山田洋次監督×倍賞千恵子×木村拓哉
マダムがタクシー運転手と共に思い出を巡る
フランス映画を原作に人情の温もりを伝える
©2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会『こんにちは、母さん』の山田洋次監督がフランス映画『パリタクシー』を原作に、東京を舞台として描く。出演は、『男はつらいよ』シリーズから山田監督とのタッグが今回で70作目となる倍賞千恵子、『武士の一分』以来19年ぶりの山田監督作品となる木村拓哉、2人はアニメーション映画『ハウルの動く城』以来、実写では初の共演となる。そして蒼井優、迫田孝也、優香、中島瑠菜、神野三鈴、イ・ジュニョン、笹野高史ほか。タクシー運転手の宇佐美浩二は、ある日85歳の高野すみれを東京・柴又から、神奈川・葉山の高齢者施設まで送ることに。すみれは思い出の場所に寄りたいと話し、いくつかの場所を巡る。60年以上前のすみれの青春の頃、初恋、結婚、そして思いがけない出来事について、また宇佐美の娘の進学のこと、家計が厳しいこと、夫婦の言い合い……タクシー運転手と乗客による密室の会話劇を軸に、すみれの若い頃の思い出と今を生きる宇佐美と家族たちの話が交錯し、不思議な信頼が築かれていく。出会いと対話、人情をあたたかく描く人間ドラマである。
タクシー運転手の宇佐美浩二は、妻の薫、娘の奈菜と3人でつつましく暮らしている。娘が夢だった音大の付属高校に推薦入学が決まり喜ぶ一方、その高額な費用に加え家の更新料などに頭を悩ませていた。そんなある日、浩二のもとに体調不良の同僚の代わりに85歳のマダム・高野すみれを東京・柴又から神奈川・葉山の高齢者施設まで送るという依頼が舞い込む。走り出したタクシーの車中、最初は互いに無愛想だった2 人だが、会話を交わすうち次第に心を許し始めたすみれは「東京の見納めに、いくつか寄ってみたいところがある」と浩二に寄り道を依頼する。

“終活”に向かうおしゃべり好きのマダムと、生活が楽とは言えない無愛想なタクシー運転手。世代も立場もまったく異なる2人が出会い、流れゆく車窓の風景を背景に車内の対話から2人の心象風景が変化してゆく物語。すみれの要望で向かうさまざまなエリア、移動の途中で通る東京の景色を観光のように楽しめるのも特徴だ。原作の映画『パリタクシー』では当時の女性がいかに抑圧されていたか、紆余曲折を経て生き抜いた母親世代への敬意と讃歌が色濃く描かれているのに対し、『TOKYOタクシー』では現代を生きる運転手の視点により、山田監督の持ち味である人情の風合いや家族の日常のトーンがより強く表現されている。どちらがいいかではなく、同じストーリーであっても作品それぞれの味わいとして楽しむといいだろう。監督は原作の映画『パリタクシー』に惹かれた理由について、2025年1月に行われた製作発表記者会見にて、「フランス映画『パリタクシー』を観た時に、内容は重いのに何故ここまで軽快かつユーモラスに観られるのか。どんなところにその秘密があるのだろうかと考えさせられた」とコメント。そして日本を舞台に映画化を決めた理由についてこのように語った。「こんな時代だからこそ軽やかに楽しく観られる作品を観たいという気持ちが僕にもあるし、この素材はそのような作品になりえるのではないかと思う」

人生の終活に向かうマダム・高野すみれ役は倍賞千恵子が、おしゃべり好きで頭の回転が早くはっきりとものを言う女性として。倍賞は気が強く髪型やネイルも華やかなすみれのキャラクターについて、「こういう役は初めてで、挑戦だった」とコメント。また倍賞は映画制作について、「私はいつも、映画は照明さんやカメラマンさんなど全員が同じスタートラインに立って、『よーいスタート!』で一つの山を登っていくことだと思っています」と話し、今回で70作目となる山田組への思いを2025年10月20日に東京で行われた完成披露試写会にてこのように語った。「山田作品は私にとって学校でした。それもお芝居の学校ではなく、人間としてどう生きていくか学ぶ場としての学校でした。そして、山田さんは昔からバイタリティーがあって、変わらないです。今回もNGをたくさんいただきました。現場に入った瞬間から『こんな素敵なスタッフの皆さんと山登りができるんだな』という想いでした」
