Michael/マイケル

支配的な父親との関係、天才の孤独
彼はいかに成長し道を切り開いてきたのか
臨場感あるパフォーマンスが輝く伝記映画

  • 2026/06/05
  • イベント
  • シネマ
Michael/マイケル®, TM & © 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

人類史上最も売れたアルバム『スリラー』をはじめ、全世界で10億枚を超えるレコードセールスを記録するなど、黒人アーティストの地位を確立した伝説的アーティスト、マイケル・ジャクソンの伝記映画が完成。出演は、マイケルの実の甥であり本作が映画デビューとなるジャファー・ジャクソン、アニメーション映画『Arco』の若手俳優ジュリアーノ・クルー・ヴァルディ、『カラーパープル』(2023)のコールマン・ドミンゴ、『search/サーチ』のニア・ロングほか。監督は『トレーニング デイ』のアントワーン・フークア、製作は『ボヘミアン・ラプソディ』のグレアム・キング、脚本は『007/スカイフォール』のジョン・ローガンが手がける。幼い頃から野心家の父より厳しいレッスンを受け、兄弟グループのジャクソン5として成功を収めたマイケル。やがて青年となった彼はソロアーティストとしての活動を目指すが……。ジャクソン5としてのインディーズのライブ活動からメジャーデビュー、そしてソロ活動を開始してアルバム『オフ・ザ・ウォール』(1979)、『スリラー』(1982)、そして『BAD』(1987)へ。彼がどんな葛藤を抱え、どのように自らの表現を追求し、世界的スターへと成長していったのか。有名なミュージックビデオ(MV)や伝説的なパフォーマンスの数々を臨場感と共に楽しめる、魅力的な伝記映画である。

野心家の父ジョセフ・ジャクソンのもと厳しいレッスンを経て、兄弟グループのジャクソン5は、マイケルが幼少の頃から大成功を収める。やがてマイケルは青年となり、ソロアーティストとして歴史的名曲の数々を生み出し、全世界の寵児となっていく。しかしその栄光の裏には、早熟の天才ゆえの孤独感、強権的な父親による呪縛、家族への愛と自身にあふれる創作ビジョンとの間で大きな葛藤があった――。

ジャファー・ジャクソン,ほか

マイケルの歌や音楽やMVの魅力、彼の世界観やビジョンの片鱗が鮮やかに伝わってくる伝記映画。27の楽曲が使用され、思わず無意識で歌詞を口ずさみリズムをとる、筆者のような観客も多いはずだ。マイケルの活躍を体感してきた世代には、彼の軌跡を映画として新たに楽しめる喜びがあり、世代を超えて楽しみを共有できる作品となっている。マイケルを知らない若い世代にとっても、彼の曲は映画やCMをはじめさまざまなメディアで耳にする機会が多く、たくさんのミュージシャンたちがカバーし続けていることから、曲を聴くと「知ってる!」となることがほとんど。たとえ初めて聴くとしても、気になる曲が見つかるのではと想像する。時代を超えて長く愛され続け、“キング・オブ・ポップ”と称される所以だ。フークア監督は自身もマイケルの音楽に影響を受けた1人として、本作の内容が、ジャクソン5がMotownと契約してからソロ・キャリア初期のヒット作『オフ・ザ・ウォール』をリリースするまでの数年間をメインに描いていることにもとても引かれたと語る。「マイケルという人間を本当に理解するには、彼がどのように自分の創作の方向性を見つけていったのかまでさかのぼらなければならないと思う。家族への愛情と、自分自身の芸術を生み出したいという衝動とのあいだで揺れ動きながら、自由を求める一方で孤独とも闘っていた彼の姿が見えてくる。この映画は、彼が飛び立つために必要だったその過程をたどっていくんだ」

