ラスト・サバイバー

失われた世界に希望はあるのか
パンデミック後を生きる人々の闘いと思いを
R・スコット監督が美しい自然の映像と共に描く

  • 2026/09/02
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  • シネマ
ラスト・サバイバー©2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『ブレードランナー』『エイリアン』のリドリー・スコット監督が、ディストピアを描くベストセラーを映画化。出演は、次期ジェームズ・ボンドの最有力候補と目されている『フランケンシュタイン』のジェイコブ・エロルディ、そして『サブスタンス』のマーガレット・クアリー、『アベンジャーズ』シリーズのジョシュ・ブローリンほか。謎のパンデミックにより人類の90%が死滅。整備士で民間パイロットのヒッグは、生き残った元軍人のバングリーと愛犬ジャスパーと共に静かに暮らしている。ある日、ヒッグはセスナの無線で“謎の声”を聞き、未知の世界へと飛び立つが……。パンデミック後の荒廃した社会を舞台に、極限状況における人間性の揺らぎと再生を描く。閉ざされた生活から新たな外の世界へ、不安と猜疑心と恐怖に翻弄される人々、凶暴な敵との攻防、その傍らに静かに広がる雄大な自然。終末世界における喪失と希望を見つめ、そこで生き抜く人々の顛末を美しい映像と共に描く物語である。

謎のパンデミックで人類の90%が死滅、人間性を失った者たちが奪い合い殺し合う荒廃した世界。整備士で民間パイロットのヒッグは、元軍人のバングリーと共同戦線を張ることで、日々を生き延びている。ヒッグの理性をつなぎとめていたのは、愛犬ジャスパーの存在と亡き妻の記憶だけだった。そんなある日、セスナの無線に“謎の声”が届く。失われた日常を求め、その声に導かれるようにヒッグは未知の空へと飛び立つが……。

ジェイコブ・エロルディ,ジョシュ・ブローリン

世界26以上の言語に翻訳されているアメリカの作家ピーター・ヘラーによる2012年のデビュー作を、リドリー・スコット監督が映画化。サバイバル・アクションというダークなエンターテインメントによる強めの印象がありつつも、喪失を抱えて暮らす青年がきっかけを得て、新たな一歩を踏み出してゆく姿を軸に展開してゆくストーリーが見どころだ。一方で、女性像の扱いにはどこか古い価値観の名残を感じる面もあり、もう少し女性たちの内面が描かれていれば、この物語はさらに奥行きを増すのではないか、という思いも個人的に残った。
 文明が崩壊した街には緑が生い茂り、動物たちの群れが悠然と横切っていく、自然がのびやかにたくましく息づいているという表現が力強い。青々とした森林や険しい山々を背景に、鳥のように軽やかに空を飛ぶヒッグの黄色いセスナは目に鮮やかで、幸せや希望の兆しを想起させる。そうした牧歌的な自然の描写に対して、凶暴な敵の襲撃と激しい応戦、獰猛な動物たちとの遭遇、「殺すか殺されるか」という命懸けの緊迫感が際立ち、その対比には考えさせられるものがある。
 リドリー・スコット監督はこの映画について、脚本に強く引き込まれて監督を引き受けることを即決したとのこと。また映画作りにおいては、実際に世界で起きている状況を意識していると話し、2026年8月26日付けの「Los Angeles Times」の記事「Ridley Scott’s new movie is about the end of the world, but he’s far from done(リドリー・スコットの新作映画は世界の終末を描いたものだが、彼の作品はこれで終わりではない)」にて、「油断していると、あなたのすぐそばまで迫ってくるだろう」とコメント。だだし、この映画については「希望に満ちていると思う」とも語っている。

ジェイコブ・エロルディ,マーガレット・クアリー

他界した妻との思い出と愛犬ジャスパーを支えに荒廃した世界を生きるヒッグ役はジェイコブ・エロルディが、希望を捨てずに模索する青年として。ジェイコブはヒッグが奮闘する姿に共感すると話し、登場人物たちの心情について、2026年8月28日付の「BBC」の記事「Jacob Elordi on why The Dog Stars had him asking 'What am I missing' in life?(ジェイコブ・エロルディが、映画『ドッグ・スターズ』を観て「自分は人生で何が欠けているんだろう?」と自問するようになった理由を語る)」にて、この映画では「人間のあり方」を描き、登場人物たちはディストピアを生きるなか、「何か別のものを探し求め、別のものを期待している」と語っている。
 ヒッグと共同戦線を張る元軍人のバングリー役はジョシュ・ブローリンが、ヒッグが新たに出会う女性シーマ役はマーガレット・クアリーが、シーマの父ジャック役はガイ・ピアースが、ダーリーン役はアリソン・ジャネイが、アーロン役はベネディクト・ウォンが、それぞれに演じている。またヒッグの相棒であるジャーマン・シェパードの愛犬ジャスパーがかわいらしく、荒廃した世界のなかで温かな存在感を醸している。

