真藤順丈の直木賞受賞作を大友啓史監督が映画化
消息不明となった“英雄”を幼馴染3人は待ち続け……
アメリカ統治下の沖縄を生きる青年たちの20年を描く
“英雄”が消息を絶った理由とは、彼が手に入れた“予想外の戦果”とはなんだったのか。アメリカ統治下の沖縄を生きる青年たちの姿を描く、真藤順丈氏の直木賞受賞作を、『レジェンド&バタフライ』やNHK大河ドラマ「龍馬伝」などの大友啓史監督が映画化。出演は、『本心』の妻夫木聡、『遠い山なみの光』の広瀬すず、『ラストマイル』の窪田正孝、『怪物』の永山瑛太をはじめ充実の顔合わせで。アメリカ統治下の沖縄、米軍基地から奪った物資を住民らに分け与える“戦果アギヤー”と呼ばれる若者たちがいた。ある日、そのリーダーである青年オンが消息を絶ち……。1951年のサンフランシスコ講和条約の頃から1972年の沖縄返還の時期までの約20年間、沖縄の混沌とした時代を生きた青年たちを描く。姿を消したオンの行方は、教師となりオンの帰りを待つ恋人、刑務所から出所後にヤクザになった彼の弟、刑事となった親友、オンを慕う青年たちの20年を追う。激動の時代を懸命に生きる彼らの姿を通じて沖縄がたどった20年を伝え、今と未来をみつめるよう問いかけるドラマである。
沖縄がアメリカだった時代。米軍基地から奪った物資を住民らに分け与える“戦果アギヤー”と呼ばれる若者たちがいた。いつか「でっかい戦果」を上げることを夢見る幼馴染のグスク、ヤマコ、レイの3 人。そして、彼らの英雄的存在であり、リーダーとしてみんなを引っ張っていたのが、一番年上のオンだった。全てを懸けて臨んだある襲撃の夜、オンは“予定外の戦果”を手に入れ、突然消息を絶つ。やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはヤクザになり、オンの影を追いながらそれぞれの道を歩み始める。しかし、アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境では何も思い通りにならない現実に、やり場のない怒りを募らせ、ある事件をきっかけに抑えていた感情が爆発する。やがて、オンが基地から持ち出した“何か”を追い、米軍も動き出し……。
反骨、混沌、友情……アメリカ統治下の沖縄を生きる青年たちの約20年を描く、真藤順丈氏の直木賞受賞作を大友啓史監督が映画化。フィクションでありながら当時の情勢や人々の心情をストーリーとして重厚に描き、第9回山田風太郎賞、第5回沖縄書店大賞などを受賞し、熱く支持されている。妻夫木をはじめ主要キャストは10代から30代までの20年間を演じ、無鉄砲な若さから大人へと成長し移り変わる関係や心情を丁寧に演じている。大友監督は以前に手がけた作品をきっかけに沖縄を再び描きたいと考えていたこと、小説との出会いなど、真藤氏の言葉を引用して映画化への思いをこのように語っている。「以前、演出を担当した連続テレビ小説『ちゅらさん』の時代設定は1972年の沖縄返還後、敢えて歴史的要素に踏み込むことを抑えた物語でした。その撮影中から、自分のなかでは、返還前の沖縄を描かないと本当の意味で物語は完結しないのではないか、沖縄の人々の本当の気持ちは理解できないのではないか、いつか返還前の沖縄を描きたいと、そういう思いが強く芽生えていました。20年以上経って、小説『宝島』に出会い、自分が待ち望んでいたのは『まさにこれだ!』と確信しましたね。原作者の真藤順丈さんが『すべての物語は沖縄に通じる』と仰っていましたが、本当にその通りだと思います。沖縄の人々が戦後の日本とアメリカの狭間で、どのくらいの血と汗と涙を流してきたのか、その喜びも悲しみも体感しないとわからない。それを誰もが追体験できるような映画を作りたかったんですね」
真藤氏は完成した映画について、「素晴らしい。なんとも豊かな映画体験だった」とコメント。そして2025年9月3日に真藤氏の母校・高輪学園で行われた全校上映会トークイベントにてこのように映画を讃えた。「上下巻の長い話で、基地問題というセンシティブな物語なので、どうやって撮るのかなと思っていたんですが、見事に映像化していただいて。本当にこれはすごいことなんですよ。戦後の沖縄の返還までの話を、3時間超とはいえ、1本の映画にまとめていて。なおかつコザ暴動も、飛行機事故も、まったく逃げずに描ききった。本当にすごい映画だなと思った」