青年期のマイケル役のジャファーは、父との関係に迷い悩みながらも自身の創作を探究していく姿を情熱的に表現。マイケル役は何年にもわたるキャスティングを経て決定。ジャファーは、マイケルの兄でありジャクソン5のメンバーであるジャーメイン・ジャクソンと、アレハンドラ・ジェネヴィーヴ・オアシアザの息子で、マイケルの甥だ。マイケルによく似ているとよく言われていたが、自身が叔父の伝記映画の主演候補にあがるとはまったく考えていなかったという。ジャファーは優れたシンガーであるものの、演技経験がなくプロのダンサーでもなかったこと、マイケルを表現することがいかに困難で大きな責任を伴うかを理解していたという。子どもの頃からマイケルに夢中だったというジャファーは、「まさか自分がマイケルを演じるなんて思わなかった。俳優になることさえ夢にも見たことがなかった。真っ先に思ったのは、誰がマイケルを演じるんだろう、ということだった」と話し、自身の役作りを振り返る。マイケルが敬愛する人々の「仕事を分析し、何が彼らを偉大にしているのかを理解しよう」と心がけていたことに倣い、ジャファーもマイケルの「膨大な数のインタビューやプライベートのホームビデオを見て、細かなニュアンスや仕草、そして何より、その人間性まで吸収しようとした」と語っている。
 子ども時代のマイケル役はジュリアーノ・ヴァルディが、元気いっぱいで技術的にも素敵な歌とダンスでキュートに表現。撮影当時、ジュリアーノはマイケルが1967年に人種隔離時代のチトリン・サーキットでジャクソン5が初めてパフォーマンスを始めた時と同じ年齢の9歳で、『ABC』『I Want You Back』『I’ll Be There』など名曲の数々を劇中で歌い上げている。
 マイケルの父親ジョセフ役はコールマン・ドミンゴ、子どもたちを大切に思う母親キャサリン役はニア・ロングが、マイケルのボディガードを長く務めるビル・ブレイ役はケイリン・ダレル・ジョーンズが、ジャクソン5の実力に注目する音楽業界の人物スザンヌ・ド・パッシー役はローラ・ハリアーが、マイケルの長年の弁護士であり、この映画に製作として参加しているジョン・ブランカ役はマイルズ・テラーが、Motownのベリー・ゴーディ役はラレンツ・テイトが、プロデューサーとして『オフ・ザ・ウォール』『スリラー』『バッド』のアルバムを手がけたクインシー・ジョーンズ役はケンドリック・サンプソンが、大人時代のジャーメイン役はジャマル・ヘンダーソンが、ティト役はライアン・ヒルが、マーロン役はトレ・ホートンが、ラトーヤ役はジェシカ・スーラが、少年時代のジャクソン兄弟のジャーメイン役、ティト役、ジャッキー役、マーロン役はジェイデン・ハーヴィル、ジュダ・エドワーズ、ナサニエル・ローガン・マッキンタイア、ジェイレン・リンドン・ハンターが、それぞれに演じている。のんびりとしたキリンやラマのルイ、マイケルが愛したチンパンジーのバブルスなどデジタルで再現された動物たちもかわいらしい。

ジャファー・ジャクソン(中央),ほか

劇中の歌唱シーンは、現場で収録されたジャファーの歌声とマイケル本人の歌声を高度な音響技術により融合。MVやライブのシーンでは、大勢の人々が記憶しているマイケルのダンスやムーブメントが鮮やかに表現されている。ジャファーは歌とダンスのトレーニングに約2年かけて取り組んだことについて、「鏡の中の自分を本当にマイケルとして信じられるようになるまで、2年にわたって毎日何時間も、一切手を抜かずにリハーサルを続けた」とコメント。映画のジャファーの振付は、マイケルの「ヒストリー・ツアー」にダンサーとして参加した兄弟デュオのRich + Toneが指導。ダンスの基礎から特徴的なキックやターン、ムーンウォークなど、多様なスタイルをミックスしたマイケル特有の表現が伝授された。トーンはジャファーにただマイケルをコピーするのではなく、彼の個性や強みを活かすよう指導。当初は製作陣もRich + Toneも吹き替えではなくジャファー本人が踊ることを不安視していたなか、情熱をもってやり遂げたジャファーを称えている。
 ジャファーがスパンコールの手袋やレザージャケット、タキシードパンツやペニー・ローファーなどマイケルが身につけていた特徴的なファッションで、作り込まれたヘアメイクにより披露する有名なパフォーマンスのシーンの数々は非常にエキサイティングであり、そのいくつかは当時と同じ会場で撮影されているのも注目だ。ゾンビダンスで有名な「スリラー」のMVシーンは、オリジナルの撮影が行われたイースト・ロサンゼルスの工業地帯、ユニオン・パシフィック・アベニューにて撮影。フークア監督は「スリラー」を撮影した時の興奮ぶりを楽しそうに語る。「あの同じ通りで撮影を再現できたのは、私にとって夢のようなことだった。撮影した二晩とも満月で、スタッフまでマスク姿で現場に入ってきた。『スリラー』は世代を問わず誰もが大好きだから、現場は子どもみたいな興奮に包まれていた」
 またマイケルが「BAD」を、1988年にウェンブリー・スタジアムで歌ったステージを再現したジャファーのパフォーマンスは華やか。マイケル本人の関係者たち、実母のキャサリン・ジャクソン、姉妹のリビーとラトーヤ、そしてマイケルの長年のドラマー、ジョナサン・モフェットに見せたところ全員が、自分が目にしているものが信じられない、という驚愕の反応だったそうだ。
 そしてジャクソンズとマイケルの初期のヒット曲の両方が楽しめる、マイケルがジャクソンズとして最後の活動だと明言した1984年のジャクソンズのVictoryツアーの再現では、当時のステージのデザインや照明や振り付けなどを元バンド・メンバーが撮影現場で確認。マイケルが「Billie Jean」でムーンウォークを披露し、大きな注目を集めた1983年の『Motown 25: Yesterday, Today, Forever』(原題)のシーンも、当時と同じ会場であるパサデナ・シビック・オーディトリアムで収録された。

