かの悲劇はいかにして生まれたのか
愛と平穏、喪失と苦悶と不和、そして――
クロエ・ジャオ監督が変容を抒情的に描く
© 2025 FOCUS FEATURES LLC.イギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピアの四大悲劇のひとつ『ハムレット』はいかにして生まれたのか。『ハムレット』が創作されたときにシェイクスピア一家に起きた出来事を、『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督が描く。出演は、この作品で第98回アカデミー賞主演女優賞を受賞した、『ウーマン・トーキング 私たちの選択』のジェシー・バックリー、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』のポール・メスカル、エミリー・ワトソン、ジョー・アルウィンほか。共同脚本は原作者で小説『ハムネット』を執筆したアイルランド出身の作家マギー・オファーレル、製作はスティーヴン・スピルバーグ、サム・メンデスが手がける。森に親しみ、薬草の知識をもつアグネスと、子どもたちに語学を教えているウィリアム・シェイクスピアは結婚し3人の子どもを授かるが……。出会って恋をして家族となり、やがて大きな喪失による衝撃、深い悲しみと慟哭、不和、そして再生へ――。16世紀のイギリスを舞台に、深い情感と関係性の変容を繊細に表現する物語である。
1580年、イギリスの小さな村。森を愛し、薬草の知識に優れ、不思議な力を宿すアグネスは、子どもたちに語学を教えているウィリアム・シェイクスピアと恋に落ちる。やがて2人は両家の反対を押し切って結婚。夫妻には長女スザンナ、双子の長男ハムネットと次女ジュディスが誕生。そして劇作家としてロンドンに単身赴き活動する夫を尊重し、アグネスは父親不在のなか子育てと家事に奮闘。つつましくも幸せな日々を送っていたが、あるとき一家に大きな不幸が降りかかる――。

イギリスの女性小説賞、全米批評家協会賞などを受賞したマギー・オファーレルの2020年の小説を、ジャオ監督が映画化。森を愛するアグネスの妻として母親としての視点を中心に、シェイクスピア一家がたどる情感の変容をダイナミックかつ神秘的に描く。ジャオ監督の持ち味である精神的かつ抽象的な表現が、実力派の俳優たち、16世紀のイギリスの暮らしや美術、衣装などの雰囲気と合っていて緩やかに浸れる内容となっている。
監督は原作の小説について、深い没入感がありストーリーを気に入ったと話し、「私は常に、極めて具体的でありながら普遍的な物語を探し求めていますが、この本はまさにそれです」とコメント。そして監督はこの物語の魅力について、このように熱く語っている。「この物語は死や無常や悲しみに触れながら、創造性と想像力の働きが、人生で経験する避けられない苦しみにどのような意味を与えることができるかについても語っているので、とても興奮しました。こういう原作があれば、もう最高です」
そして原作者のオファーレルは、ジャオ監督による映画化をとても喜び、監督と共同で脚本を執筆。監督の作品における表現の奥深さを称賛し、この映画が表現していることについてこのように語っている。「クロエは多くの作品を通して、芸術性と真正性について、その両者の関係、それらがどのように結びつき、引き裂かれるのかという、とても興味深い対話をしています。この映画は、なぜ私たちが芸術を必要とするのか、なぜ芸術を作るのか、芸術はどこから来るのか、私たちの魂のどこから引き出されるのかを描いています」
森に親しむ鷹匠でありヒーラーでもあるアグネス役はジェシーが、本能的かつ直感的な野生味のある性分で、自分なりに子どもたちを愛し守ろうとする母親として。この映画で第98回アカデミー賞主演女優賞を受賞したジェシーは、小説に魅了され、脚本に涙し、アグネスという人物に強く惹かれたと語る。「まさに私が探し求めていた女性だと思いました。彼女は束縛されず、自由で、深い好奇心を持ち、まるでライウイスキーのよう。いたずら好きで、ハングリー精神にあふれ、美しい魂をもった女性です。彼女が本当に大好き。親友になりたいと思うような人です」
そしてジャオ監督はジェシーについて、「素晴らしい女優で深い信ぴょう性を感じさせられる」と讃えて語る。「求められるのは、典型の力に触れることを恐れず、肉体的にも精神的にも感情的にも全力を注ぎ、そこに進んで踏み込む人物です。このキャラクターは、彼女にそれを求めていました。ジェシーは自身の潜在意識に深く働きかけることをいとわなかったのです」
ウィリアム・シェイクスピアことウィル役はポール・メスカルが、不器用ながらも妻子を愛し、劇作家として打ち込み成功してゆく姿を表現。ウィルの母親メアリー役はエミリー・ワトソンが、ウィルの父親ジョン役はデヴィッド・ウィルモットが、アグネスの弟バーソロミュー役はジョー・アルウィンが、アグネスとウィルの子ども、長女のスザンナ役はボディ・レイ・ブレスナックが、次女ジュディス役はオリヴィア・ラインズが、その双子の弟ハムネット役はジャコビ・ジュープが、それぞれに演じている。ジャオ監督は自身の映画創作のモットー、この映画で体感できることについて、観客へのメッセージと共にこのように語っている。「観客には、登場人物の中に自分自身を重ね合わせてほしいです。観客の心を開き、解きほぐして、登場人物たちの感情を一緒に感じてもらえるようにしたい。私たちやキャラクターと一緒に観客が波に乗れば、カタルシスを経験できる。それが常に私の映画創作の目標です。カタルシスを経験すれば、登場人物たちと同じように、困難な人生の状況に意味を見いだせる。映画を観るという体験を通して、より自分自身に充足感をもてるといいと思っています」

