無罪が証明できるのは死刑執行までの90分
有罪確率9割の刑事はAI裁判を覆せるか
ほぼリアルタイムで展開する近未来スリラー

有罪確率97.5%で刑事が逮捕。AI裁判官の判定で死刑執行まであと90分、刑事は無罪を証明できるのか。出演は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『ジュラシック・ワールド』シリーズのクリス・プラット、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』のレベッカ・ファーガソンほか。監督は『search/サーチ』のティムール・ベクマンベトフが手がける。厳格な治安統制のためにAIが司法を担う2029年のアメリカ。刑事レイヴンが目を覚ますと、妻殺しの容疑でマーシー裁判所に拘束されていた──。これまでマーシー裁判所に犯罪者を送り込んできた刑事が逮捕される側となり、刻々と死刑執行まで追い詰められてゆく。防犯カメラやドライブレコーダーなどで暴かれていく刑事の私生活と言動の記録、刑事の妻子や関係者のSNSやスマートフォンの記録、徹底して事実と確率を判断基準とするAI裁判官はどのように裁定するのか。ほぼリアルタイムのリミットで展開していくアクションスリラーである。
2029年のアメリカ。凶悪犯罪が増加し、厳格な治安統制のためにAIが司法を担っている。ロサンゼルスの殺人課の刑事レイヴンが目を覚ますと、妻殺しの容疑でマーシー裁判所に拘束されていた。レイヴンは冤罪を主張するが、覚えているのは事件前の断片的な記憶のみ。自らの無実を証明するには、AIが支配する世界中のデーターベースから証拠を集め、AI裁判官が算出する現在の有罪確率97.5%を92%まで下げなければならない。無罪を証明できる制限時間は90分。さもなくば即処刑──。

映画の上映時間とほぼリアルタイムのリミットで展開する、緊張感あふれるスリラー。メインカットである椅子に拘束されたクリスの姿が、日本で昭和世代に親しみのある某クイズ番組のビジュアルと重なると、この連載の担当さんがB級感……といぶかしんだのも理解できた。ただ実際には意外と現代的スリラーとして楽しめる内容となっている。有罪確率がじわじわとあがるなか、本当に無罪を証明できるのか、という経緯が描かれていく。こうした物語では主人公の容疑者が清廉潔白な人物であることも多いがレイヴンはそうではない。アルコール依存症による暴行歴や記憶障害、家庭問題など観客の印象を急落させてから主人公への共感が徐々に取り戻されていく展開も引きつけるものがある。ベクマンベトフ監督は2018年の『search/サーチ』をはじめスクリーンライフ(物語のすべてがPC、スマートフォン、タブレットなどの画面上だけで展開する映像形式)の先駆者として知られ、この映画でもその手法が生かされている。監督はこの映画の面白さについて語る。「『MERCY/マーシー AI裁判』は、とても濃密でスリリングなミステリーです。スクリーンライフというスタイルを新たな形で更新しつつ、非常にエンタテインメント性が高く、シリアスで、心に残る題材を扱っています。この物語を愛したのは、スクリーンライフ作品としてだけではなく、伝統的な“映画”としても成立しているからです。テクノロジーと、私たちがどう振る舞い、どう関わるのか――そこが描かれています」

