女性として世界で初めてエベレスト登頂に成功
余命宣告後も山に登り続けた登山家の力強い半生と
彼女を愛し支えた家族や周囲の人々との絆を描く
©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会女性として初めて世界最高峰エベレストの登頂を為し遂げた実在の登山家・田部井淳子氏の実話をもとに『北のカナリアたち』の阪本順治監督が映画化。出演は、『こんにちは、母さん』の吉永小百合、『Fukushima 50』の佐藤浩市、『緊急取調室 THE FINAL』の天海祐希、のん、木村文乃、若葉竜也、工藤阿須加ほか。女子登山クラブを設立した登山家の多部純子は、仲間と共にエベレスト山頂に向かうが……。エベレストに女性として初登頂したこと、その後に登山仲間や家族のなかで不和があったこと、晩年の闘病、余命宣告を受けながらも山登りを続け、登山を通じて若い世代を支援したこと。山から見晴らす美しい景色と共に、世界的な登山家として、母として妻として、前向きに突き進んでいった道のりを描くドラマである。
1975年、登山家・多部純子が設立した女子登山クラブはエベレスト登頂を目指してネパールへ。雪崩による負傷やシェルパが高山病になったことにより、頂をめざすことができるアタッカーは純子ひとりとなる。そして遂に女性として初の世界最高峰制覇を達成。仲間と共に為し遂げたエベレスト登頂だったが、純子1人が唯一無二のパイオニアとして世界中から称賛され、同様に登頂を目指していたが諦めるしかなかった登山仲間が離れてゆき、純子は深く悲しむ。また純子の息子・真太郎は学校でもどこでも「多部純子の息子」と言われることに耐えかね、家を出て福島の親戚の家で暮らすことを選ぶ。純子を献身的に支える夫・正明や登山仲間となった記者の悦子、母を慕う娘・教恵をはじめ大切な家族や友人たちと過ごすなか、国内外のさまざまな山に挑み、女性初の世界七大陸最高峰登頂を果たす。そして2010年、70歳の時に病院で検査を受けた純子は担当医からステージVCの腹膜がんにより余命3ヶ月と告げられ……。

登山家・田部井淳子氏による2015年のエッセイ『人生、山あり“時々”谷あり』を原案に、吉永小百合主演で阪本順治監督が映画化。女性として世界で初めて、エベレスト登頂や世界七大陸最高峰登頂を成し遂げた人物として有名な田部井氏の半生をもとにした誠実な物語となっている。劇中で仕事、家庭、そして登山のいずれにも全力を尽くす純子の完璧を目指す姿勢は圧倒されるほどで敬意を抱く。一方で、母との比較に悩み家を出た息子や、距離を置いた仲間たちの心情に、個人的にひしひしとリアリティを感じた。拗れてしまう関係について、純子がそれをどう受けとめ、どのような思索を重ねたのか、その過程がもう少し描かれていたらとも感じる。ただしこの映画はフィクションではなく実在の人物に基づく物語であり、すでにご本人が故人であり、関係者の方々やそのご家族が存命であることをふまえると、こうした表現を選択したのだろうと考えられる。
70歳のときに腹膜がんステージVCで余命3ヶ月と告知されるも、手術と治療をしながら山に登り続ける姿は、どんな時も可能性を見つめて進む不屈の精神が感じられる。阪本監督はこの作品とどのように向き合い作り上げたかについて、このように語っている。「登山に馴染みのない私は、準備段階から戸惑いも多く、田部井淳子さんの人生を著書や映像にて少しずつ自分に置き換えながら、臨みました。置き換えれば置き換えるほど、遠い人に感じました。でも、それを身近な存在へと導くのが映画づくりの醍醐味。撮影が始まると、フィクションではあるけれど、田部井さんと吉永さんが重なり合うような感覚を得ました。視えないところで、お二人が互いに共振し合っている、そんな確信に至って、私は、迷いなく演出を遂行できたのです」