観ていてダイナミックな感情の渦に巻き込まれるかのようなグローブ座のシーンでは、エキストラ300人が観客として参加。あのシーンの撮影を終えると、ジャオ監督はその場でリアーナの『We Found Love』を流し、出演者たちとスタッフ全員で余韻を味わい楽しんだという。監督はその時に感じたこと、シェイクスピアへの思いをこのように話している。「皆が帰ろうとしないので、その後も何曲か流して、ただ泣き、抱き合っていました。あの時、真実と虚構、カメラの前と後ろ、過去と現在の間に境界線はありませんでした。つかの間、隔たりが消え去ったんです。シェイクスピアが戯曲を書いたのは、皆が一つになれるようにするためでした。疎外感を抱いている人、苦しんできた人、恐怖と不安の中で生きてきた人、皆がこの短い時間で一つになり、分断という幻想を捨て、こうして繋がることができるのです。シェイクスピアは誇らしく思ってくれたでしょう」
ジェシーはこのシーンについて、撮影時にも強く胸を打たれたと語る。「とても感動したのは、私たちがいかに他者を必要としているかわかったことです。<中略>秘められた優しさが、ついに表に出たのです。私たちが互いのために手放さなかったそれは、私の演じるキャラクターの夫と息子が、この聖堂で引き出したものです。そこにいた多くの人にとって、このような経験は初めてだったと思います。それこそが物語の力なのです」

「All that lives must die, Passing through nature to eternity.(すべて生あるものは必ず死に、自然を抜け出し永遠へと至る)」 ーー『ハムレット』より
父を殺された王子が復讐を誓い、「生きるべきか死ぬべきか」と苦悶する、かの悲劇はいかにして生まれたのか。シェイクスピアは『真夏の夜の夢』『お気に召すまま』など悲劇と対極にあるような軽快で楽しいロマンティック・コメディも多々あり、いずれも傑作ぞろい。対極のどちらも傑出するという創作の振り幅の大きさはものすごいものがある。偉大な劇作家だから当たり前、と流すのではなく、それが生身の人間からどのようにして創られたのか、という実感が伝わってくることが興味深い。偉大な劇作家の創造の源には何があったのか、この映画はその問いにそっと触れるかのようだ。ジェシーはこの物語にはシェイクスピアの創造と背景へのアプローチに大きな魅力があると語り、観客へのメッセージをこのように話している。「今回の経験で本当に素晴らしかったのは、彼や彼が創造した物語の裏にあるシェイクスピアの人間味や、彼のルーツとなった世界を見ることができたことです。これを観に来る人たちがどんな経験をするにせよ、何らかの形で影響を受け、感動してもらえたら嬉しいです。私自身も間違いなく感動しましたから」
最後にジャオ監督より、シェイクスピアの創作に関わることができたことへの感謝と、この映画に込めたメッセージをお伝えする。「シェイクスピアが書いたのは愛と死についての物語で、現代の観客に向けて彼のメッセージを再解釈できることは光栄であり、幸運だと思います。製作中は彼が私たちと共にいると感じました。愛は死ぬのではなく変容する。それは、この宇宙で最大の変容です。私たちの映画が、ささやかながらもそれを伝えられることを願っています」
| 公開 | 2026年4月10日より全国ロードショー |
|---|---|
| 制作年/制作国 | 2025年 イギリス |
| 上映時間 | 2:06 |
| 配給 | パルコ ユニバーサル映画 |
| 映倫区分 | G |
| 原題 | HAMNET |
| 監督・共同脚本・編集・製作総指揮 | クロエ・ジャオ |
| 原作・共同脚本 | マギー・オファーレル |
| 製作 | スティーヴン・スピルバーグ サム・メンデス |
| 出演 | ジェシー・バックリー ポール・メスカル エミリー・ワトソン ジョー・アルウィン ジャコビ・ジュープ |

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