AI裁判にかけられる容疑者レイヴン刑事役はクリス・プラットが、懸命に無罪を証明しようとする人物として。クリスはこの物語について、「今まで読んだことがないタイプの、発明的なミステリーだと思いました」と話し、この作品の面白さについてこのように語っている。「『MERCY/マーシー』は“マルチジャンル”映画です。法廷ドラマであり、スリラーであり、ミステリーであり、アクションでもある。そして、ティムール(監督)が育ててきたジャンルであるスクリーンライフを活用している。本作は、そのすべてを次の段階へ押し上げています」
レイヴンに対峙するAI裁判官マドックス判事役はレベッカ・ファーガソンが、人間の姿でAIを具現化した徹底して事実を追求する存在として。擬人化されたAIそのものを演じたレベッカは、AIへの客観的な考えを語る。「本作は、人工知能が拡大していく一方で、“真実を明らかにする”という点ではまだ限界がある世界の欠点を浮き彫りにします。私たちは正確さを期待してしまいます。でも今は、オンラインの世界が何を語っているのかを、ますます疑ってかからなければなりません」
殺害されたレイヴンの妻ニコール役はアナベル・ウォーリスが、レイヴンとニコールの10代の娘ブリット役はカイリー・ロジャーズが、レイヴンの相棒ジャクリーン“ジャック”ディアロ刑事役はカーリー・レイスが、レイヴンが参加している断酒会のサポーターで家族ぐるみの友人ロブ・ネルソン役はクリス・サリヴァンが、それぞれに演じている。
クリスは以前に監督と『ウォンテッド』で仕事をして以来、また一緒にやりたかったと話し、ベクマンベトフ監督はクリスとレベッカを讃えてこのように語っている。「クリスと再び仕事ができたのはうれしかったです。そしてレベッカは私にとって“発見”でした。あれほどの才能を持つ女優がAI判事を演じたことが、とても強い力を生みました。キャストは完璧でした」
映画やドラマでもAIがテーマやキーワードとして登場することが増えている。この映画ではマドックス判事が、人の命を左右することはAIである自分にはできないため、死刑執行のシステムに直接干渉できないなど、倫理的な線引きなどが示されていて、社会におけるAIの実用性と限界、危険性などが浮き彫りになる面も興味深い。脚本を手がけたマルコ・ヴァン・ベルは、AIの実用化について書かれた実際の記事から着想を得たと語る。「近未来の科学技術の進歩予測を調べている時に、司法制度でのAI活用の可能性に触れた記事を見つけました。エストニアで、民事事件の意思決定を扱うAI判事が作られているというニュースを見つけた時、これは“配備する意図をもって、実際に開発が進められている”のだと理解しました。AI裁判所の中に裁判を据えることで、リーガルスリラー/法廷ドラマというジャンルを再活性化できる――その計り知れない可能性を感じたのです」
そして制作陣はこの映画の脚本を初期段階でAI倫理の専門家に意見を求め、練り上げていったという。この映画のAIに関わる倫理的課題について助言したのは、オバマ政権下で国際技術外交に関するアドバイザーを務めたベンジャミン・ブードローだ。彼はこの映画について、AI専門家が取り組んでいる問題の一部をスリラーとして扱っていると話し、実際に進行中の研究や技術開発とこの映画の関連性についてこのように語っている。「刑事司法を改善するためにAIやデータ解析ツールへ目を向けるという一般概念――犯罪の予測、有罪判定、社会への脅威やリスク評価――そうしたことは、いままさに全米の警察組織で能動的に進んでいます」
そしてレベッカとクリスはこの映画におけるAIについてこのように語っている。
レベッカ「人々がAIを疑い、人間とAIの関係について問い直してくれたらいいですね。人工知能は素晴らしいツールです。しかし、常に“ツール”であるべきで、人間の代替であってはなりません。物語として、AI依存がどう“致命的に誤作動”し得るかを、この映画は浮かび上がらせます」
クリス「ある意味この映画は、もしAIが司法制度に入り込むなら、どう制御されるべきか――“AI版・権利章典”のようなものを提示しているとも言えます。いまから2029年までに、どんな進歩があるのか分からない。数年後に誰かがこの映画を見て、『すごい、当たってる!』と言うかもしれません」

妻を殺した犯人は誰なのか、レイヴンは無実なのか、彼は90分というリミットのなかでその証明ができるのか、そしてAI裁判官は正しい判断を下せるのか。こうした問いが描かれていくなかで、個人的にはAIという存在がこのように変化する可能性がある、という表現が特に興味深く感じられた。またスクリーンライフという映像形式を確立してきたベクマンベトフ監督は、「スクリーンライフというジャンルには、説得力ある演技と、非常に地に足のついた語りが必要です」と話し、この映画に監督自身が込めた問いについて語る。「本作を始めた時、こう思いました。『現実の自分は、同時に二つの現実に住んでいる。物理世界と、ウィンドウやボタン、クリック、メッセージの世界だ。仕事も、誰かと喧嘩するのも、許すのも、物理世界ではなくそこで起きている。なのに、なぜ私たちは“それ”について物語を語らないのか?』と」
スクリーンライフのジャンルは、筆者はそれほど好まないものの、この映画を観て一幕ものの戯曲のような味わいがある場合もあり、昔ながらの映画好きも意外と楽しめるかもしれないと感じた。スクリーンライフはこれからもさまざまな形で作られていくだろう。実際に低予算で作れることから、若手製作者による意欲的な作品も増えている。そうしたユニークな視点による作品が増えていくことは、映画ファンの楽しみの幅が広がることになるのではないだろうか。
| 公開 | 2026年1月23日より日米同時公開 |
|---|---|
| 制作年/制作国 | 2026年 アメリカ |
| 上映時間 | 1:40 |
| 配給 | ソニー・ピクチャーズ |
| 映倫区分 | PG12 |
| 原題 | MERCY |
| 監督 | ティムール・ベクマンベトフ |
| 出演 | クリス・プラット レベッカ・ファーガソン カーリー・レイス アナベル・ウォーリス クリス・サリヴァン カイリー・ロジャーズ |

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