世界の山に挑み続ける登山家・多部純子役は吉永小百合が、がんによる余命宣告を受けても前向きに家族や周囲の人たちと共に生きてゆく人物として。吉永小百合は役作りのために人生で初めてピアスの穴をあけて撮影。また撮影前に、田部井氏が人生で初めて登ったという茶臼岳や、晩年にリハビリで夫と一緒に歩いたという日和田山などを訪れ、実際に山を登ったとも。そして純子のモデルである田部井淳子氏との出会いと、彼女をモデルにした役を演じたことについて、2025年10月17日に大阪で行われた舞台挨拶付き先行上映会にてこのように語った。「一度お目にかかったら、みんなが虜になってしまうくらいチャーミングな方。私がやっているラジオの番組へ2012年に来てくださったのですが、元気が良くて『素敵だな』とファンになりました。それから長い年月が経ちましたが今回、映画化ということで飛び上がるくらい嬉しくて。そういう想いで、この映画に入りました」
純子の夫・多部正明役は佐藤浩市が、会社勤めをしながら育児や家事に積極的に参加して妻を応援する家庭人として。「お母さんがやりたいことをやってくれるのが僕の趣味」という正明役を演じるにあたり、佐藤は撮影時の吉永とのエピソードについて、カメラが回っていない時も親しみを込めて呼び合ったとのこと。その撮影時のエピソードについて、2025年9月24日に東京で行われた完成披露試写会にてこのように語った。「僭越ながら劇中のように、撮影期間中は吉永さんと“お母さん” “お父さん”と呼び合うことができて、安心して撮影をすることができました」
そして編集者で登山仲間となり純子の親友になる北山悦子役は天海祐希が、純子を熱心にサポートする良き友として。吉永は2人の友情について、「お互いに助け合って生きていくことの大切さを感じました」とコメント。天海は純子と悦子のキャラクターと関係性について、前述の完成披露試写会にてこのように語った。「自分がしっかりしていないと人の支えにはなれない。小百合さん演じる純子さんは、ひたむきに自分の人生を歩んでいて、この人のために役に立ちたい、何かをしてあげたいと思われるような方だったし、そう思える悦子さんも素敵な方だと思う」
純子の娘・教恵役は木村文乃が、純子の息子で教恵の弟・真太郎役は若葉竜也が、青年期の純子役はのんが、青年期の正明役は工藤阿須加が、青年期の悦子役は茅島みずきが、エベレストを目指す女子登山クラブのリーダー的存在である新井涼子役は和田光沙が、同クラブで当初は純子と共にエベレストを目指していた岩田広江役は円井わんが、同クラブのメンバーである清水理佐子は安藤輪子が、丸山かおる役は中井千聖が、それぞれに演じている。
見どころはエベレスト登頂シーンや、東北の高校生の富士登山プロジェクトなど山登りのシーン。富士登山プロジェクトのシーンは実際に富士山にて、がん検査の後に純子と正明と教恵の3人で登山をするシーンは福島の御霊櫃峠にて。エベレストのベースキャンプや登頂シーンは、立山連峰を望む国見岳・室堂で撮影された。また“高校生の富士登山”のためのチャリティーコンサートで純子がシャンソンを歌うシーンでは、吉永がアイルランドの曲「You Raise Me Up」を歌唱。日本語の歌詞はEXILEのATSUSHIが歌っている歌詞が採用されている。劇中のステージでは吉永のやさしい歌声と美しいメロディが調和し、印象的なシーンになっている。「You Raise Me Up」は筆者も昔からとても好きな曲のひとつであり、シークレット・ガーデンやジョシュ・グローバン、ケルティック・ウーマンによるカバーを今もよく聴いているため、この曲の魅力が多くの観客に新たに伝わることが嬉しく感じられた。

また2025年9月に韓国で開催された第10回ウルサンウルジュ山岳映画祭にて、この映画は若い世代が選出する「Youth Jury Award(ユース審査員賞)」を受賞。田部井淳子氏の息子である田部井進也氏が現地にスピーチにて、観客と製作陣やキャストへの感謝をこのように伝えた。「この映画祭で上映された作品は、主にドキュメンタリーでした。それら多くの映画を純粋な気持ちで観ている若い人たちが、この作品を選んでくれたということが、全てを語っているのかなと思います。老若男女、山が好きとか関係なく、いろいろな方に受け入れてもらえていると感じました。今回、韓国に来てたくさんの方に母のことを伝えることができたこと、『てっぺんの向こうにあなたがいる』を製作していただき、改めて心から感謝いたします」
阪本監督は、普段は映画を制作している時には、国際映画祭に出したいとは思わず、まずは日本の観客にみて欲しいし、その延長線上に国際映画祭があると思っているとのこと。ただ2025年9月の第73回サン・セバスティアン国際映画祭にて上映された時にある実感があり、考えが変わったという。監督はこのことについて、完成披露試写会にてこのように語った。「今回サン・セバスティアンに行って田部井淳子さんが世界中に知られている方ということを再確認し、登山家がいない国はないだろうし、田部井さんを認知している全ての国に広まってほしい」
そして吉永はこの映画製作に関わる興味深いエピソードを、完成披露試写会にてこのように話した。「実は、アメリカで田部井さんの映画をつくろうという話があった。ただその契約期限が切れたので日本でこの映画をつくることができて、ラッキーだった。天国から淳子さんが応援してくれたのかもと思っている」
生涯で76ヵ国の最高峰・最高地点の登頂に成功した日本を代表する女性登山家・田部井淳子氏の実話をもとに描く物語。家族や仲間との関係、病との向き合い方など、彼女の生き方や精神を伝えるこの作品は、観る者それぞれに異なる感情を残すだろう。吉永小百合は主人公・純子のモデルとなった田部井淳子氏の生き方に心を寄せ、完成披露試写会にてこのように敬意を込めてメッセージを伝えた。「その前向きな生き方に憧れたし、世界中の全ての山に登頂できる、素晴らしい決断力をお持ちの方。私も淳子さんの一歩一歩前にという言葉を忘れずに、前に歩いていけたらと思っている」
最後に、阪本監督が第73回サン・セバスティアン国際映画祭にて観客に伝えたメッセージをご紹介する。「この映画は山の映画でもあり、登山の映画でもありますけど、それ以上に家族の映画です。主人公が後年、いろんな困難と闘いながら、それを乗り越えたくましく生きた。その姿が皆さんの心を打ってくれればなと思っております」
| 公開 | 2025年10月31日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開 |
|---|---|
| 制作年/制作国 | 2025年 日本 |
| 上映時間 | 2:10 |
| 配給 | キノフィルムズ |
| 英題 | Climbing for Life |
| 監督 | 阪本順治 |
| 脚本 | 坂口理子 |
| 原案 | 田部井淳子「人生、山あり“時々”谷あり」(潮出版社) |
| 出演 | 吉永小百合 のん 木村文乃 若葉竜也 工藤阿須加 茅島みずき 円井わん 安藤輪子 中井千聖 和田光沙 天海祐希 佐藤浩市 |

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