フランケンシュタイン

G・デル・トロ監督が情熱を注いで名作を映画化
天才科学者と彼が創り出した怪物の行き着く先とは
他者と出会いぬくもりを知り、葛藤や心の成長を描く

  • 2025/10/21
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Netflix映画『フランケンシュタイン』一部劇場にて2025年10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信Netflix映画『フランケンシュタイン』一部劇場にて2025年10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信

1818年に匿名で出版されたメアリー・シェリーの小説『フランケンシュタイン』を、子どもの頃からこの物語の大ファンという『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロが監督・脚本・プロデューサーを務めて映画化。出演は、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のオスカー・アイザック、『プリシラ』(2023)のジェイコブ・エロルディ、『EMMA エマ』のミア・ゴス、『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』のクリストフ・ヴァルツほか。ヴィクター・フランケンシュタイン博士は、死体をつなぎ合わせる実験により怪物に命を吹き込む。しかし理想とは違うありように博士は失望し怪物から離れるが……。創造主と作られしもの、父と子などさまざまな関係が投影されるなか、ゆっくりと成長していく孤独な怪物の行方を描く。精巧に作り込まれた美術と衣装、伝統的な建築物など美しい映像と共に、葛藤と心の成長のメタファーを感じさせる“ヒューマン”ドラマである。

天才科学者のヴィクター・フランケンシュタイン博士は、“科学の力で不死の生命を生み出す”という傲慢な欲望を持ち、数々の死体の肉と骨をつなぎ合わせ、ついに“怪物”を誕生させる。最初こそ怪物の完成に興奮していたヴィクターだったが、いつまでたっても求めていた知能に達さず、怪力だけを発揮する姿におぞましさを感じていく。ある事件により博士は怪物の元を離れ、怪物は孤独を彷徨いながら創造主であるヴィクターからの愛を求め彼を捜そうとする。“自分が何者であるか”を探し求める怪物の渇望は、次第にヴィクターへの“復讐”へと姿を変えていく――。

ミア・ゴス,フェリックス・カメラー,ショーン・ペン|Netflix映画『フランケンシュタイン』一部劇場にて2025年10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信

単なるホラーや怪物譚などのジャンル映画というより、怪物が彷徨い年月を重ねていく姿が、心の旅と成長そのもののメタファーとしても感じられるところが胸に染みる作品。原作者のメアリー・シェリーは自身が初産で産んだ子どもを亡くし、深い悲しみに打ちひしがれたこと、パートナーである詩人パーシーとの“自由恋愛”にまつわる揉め事、社会における女性の立場の弱さ、さまざまな制限や抑圧や混迷のなか、もがき苦しみ咆哮するような心情を“怪物”に投影していたのではとも考えられる。そのため怪物の成長と顛末に精神性をより強く反映させているのは、観ていてしっくりくるものがある。ストーリーとして哀しみと絶望の怪物を主体とする原作を尊重しつつ、映画では全編において美術や衣装などがとても丁寧に作られていること、ラストシーンでは個人的にほのかな希望の気配を感じたことに、監督のあたたかな解釈を感じた。デル・トロ監督は原作への思いと映画化について、独特の比喩でこのように語っている。「私の人生は常にメアリー・シェリーの創造物と共にありました。私にとって聖書のようなものです。それを自分のものにし、異なるスタイルで異なる感情を込めて歌い返したいと思っていました。脚色というのは、未亡人と結婚するようなものかもしれませんね。亡き夫の思い出は尊重しつつも、土曜日には何かしないといけない。つまり、原作をふまえつつ自分のものにしなくてはならない。そうでなければ自分が作る意味がありません」
 第95回アカデミー賞にて長編アニメ映画を受賞した2022年の『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』を手がけた監督は、「自分を形作る本や物語ってあると思うんですが、私にとってそれに最も近いものが『ピノッキオ』と『フランケンシュタイン』なんです」とコメント。そして監督は2作品に共通するテーマと今回の映画化についてこのように語っている。「どちらも同じ物語を語っていると思ったんです。人間とは何か、永遠と死という2つの力によって人生が枠にはめられるというのはどういうことか。私は『フランケンシュタイン』をできる限り個人的なものにしたいと思いました」
 また監督は原作の著書『フランケンシュタイン』の問いかけについて、「『私は何者なのか? なぜここにいるのか? 神は私に何を送ったのか? 私の目的は何なのか? 世界とは何なのか?』という問いを投げかけているんです」と説明している。

