罪人つみびとたち

ホラー、音楽劇、ヒューマンドラマ、風刺
ダンスホールは闇の来訪者により絶望の狂乱に
オスカー4冠の魅惑のドラマが凱旋上映

  • 2026/03/30
  • イベント
  • シネマ
罪人たち© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

2026年の第98回アカデミー賞にて、アカデミー賞史上最多の16部門にノミネート、主演男優賞、脚本賞、撮影賞、作曲賞の4部門を受賞。現在は配信に加え東京にて凱旋上映中、2026年4月3日より全国23劇場にて再上映される話題作。出演はマイケル・B・ジョーダン、ヘイリー・スタインフェルド、マイルズ・ケイトン、ジャック・オコンネル、ウンミ・モサクほか。双子の兄弟スモークとスタックは、一攫千金の夢を賭けて、当時禁じられていた酒や音楽をふるまうダンスホールを計画するが……。奴隷制度とジム・クロウ法が色濃く残る1930年代のアメリカ南部を舞台に、アフリカ系や中国系の人々のコミュニティを脅かす存在と、団結して立ち向かう住民たちの姿をドラマティックに描く。歴史背景のあるホラーであり音楽映画であり、さまざまなジャンルを大胆にミックスした力強いドラマである。

1932年、信仰深いアメリカ南部の田舎町。双子の兄弟スモークとスタックは、かつての故郷で一攫千金の夢を賭けた商売を計画する。それは、当時禁じられていた酒や音楽をふるまう、この世の欲望を詰め込んだようなダンスホールだった。オープン初日の夜、人々が宴に熱狂するなか、招かざる者たちの来客で事態は一変。歓喜は絶望にのみ込まれ、人知を超えた者たちの狂乱が幕を開ける。果たして、人々は夜明けまで、生き残ることが出来るのか――。

マイケル・B・ジョーダン

これまでに『クリード チャンプを継ぐ男』や『ブラックパンサー』シリーズなどを手がけてきたクーグラー監督による初のオリジナル作品。音楽映画としても非常に魅力的で人間ドラマとしても引き込む内容であり、観客を執拗に脅かすタイプのホラーではないため、筆者を含むホラーが不得手な観客にとっても過度に怯えずに観られる内容となっている。またアフリカ系や中国系の住民たちのコミュニティとそれを脅かす存在という対立構造をホラーに落とし込み、徹底抗戦する展開、ミュージシャンに始まり音楽という軸を貫いているところなど、ジャンル映画の要素を物語の構成として活かしている。時勢へのメッセージが自然に伝わるユニークな仕組み、ラストの後日談に考えさせられるもの、情に響くものがあるところも味わい深い。
 この物語の着想は監督に大きな影響を与えた人物のひとりである叔父のジェームズ(2015年没)との交流にあるとのこと。監督は叔父の故郷ミシシッピ州に一度も訪れたことがなかったことから改めて赴き、自身のルーツを知り、奴隷制度とジム・クロウ法の事実に向き合ったという。クーグラー監督は叔父との思い出と「何かオリジナルのものを作りたかった」ことについて、2025年4月21日の「GQ」の記事「Sinners Director Ryan Coogler on Michael B. Jordan, That Ending, and Kendrick Lamar(映画『シナーズ』の監督ライアン・クーグラーが、マイケル・B・ジョーダン、あのエンディング、そしてケンドリック・ラマーについて語る)」にて、このように語っている。「アイデアを思いつくまでには、本当に複雑な過程があったんだ。振り返ってみると、ある意味、ずっとこの映画を作ろうとしてきたようなものだった。でも本当のところは、『クリード〜』の制作中に亡くなった叔父との関係が中心だったと思う。叔父はミシシッピ出身で、ブルース音楽を紹介してくれた人なんだ。叔父はブルースしか聴かなかったんだよ。僕はジャンル映画が大好きで、自分でも作ってみたかった。映画を作りたいと気づく前から、そういう映画に惹かれていた。だからこの映画は自分でずっと観たいと思っていたタイプの作品だし、自分にしか作れないバージョンが作れたんだ」

