モンテ・クリスト伯

純真な青年が濡れ衣で逮捕、脱獄し復讐の鬼に
憎悪や苦悩の呪縛からの脱却を問いかけ、
魂の救済と愛の可能性をドラマティックに描く

  • 2025/11/04
  • イベント
  • シネマ
モンテ・クリスト伯©2024 CHAPTER 2 - PATHE FILMS - M6 - Photographe Jérôme Prébois

フランスの作家アレクサンドル・デュマの代表作を、新たなキャストとスタッフによりドラマティックに映画化。出演は、『イヴ・サンローラン』のピエール・ニネ、『海辺の家族たち』のアナイス・ドゥムースティエ、『12日の殺人』のバスティアン・ブイヨン、『エル ELLE』のロラン・ラフィット、『永遠のジャンゴ』のパトリック・ミル、『ミッキー17』のアナマリア・ヴァルトロメイほか。監督・脚本は共同監督が3作目となるマチュー・デラポルト、アレクサンドル・ド・ラ・パトリエールが手がける。若き航海士エドモン・ダンテスは最愛の恋人メルセデスと結婚式の日、謀略により孤島の刑務所に投獄される。14年後に脱獄した彼は復讐を実行していくが……。恋人、友人、そして未来、すべてを信じていた健やかな青年が、投獄され絶望し無気力に、その後脱獄し自身を陥れた人物たちに復讐を開始する。ダンテスは何をどのように仕掛けてゆき、協力者となった人物たちはどのように進む道を選んでいくのか。人は強い憎悪や苦悩の呪縛から脱却することはできるのか、悲劇をどのように乗り越えることができるのか。人々の不屈の意志や深い情の行方をしっかりと描き、脱獄と復讐の有名な悲劇でありながら、ある種の希望につながる力強いドラマである。

1815年、マルセイユの若き航海士エドモン・ダンテスが、いわれなき罪を着せられ、最愛の女性メルセデスとの結婚式のさなかに逮捕。終身刑となり孤島の刑務所に投獄され、心身共に衰弱していく。しかし隣の独房に囚われた司祭の導きにより希望を取り戻したダンテスは、14年後に奇跡的な脱獄に成功し、莫大な財宝を手に入れる。やがてイタリアの大富豪“モンテ・クリスト伯”を名乗りパリに現れたダンテスは社交界の花形となり、緻密な計画を実行。20年前にダンテスの人生のすべてを奪った3人の仇敵、検事ヴィルフォール、元船長のダングラール、ダンテスの親友だったメルセデスのいとこフェルナンへの復讐を開始する。

バスティアン・ブイヨン,アナイス・ドゥムースティエ,ピエール・ニネ

ドラマや映画、アニメやコミックやゲームなどさまざまなモチーフとして現代も親しまれている、フランスの作家アレクサンドル・デュマが1844年〜1846年に発表した小説『モンテ・クリスト伯』が、本国フランスのスタッフとキャストにより新たに映画化。物語のイメージとして、渋い俳優たちが悲劇的なドラマをどこまでもシリアスに、という感覚もあるなか、今回は主演のピエール・ニネがとてもフレッシュであることが印象的だ。ピエールは冒頭のパートの希望にあふれる好青年、船長に抜擢され、最愛の婚約者と結婚が決まり、親友や父親を心から信頼し……というキャラクターがとてもよく似合っていて生き生きと輝いていることから、投獄され髭も髪も伸び放題でボロボロに汚れて無気力になることの悲壮さ、生来の姿形が美しいことから復讐に燃えてさまざまな変装で別人に化けて相手を騙すシーンの驚き、というギャップにより一層ドラマティックに。復讐を仕掛けていくなかで自身の心がゆらぐさまもエモーショナルであり、自然にエドモンを応援したくなる、という流れが表現されている。ド・ラ・パトリエール監督は、「私たちがこだわったのは『モンテ・クリスト伯』という大作を完全に映像化することです。この文学作品の全ての側面を壊さずに、観客に全く異なる感情の数々を体験してもらうことです」と話し、原作の小説とエドモンというキャラクターの魅力についてこのように語っている。「私がこよなく愛しているのは、デュマによる天才的なジャンルの融合です。なぜなら『モンテ・クリスト伯』は冒険小説でありながら、ラブストーリーでもあり悲劇でもスリラーでも人間の生き様や政治を風刺したコメディでもあります。こういったジャンルが互いに影響し合って、次々にいろんな要素が生まれてゆく。ロマンチックな時間が流れたり、笑えたり、皮肉めいていたり、ときには恐ろしい瞬間があったり、というふうに。主人公のエドモン・ダンテスは文学を超越した存在で、神話やファンタジーの世界に属していると言っていいと思います。彼の性格や物語には、説明のつかない感情や詩的な部分があります」
 そしてデラポルト監督は、エドモンという主人公の独特な魅力とヒーローとしての特異性についてこのように語っている。「(エドモンは)立派な主義は持ち合わせていないし、祖国もなければ、信じている宗教もない。そして、あらゆる仮面をつけてつかみどころのない人物を演じます。上流階級の偽善に挑んでいくが、革命家ではなく、ものすごく近代的なヒーローだと思います。なぜなら、とても個人主義だからです」