ジュリアーノ・ヴァルディ(中央),ほか

この映画の撮影にあたり、マイケル・ジャクソン・エステート(マイケルの遺産管理団体)はマイケルが実際に曲を書いていた場所での撮影を許可。マイケルの実の息子、プリンス・ジャクソンがエグゼクティブプロデューサーとして製作に参加も。ジャクソン一家が1971年に購入したヘイヴンハーストの約2エーカーの敷地や、マイケルが1980年代に改装した家族みんなで暮らす家でも実際に撮影。本人の私物なども小道具として提供され、マイケルのホームスタジオを細部まで再現。スタッフはジャクソン・エステートで管理されている文書や映像などの資料を読み込み制作に生かしたという。そして劇中に登場するグラミー賞はマイケル本人が受賞した実物のグラミー賞トロフィーであり、伝記映画としてのリアリティを高めている。
 マイケル・ジャクソンというと、支配的な父親との関係のみならず、数々の批判や疑惑などネガティブな側面も語られてきた。しかしこの映画がフォーカスするのは、少年から青年へ、アイドルからひとりの独立したアーティストへと成長してゆく過程だ。ジャファーはマイケルの信念とメッセージ性について、2026年4月11日(日本時間)にドイツのベルリンで開催されたワールド・プレミアにてこのように語った。「マイケルの最大の魅力は、彼の音楽を通じて世界中に広く伝わった“世界をより良い場所にしたい、世界を癒したい”というメッセージだと思います。それは彼がデビュー当初から掲げてきたメッセージであり、音楽やミュージックビデオを通じて常にその実現を目指していたと思います」

劇中では、黒人アーティストがほとんどオンエアされていなかったMTVに、マイケルが「Billie Jean」のMVを流すよう働きかけたエピソードも描かれている。そしてマイケルはMTVで初めて本格的にヘビーローテーションされた黒人アーティストとなり、後進の道を切り開いたのだ。この映画の時期よりも後となる1991年のアルバム『デンジャラス』からのシングル「Black or White」の非常に魅力的なMVや歌詞の内容からもわかるように、マイケルは差別のない社会、理解と協力、平和と友好を大切なメッセージとして発信し続けた。世界の情勢不安や逼迫する生活に音楽やカルチャーなど何の役に立つのか。その見解はわかる。それでもたくさんの人々にとって音楽や映像は記憶と結びつき、時代も国も人種も関係なく心に直接作用するような、かけがえのない何かだ。生涯その思いを胸に創作し続けたマイケルが伝説となる前、生身の人間だった彼が夢中で邁進していた瞬間に、この映画は観客を連れて行ってくれるのだ。ジャファーは観客へのメッセージを、前述のベルリン・プレミアの翌日に行われた記者会見にてこのように伝えた。「観客の皆さんに持ち帰ってほしい最大の願いは、マイケルの本質と存在感を感じてもらうこと。そして、彼という人間、その核心にある魂について、より深く理解してもらい、映画館を後にしてほしいと思います」
 そしてフークア監督はベルリン・プレミアにて、この映画の製作にあたり尊重したことと観客へのメッセージをこのように語った。「一番大事だったのは、ステージを離れたマイケル・ジャクソンを描くことだったと思います。そうすることで、彼がどんな人間なのか伝わり、彼の心の内が理解できるからです。そうすれば、ステージ上の彼を見たときに、より強い絆を感じられるはずです。感動と楽しさが味わえることは間違いありません。マイケル・ジャクソンのコンサートに肉迫する最高の体験となるでしょう」

作品データ

公開 2026年6月12日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開
制作年/制作国 2026年 アメリカ
上映時間 2:08
配給 キノフィルムズ
原題 Michael
監督 アントワーン・フークア
脚本 ジョン・ローガン
製作 グレアム・キング、ジョン・ブランカ、ジョン・マクレイン
出演 ジャファー・ジャクソン
ジュリアーノ・ヴァルディ
コールマン・ドミンゴ
ニア・ロング
ケンドリック・サンプソン
マイルズ・テラー
ローラ・ハリアー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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