THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE

一平と警察犬オリバーはコニシさん捜索へ
謎のドアの先に広がる不思議な世界とは?
カオスで愉快、スタイリッシュな劇場版

  • 2025/10/2
  • イベント
  • シネマ
THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE© 2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会

オダギリジョーが脚本・演出・編集・出演、ユニークかつユーモラスな世界観で高い人気と評価を得た2021年のオリジナルのドラマが劇場版に。出演はドラマから引き続き、池松壮亮、麻生久美子、本田翼、岡山天音、黒木華、鈴木慶一、永瀬正敏、佐藤浩市、嶋田久作、宇野祥平、香椎由宇、さらに映画の新メンバーとして吉岡里帆、鹿賀丈史、森川葵、髙嶋政宏、菊地姫奈、平井まさあき(男性ブランコ)、そして8年ぶりの映画出演となる深津絵里という豪華メンバーが顔を揃える。鑑識課警察犬係のハンドラー・青葉一平と相棒の優秀な警察犬オリバーは、一平だけにはオリバーがなぜか酒と煙草と女好きの犬の着ぐるみを着たおじさんに見えていて会話もできるという奇妙なバディ。そんな彼らに隣県から行方不明者捜索の協力要請が……。全員クセ強めの登場人物たちの魅力が交錯し、シュールで不条理な展開とコメディで飽きさせない。エンタメとサービス精神、アートやインディペンデントのスタイル、ファンタジーやミュージカルや人情ものという要素のすべてをこんなふうに活かす(遊ぶ)ことができると証明する、カオスでスタイリッシュで愉快な作品である。

狭間県警鑑識課警察犬係のハンドラー・青葉一平。彼の相棒は、数々の難事件を解決に導いた伝説の警察犬ルドルフの子供であるオリバーだ。しかし一平には、どういうわけか、オリバーが口が悪くやる気がない、女好きで慢性鼻炎の着ぐるみのおじさんに見えている。ある日、一平や鑑識課メンバーの前に、隣県の如月県のカリスマハンドラー・羽衣弥生がやってくる。如月県でスーパーボランティアのコニシさんが行方不明になったため、一平とオリバーに捜査協力を求めてきたのだ。目撃情報をもとに海辺のホテルに向かった一平とオリバー、羽衣だったが……。

オダギリジョー,ほか

あやしげな雰囲気の漂う場末のキャバレー、エキセントリックな奴の蛮行により組織や取引にまつわる揉め事が……といういかにも映画的ノワールの、物語とまっっったく関わりのなさそうな期待値を盛り上げるシーンから始まる劇場版。優秀な警察犬が相棒のハンドラーにのみ、着ぐるみのやる気ないおっさんに見えている、というただでさえトンデモ設定の世界観に加え、インド映画風のダンスシーンや異世界もの、ドラァグクイーンのトークやダンスなどやりたいことをぜんぶやってしまえ、という贅沢感が面白い具合にはじけていてとても楽しい。ポスターでオリバーのオダギリジョーが口元に手(前脚)を当ててきろんと斜め上を見ているモノクロのいい感じの写真は、永瀬正敏が撮影したとのこと。全員の能力を楽しみながら活かしているところがまた良き味わいとなっている。ドラマは2021年にNHKで始まり2022年にシーズン2が放送、Twitter(現X)で世界トレンド1位となり、「東京ドラマアウォード2022」にて単発ドラマ部門作品賞グランプリ、月間ギャラクシー賞を受賞するなど高い評価を得ている。ドラマでも劇場版でも脚本・演出・編集を務め、オリバーとして出演もしているオダギリジョーはこの映画について、「脚本書いてる時から考えると、3、4年ぐらいの時間を共に過ごしてきた作品が、ようやく日の目を見るというか、みていただけることになって、とても嬉しく思います」と2025年9月26日に東京で行われた公開初日舞台挨拶にてコメント。そして関係者への感謝と初日を迎えた喜びをこのように語った。「3年近くの時間をいろんな方と共にしてきて、脚本を書いている時から友だちの脚本家に相談したり、オリバーを一緒に作ってきた山本プロデューサーと会議するところから始まって、撮影では本当にいろんな部署の方々とのお力を借りながらどうにか毎日を乗り越えてきました。編集や音入れの作業、そして映画の宣伝と、いろんなチームに助けられてようやくこの日を迎えられたことにまずは感謝していますし、幸せだなと思っています」