アナイス・ドゥムースティエ,ピエール・ニネ

大富豪モンテ・クリスト伯ことエドモン・ダンテス役はピエールが、初々しく満ち足りた好青年から転落し復讐の鬼と化す20年間を劇的に表現。共に復讐する仲間たちやメルセデスとの対話を経てどのように心情が変わるのか、という表現も引きつけるものがある。ピエールは原作者デュマの小説とエドモンを演じることへの思いをこのように語っている。「デュマは遊び心がありながらも、知的な深みを感じる方法で、私と文学と出会わせてくれました。物語の世界を想像し、読みながら心を揺り動かされ、登場人物を具現化したい、小説の中で描かれるイメージを現実の世界で見たいと強く思ったのは、デュマの作品が初めてでした。デュマがつくる登場人物たちは信じられないくらい濃密で複雑です。エドモン・ダンテスは神話に登場する英雄のひとりだと思えるぐらいです。一生のうちに、エドモン・ダンテスを演じる機会が巡ってくることは想像さえできませんでした」
 エドモンが“闇堕ち”することについて、ピエールは強く惹かれたそうで、監督たちにこの闇の面が重要だと何度も伝えたとも。ピエールはエドモンが復讐に感じる喜びと迷いと焦燥にゆれる心情、作品の軸にある哲学的な問題について熱心に考えたと語る。「最近の映画やドラマは闇について掘り下げて考えさせるものが多いと思います。重要なのはうわべだけの表現はしないことで、正義や愛や友情を信じられなくなったときに、人間の魂はどんな闇に覆われるのかということを、私たちはよく考えなければいけないと思いました」
 ド・ラ・パトリエール監督はピエールをこのように称賛している。「ピエールは本当に素晴らしい俳優です。私たちの作品に並外れた知性をもたらし、積極的に作品づくりに関わってくれました。そして、1日の撮影のなかで3つの役を演じ分ける日もありました。朝は20歳になり、昼には40歳になり、5時間のメイクに耐え別の人物になる……というふうに」
 エドモンの婚約者メルセデスに役はアナイス・ドゥムースティエが、エドモンを陥れる検事ヴィルフォール役はロラン・ラフィットが、エドモンを恨む元船長のダングラール役はパトリック・ミルが、エドモンの親友でいとこのメルセデスに思いを寄せるフェルナン役はバスティアン・ブイヨンが、エドモンが獄中で出会うファリア司祭役はピエルフランチェスコ・ファヴィーノが、ヴィルフォールの私生児アンドレア役はジュリアン・ドゥ・サン・ジャンが、父をフェルナンに殺害され奴隷として売られた過去をもつエデ役はアナマリア・ヴァルトロメイが、エデに惹かれるフェルナンの息子アルベール役はヴァシリ・シュナイダーが、それぞれに演じている。

