28年後...

凶暴化ウイルス感染から28年後を描く最新作
少年は重病の母を連れて危険な本土へ旅に出る
ゾンビものにとどまらないサバイバル・スリラー

  • 2025/06/23
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※本記事は映画本編のネタバレを含みます。未鑑賞の場合はご注意ください。

28年後...

ロンドンでの感染から28日後、28週後、そして。第1作『28日後...』のダニー・ボイル監督と脚本家アレックス・ガーランドが10数年ぶりに復帰して再タッグ、シリーズ3作目にして、新たな3部作の始まりに。出演は、『クレイヴン・ザ・ハンター』のアーロン・テイラー=ジョンソン、『教皇選挙』のレイフ・ファインズ、『フリー・ガイ』のジョディ・カマー、映画初出演となるテレビシリーズ「ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤」のアルフィー・ウィリアムほか。人間を凶暴化させるウイルスの爆発的な感染拡大から28年後。感染を免れた人々は小さな孤島で身を潜めて暮らしている。島で暮らす父親のジェイミーは息子スパイクと共に本土へと視察のため渡るが……。いわゆるゾンビ映画という恐怖やおぞましさ、緊迫感の表現に加え、現実で起きたパンデミックを踏まえて、差別や偏見、生き抜くこと、死生観などにつながるストーリーを描く、独特なサバイバル・スリラーである。

人間を一瞬で凶暴化させるウイルスがロンドンで流出してから28年。未曾有のパンデミックによりイギリスの文明は崩壊。感染を逃れた人々はウイルスが蔓延した本土から逃れ、孤島に身を潜めて暮らしている。島民たちは 対岸にいる感染者たちから身を守るため、見張り台を建て、武器を作り、一定の年齢に達すると本土を視察する<任務>を担う。父親ジェイミーは、12歳の息子スパイクと、原因不明の難病に苦しむ妻のアイラと暮らしている。パンデミックを知らず、一度も島から出たことがないスパイクは、父と一緒に初の<任務>へ。父子が本土に着くと、緑豊かな自然のなかでさまざまな感染者たちと遭遇。スパイクは恐怖と闘いながら、次々と襲ってくる彼らに弓矢で応戦し、息の根を止めていく。任務を終えた父子は島に戻り、成功を歓迎される。そんな折、スパイクは本土に感染者と共生して暮らす医師がいると知り、母親の病気を治してもらおうと考える。そしてスパイクは母アイラを連れて再び本土へと向かうが……。

アーロン・テイラー=ジョンソン,アルフィー・ウィリアムズ,ほか

2002年の『28日後...』、’07年の『28週後...』に次ぐ、“28”シリーズ最新作。第1作のダニー・ボイル監督と脚本家アレックス・ガーランドがシリーズに復帰、新たな3部作の始まりとなっている。2人が本作に復帰したきっかけは、2020年のイギリスEU離脱と新型コロナウイルスのパンデミックという現実の出来事だ。イギリスの孤立と世界規模の感染拡大を体験したことで、単純な続編制作を超えた新たな物語への着想が生まれたという。本作は従来のゾンビ映画の枠組みを越え、ウイルス感染により凶暴化した人々と感染していない人々の対立を軸に、相互の生存をかけた闘争を描いている。そこには現実に起こりうるパンデミックの脅威に対する切実な問題意識が込められており、フィクションでありながら現代的なリアリティのある内容となっている。そして物語は父ジェイミーと母アイラと息子スパイクを中心とする家族の物語でもあり、ボイル監督は「おかげで、それぞれのキャラクターや彼らの関係を掘り下げることができました」とコメント。脚本を執筆したガーランドのアイデアを讃えて監督はこのように語っている。「ある家族を中心に据えたアイデアをアレックスが思いつき、創意あふれる脚本を書いてくれました。そのおかげで、関係者全員がワクワクし、続編ではなく、オリジナル作品を作っているような気持ちになることができました」
 ガーランドはこの映画について「基本的にある家族の物語です」とコメントし、ストーリーに込めた問いについてこのように語っている。「家族の誰かが病気になったら…ウイルスには感染していないけれども重病になったらどういうことが起きるか。他の家族はどのように対処するのか」

孤島で暮らす父親ジェイミー役はアーロンが、息子と妻を大切に思いつつもあることにより息子の信頼を失う父親として。その妻で原因不明の重病を患うアイラ役はジョディ・カマーが、病で意識が混濁しながらも息子を愛する母として、夫婦の息子である12歳のスパイク役はアルフィー・ウィリアムズが、母を守ろうと気丈に振る舞う健気な少年として。本土で暮らし続ける謎の医者ケルソン役はレイフ・ファインズが、レイジウイルスから世界を守るNATOの巡視船が座礁し、英国本土に取り残されたスウェーデン人兵士エリック役はエドヴィン・ライディングが、エリックを襲う強靭に変異した感染者バーサーカー(アルファとも)の巨漢サムソン役は身長2メートルのMMAファイターであるチャイ・ルイスペリーが、それぞれに演じている。
 劇中では感染を逃れた人々が孤島で部族的な暮らしをしているのが印象的だ。スマホやテレビといった電子機器や家電はほぼなく、一定の年齢になると年長者が年少者を連れて本土へ狩りにいく、という通過儀礼を含め、集落の規則のもとで秩序が保たれている。世界から孤立し最新技術から隔離されたらそうなるかもしれない、と理解できるものがある。

