頃からロシアのスパイ機関で養成され暗殺者=ウィドウとなり、擬似家族の“姉”ブラック・ウィドウを亡くし深い悲しみを抱えるエレーナ役はフローレンスが、暗殺者を辞めて新しい生き方をしたいと考える人物として。ブラック・ウィドウとエレーナの“父”役を務め、ソ連が生み出した超人兵士だったが組織に切り捨てられたレッド・ガーディアンことアレクセイ役はデヴィッド・ハーバーが、悪の組織に洗脳され暗殺者となるも本来の人格と記憶を取り戻し、現在は国会議員となり〈サンダーボルツ*〉のまとめ役を務めることとなったウィンター・ソルジャーことバッキー役はセバスチャン・スタンが、政府から2代目“キャプテン・アメリカ”に任命されるも過ちを犯して資格剥奪されたUSエージェントことジョン・ウォーカー役はワイアット・ラッセルが、事故により物質をすり抜ける体質となり、量子フェージング状態で誰とも触れ合うことができない孤独な女性スパイ、ゴーストことエイヴァ役はハナ・ジョン=カーメンが、髑髏のようなヘルメットで素顔を隠し、洗脳と改造により相手の戦闘技術を即座にコピーできる能力を持つ人間兵器、タスクマスターことアントニア・ドレイコフ役はオルガ・キュリレンコが、アベンジャーズのいない世界で“サンダーボルツ*”を集結させるCIA長官ヴァレンティーナ役はジュリア・ルイス=ドレイファスが、そして謎の男・ボブ役と史上最強の敵・セントリー役はルイス・プルマンが、それぞれに演じている。
 フローレンスはLAのワールドプレミアにて、キャラクターと物語のユニークな魅力について、このように語った。「“完璧なヒーローが完璧なことをする”のではなく、“アンチヒーローたちが、自分の人生で起きている様々なことにダメダメながらも立ち向かっている”ところ。特に最初の45分間、彼らは何をするにも苦戦していて、チームとしても全然まとまってない。でもそこが面白い。(観客たちは〈サンダーボルツ*〉に)自分の姿を重ねて見ることができるかもしれないし、彼らが暗い時期をどう乗り越えるかという部分にも共感してもらえるはず」
 シュライアー監督は俳優たちへの感謝を、2025年5月2日の「TheWrap」の記事「How ‘Thunderbolts*’ Director Jake Schreier Made a Very Different Marvel Movie(『サンダーボルツ*』のジェイク・シュライアー監督がいかにして全く異なるマーベル映画を作ったか)」にて、このように語っている。「フローレンス・ピュー、ジュリー・ルイス・ドレイファス、そして他のキャストの皆さんと仕事ができたことを本当に幸運に思う。とても大切に思い、自分のことを理解してくれる人たちと仕事を続け、一緒に面白い作品を作る方法を見つけることに、私はもっと力を入れていく。どんな規模の作品でもそうしたいと思っているんだ」

アクションの見どころは冒頭のシーンから。エレーナがマレーシアのクアラルンプールにある世界で2番目に高いビル(高さ678.9メートル、東京タワーの2倍以上)からダイブする、フローレンス本人によるワイヤーアクションが目を引く。フローレンスは緊張感漂う現場で怖気づくことなくスリルをも楽しみながら挑んだとのこと。同時期の日本公開作として、2025年5月23日公開のトム・クルーズ主演作『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』があるなか、この冒頭のアクションはMIシリーズを意識したかという質問に、シュライアー監督は前述の「The Hollywood Reporter」の記事にて、このように語っている。「彼らは私たちが大好きなライバルだ。トム・クルーズもあの映画も大好きだよ。『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』は、キャラクターから生まれた力強いコンセプトをあらゆるアクションシーンにどう注ぎ込み、ミッションシーンをどう面白く仕上げるかという試金石となった。これらのリソースは、素晴らしいSFアクションを作り出すためにも、実際に現場に赴いて撮影するためにも活かせる。(『サンダーボルツ*』の冒頭の)あのジャンプは命知らずの行為だ。フローレンスがやったなんて信じられない。でも、彼女の顔のクローズアップから始まるワンシーンであり、本当に特別なんだ。彼女はとても暗く孤独な、感情的な瞬間に身を投じる。<中略>彼女が役になりきってダイブしたことで、このシーンが私たちらしいのもの(オリジナル)になっているんだ」

ルイス・プルマン

この映画で個人的に面白いと思ったのは、登場人物たちが大きな目的を果たすためには、どんな奴らだろうと手を組み、共同戦線で立ち向かっていくところ。目的のためには人も手段も選ばないというストレートな姿勢があるところだ。ヒーロー映画では善と悪、味方と敵、という対立構造が一般的だが、この映画では対立している関係性や信頼関係が容易には築けないような違和感のあるタイプであっても利害の一致で手を組むという流れもある。できることなら、完璧に信頼できる人とのみ、気の合う友人や仲間たちなどとのみと組んでいけたらどんなにいいことか。目標・目的のみを重視してチームを組むことは理想的でも楽しいことでもまったくないものの、現実社会でもままある取り組みではないだろうか。ある種のリアリティを感じさせる現代的でボーダレスな表現であり、可能性を広げるという意味では枝葉末節よりも目的に集中していくという、目標達成に向かうためのひとつの考え方であり取り組み方ともいえる。それがストーリーとしてさらっと描かれているのが面白い。
 2025年3月27日(日本時間)には、2026年に全米公開予定の映画『アベンジャーズ/ドゥームズデイ(原題)』のキャスト、ロバート・ダウニー・Jr.やクリス・ヘムズワースを含む27人が発表。ここにフローレンスやセバスチャンら『サンダーボルツ*』のメンバーが含まれていることも話題に。『サンダーボルツ*』から2025年7月25日公開の映画『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』、そして『アベンジャーズ/ドゥームズデイ(原題)』へとどのようにつながっていくのか。2025年5月8日の「Deadline」の記事「‘X-Men’ Movie At Marvel Studios Circling ‘Thunderbolts*’ Director Jake Schreier To Assemble New Team - The Dish(マーベル・スタジオで『X-MEN』映画が製作中、『サンダーボルト』のジェイク・シュライアー監督が新チームを結成へ - The Dish)」にて、シュライアー監督がマーベル・スタジオの新しいX-Men シリーズの映画の監督として初期の交渉に入っていると報道が。そしてX-MENシリーズのパトリック・スチュワートやイアン・マッケランもドゥームズデイの出演者として発表。注目のMCU作品『アベンジャーズ/ドゥームズデイ(原題)』はどのように展開していくのか、ますます楽しみだ。

作品データ

公開 2025年5月2日より日本公開
制作年/制作国 2025年 アメリカ
上映時間 2:07
配給 ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題 Thunderbolts*
監督 ジェイク・シュライアー
出演 フローレンス・ピュー
セバスチャン・スタン
デヴィッド・ハーバー
ジュリア・ルイス=ドレイファス
ワイアット・ラッセル
ハナ・ジョン=カーメン
オルガ・キュリレンコ
日本版声優 田村睦心
白石充
大塚明夫
藤貴子
鈴木達央
田中理恵
中村千絵
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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