ピエールは役作りのため「肉体改造のトレーニングは毎回4〜6時間かけて行いました」と話し、乗馬とフェンシング、スタティック・アプネア(フリーダイビングの競技種目のひとつ。水中や水面で動かずに息を長く止めていられるかを競う競技)のトレーニングを受けたとのこと。ピエールは脱獄のため海に沈むシーンも自身で演じたそうで、このシーンについて「今回の作品で最も恐ろしく最も刺激的な挑戦」とコメント。そして水深15メートルまで沈み重りつきの袋から脱出したスタントについて、このように語っている。「あるテイクでは私を縛りつけている埋葬布の結び目がほどけませんでした。おまけに、強く結ぶようにお願いしたのは私自身なんです!ダンテスがもがく姿をみせたかったし、ラザロの復活のように埋葬布から蘇ってくるところを、観客に目撃させたかったのです。監督たちにこの提案をした後から、ステファン・ミフス(スタティック・アプネアの世界チャンピオン)のもとで訓練を始めました。思いがけない発見は、撮影の合間にセットでも度々息を止めるほどスタティック・アプネアに夢中になったことです」
 原作にはない映画の新たなシーンとして注目は、モンテ・クリスト伯とフェルナンによるフェンシングの対決だ。激しい死闘が展開するこのシーンは、ロスチャイルド家の城だったというパリ郊外のシャトー・ド・フェリエールにて撮影。劇中ではモンテ・クリスト伯が暮らす場所として登場し、壮麗な歴史的建造物や端正な庭園がドラマティックなストーリーを引き立てている。

パトリック・ミル,ロラン・ラフィット,バスティアン・ブイヨン

「待つこと 希望をもつこと」
 『モンテ・クリスト伯』の有名な言葉は映画でも印象的に伝えられる。また映画のラストの展開は原作とは異なるものであり、観客に委ねられ自由に受け取ることができる表現で、個人的には希望を感じることができた。解釈は観る人それぞれによるなか、ピエールはこの映画のラストについてこのように語っている。「私にも答えはわかりません。きっと、すべての気持ち(愛、赦し、懐古など)が少しずつ混じり合っているんだと思います。観る人によって最後に感じることは違っていますし、私はそれぞれが望むものが見えると確信しています。<中略>私はこの結末は美しいと思いました。それは悲劇であり、悲劇よりも美しいものはほかにないからです。もしかしたら、ある種の安堵を感じているのかもしれません。いずれにしても、美しさと同時にかすかな恐ろしさも感じました」
 共同監督であるマチュー・デラポルトとアレクサンドル・ド・ラ・パトリエールは、脱獄と復讐劇で有名なこの物語について、映画で描きたいと強く考えたことがあったと語る。「私たちは壮大な叙事詩的な要素と、素晴らしい愛の物語の要素を併せ持った作品にしたかったのです」
 そしてド・ラ・パトリエール監督はエドモンの復讐と魂の救済についてこのように語っている。「苦しみに耐え、自分に苦しみを与えた人たちに復讐をすることで傷が癒えると信じている無実の男の物語です。自分自身を赦すために、この復讐は正しいことなのだと自分に言い聞かせている。だが彼は常に葛藤を続け、深い闇に沈んでいってしまう。法律も信仰心も捨てるほどに堕ちていく。彼はそういった闇を乗り越えなければならないのです。その先で、愛や赦しによって再生の可能性に触れることができます。そういう意味で普遍的で時代を超えた救済の物語だといえると思います」

作品データ

公開 2025年11月7日よりTOHO シネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2024年 フランス
上映時間 2:58
配給 ツイン
原題 Le Comte de Monte-Cristo
監督・脚本 マチュー・デラポルト、アレクサンドル・ド・ラ・パトリエール
出演 ピエール・ニネ
アナイス・ドゥムースティエ
バスティアン・ブイヨン
ロラン・ラフィット
パトリック・ミル
アナマリア・ヴァルトロメイ
ヴァシリ・シュナイダー
ジュリアン・ドゥ・サン・ジャン
ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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