日々に疲れているタクシー運転手・宇佐美浩二役は木村拓哉が、妻子を大切にしながらも経済的に苦しい状況に悩む人物として。『武士の一分』から19年ぶりの山田監督作品への出演である木村は、「こんなに贅沢でハートフルな現場は滅多になく、巡り合えたことは凄くラッキーだと思います。映画を撮影しているという“原点”のようなものを改めて考えさせてくださった現場でした」と山田組への強い思いを喜びと共にコメント。木村は宇佐美という人物への思いと観客へのメッセージを、2025年11月12日に大阪で行われた公開直前イベントにてこのように語った。「僕が演じた浩二は劇中でひとつだけ大きな間違いを犯すんですが、それは“今を生きているからこそ起こり得る間違い”だと思っています。観客の皆さんには、浩二の間違いをただ否定するのではなく、苦悩の末に出した答えとして受け止め、この作品が示すように、間違いとして終わらせず本作のタクシーのように、皆さんが前に進み続けるための力になることを願っています」
溌剌とした若い頃のすみれ役は蒼井優が、10代のすみれが恋をする在日朝鮮人2世であるキム・ヨンギ役はイ・ジュニョンが、すみれと結婚後に態度が豹変する夫・小川毅役は迫田孝也が、喫茶店を経営し女手一つで娘を育てるすみれの母親・高野信子役は神野三鈴が、すみれの息子・小川勇役は木村優来が、パートや家事に追われている宇佐美浩二の妻・宇佐美薫役は優香が、音大の付属高校に推薦が決まった浩二の娘・奈菜役は中島瑠菜が、すみれの終活をサポートする司法書士の阿部誠一郎役は笹野高史が、ある事件を担当する裁判官役はマキタスポーツが、すみれが向かう高齢者施設のスタッフ役は北山雅康、すみれと浩二が食事をするレストランで居合わせた客役は小林稔侍が、それぞれに演じている。さらに浩二がスマホで話す声の出演として、浩二の姉・圭子役は大竹しのぶ、浩二の仕事仲間で体をいためた運転手・佐田役は明石家さんまと、もと夫婦が参加していることもユニークだ。
山田監督は打ち合わせの段階から、「木村拓哉くんで、ドライバーを考えたら、急にイメージが広がるんだよ」と話し、19年ぶりに山田組に参加した木村について、「もう一度この人と仕事をする機会がないかとずっと思っていた」とコメント。監督は倍賞と木村をはじめすべての出演者への感謝と共に、この映画のへの思いを、2025年10月20日に東京タワーで行われたタクシーセレモニーのイベントにてこのように語った。「僕の書いた脚本でお芝居する二人を見るというのは、僕にとってはとても楽しみでした。昔から映画界では『いい脚本ができて、気に入ったキャスティングが揃えば、8割方その映画は成功している』と言われています。この作品は僕なりにいい脚本ができて、素敵なキャストが集まってくださっている時点でうまくいっていると自分に言い聞かせていました」

東京を走行するタクシー内のシーンは、VP(バーチャルプロダクション)撮影にて。スタジオのセットの中にタクシーを入れ、その周りを囲むLEDパネルに事前に撮影した車窓の風景を映し、そこで役者たちが演じる手法だ。劇中では鮮やかな黄色に輝く神宮外苑のイチョウ並木や夕暮れの横浜の街、ゆっくりと夜景の中を車が走っていく景色などが美しい。山田監督は映画を作ることへの思い入れについて、完成披露試写会にてこのように語った。「映画を作るという仕事は一言では説明できないほどに難しいんです。エキストラやスタッフ、キャストの皆さんと話し合いながら作り上げていくのが映画で、他の芸術にはないことだと思います。一緒に作り上げていく楽しさを全員が抱いてクランクアップを迎えて、僕自身も楽しく撮影できるのがベストです」
