黒牢城

直木賞受賞作の歴史ミステリを黒沢清監督が映画化
籠城という巨大な密室で次々と起こる事件の真相とは
戦国時代を舞台に豪華キャストが織りなす心理劇

  • 2026/06/17
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黒牢城©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会

第166回直木賞と第12回山田風太郎賞をW受賞した米澤穂信の小説『黒牢城』を、『スパイの妻<劇場版>』の黒沢清監督が映画化。出演は、『永い言い訳』の本木雅弘、『サンセット・サンライズ』の菅田将暉、NHK 大河ドラマ「光る君へ」の吉高由里子、『蛇の道』の青木崇高、『火喰鳥を、喰う』の宮舘涼太、さらに主役級のキャストが多数顔を揃える。武将・荒木村重は織田信長に反旗を翻し、有岡城で籠城を決行。その後、織田軍に囲まれた城内で4つの怪事件が発生し、村重はその謎を解くため、地下牢に幽閉した軍師・黒田官兵衛に助言を求める。少年の死から始める4つの怪事件は何を意味するのか、黒幕は誰なのか、その目的とは。戦国時代を舞台に、多くの登場人物たちの思いが交錯する時代劇であると同時に、事件の真相を推理して謎を解いてゆく醍醐味が楽しめる心理ミステリである。

戦国時代。“殺さず”の信念をもつ武将・荒木村重は、暴虐な織田信長のやり方に反発し、有岡城に籠城する。城は織田軍に囲まれ孤立無援に。村重は妻・千代保を心の支えに、城と人々を守ろうと苦心する。そんな時、城内である少年が殺される事件が発生。その後も怪事件が次々と起こる。容疑者は、密室と化した城内に居る家臣や身内の誰か。城外は敵軍。城内は裏切り者。誰もが疑心暗鬼になっていく中、村重は牢屋に幽閉した天才軍師・黒田官兵衛と共に謎の解決に挑むが……。

菅田将暉,本木雅弘

ホラー作品で知られる黒沢監督が手がける初の時代劇であり、豪華キャストのアンサンブルが楽しめるミステリ。敵軍に包囲されている城そのものが巨大な“密室”となり、少年の密室殺人、変貌した敵将の首、殺された僧侶、名器の消失、という4つの怪事件が村重を追い詰めてゆく。戦国時代が舞台でありながら戦(いくさ)の描写が控えめであるところがユニークであり、自身の存在を賭しているかのような村重と官兵衛の緊迫感ある会話劇や、登場人物たちの心情と行動が物語を動かしていくところが印象的だ。石田聡子プロデューサーからオファーを受けた黒沢監督は、「近年読んだ小説の中で最も面白く、自分の手で映画化したいと思いました」と快諾したとコメント。監督は戦国時代に通じているわけではなくとも、原作にある普遍的なテーマや推理小説のような謎解きの面白さに惹かれ、初となる時代劇に不安もあったなか、このチャンスに挑戦してみたいと考えたとも。そしてこの作品の撮影を終えた時の挨拶では、このように語っている。「初めてのことが多く、何が正しいのかを追求しながらの撮影は、日々大変でしたが新鮮でした。この年齢になりましたけれどもデビュー作のような緊張と興奮と目新しさがありました」

オダギリジョー,本木雅弘,ほか

籠城を決行中の有岡城の城主・荒木村重役は本木雅弘が、次々と起こる事件に困惑しながらも、事態を収めようと行動する実直な男として。本木はクランクアップの際に、この映画の撮影で実感した思いをこのように語った。「黒沢監督が思い描いているものに近づくために、スタッフの皆さんが思いを込めて、技術を尽くして、映像に焼き付けようとしている。ある種の緊張感と意義深さをずっと感じていました。振り返ったら、あの体験は奇跡だったんじゃないかと思うような、京都の地、そして黒沢さんの元でしか生まれ得ない貴重な時間を過ごさせていただきました」
 織田軍の使者として、謀反を起こした村重を説得するため訪れるも囚われてしまう軍師・黒田官兵衛役は菅田将暉が、地下牢に幽閉されようとも智略により人や事態を動かす切れ者として。村重と論戦を交わす官兵衛を演じた菅田はこの撮影について、「知と血と地にまみれ、脳みそフル稼働の撮影でした。対峙した時の荒木村重役の本木さんの瞳が忘れられません」と話し、「ほとんど村重としか関わりがなかったので、僕が一番映画を楽しめると思います」と笑顔で語った。
 黒沢監督は村重と官兵衛による対話のシーンについて、2人を称えてこのように語っている。「本木さんと菅田さんの丁々発止のやり取り、楽しかったです。物語上の村重と官兵衛の関係と同じように、どちらかが圧倒したり、反撃したり。お二人の演技合戦は見ものだと思います」
 村重のよき理解者である妻・千代保役は吉高由里子が、村重の腹心・荒木久左衛門役は青木崇高が、村重に忠義を尽くす若き家臣・乾助三郎役は宮舘涼太が、事件の目撃者であり狙撃の名手・雑賀下針役は柄本佑が、そして村重の家臣役としてユースケ・サンタマリア、吉原光夫、坂東龍汰、荒川良々、渋川清彦、渡辺いっけい、さらに村重の隠し刀として暗躍する郡十右衛門役はオダギリジョーが、それぞれに演じている。

