ヌーヴェルヴァーグ

28歳のゴダールが挑む念願の初の長編映画
異例づくしの撮影現場で何が起きていたのか?
リンクレイター監督が名作の制作過程を描く

  • 2026/07/08
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ヌーヴェルヴァーグ© 2025 ARP - Detour Development LLC
©JeanLouisFernandez

ジャン=リュック・ゴダールはいかにしてあの『À bout de souffle(勝手にしやがれ)』を撮ったのか。『6才のボクが、大人になるまで。』のリチャード・リンクレイター監督が熱い思い入れと共に、“ヌーヴェルヴァーグの金字塔”である名作の制作過程を描く。出演は、今回が初の長編映画の出演となる2人、映画監督、脚本、編集、撮影、作曲などを手がける新人俳優のギヨーム・マルベック、舞台を中心に活動する新人俳優のオーブリー・デュラン、そして『陪審員2番』のゾーイ・ドゥイッチほか。製作・脚色・台詞(仏訳)はゴダールと実際に交流があり、映画雑誌「Première」の編集長を務めた経験をもつミシェル・ペタンが手がける。1959年の夏、ジャン=リュック・ゴダールは念願の初長編映画の制作を開始。しかし脚本がないまま即興で演出し、ゲリラ撮影を好む、型破りな手法に周囲は困惑し……。1950年代末、フランスの若い映画評論家たちが監督となり、映画制作における既存の慣習を飛び越えていくなかで生まれたヌーヴェルヴァーグ=新しい波。『勝手にしやがれ』の撮影現場におけるゴダールの実話を中心に、若い世代が映画を作る際の情熱と混乱、そして自由の感覚を現代に生き生きと伝える青春映画である。

フランソワ・トリュフォーの長編デビュー作『大人は判ってくれない』が、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した1959年。トリュフォーらとともにカイエ・デュ・シネマ誌で執筆活動をしていたジャン=リュック・ゴダールは、同年の夏からジャン=ポール・ベルモンドとアメリカの若手女優ジーン・セバーグを主演に起用した念願の初長編映画『勝手にしやがれ』の制作に着手する。ところが型にはまった演技を嫌い、ゲリラ撮影や即興演出を好むゴダールの型破りなやり方に、プロデューサーやスタッフ、ジーンも困惑。それでも映画作りの夢と情熱を共有した現場は熱気に満ちあふれ、誰ひとりとして完成形を想像できないなか、のちに伝説となるクライマックスの撮影へと突き進んでいく。

ギヨーム・マルベック,ゾーイ・ドゥイッチ,オーブリー・デュラン©JeanLouisFernandez

突飛な演出や手法に戸惑い、「もういや」と夫やジャン=ポールに何度も言うジーン、ゴダールとプロデューサーのカフェでの取っ組み合いの喧嘩、楽観的なジャン=ポール。円滑とは言い難い状況ながら、映画制作でつながった人々が気鋭のゴダールのスタイルのなかでいかに生きたか、そしてゴダールがいかに自身の信条に従って映画作りに邁進したかが生き生きと描かれている。ゴダールが実際に発言・執筆した本人の言葉を尊重しているところや、名言が散りばめられているのも興味深い。なかでも特に個人的に印象的だったのは、撮影再開の際のゴダールとスタッフの押し問答だ。スタッフが撮影を再開するときに、前のシーンとつながるようにティーカップを片付けたり俳優の服を着替えさせたりしようとすると、ゴダールが「偶然を現実に取り入れたい」という発想から、「(シーンが)つながらなくていい」と断言し、前シーンとつながらない状態のまま撮影を再開するという、撮影現場で現実的に考えるとあり得ないことを本気で実行している演出などは非常にユニークで、当時の現場の人々と同じように呆気にとられる、という臨場感を楽しめた。
 この映画『ヌーヴェルヴァーグ』の制作では、リンクレイター監督の長年のコラボレーターであるヴィンス・パルモとホリー・ジェントが13年前に作り始めた脚本を監督が読み、「私も仲間に入れてほしい」と思ったという。そしてリンクレイター監督にとって初のフランス語作品であり、アメリカ人監督によるフランス映画が完成した。リンクレイター監督はゴダールについて、「僕にとっての映画的アイドルの1人」と話し、ヌーヴェルヴァーグの時代への熱意を語る。「私はあの時代が大好きです。素晴らしい瞬間だったのでしょう。ゴダールは本当に興味深い人物です。私たちは夢中になりました。これほどまでに、別の映画の内側に入り込むのは本当に楽しかったですね」