狭間県警鑑識課警察犬係のハンドラー・青葉一平役は池松壮亮が、おっさんオリバーの自由すぎる言動をなんとかセーブしてツッコミをいれる、巻き込まれタイプの実直な青年として。池松は公開初日舞台挨拶にて、「ストーリーを楽しむだけが映画の醍醐味ではないと思うし、物語がどうなっていくのかを楽しむ映画では決してないです」と話し、作品とオダギリ監督への思いをこのように熱く語った。「物語が脱線したり迂回したり、行きつ戻りつのなかで世界観を捉えて、現実すらも捉え直していけるような、そういう不思議な魅力がこの作品には詰まっていると思います。あとはオダギリさんの圧倒的な映画に対する強い気持ち、その芸術性に対する揺るぎない信頼というか、そういうものを見て感動しました。本当に愉快で楽しい映画なんですけど、その奥には深い内省と強い意志が込められた挑戦的な作品であるかなと思います」
 伝説の警察犬ルドルフの血をひく、由緒正しい警察犬であるはずのオリバー役はオダギリジョーが、一平だけには酒と煙草と女好きで慢性鼻炎の犬の着ぐるみを着たおじさんに見える不思議なキャラクターとして。酒をスキットルから飲みながら何かと女性にちょっかいを出しつつ、たまにするどいことをポロッと言う、というスタンスが面白い。オダギリジョーは監督と俳優を兼ねる現場について、2025年8月28日に自身の出身地・岡山で行われた舞台挨拶にて、「楽しさはない。大変が一番」、「俳優同士だから何をしようとしているかが手に取るように分かる。演出はむしろやりやすかった」とコメント。そして長編映画としては2019年の『ある船頭の話』に続く2本目の監督作であることについて、「1作目と方向性がまったく違うので成長や変化といえるかはわからない。ただ、1作目はプレッシャーがとんでもなく大きく、今回は余裕を持って好きなことができた」と語った。
 隣県から一平とオリバーに捜査協力を求める超優秀なハンドラー羽衣弥生役は深津絵里が、犬の気持ちがわかり過ぎる繊細な女性として。深津は8年ぶりの映画出演について、2025年9月3日に東京で行われた舞台挨拶付き特別上映イベントにて、映画化のことはオダギリジョーと共演していた連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の撮影中に直接話を聞いたそうで、自分に声がかかるとは思わなかったとのこと。後日に正式なオファーを快諾した理由について、深津はこのように語った。「オダギリ監督の書かれた脚本が近年稀にみる奇想天外さで、一度読んだだけではわからなかった。全くわからないと思った脚本に出会ったのは初めて。そのわからなさに強く惹かれました。どうなるのかわからないけれど、飛び込んでみたいと…」
 鑑識課警察犬係で一平の上司・漆原冴子役は麻生久美子が、一平の同僚のハンドラー柿崎ユキナ役は本田翼が、同じく後輩ハンドラー三浦役は岡山天音が、生活安全課の京都出身の刑事ゆかり役は黒木華が、警察犬のベテラン飼育員・志村役は鈴木慶一が、犬カフェのマスター役は嶋田久作が、かつては狭間県を牛耳るヤクザ常連のバーの経営者で現在はとあるバイトをしている酒々井茂役は宇野祥平が、洞窟に暮らしていると語られる占い師役は香椎由宇が、オリバーの父ルドルフのもとハンドラーで、現在はフリーランスの記者である溝口健一役は永瀬正敏が、失踪者を次々と発見するスーパーボランティアのコニシさん役は佐藤浩市が、犬カフェのバイト役は菊地姫奈が、夜の店のNo.2ホステス・ヒラリ役は男性ブランコの平井まさあきが、漆原冴子のいとこのテンちゃん役は吉岡里帆が、漆原冴子の父でテンちゃんに悩み相談をする漆原富章役は鹿賀丈史が、溝口の姪でレトロ自販機のうどんが好物のトトちゃん役は森川葵が、妖精かもしれない不思議なおじさん役は髙嶋政宏が、それぞれに演じている。
 個人的には、インド映画『RRR』を参考にしたという麻生がメインのダンスシーン、永瀬がある人外のものと共演するシーンや、佐藤浩市演じるコニシさんがもつ特性の理由について「なるほど!」と膝を打つシーン、黒木華演じる京女の刑事ゆかりが冴子に「いやあ〜 お強い」というだけで得体の知れないひんやり感と面白さが一筋漂うシーンなどが面白く。佐藤浩市は映画『アフター・ザ・クエイク』でもかえるくんと共闘するなど、大物俳優や人気俳優たちが味のあるアート系やインディペンデントふうの映画でいい味を醸しているのを観るのも楽しいと改めて思った。