死体を縫い合わせて怪物を創り出すヴィクター・フランケンシュタイン役はオスカー・アイザックが、天才的で傲慢な科学者であり怪物の創造主として。オスカーは初期の脚本を読んだ時に深い感銘を受けたと話し、この映画についてこのように語っている。「ヴィクターと怪物の言葉を通して、ギレルモがとても個人的なことを打ち明けていると感じました。そこで語られていることの多くに深く共感しました。この作品には美しく巡るものがあります。父と息子についての考え方や、傷がいかにして受け継がれていくのかということ、善と悪は1つのコインの表と裏であること、そして常に入れ替わりを繰り返していること、言葉は必ずしも真実へと導いてはくれないということなどです」
 ヴィクターにより創られた怪物役はジェイコブ・エロルディが、長い時を孤独に彷徨い、創造主に愛を切望し絶望と怒りに苦しむ存在として。特殊メイクにより怪物となったジェイコブは、役作りのために監督の提案で日本の「舞踏」を習い、怪物の動きに取り入れたとのこと。ジェイコブは重要な役を担う最年少キャストであることにプレッシャーを感じつつも、撮影はとても楽しく監督や共演者たちから大きな影響を受けたと話し、「この映画のことは一生忘れないでしょう。映画そして映画作りに対する情熱に改めて火がつきました」と語っている。
 ヴィクター・フランケンシュタインの弟であり優秀で明朗な人柄のウィリアム役はフェリックス・カメラーが、ウィリアムの婚約者でヴィクターが心を寄せるエリザベス役はミア・ゴスが、エリザベスの父親でヴィクターの研究の出資者となるハインリヒ・ハーランダー役はクリストフ・ヴァルツ、ヴィクターを救出する北極探検用の船ホリソント号のアンダーソン船長役はラース・ミケルセンが、それぞれに演じている。
 エリザベスのエピソードはとても悲しいものの、監督の意思とミアの表現によりある意味で彼女の大切な思いがひとつ遂げられているように感じられることから、しみじみと受けとめることができた。また弟役のフェリックスは実生活で一人っ子であるため、家族関係について監督や共演者から話を聞いて役作りに活かしたとのこと。デル・トロ監督にきょうだいとの関わりについてさまざまなことを聞いたフェリックスは、「彼が自分自身を脚本や登場人物に惜しみなく投影していることがはっきりとわかります。ある種自伝のようだと感じました」とコメントしている。
 デル・トロ監督は俳優たちを熱く称え、2025年9月24日に東京で行われたジャパンプレミア上映会にてこのように語った。「役者は仕事の8割を占めてくれます。いい役者を集めれば伝えたいことが伝わるんです。俳優たちは素晴らしかったです。ジェイコブの目を見たとき、完璧な怪物を演じてくれると確信しましたし、彼も自分から自信を語ってくれました。オスカー・アイザックとの相性も完璧でしたし、ミア・ゴスも役者として素晴らしかったです」

クリストフ・ヴァルツ|Netflix映画『フランケンシュタイン』一部劇場にて2025年10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信