レイフ・ファインズ,ジョディ・カマー

映画の前半は感染者と非感染者のバトルと28年後のイギリスでの暮らしについて描かれ、医師ケルソンが登場する後半からは死生観を見つめる静かな視点がより色濃く映されている。そしてケルソンの会話により、この作品の核心的テーマである「メメント・モリ」という言葉が示される。「死を想え、自分の命には限りがあり、死ぬ日がいつか必ず来ることを覚えておけ」という意味のラテン語で、この言葉はストーリー全体を象徴する建造物へと結びついている。それが本土で感染者と共に生きるケルソンが、28年の間に人骨を積み上げて築いた塔“ボーン・テンプル”だ。この塔においては、感染者も非感染者も関わりなく、無数の骨が平等に積み上げられていく。ガーランドは医師ケルソンの視点と、この塔の意義について語る。「彼は人間と感染者を区別しません。医師であるケルソンにとって、誰もが同じ人間で、その中に病気の人がいるだけなんです。感染したからといって人間でなくなるわけではない、と彼は考えています。そのためケルソンは、命を失った人すべてへの『メメント・モリ』として納骨堂を作るんです。あれは一種のインスタレーションアートでもあります。集めた遺体を、意味のある構造物にしているんです」
 製作陣はこの塔を建てる場所をイギリスの田園地帯で探し、ノースヨークシャー州にある村・行政教区のレッドマイアに決定。レプリカの人骨25万個以上、頭蓋骨5,500以上を用いて、6か月以上かけて作り上げた。着想は、リトアニア北部のシャウレイ郊外で無数の十字架が立ち並ぶ「十字架の丘」や、コロナウイルスによる英国内の死者数と同じ約15万人分のハートマークが描かれたロンドンの追悼壁など、死者の記憶を刻む実在のランドマークから得たという。
 また人々が暮らす島の撮影は、イギリスの北東部沿岸にある総面積4㎢のホリー島にて。特定の条件でのみ現れる1本の道で守られているところもドラマティックだ。ボイルはこの島を撮影地に選んだ理由を語る。「島と土手道が、この物語の最高の出発点になると感じました。干潮時に道が現れると、道を守ることができます。そのおかげでこの集落は発展できました。終末後の状態というよりも、20世紀初頭の町のような集落です。島民にとって、本土は『あっち側』にある、希望と恐怖の場所になります」
 そして劇中では、イギリスでパンデミックが発生したにも関わらず他国への感染拡大が限定的だった理由として、世界各国がこの島国を事実上隔離したことが暗に示されている。イギリス以外の国々では従来通りの日常が維持されているという設定は、国際社会における孤立や分断といった現代的な課題を想起させる構造となっており、観客にさまざまな考察をうながす仕組みとなっている。

レイフ・ファインズ

撮影ではiPhoneも撮影ツールとして採用し、時には一度に20台もの端末を駆使し、スマホ時代の終末世界における恐怖の記録というコンセプトを表現。撮影監督のアンソニー・ドッド・マントルとボイル監督は、8台、10台、20台用の特製iPhoneリグを開発し、180度視野でのアクション撮影を実施。視覚的インパクトをさらに高めるため、2.76対1という極めて広いアスペクト比を採用し、没入型の映画体験を限界まで押し広げた。ほかにも地面を這いずり回る新型感染者「スローロー」の撮影手法として、ドッド・マントルは感染者自身にカメラを装着し、観客が「スローローの背中に乗っているような」感覚を味わえる視点の映像を創出。観客が登場人物たちと同じ空間にいるかのような臨場感を演出している。ボイル監督は映像へのこだわり、観客へのメッセージをこのように語っている。「この世界から抜け出せない、息が詰まる、と感じるほどの緊迫感が欲しかったんです。それと同時に、そんな世界でもときには楽しくなければいけません。ホラー作品も楽しいものになり得るんです。他の人たちと一緒に、強烈な体験をすることができる場合は特に楽しいものになります。観客には席について、『今自分はここにいて、この世界の一部になっているんだ』と感じてもらいたいですね」

感染者と非感染者、感染者の女性が出産した非感染者の乳児、隔離された島で暮らす人々、感染者のいる本土で生きる人という対比のなかで、差別や偏見、生存本能、生き抜くことへの問いなどの普遍的なテーマが浮かび上がる本作。12歳のスパイクが、病で意識が混濁する母アイラを連れて危険な本土をいく道中のこと、医師ケルソンとの出会いにより母子にもたらされるものは、観客に深い印象を残すだろう。そしてラストには公式なキャストクレジットにない人物たちが登場し、続編に続いていく内容が示され、あるエピソードと繋がっていることがはっきりわかるくだりも面白い。
 ボイル監督と脚本家のガーランドのタッグにより、新たな3部作の始まりである28シリーズ第3作。新たな3部作は、脚本はガーランドがすべて担当し、ボイル監督は3作目を監督予定。この映画の続編となる第2作『28 Years Later Part II: The Bone Temple(原題)』は、『マーベルズ』の現在35歳の女性監督ニア・ダコスタが手がけ、2026年1月16日に全米公開予定だ。出演者として、『28日後...』に主演し、今回の『28年後...』にエグゼクティブ・プロデューサーとして参加しているキリアン・マーフィー(『オッペンハイマー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞)が発表されている。キリアンは『28日後...』から引き続き、最初のアウトブレイクの生存者であり元自転車配達人のジムを演じる。ボイル監督による第3作は今回の『28年後...』の観客の反応を受けて練り上げるという話もあり、シリーズの今後の展開への期待が高まっている。

作品データ

公開 2025年6月20日より全国の映画館にて公開
制作年/制作国 2025年 イギリス
上映時間 1:55
配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原題 28 Years Later
監督・プロデューサー ダニー・ボイル
脚本・プロデューサー アレックス・ガーランド
エグゼクティブ・プロデューサー キリアン・マーフィー
出演 アーロン・テイラー=ジョンソン
レイフ・ファインズ
ジョディ・カマー
アルフィー・ウィリアムズ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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