劇中では、日本の伝統的な建造物の数々を眺めることができるのも見どころのひとつ。撮影は京都太秦の松竹京都撮影所に加え、世界遺産の姫路城をはじめ、明石城、篠山城、伊賀上野城、彦根城、そして東福寺、萬福寺など国宝や重要文化財に指定される貴重な歴史的建造物にて行われた。村重が城主であり家臣たちと共に籠城する有岡城は、松竹京都撮影所のスタジオセットと関西各地の実在するお城や寺社仏閣で撮影した映像を組み合わせて表現。閉ざされた城の重苦しさと建造物の味わいが相まって独特の世界観を生み出している。黒沢監督は由緒ある数々の建造物で撮影できたことを喜び、感謝と共にこのように語っている。「東京では絶対あり得ないような場所で撮影ができ、京都が映画の町だということを改めて実感しました。撮影所と昔からの付き合いがあるから、国宝や重要文化財の建物でも撮影に使わせてもらえる。町と映画が一体化したような文化が残っているのを身に染みて感じました」

吉高由里子,本木雅弘

動けない者が真実を見抜き、動ける者は迷い続ける。自由とは一体何なのか。身体がどれほど拘束されようとも、思考の深さと広がりを奪うことはできない。一方、行動の自由があったとしても恐れや疑念に囚われれば、容易に視野を失ってしまう。この物語における自由とは、外的な状況よりも精神のあり方によるものだという感覚が、じわりと胸に残る。そして巨大な密室となる籠城という閉鎖空間では、登場人物たちの倫理が試される。“殺さず”の信念をもつ村重、土牢に囚われながらも鋭利な智略をめぐらせる官兵衛、疑心暗鬼に陥ってゆく家臣たち。そして、忠義や信仰、野心や恐れなどにもとづくそれぞれの心情は、極限状態のなかで静かに、強い輪郭をもって浮かび上がってくる。孤立した城という外界から遮断された場所では、「何を信じるか」「誰を信じるか」「どこまで自分を保てるか」といった問いが日々突きつけられる。村重らはじりじりと追い詰められていくなか、それぞれの道を選ぶ。その道は、必ずしも正義や勝利へとつながるものではない。むしろ彼らが選ぶのは、「自分は何を守りたいのか」「どんな自分でありたいのか」という個人的な決断であり、それこそがストーリーの先へとつながってゆく。黒沢監督はこの作品について、「普遍的な物語として皆さんの心に伝わってくれたら嬉しいな、と思いながら作った映画」と2026年5月19日(現地時間)に第79回カンヌ国際映画祭の会場にてコメント。そして2026年5月26日に東京で行われたジャパン・プレミアにて、監督はこの映画の面白さや特徴について、海外の批評家の言葉を引用し、観客へのメッセージをこのように伝えた。「『この映画はチャンバラではない。刀ではなく“言葉”で切り合う作品』だと、海外の評論家が上手く表現してくれていました。まさにその通りだなと。ぜひ皆さんも“言葉の切り合い”を楽しんでもらえれば」

作品データ

公開 2026年6月19日より全国公開
制作年/制作国 2026年 日本
上映時間 2:27
配給 松竹
原作 米澤穂信「黒牢城」(角川文庫/KADOKAWA刊)
監督・脚本 黒沢清
出演 本木雅弘
菅田将暉
吉高由里子
青木崇高
宮舘涼太
柄本佑
ユースケ・サンタマリア
吉原光夫
坂東龍汰
近藤芳正
矢柴俊博
木原勝利
河内大和
吉岡睦雄
上川周作
前田旺志郎
坂東新悟
荒川良々
渋川清彦
渡辺いっけい
オダギリジョー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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