実際に造られた本物の巨大な船(デンマークの帆船ホリソント号)など、時代考証をふまえて細部まで丁寧に制作された美術や造形も見どころのひとつ。監督は「すべての物を実際に作っていて、そしてそのほとんどが手作り」であると説明し、その熱量についてこのように語っている。「すべてに作り手による選定と献身と情熱が込められていて、昨今の映画ではめったに見られない制作現場でした。私たちは、人間の手で作られたオペラのようなスケール感のある昔ながらの美しい作品を作りたかったんです」
 またデル・トロ監督と、怪物のビジュアルを監修したデザイナー兼特殊メイクの専門家マイク・ヒルは筋金入りの『フランケンシュタイン』マニアとのこと。監督は「私たちは熱烈なファンですから、傷跡や髪の毛、しわに至るまですべてを熟知しています」と言い、怪物の見た目は「美しく、この世の物とは思えないような生き物にしたいと思っていました。大理石の彫像のような感じで、骨相学の頭像を連想させるような頭にしたかった」「赤ん坊のように見せながら、同時に哲学者で大人の男性のように見せる」ことを目指したとも。衣装やメイクは時代考証をふまえつつも現代アートのような遊び心を取り入れていることから、洗練されたインパクトのある映像となっている。
 また劇中のフランケンシュタインの館として、4つの伝統的な建造物が登場。スコットランドのイーストロージアンにあるゴスフォードハウス、イングランドのリンカンシャー州にあるバーリーハウス、スコットランドのアバディーンシャーにあるデューネクトハウス、そして繊細な細工が施されている階段を有するイングランドのウィルトシャー州にあるウィルトンハウスで撮影された。

オスカー・アイザック|Netflix映画『フランケンシュタイン』一部劇場にて2025年10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信

天才科学者である創造主のヴィクターと孤独に彷徨う怪物はどこへ向かっていくのか。デル・トロ監督はこの作品により自身にとってひとつの頂点に達したと語る。「『クロノス』や『シェイプ・オブ・ウォーター 』には『フランケンシュタイン』の要素が入っているし、『ブレイド2』は私にとっては言ってみればフランケンシュタインの物語です。本作で1つのサイクルの頂点に達しました。オペラ調で装飾的で、非常に正確なカメラワーク。そういったものはすべて、今後は少しばかり消えていくでしょう。少なくとも私にはそう感じられます」
 監督は『フランケンシュタイン』の物語と子どもの頃に出会った時のこと、自身をどのようにキャラクターに投影し、年齢とともにどのように変化していったのかを、前述のジャパンプレミア上映会にてこのように語った。「7歳の頃にこの作品と出会いました。私の故郷では毎週日曜日に教会でホラー映画が放送されていました。そこでホラー映画を観ているなかで、<中略>私自身が怪物でもあると感じたんです。自分自身、奇妙で理解されない経験もあって、モンスターのように人から好かれないところが私のようだなと思いました。彼のような“不完全な姿”に美しさを感じました。そして11歳のときに原作を読み、誰もまだこの作品の精神を描いていないと思い、若いながらにこの映画を創りたいと思いました。40代になって子どもができたときには父子関係についても描きたいと思ったので、私にとって長い経緯を持った作品になっているんです」
 まだ同イベントで監督は「今のような時代に生きる中で、“違う存在を受け入れる”というのは稀なことだと思います。違う者同士がお互いを理解することができる、そういうことが私にとっても素晴らしい開放をもたらした作品になりました」とコメントも。そうした話をふまえて理解した上で、筆者は個人的にこの映画を観ていて、怪物をもうひとりの内面の自分であるように感じた。自分の分身である怪物を受け入れて愛するのは難しい。しかし誰もがそれを受け入れて愛していくことができるし、それが大いなる解放や新たな始まりにつながると。原作の哀しい怪物の物語を軸に、デル・トロの映画ではそうしたかすかな光が感じられるところに、不思議なトーンのぬくもりを感じた。最後に、監督がこの映画について、「私にとって、これはメロドラマでありヒューマンドラマです。ホラー映画だとは思っていません」と話し、『フランケンシュタイン』のテーマのなかで特に気に入っているというテーマについてお伝えする。「本作では誰もが何かしら欠点や欠陥を抱えています。私はそこが気に入っているんです。誰もが愛を必要としていて、それは愛こそが唯一の答えだからです。本作はとても優しい映画だと思っています」

作品データ

公開 Netflix映画『フランケンシュタイン』
一部劇場にて2025年10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信
制作年/制作国 2025年 アメリカ
上映時間 2:29
原題 Frankenstein
監督・脚本・プロデューサー ギレルモ・デル・トロ
原作 メアリー・シェリー著「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」
出演 オスカー・アイザック
ジェイコブ・エロルディ
ミア・ゴス
クリストフ・ヴァルツ
ラース・ミケルセン
フェリックス・カメラー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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