シカゴから故郷に戻ってきた双子のスモークとスタック役はマイケル・B・ジョーダンが、盗みや脅しに銃で応じる、裏社会を生き抜いてきた男たちとして。寡黙な兄スモークと楽観的な弟スタックの2役を演じ、アカデミー賞の主演男優賞を受賞したマイケルは2026年3月16日(日本時間)にアメリカで行われた同賞の授賞スピーチにて、これまでに主演俳優として賞を受賞したアフリカ系の俳優たちの名前を挙げて、周囲の人々やファンに大きな感謝を伝えてこのように語った。「私がここに立っているのは、私より前に活躍した人々のおかげです。シドニー・ポワチエ、デンゼル・ワシントン、ハル・ベリー、ジェイミー・フォックス、フォレスト・ウィテカー、ウィル・スミス……そして、あの偉大な人たち、私の祖先、私の仲間たちのなかにいられること。<中略、謝辞>本当にありがとうございます。皆さんの応援を実感しています。皆さんが私の成功を願ってくれていることは分かっていますし、皆さんが私に賭けてくれたからこそ、私も成功したいと思っています」
 双子の幼馴染で親にアフリカ系の血が流れているものの見た目は白人女性であるメアリー役はヘイリー・スタインフェルドが、“プリーチャー・ボーイ”と呼ばれる教会の牧師の息子であり、双子の従兄弟で天才的なブルース・シンガーのサミー役はマイルズ・ケイトンが、アイルランド系の謎の男レミック役はジャック・オコンネルが、ヒーリングや呪術に通じているスモークの妻アニー役はウンミ・モサクが、サミーがのめり込むシンガーのパーリン役はジェイミー・ローソンが、綿花畑の労働者でダンスホールの用心棒となるコーンブレッド役はオマー・ミラーが、ベテランのブルースミュージシャンであるデルタ・スリム役はデルロイ・リンドーが、双子と古い知り合いの中国系アメリカ人で雑貨店の店主であるボー・チョー役はヤオが、その妻グレース役はリー・ジュン・リーが、それぞれに演じている。
 監督はキャストたちを称賛し、2026年2月20日「DEADLINE」の記事「‘Sinners’ Ryan Coogler, Michael B. Jordan, Wunmi Mosaku & Delroy Lindo Reveal The Inside Story Of How They Made History(『罪人つみびとたち』のライアン・クーグラー、マイケル・B・ジョーダン、ウンミ・モサク、デルロイ・リンドが、いかにして歴史を作ったのか、その舞台裏を明かす)」にてこのように語っている。「この映画の魅力は、素晴らしいキャスト陣にあります。才能あふれる人々が一堂に会し、一緒にいるととても楽しいんです。それぞれ異なるリズムを持っていますが、見事に調和しています」

マイルズ・ケイトン,デルロイ・リンドー,ほか

サミーが車の助手席でボトルネックをさっと指につけてギターを弾きブルースを歌うシーンや、サミーとデルタ・スリムが駅で即興演奏をするところなど音楽シーンは見どころが多い。やはりクライマックスのダンスホールでのシーンは非常に魅力的だ。このシーンでは、アフリカン、ネイティブアメリカン、中国系のルーツといった多様なルーツに根差した音楽とダンス、そしてヒップホップやDJプレイなど現代の音楽シーンに繋がる音楽表現とキャラクターたちが混沌とした熱狂のなかで踊り続け、狂乱へと向かっていくエネルギーをダイナミックに魅せるシーンとなっている。さらにダンスホールの外でアイリッシュやフォークのサウンドが展開するなど、ルーツミュージックから現代の音楽シーンへの流れとそれらの共存を映像とサウンドの両面から濃厚に惹きつける表現に成功している。そして2026年3月16日(日本時間)のアカデミー賞授賞式のステージでこのシーンが再現された時は、サミー役のマイルズがシャイな少年のイメージだった映画とは異なり、堂々たるたたずまいの青年ミュージシャンとして歌い演奏したパフォーマンスも素晴らしかった。
 さらに余談ながら個人的に面白いと思ったのは、劇中でキャラクターたちが輪になってニンニクを食べるシーンのこと。あれは本物のニンニクではなくホワイトチョコだったそうで、実はとても甘かったそうだ。