親友オンの率いる戦果アギヤーのメンバーであり、消息を絶ったオンを探すため、その後に刑事となったグスク役は妻夫木聡が、刑事として地元の人々と交流しながらひたすらにオンの行方を追う人物として。妻夫木は以前に出演した映画を挙げ、沖縄のコザの町が舞台であることへの思い入れを語る。「19年前、映画『涙そうそう』もコザの町が舞台だったので、コザの町にもコザの方々にも本当にお世話になりました。それ以来、ずっと付き合いはつづいていて、親友もいっぱいいるので、またこうしてコザを舞台にした『宝島』という作品に参加できることに運命的なものを感じています」
オンの恋人ヤマコ役は広瀬すずが、オンが戦果で建てた小学校の先生になり、彼の帰りを待ち続けながら、基地反対・祖国復帰運動に積極的に参加していく女性として。広瀬はヤマコを演じることについて、2025年5月5日に東京で行われた完成報告会見にてこのように語った。「沖縄にある問題を体現、表現することは覚悟のいることで難しいこと。原作では、登場人物は男性が多いなかで太陽のような存在のヤマコという存在が眩しくて。彼女の持っている覚悟を自分ができれば良いなと思った」
オン率いる戦果アギヤーのメンバーとして17歳で逮捕・収監された弟レイ役は窪田正孝が、出所後にヤクザとなり独自に兄オンを探し続ける人物として。窪田は完成報告会見にて、1950〜70年代の沖縄を生きる人物を演じることについてこのように語った。「戦争や当時のものを舞台にした作品を演じる役者にとって、死の価値観の違いを認識しなければいけない。暴力という選択肢しかない時代と、役者という仕事を通して、大友監督の元で『宝島』に出演することで改めて原点、人間の生き様を荒々しく表現できることが画面から出ているのかなと思いました」
戦果アギヤーのリーダー、オン役は永山瑛太が、消息不明となる地元の英雄として。永山は完成報告会見にビデオメッセージで、「この役を演じるということの重圧にどう向き合えばいいかという葛藤はあった」と話し、「完成した作品を拝見した時に、何度も涙腺の弱い私はボロボロに。試写場で周りの方々にバレないように、涙を拭きながら観ました。本当にたくさんの方に観ていただきたいな、という作品に仕上がっていました」と、映画を観た際の率直な思いを伝えた。
グスクの相棒の刑事・徳尚役は映画監督で俳優の恂{晋也が、グスクに近づく米軍諜報部の高官・アーヴィン役はデリック・ドーバーが、アーヴィンの通訳・小松役は中村蒼が、ヤマコも働いていた米兵相手のスナック「Aサインバー」を切り盛りするチバナ役は瀧内公美が、米国人の父と日本人の母が両親であり、花売りをしている孤児ウタ役は栄莉弥が、刑務所暴動でレイと知り合う民族運動家タイラ役は沖縄出身の尚玄が、レイに仕事を任せるコザ派ヤクザの親分・喜舎場役はピエール瀧が、グスクを調査するCIA要員・ダニー岸役は木幡竜が、密貿易団クブラのリーダー・謝花ジョー役は奥野瑛太が、コザ派ヤクザのひとり辺土名役はお笑いコンビとろサーモンの村田秀亮が、それぞれに演じている。そしてデモやコザ暴動の民衆役には沖縄出身者も多く参加しているそうだ。
大友監督は主要メンバー4人のキャスティングについて、感謝と共にこのように語っている。「当時の社会背景や時代背景を背負ったキャラクターを描くにあたっては、ある程度経験を積んだ、僕なりに、その太くて重い歴史を背負える俳優に任せたいと考えていました。若い時代も演じられるバランスも考えながら、骨のある、腰が据わった俳優を探して─最終的に、妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太の4人に決まりました。コロナの影響で2度も延期になり悔しい思いもしたし、もうダメかもしれない……と思ったこともありましたが、そんな中でも俳優たちはずっと待ち続けてくれた。彼らの存在が『諦めるな』と背中を押してくれました」
史実から着想を得た作品の製作にあたり、監督をはじめスタッフたちはリサーチを丁寧に重ね、撮影は沖縄や和歌山など43ヶ所で実施。1950〜70年ごろのリアルな沖縄をさまざまに表現している。特飲街はオープンセットとして、米海兵隊基地の近くにある辺野古アップルタウンに制作。ヤマコの家は伊計島の古民家を改装、コザ暴動のあったゲート通りを再現するなどさまざまなセットが作られた。400〜500人の民衆が動き回るコザ暴動のシーンは、のべ2,000人を超えるエキストラが参加し迫力のシーンとなっている。また嘉手納基地内のシーンは旧南紀白浜空港の滑走路にて、最後の海辺のシーンは沖縄・糸満市の北名城ビーチにて撮影された。大友監督は当時の沖縄を再現するにあたり大切にしたことについて、愛知の安城で行われた舞台挨拶にてこのように語った。「沖縄の人が大切にしたものは何か、何を想ったのかを浮き彫りにするために出来る限り当時の環境を美術も、衣裳も丁寧に再現していく、そこを丁寧に撮りました。当時の人が心の中で思っていたことを、とにかくちゃんと伝えたいという想いで全カット全シーンやっています」