雄大な自然をとらえた美しい映像もこの作品の見どころのひとつ。監督が自らロケハンを綿密に行い撮影場所を選定したという。撮影はイタリアを中心に行われ、北東部のウーディネにある小さな自治体、フリウリのボルダーノ湖畔から始まり、アルプス山麓の美しい景観で知られる高地森林地帯、ベッルーノのカンシリオ高原にある森や村などで実施。そしてイタリア中部のアブルッツォ州の山岳地帯にあるシレンテ・ヴェリーノ州立公園、セシナロとオヴィンドリ周辺地域、またプレトゥーロにあるラクイラ空港で撮影が行われた。マーガレットは独特な映像の魅力についてしみじみと語る。「この映画の世界観が本当に美しくて、どこか詩的で夢のような雰囲気があるんです。終末世界を描いた映画で、こんな世界観がつくられるとは思っていませんでした」
 またジェイコブは前述の「BBC」の記事にて、自然の生命力をとらえた映像は希望の光を象徴していると語っている。「興味深いのは再生という概念です。人類史上最悪の日から4、5年後、この深淵のなかで木々は生き生きとし、草は生い茂り、花々は朽ち果てた場所から芽吹いているのです」

ジェイコブ・エロルディ

世界が壊れた時、人間を人間たらしめるものは何なのか。生きることは本能であっても、人間性をいかに保つかはそれぞれの選択に委ねられる。そして文明も制度も倫理も崩壊した後に残るのは、他者と共に生きたいという根源的な願いなのかもしれない。監督は「Empire」の記事「The Dog Stars Director Ridley Scott Didn’t Want A Typical Apocalypse Movie: ‘No Zombies Please’( 映画『ラスト・サバイバー』の監督リドリー・スコットは、ありきたりな終末映画は作りたくなかった。「ゾンビはいらない」)」にて、「世の中には世界の終わりを描いた物語が多すぎる」と話し、この映画のテーマについてこのように語っている。「この物語には、多くの希望が込められている。結局のところ、人は人を必要としているんだ」
 自身のスタンスとこの映画について、「常に新しい挑戦を探している。世界の終末を描いた。劇場でこそ楽しめる作品だ。驚くよ」と、楽しそうに話す88歳のリドリー・スコットは、この映画が最後の作品ではないと断言。2026年8月26日付けの「Los Angeles Times」の記事「Ridley Scott’s new movie is about the end of the world, but he’s far from done(リドリー・スコットの新作映画は世界の終末を描いたものだが、彼の作品はこれで終わりではない)」によると、現在も複数の企画を進行中であり、ヒュー・ジャックマン主演によるロバート・ルイス・スティーブンソンの名作『宝島』の映画化、『エイリアン』シリーズの3作目の前日譚の制作、ジョン・ハリス小説『死との契約』の映画化などを控え、さらには長く延期され続けているビー・ジーズの伝記映画の実現を望んでいるとも。終末世界において続いてゆく「人間の物語」を示したこの作品は、映画制作をほぼ半世紀続けてきてもなお、「まだまだ」とこれからも創作を続ける監督の気概に重なるようにも見える。生涯現役を貫くであろうリドリー・スコット監督のこれからに、世界中の映画ファンと共に注目していきたい。

参考:「Los Angeles Times」、「BBC」、「Empire」、「Italy for Movies

作品データ

公開 2026年8月28日より全国劇場にて公開中
制作年/制作国 2026年 アメリカ
上映時間 1:59
配給 ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題 The Dog Stars
監督・製作 リドリー・スコット
脚本・製作 マーク・L・スミス
原作・製作総指揮 ピーター・ヘラー
出演 ジェイコブ・エロルディ
ジョシュ・ブローリン
マーガレット・クアリー
アリソン・ジャネイ
ガイ・ピアース
ベネディクト・ウォン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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