オーブリー・デュラン,ゾーイ・ドゥイッチ,ほか©JeanLouisFernandez

キャストについて、観客が「1959年の若者たちと一緒に映画を作っている感覚」を味わうためには、“既視感のないキャスティング”として無名の俳優が必要だった、とリンクレイター監督とプロデューサーのミシェル・ペタンは語る。
 ゴダール役はギヨーム・マルベックが、飄々としながらも自分の信条をどこまでも貫く強靭さをくっきりと軽やかに表現。ギヨームはこの役のオーディションの連絡がメールで届いた時、「最初は詐欺だと思った」と話し、オーディションを経て出演が決定した時の喜びをこのように語っている。「キャスティングディレクターが『役が決まったよ』と教えてくれた時、私の頭は吹き飛びました。そして、ついに心から作りたいと思えるアートが作れると感じました」
 生前のゴダール本人と交流のあったプロデューサーのミシェル・ペタンは、ギヨームについて、「圧巻だったのが若きゴダール役のギヨーム・マルベック。彼は口調、動作、眼鏡越しの視線――すべてを完全に吸収していた。“まさに若き日のゴダールがここにいる”という驚き」があった、と称賛している。
 ゴダール流の演出や手法に戸惑うジーン・セバーグ役はゾーイ・ドゥイッチが、時にはゴダールと言い合いになりつつも自身の思いをはっきりと伝える俳優として。あのクライマックスはこうして生まれた、というジーンとゴダールの問答も興味深い。ゾーイは、アーカイブの映像で“パリのアパートをジーンが案内している素晴らしいインタビュー”を参考に、ジーン本人のイントネーションや話し方を取り入れ、フランス語のセリフはプロデューサーのミシェル・ペタンからZOOMで指導を受けて身につけていったそうだ。ゾーイは、「『勝手にしやがれ』のシーンを何度も何度もみました」と話し、「彼女を探求し、彼女について学び、そして彼女に恋に落ちるのは、とても楽しかったです」と語っている。またジャン=ポール・ベルモンド役はオーブリー・デュランが、大らかでリラックスした雰囲気の人物として。オーブリーも俳優たちの動きを理解しようと『勝手にしやがれ』を何度もみたと話し、その体験と思いについてこのように語っている。「すべての振り付けとリズムを映画に取り入れるのは、ただただ素晴らしい経験でした。皆さんが『勝手にしやがれ』とこの映画を見比べて、『うわあ、同じだ』と感じてくれることを願っています」
 リンクレイター監督は撮影にあたり俳優たちに、「君たちは時代劇を演じているわけじゃない。今を生きているんだ。ゴダールは有名な評論家だが、監督は初めて。彼と一緒に撮影するのは楽しいが、本当にこの映画が完成するのか、不安でもある」と伝えたとのこと。そして俳優たちを称えて、このように感謝を述べている。「みんな『似ている』と言いますが、それは本当に彼らの演技力とパーソナリティの力です。彼らは本当に良い俳優です。そして、常に全力を尽くします。彼らと一緒に仕事ができてとても幸運でした」
 この映画の魅力のひとつに、ヌーヴェルヴァーグに関わる多くの人物が次々と登場することがある。『勝手にしやがれ』の原案者である映画監督フランソワ・トリュフォーや、プロデューサーのジョルジュ・ド・ボールガール、映画監督のロベール・ブレッソンやクロード・シャブロルやエリック・ロメール、詩人にして小説家、劇作家で映画監督でもあるジャン・コクトーほか、当時のフランス映画界に関わる顔ぶれが一堂に会するかのような趣も楽しめる。

ギヨーム・マルベック,オーブリー・デュラン,ほか©JeanLouisFernandez

当時の時代性や空気を今に伝えるために、監督をはじめスタッフたちは、当時の映像スタイルを踏襲したアスペクト比1.37:1のモノクロ映像を採用し、パリの街並みをVFXも活用して細部まで再現するなど、美術や衣装なども徹底して作り込んだ。リンクレイター監督とミシェル・ペタンは、ゴダール研究の専門家である映画監督で脚本家のレティシア・マッソンの協力を得て、全台詞を徹底的に見直し、ゴダールのエピソードは真偽を確認の上、史実をもとに内容を構成したという。プロデューサーのペタンはこの映画制作において、ゴダールの言葉の正確性を非常に重視したことについて、このように語っている。「まず言語が、当時のものとして忠実であること。それが私の主な関心事でした。そして、ゴダールが言う言葉。彼が書いたものか、彼が言ったことのどちらかを確認する必要がありました。ですから、観客が映画のなかで彼の口から聞く言葉は、彼が書いたか言ったかした言葉なのです。それは非常に重要でした」

「映画を作るんじゃない。映画に作られるんだ」(ゴダール)

のちに伝説的存在となったゴダールがまだそう呼ばれる前、初めての長編映画の撮影とは一体どのようなものだったのか。プロデューサーからプレッシャーとクレームが続き、独自の進行と手法にスタッフたちも困惑し、俳優は降板したがり……1959年の夏、現場ではさまざまな出来事が起きていた。すんなりと事が運んだわけでは決してなく、ゴダールたちが当時に抱えていた迷いや葛藤、それでも新しい映画の創作へと突き進む勢いは、どこか若い情熱への郷愁を感じさせる。リンクレイター監督はこの映画について、「この作品は、本当に、若い時にのみ存在する共同体と友情についての物語です」とコメント。完成された伝説的存在の成功のみを描くのではなく、初めての長編映画に手探りで挑む、過程そのものを伝えることには、観客への励ましやエールのようなものが込められているのかもしれない。最後に、リンクレイター監督がこの映画の製作を決意した時の思いをお伝えする。「2年前、ジャン=リュック・ゴダールが亡くなった時、私は思った。『今こそ、この映画を作る時だ。この唯一無二の瞬間――ヌーヴェルヴァーグの誕生――を描こう』と。それは、映画を撮りたいと思わせてくれた人々、映画が作れると信じさせてくれた人々、『映画を作るべきだ』と確信させてくれた人々へのラブレターなんだ」

作品データ

公開 2026年7月10日より新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2025年 フランス
上映時間 1:46
配給 AMGエンタテインメント
原題 Nouvelle Vague
監督 リチャード・リンクレイター
脚本 ホリー・ジェント & ヴィンス・パルモ
出演 ギヨーム・マルベック
ゾーイ・ドゥイッチ
オーブリー・デュラン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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