麻生久美子

劇中で印象的なのは、EGO-WRAPPIN'の名曲で筆者の大好きな曲のひとつ「色彩のブルース」が繰り返し流れることだ。スモーキーで深みのあるヴォーカル中納良恵とはまた異なる、ハイトーンヴォイスである人物が美しく歌い上げている。誰だかすぐわかるものの、後半まで顔を映さないところも良き。この劇中で流れる「色彩のブルース」は、映画のパンフレットにあるQRコードからダウンロードができるという企画も。劇伴はドラマ版から引き続きEGO-WRAPPIN'の森雅樹が手がけ、映画の主題歌はEGO-WRAPPIN'が書き下ろした新曲「phosphorus」となっている。オダギリジョーは森による音楽について、「同い年の森さんとは何となく感覚が似ているのか、余計な説明や話し合いをしないでも、必ずカッコいいオリバーな劇伴(音楽)を作ってくれます」とコメントしている。

オダギリジョーと仲間たちがコンプライアンスに挑戦(?)する、映画の魅力ぜんぶのせの濃厚な劇場版。監督がこの映画に込めた思いの一端を、映画公開日に公式HPのNEWSで解禁されたオダギリ監督制作総指揮<スペシャルショート動画>3種のうちのひとつ、「オリバースタントチャレンジ編」で伝えているのでぜひみてほしい。そこで疾走する車の上に張り付いてるオリバーはこんなふうに言っている。「コンプライアンスってのはさ、人間が作った都合のいいリードなんだよね。こっち(犬の自分)はチェーンつけてるけど、本当に縛られてんのは人間の方なんじゃねえの? (今の自分は車のってるのに)シートベルトできてないけどコンプラ的に大丈夫?」
 またオダギリ監督は独特な世界観の発想について、前述の岡山での舞台挨拶にて、「テレビドラマではあまり扱われていない題材を探す中で奇抜な設定を考えた。俳優を長くやってきて色んな役を経験した結果、もう着ぐるみぐらいしか残っていなかった」とコメント。そして脚本の段階から自身が着ぐるみ役を演じると決めていた理由について、このように語った。「世界観を理解してもらうには時間がかかる。自分が演じることで全ての責任を背負えるし、説明もしやすい」
 そして池松は映画とドラマ版の違いについて、2025年8月18日に東京で行われた完成披露上映会にてこのように語った。「シリーズからの続きを期待すると大きく裏切られます。あまりに型破りで、あまりに破天荒。『オリバーな犬』シリーズを一度解体して組み立て直したかのような物凄い作品。オダギリさんの映画に対する美意識や芸術性をこの劇場版ではふんだんにやっているので、気持ちを真っさらにして観ていただきたい。シリーズとしては続いていません!」

吉岡里帆,鹿賀丈史

「世の中には不思議があふれています」
 予告映像であきらかに田村正和ふうの口調のオリバーの一言からすでに面白い本作。オダギリ監督は音にもこだわり、「この作品には劇場の5.1サラウンドでしか聞こえない音がたくさんある」とのこと。9月3日の特別上映イベントにて監督は音についてこのように語った。「今回の映画は、音などは映画館の劇場でないと聴こえないくらいのレベルで設計しています。テレビを観る時と大きなスクリーンで映画を観る時では目線の動きも違ってくるので、それを考慮した編集にもしています。だから映画館でご覧いただきたいです」
 そして池松はこの映画の魅力について、8月18日の完成披露上映会にてこのように語った。「オダギリジョーという人が期待するものを見せてくれるはずはなく、遥か違う角度から凄いものを見せてくれる方です。そんなオダギリさんの映画監督2作目にとんでもない作品が出来上がりました。アートを見るような気持ちで芸術性に深く浸かっていただきたいです。笑えて茶目っ気たっぷりでカッコ良くてユニークで面白い作品です」
 一般的に映画公開前後のタイミングでドラマの再放送をするのは定石ながら、今回はあえてそれをしない方針なのだろうか、再放送はされていない。改めて観たい人が筆者も含め大勢いるだろうし、年末年始か映画公開がひと段落した後にでもぜひドラマの再放送をと期待している。最後に、オダギリ監督が8月18日の完成披露上映会にて、観客にユーモアと共に伝えたメッセージをお伝えする。「1回ではわかりにくい映画かもしれませんので、2回か3回観ていただいた方が良いと思います。そして映画館で観てください。すべてを劇場のために設計してあるので、今後テレビで観ようとしている友だちがいたら止めてください。テレビやパソコンで観たら絶対に面白くないので。なんなら僕がその人たちにムビチケを送ります。それくらい劇場で観た方がいいです!」

作品データ

公開 2025年9月26日公開より全国公開
制作年/制作国 2025年 日本
上映時間 1:38
配給 エイベックス・フィルムレーベルズ
脚本・監督・編集・出演 オダギリジョー
出演 池松壮亮
麻生久美子
本田翼
岡山天音
黒木 華
鈴木慶一
嶋田久作
宇野祥平
香椎由宇
永瀬正敏
佐藤浩市
吉岡里帆
鹿賀丈史
森川 葵
嶋政宏
菊地姫奈
平井まさあき(男性ブランコ)
深津絵里
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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