ブルームーン

独りでいた僕を 君はみていた
長年の相棒の新たな成功の陰で揺れる
作詞家ロレンツ・ハートの、ある一夜

  • 2026/03/09
  • イベント
  • シネマ
ブルームーン© 2025 FUNNY VALENTINE, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

アメリカの音楽と舞台シーンの先駆者のひとり、実在の作詞家ロレンツ・ハートのある一夜を描く物語。出演は、リンクレイター監督と9作目のタッグとなるイーサン・ホーク、『サブスタンス』のマーガレット・クアリー、『アイリッシュマン』のボビー・カナヴェイル、『007 スペクター』のアンドリュー・スコットほか。監督・製作は『6才のボクが、大人になるまで。』のリチャード・リンクレイター、脚本は作家でありオリジナルの脚本は今回が初となるロバート・キャプロウが手がける。作曲家のリチャード・ロジャースと作詞家のオスカー・ハマースタインによるミュージカル『オクラホマ!』の公開初日の夜。長年ロジャースの作詞パートナーだったロレンツ・ハートは、ロジャースの成功を祝いながらも、自身が取り残されるという恐れを内面に抱えながら、バーで軽口をたたいていた。名コンビのロジャース&ハートによる「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「ブルームーン」などのメロディにのせて、舞台の打ち上げの会場で過ごすロレンツ・ハートの心模様を描く。シニカルでユーモアがあり哀しいけれど軽妙。まるで彼の手がけた歌詞そのもののような映画である。

1943年3月31日の夜。作詞家のロレンツ・ハートはニューヨークの劇場街にある名店「サーディーズ」で、なじみのバーテンダーとくつろいでいる。店では、作曲家リチャード・ロジャースと新たな作詞パートナーであるオスカー・ハマースタインによる革新的なヒット作『オクラホマ!』初演の成功を祝う宴が催されていた。ロジャースはかつてハートと名コンビを組んだ盟友だ。ハートは華やかな気配を遠く感じながら、長年積み上げてきた自信が静かに崩れ落ちていくのを感じていた――。

マーガレット・クアリー,イーサン・ホーク

冒頭でロレンツ・ハートはバーテンダーと軽口を叩き合い、いま一番お気に入りのガールフレンドがいかに素敵かを語り、楽しく過ごしている。ように見えるが、話が進むうちに、ロレンツが内面の大きな不安やショックを見せないように振る舞おうとしているとわかる。実在のロレンツ・ハートは、映画でも冒頭に登場する母親の死去により大きく落胆し、1943年11月22日に大量の飲酒後、肺炎で死去。そのためこの映画は他界する約9ヶ月前の話、ということになる。フィクションの物語であるものの実話から着想を得たストーリーであり、ロレンツの不安定な言動から複雑な思いが痛いほど伝わってくる。人間関係や自身の能力に関わる失望や哀しみは多くの人々が経験するものであり、全体として軽妙なトーンでありながらも、しみじみと沁み入るものがある。リンクレイター監督はこの作品について以前からイーサン・ホークと長く話し合い、キャプロウの脚本に強く胸を打たれたと語る。「文化の中心から、静かに置き去りにされていく。その光景は、とても美しく、そして悲しいものです。物語のほとんどは一つの部屋で展開します。映画として成立させることの難しさは理解していました。雰囲気の面でも、演技の面でも、ワン・ロケーションで1本の映画が成立するのかを考え続けました」
 そしてイーサンは脚本との出会いと監督との対話についてこのように語っている。「リック(監督)から脚本が届いたのは、10年か12年前だったと思います。思わず声をあげて笑ってしまいました。すぐに電話をして、『この映画を作ろう』と伝えました。でも彼は、『君はまだ若すぎる。時期を待とう』と言ったんです。それで2〜3年ごとに集まり、脚本を読み続けました。年月を経るごとに脚本は洗練され、ついに撮るべき時が来たのです」

伝説的な作詞家ロレンツ・ハート役はイーサン・ホークが、哀しみや諦めや落胆など複雑な思いを抱えながらも陽気かつシニカルに振る舞う人物として。イーサンはスラリとしたスタイルとかっこいい容貌を大きく変えて、「誰?」というくらい見た目がまったくの別人レベルになっている。この姿について、2026年2月26日の「The Hollywood Reporter」の記事「Ethan Hawke’s First Acting Award Was a Bong From ‘High Times’ Magazine. With ‘Blue Moon’ He’s Aiming Even Higher(イーサン・ホーク、初の演技賞は「ハイ・タイムズ」誌から贈られた賞品。『ブルー・ムーン』でさらなる高みを目指す)」によると、髪を剃り上げて少なめの髪をなでつけ、姿勢を矯正して身長を約30センチ低く見せていたというからすごい。また同誌でイーサンは、ハート役は長いキャリアのなかで最も難しい役のひとつだとも。そしてこの映画におけるハートという人物について、イーサンは2025年11月13日の「NPR」の記事「'Blue Moon' pushed Ethan Hawke to his limit: 'That's a thrilling spot to be in'(『ブルー・ムーン』はイーサン・ホークを限界まで追い込んだ。「スリリングな現場だ」)」にて、このように語っている。「彼は部屋のなかで最もちっぽけで、最も小さい人物だが、世界で最も大きな個性をもっているんだ」
 名店「サーディーズ」のバーテンダーでハートの相談相手であるエディ役はボビー・カナヴェイルが、ハートが思いを寄せるエリザベス役はマーガレット・クアリーが、ハートと世間話をする、『スチュアート・リトル』などの児童文学で知られるアメリカの作家E・B・ホワイト役はパトリック・ケネディが、ピアニストで休暇中の軍人であるモーティ役はジョナ・リースが、ハートと組む前から作曲家ロジャースと創作した経験があり、改めてロジャースの新たな作詞パートナーとなるオスカー・ハマースタイン2世役はサイモン・デラニーが、それぞれに演じている。そしてこの映画の魅力について、ハマースタインとの創作による『王様と私』『ザ・サウンド・オブ・ミュージック』などでも知られる著名な作曲家リチャード・ロジャース役のアンドリュー・スコットはこのように語っている。「才能は平等に与えられるものではありません。途方もない才能を持ちながら、生き抜く力に欠けている人もいる。この映画は、創造性と人間の弱さ、その両方を見つめています。劇場という場所で育まれる友情と絆ーーそれこそが、この脚本の鼓動だと感じました」