そして監督は自身と主要キャストが沖縄出身ではないことについて、全校上映会トークイベントにて心づもりを真摯に伝えた。「僕も含め、メインのキャストも沖縄の人間じゃないということで。沖縄で起きた過去の出来事をどう描き出すか。そこで体験した人たちの声に耳を傾けて、うそをつかないように。僕らができる精いっぱいをやった」
真藤氏も監督の思いに同意し、同イベントにてこのように語った。「僕も沖縄にはルーツがない。そこで戦果アギヤーという義賊に自分を仮託して、沖縄のリアリティーに満ちた話を書き上げていったわけです。ただ戦後80年ということで、もしグスクやヤマコが生きていたら80歳か90歳くらいだと思うんですが、戦争を語り継ぐという意味で、われわれも当事者の方に頼り過ぎてたところがあるんじゃないかと。だから今度はわれわれの世代がそれぞれに、僕の場合は小説で、どうしてこんな日本になっているのか、何と戦い、置き去りにしているのかをひもといて、いろんな方向に未来へ引き継いでいけるよう、がんばっていかないといけないなと思いました」
オンは何を手に入れ、なぜ消息を絶ったのか、そして残された彼らがたどる20年とは。映画『宝島』はもともと沖縄の本土復帰50周年である2022年に公開を目指していたなか、コロナ禍の影響で撮影が二度延期され、戦後80年である2025年に公開が決まったそうだ。1950年代から70年代にかけて、アメリカ統治下の沖縄を生きた青年たちの軌跡は、歴史の再現のみではなく、過去を知ることで今と未来を改めて考えるきっかけとなるだろう。妻夫木と広瀬は2025年6月7日、8日に沖縄で行われた全国宣伝キャラバンにて、この映画への思いと観客へのメッセージをこのように伝えた。
妻夫木「この映画を通して過去を描くことは未来への問いかけだと思いました。過去は無かったことにはできないし、いろいろな思いを背負って僕たちは生きています。だからこそ精一杯に生きていかなくちゃいけないし、今を生きる僕たちは、未来を生きる子供たちのために、何を託せるのかを、今一度考える時なのかなと思っています。 今こそ手と手を取り合って共に歩む、そういう力持った映画になったと僕は思っています」
広瀬「この映画が皆さんにどのように届くのか、どういう景色として残るのかと。思いながら撮影していたのですが、少しでも皆様の希望になる作品になったらいいなと思います。この映画がとても大きな輪になることを願っております」
真藤氏は全校上映会トークイベントにて、「歴史の授業は現代史という科目があった方がいいんじゃないかと。それくらい今の日本に繋がってる大事な時代の話です」と学生たちに話し、このようにメッセージを語った。「僕は世の中を変えるつもりで『宝島』を書きました。映画のスタッフの皆さんもそういうような、何かを問いかけるようなものを届けたなと思い、感銘を受けています。でも実際に世の中を変えたり、動かない壁を動かしたりするのは皆さんの世代だと思っていますので先輩としてちょっと先輩風を吹かしてますけど、皆さんも自分の大事な宝を探すように、そういう風に人生を送っていただけたら」
そして大友監督は沖縄での全国宣伝キャラバンにて、この映画に込めた思いとメッセージをこのように熱く伝えた。「映画は人生を変えるきっかけにもなる、そういう力をもっていることを思いながら、そういう映画の力を発揮できる題材があるとしたら、『宝島』だと思います。アメリカ統治下の沖縄で何が起きていたのか? それをエンターテイメントの中で結論を押し付けるのではなく、皆さん1人ひとりに感じていただけるような映画にしたいと常々話してきた。映画『宝島』は、宝の島と言われているその宝は何だったのか? ということをひとりひとりが考えるきっかけになるんじゃないかと思ってます」
公開 | 2025年9月19日より全国公開 |
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制作年/制作国 | 2025年 日本 |
上映時間 | 3:11 |
配給 | 東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント |
英題 | HERO's ISLAND |
監督 | 大友啓史 |
原作 | 真藤順丈『宝島』(講談社文庫) |
出演 | 妻夫木聡 広瀬すず 窪田正孝 永山瑛太 恂{晋也 中村蒼 瀧内公美 栄莉弥 尚玄 ピエール瀧 木幡竜 奥野瑛太 村田秀亮 デリック・ドーバー |
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