また山田監督は第38回東京国際映画祭にて映画界への貢献を称える「特別功労賞」を受賞。2025年10月29日に東京国際映画祭で上映の際の舞台挨拶にて、受賞への感謝と映画祭に参加する人たちへのメッセージをこのように伝えた。「長い間、映画を撮ってきたことを褒められて、今回この賞をいただけたと戸惑いながらも思っています。僕が助監督として映画界に入った70年近く前は、日本映画は本当に充実していました。まさしく日本映画の黄金時代だったと思います。まだテレビもそれほど普及していなかったし、韓国や中国もそこまで映画を作っていませんでしたので、映画には多くの観客が集まり娯楽の王座だったんです。そのころの映画界は豊かでゆとりがあったと思います。その時代に比べると、今は苦しい時代で、今の映画人は苦労して映画を撮っているので時々可哀そうに思うこともあります。そういう時代だからこそ、このような映画祭で『映画は何て素晴らしいものだ』と、もう一度日本のみならず世界中の人たちと考えたいです」
1961年の監督デビューから60年以上、94歳の今も第一線で活躍し続ける山田監督だが、今回は打ち合わせの席で撮影を最後までやり通せるか不安だと話していたとのこと。撮了の時にスタッフとキャストに向かい、山田監督は帽子をとり頭を下げてこのように感謝の気持ちを伝えたそうだ。「今までいろんな映画を撮ってきたけど、今回はひとしおだね。無事にこの日を迎えられるか、クランクインの時は心配だった。だけど、スタッフの力でここまでたどり着くことが出来ました。どうもありがとう」
松竹創業130周年記念作品である『TOKYOタクシー』はシンガポール、台湾、香港での公開が決定。世代や文化が異なる登場人物たちが心を通わせるあたたかい物語が、東京という街の魅力とともにやさしい余韻を届けるだろう。最後に、倍賞と木村、山田監督の観客へのメッセージをご紹介する。
倍賞「戦後80年のこの年に『TOKYOタクシー』に出演する事が出来、本当に良かったと思っています。<中略>木村さんは豊かな才能を持っていらっしゃるので、じっくり向き合うことで、その奥にある才能が次々と出てくる方なので、とても楽しく撮影させていただきました。(劇中には)私の大好きなイチョウ並木も登場するので、東京の景色と共にこの物語を楽しんでいただけたらと思います。そして映画を見終わった後に、皆さんが『ハイタッチしない?』と言いたくなるような、そんな気持ちになっていただけたら嬉しいです」
木村「山田監督という巨匠のもと、倍賞さんとご一緒にお芝居をさせていただく中で、なかなかOKが出ない時も、悔しいという気持ちではなく、それさえも楽しいと感じられました。OKが出た時ももちろん嬉しいのですが、倍賞さんと共演させていただき、その一つ一つの工程が楽しかったです。<中略>素敵なキャスト、スタッフで作り上げた作品です。『映画ってやっぱりいいな』と、ホッコリ温かい気持ちになっていただけたら嬉しいなと思います」
そして山田監督は大阪の公開直前イベントにて、「この映画に登場する2人は決して特別な人ではないんですが、最後に不思議な奇跡が起こる映画です」と話し、完成披露試写会にてこのように伝えた。「今日ここにいる素敵な俳優さんたちと映画を作り上げました。一生懸命に生きる人の一番普遍的な部分を描きました。そんな人たちが本当に幸せになってほしいというエールがこの映画には込められています。もし気に入ってくださったら、周りの皆さんにもお伝えくださると嬉しいです」
| 公開 | 2025年11月21日より全国ロードショー |
|---|---|
| 制作年/制作国 | 2025年 日本 |
| 上映時間 | 1:43 |
| 配給 | 松竹 |
| 英題 | Tokyo Taxi |
| 監督 | 山田洋次 |
| 脚本 | 山田洋次 朝原雄三 |
| 原作 | 映画『パリタクシー(原題/UNE BELLE COURSE)』(監督:クリスチャン・カリオン) |
| 出演 | 倍賞千恵子 木村拓哉 蒼井優 迫田孝也 優香 中島瑠菜 神野三鈴 イ・ジュニョン マキタスポーツ 北山雅康 木村優来 小林稔侍 笹野高史 |

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