アンドリュー・スコット,イーサン・ホーク

“ロジャース&ハート”の作詞作曲コンビで創作されたミュージカルは、『パル・ジョーイ』『青春一座』『シラキュースから来た男たち』『オン・ユア・トウズ』など、楽曲は「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「レディは気まぐれ」「いつかどこかで」そして「ブルームーン」などで知られ、スタンダードやジャズなどのミュージシャンたちによって今も世界中で演奏されている。誰もが知る孤独や寂しさを、どこか労わるような優しさと郷愁をたたえて美しく響かせるロレンツ・ハートの歌詞。「ブルームーン」の和訳の一節はこの映画の公式HPのトップページで紹介されているのでぜひ。イーサンは彼の詞について、「魔法のようで、ダイナミック。ユーモラスで、ほろ苦く、心を揺さぶる。そのすべてが共存しています」とコメント。リンクレイター監督はハートについて、「おそらく史上最高のアメリカ人作詞家」と称賛し、この映画のテーマについて語る。「『ブルームーン』は、2人の芸術家の別れを描いた映画です。ロジャースは前へ進み、ハートは取り残される。そこには愛もあれば、苛立ちもあります。しかし2人の人生は、それぞれ続いていくのです」
 監督はハートの生きづらさと切ない歌詞について、2025年11月3日の「NPR」の記事「'I love living inside a project for a long time,' says Richard Linklater(『私は長い間プロジェクトの中にいるのが好きなのです』とリチャード・リンクレイターは言う)」にてこのように語っている。「かわいそうなラリー…ゲイであることはアンダーグラウンドな世界だった。その性的指向は違法で、当時は逮捕される可能性もありました。カミングアウトしている人は誰もいなかった……生まれるには悪い時代だったんだ。でも作詞の世界で才能を発揮し、多くの曲を書き、彼らが多くのショーをこなすには絶好のタイミングで、彼とロジャースは1000曲も書いた。想像できますか? 彼は舞台や映画のために1000曲も書いて報酬をもらっていた。自分の芸術を磨くには最高の時期だったんだ。それがラリーにとって良い知らせであり、悪い知らせは彼の私的なことだった。彼は本当に苦労して、『ブルー・ムーン』の歌詞のように、おそらく自分の愛をもつことはなかっただろう。それが悲しい部分だ。でも、あの胸が張り裂けるような歌詞はそこから生まれたんだ」

ジョナ・リース,イーサン・ホーク

「心に夢もなく 愛する人もいない」。ロジャース&ハートの名曲と共に、人気の作詞作曲コンビだった彼らの転換期の一夜として、ハートの視点から描くほろ苦い物語。もしロレンツ・ハートが、同性愛に対する厳しい目があった1900年代前半のアメリカではなく、現代のように多様なパートナーシップが認められる世界に生まれていたら。そして最愛のパートナーを得て、幸せに満たされて暮らしていたら……と考えてしまう。それらに答えはないけれど。リンクレイター監督はこの映画のテーマについてこのように語っている。「愛と、それを取り巻くすべてが、この映画の核心です。『ブルームーン』を、ロジャースとハートの楽曲のように、美しく、ウィットに富み、そして少し哀しい作品にしたかったのです」
 映画『ブルームーン』は各国のさまざまな映画賞で高い評価を得て、2026年の第83回ゴールデングローブ賞では作品賞と主演男優賞の2部門にノミネートされ、第98回アカデミー賞でもオリジナル脚本賞、主演男優賞の2部門にノミネートされている。最後に、イーサンが映画賞ノミネートの喜びと映画制作への思い入れについて、2026年2月26日の「The Hollywood Reporter」の記事「Ethan Hawke’s First Acting Award Was a Bong From ‘High Times’ Magazine. With ‘Blue Moon’ He’s Aiming Even Higher(イーサン・ホーク、初の演技賞は「ハイ・タイムズ」誌から贈られた賞品。『ブルー・ムーン』でさらなる高みを目指す)」にて語ったメッセージをお伝えする。「ノミネートされたことは本当に嬉しかったですが、(脚本家の)ロバート・キャプロウがノミネートされたことはさらに嬉しかったです。人々が本当に映画を見てくれたと感じたからです。映画を見れば、リックと私が30年間の仕事で出会ったなかで最も驚異的な作品のひとつであり、本当に素晴らしい脚本だとわかります。私の仕事はインディペンデント映画の大使のようなものだと感じています。このような映画が作られてほしい。私の人生、そしてほかの人々の人生に、このような映画が存在する未来があってほしい。そうすれば、人々は自分が何を見るかを選択できるのです」

参考:「The Hollywood Reporter」、「NPR

作品データ

公開 2026年3月6日より新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2025年 アメリカ
上映時間 1:40
配給 ロングライド
原題 Blue Moon
監督・製作 リチャード・リンクレイター 
脚本 ロバート・キャプロウ
出演 イーサン・ホーク
マーガレット・クアリー
ボビー・カナヴェイル
アンドリュー・スコット
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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