『罪人たち』は2026年のアカデミー賞で史上最多となる16部門(作品賞、監督賞、主演男優賞をはじめ、脚本賞、撮影賞、美術賞、音響賞、編集賞、視覚効果賞、歌曲賞、作曲賞、衣装デザイン賞、メイク・ヘアスタイリング賞、キャスティング賞)にノミネートされ大きな注目を集めた。クーグラー監督はこのことについて、前述の「DEADLINE」の記事にて、このように語っている。「『罪人たち』のこの瞬間は、私にとって、情熱を注げる仕事を見つける機会に恵まれ、とても幸運だと感じています。<中略> 賞は映画が人々と繋がったことの象徴ですが、それ以外にも、人生そのもの、キャリア、そして経験そのものが、私にとって最高の贈り物だと感じています」
 そしてさまざまな映画賞を多数受賞し、アカデミー賞では主演男優賞、脚本賞、撮影賞、作曲賞の4部門を受賞。なかでも撮影監督オータム・デュラルド・アーカポーが女性として初めてアカデミー賞撮影賞を受賞した時の彼女の授賞スピーチはとても印象的だった。「ここにいられることを大変光栄に思います。そして、この場にいるすべての女性に立ち上がっていただきたいのです。皆さんがいなければ、私はここにいられなかったと感じているからです。本当に、心からそう思っています。たくさんの女性からたくさんの愛情を感じ、本当に多くの人々と出会うことができました。このような瞬間は皆さんのおかげで実現したと感じています。本当に感謝しています」

ピーター・ドレイマニス,ジャック・オコンネル,ヘイリー・スタインフェルド,ローラ・カーク

“人生最高の夜が、人生最後の夜へと変貌する”恐怖を描くホラーであり、音楽劇、ヒューマンドラマ、時勢への問いかけを感じさせるジャンルミックスで魅了する映像体験。この映画はIMAXR70mmフィルムカメラとウルトラ・パナビジョンカメラにより全編を撮影。独特の没入感が特徴だ。本国アメリカで公開から2週間後、クーグラー監督がアスペクト比や大画面で楽しむ最適な方法を解説するコダックの10分の動画、「Aspect Ratios with Sinners Director Ryan Coogler(『罪人たち』監督ライアン・クーグラーのアスペクト比)」を公開。監督はこの動画解説について、2026年2月10日の「The Hollywood Reporter」の記事「Ryan Coogler Goes Deep on Shattering Oscar Records, Losing Chadwick and Battling Impostor Syndrome(ライアン・クーグラー監督がオスカー記録の塗り替え、チャドウィック・ケリーの死、そしてインポスター症候群との闘いについて深く語る)」にて、このように語った。「私たちが皆さんのことを考えていると知ってほしかったんです。それだけです。ショットを撮るたびに、アスペクト比や、どこに何が映るのか、なぜカメラを後ろに引いたり近づけたりする必要があるのかについて話し合っていました。この映画では毎日、観客のことを考えていました。自分たちのことが考えられていると知ることは、時に嬉しいものですよね?」
 最後に、監督がこの映画への思い入れを端的かつ朗らかに話したことを、前述の「GQ」の記事よりご紹介する。「複雑だけど紛れもなくジャンル映画で、それでいて誠実さも感じられる映画を作りたかったんだ。観ていて楽しい映画にね。君は観て楽しかったかい?」

参考:「GQ」、「DEADLINE」、「The Hollywood Reporter」、Kodak「Aspect Ratios with Sinners Director Ryan Coogler」(YouTube)

作品データ

公開 2025年6月20日公開
2026年2月13日よりTOHOシネマズ シャンテにて凱旋上映、2026年4月3日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国23劇場にて追加上映
※詳細は上映劇場一覧をご確認ください
制作年/制作国 2025年 アメリカ
上映時間 2:17
配給 東和ピクチャーズ・東宝配給
原題 Sinners
監督・脚本・製作 ライアン・クーグラー
出演 マイケル・B・ジョーダン
ヘイリー・スタインフェルド
マイルズ・ケイトン
ジャック・オコンネル
ウンミ・モサク
ジェイミー・ローソン
オマー・ベンソン・ミラー
デルロイ・リンドー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。