ハート・オブ・ビースト

原始の森を彷徨う退役兵と義足の愛犬は
過酷な試練を生き抜くことができるのか
支え合う彼らが進みゆく先にあるものとは

  • 2026/09/28
  • イベント
  • シネマ
ハート・オブ・ビースト©2026 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

ブラッド・ピット主演・製作、退役軍人と相棒である義足の元軍用偵察犬が互いを支え合い、原始の森を進む姿を描く。共演は、『セッション』のJ・K・シモンズ、先住民カナダ人俳優である、ドラマ「トゥルー・ディテクティブ」のアンナ・ラムほか。監督は自身もアメリカ海軍への従軍経験があり、ブラッドと『フューリー』に次いで2度目のタッグとなるデヴィッド・エアー。脚本は愛犬への思いを注ぎ込んで執筆し、最も高く評価された未製作脚本を選ぶ年次リスト「2017年ハリウッド・ブラックリスト」に選出、今回が初の長編映画作品となるキャメロン・アレクサンダーが手がる。そして製作には『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルと彼のパートナーであるオリヴィア・ハミルトンが名を連ねる。元陸軍特殊部隊で退役兵のジェームズは、相棒の元軍用偵察犬オーディンを連れ、アラスカの大自然のなかで平穏なひとときを楽しんでいた。しかしアクシデントにより奥地へと取り残され……。厳しくも雄大な自然の景観をとらえ、風が木々を揺らす葉擦れの音や鳥の声、深い森に満ちるさまざまな音が響きわたる映像が美しい。互いの信頼を支えに獣道を進みゆくジェームズとオーディンのサバイバルであり、彼らの愛情と信頼を描く力強い物語である。

元陸軍特殊部隊で退役兵のジェームズ・ベルモントは、かつての戦友で元軍用偵察犬オーディンを連れ、アラスカの大自然に身をゆだねていた。戦場で義足となりPTSDをも抱える愛犬の平穏な日々を願う、癒しの旅だ。だがアラスカ上空を飛行中、不意のアクシデントに見舞われ、誰も足を踏み入れたことのない“魔の領域(ハート・オブ・ビースト)”と呼ばれる奥地へ取り残されてしまう。極限状態にさらされた彼らは険しい自然環境の中、100キロにおよぶ険路を旅することになる。

ブラッド・ピット,ほか

固い絆で結ばれた退役軍人ジェームズと戦場で義足となった元軍用偵察犬オーディンの過酷な旅を描く物語。生き延びる術を身につけている元軍人と元偵察犬でも道なき道を進むことは容易ではなく、そうした時間のなかで互いの信頼関係がますます深まっていくさまが胸に迫る。ブラッドが「表面的にはサバイバル映画だけど、その奥にあるのはラブストーリーだよ」と語る通り、この作品の醍醐味はジェームズとオーディンの絆の行き着く先を見届けることにある。
 比べものになる次元ではまったくないものの、筆者は20年以上前に友人と2人で日本の夏山で遭難しかけ、一晩かけてヘッドライトを頼りに、たまにつながるガラケーを用いて下山したことがある(地図で近くにあるとわかったお寺に早朝に電話して誘導していただいた)。この作品を見ていて、こんな原始的な森で遭難するとはなんと恐ろしいことかと感じ、撮影だから安全であるはずなのについ、そんなところを渡ったら全身にヒルが吸い付くだろうなとか、現実的な考えがいろいろめぐったところも個人的に面白かった。Dolby Atmosによる完成披露試写会では、大自然の映像と共に森のさまざまな音も立体的に響いていたため、記憶や感情がより刺激されたのかもしれない。
 ブラッドは最初に脚本を読んだ時のことを、「ただ静かに泣いたんだ。本当に、本当に心を動かされた」と率直に話し、「もう一度読んでも同じ反応だった。そして、『何なのかは分からない。でも、ここには取り組む価値がある。調べる価値がある。支える価値があるものがある』と思ったんだ。そこで昔からの友人、デヴィッド・エアーに電話して、そこから始まった」と語った。
 エアー監督も脚本を読んだ時に強く心に迫るものがあったと語る。「今まで読んだ中でも、間違いなく最高の脚本のひとつだった。泣いただけじゃない。もう、号泣したんだ。いったん読むのを止めて、少し気持ちを整理してから、また数ページ読み進める。そんな感じだったよ」
 脚本家のキャメロン・アレクサンダーは、長年親しんでいるアウトドアと、軍事文化への関心と敬意から着想の一部を得たとのこと。何より、執筆当時は“人生の大変な時期”にあり、本当の友達は愛犬のホスだけだと感じ、ただ自分の犬について書きたかった、とも。彼の愛犬ホスはできる限りの治療をしたものの他界、その頃にこの映画の話が動き出したという。アレクサンダーは愛犬への思いとこの映画の核となるテーマについて語る。「僕はホスの面倒をみていたと思っていたけど、彼が亡くなった後、今度は彼が僕の面倒を見てくれたように感じた。彼は僕の夢を叶えてくれたんだ。だから観客には、愛するもののために闘い続け、決して諦めないことの大切さを受け取ってほしい。それがこの映画の核なんだ」

ブラッド・ピット,ほか

退役軍人ジェームズ役はブラッドが、元陸軍特殊部隊の軍人として数々の戦場をくぐり抜けてきた記憶と能力をもち、子犬の頃から一緒に過ごしてきたオーディンをかけがえのない相棒として大切にしている人物として。劇中ではブラッドが大自然の猛威に次々とさらされていくため、思わず心配になってくるが、彼はもともとダイバーとパイロットの資格を保有しているとのこと。また役作りのためにウエイトトレーニングと大量の有酸素運動に取り組み、敵対的な環境で生き延びる方法をパイロットや軍人に教える、実在のSERE(生存・回避・抵抗・脱出)学校の教官から、どこでも火を起こす方法、野生の中で食料を見つける方法、親指を使って距離を測る方法などを学んだそうだ。ブラッドはこの物語の魅力と、人と犬との関係についてこのように語っている。「我々2人がアラスカ奥地から、マイホームを目指す話だ。お互いを支え合う姿が、本当に美しく描かれている。あらためて犬と人間の関係が大切なものだと確信したよ。彼らの愛と忠誠心は無条件だ」
 ジェームズとオーディンがアラスカの奥地で出会う謎めいた初老の男ワトキンス役はJ・K・シモンズが、冒頭に登場するアラスカ出身の先住民女性アンバー役は、先住民カナダ人俳優であるアンナ・ラムが演じている。

北欧神話の神の名をもつ元軍用偵察犬オーディン役は、4頭のジャーマン・シェパードが担当。なかでもメインとなった45キロ以上の立派な体躯をもつウーバーは、警察犬として活躍した後、捜索救助犬に転身し、パートナーを亡くした後に引退、という活動の経歴をもっている。劇中でも湖からジェームズを引き上げるシーンなど素晴らしい活躍を見せてくれる。ウーバーがいかに優れているか、アニマルトレーナーのアンドリュー・シンプソンは語る。「ヘリコプターにも、ボートにも、トラックにも慣れている。何でも経験しているんだ。そして、犬界のブラッド・ピットみたいな顔をしているから、クローズアップでは一番多く使ったよ」
 オーディン役のほかの3頭はウーバーの息子たちであり、兄弟犬のライカーとジカ、そして異母弟のホンドが参加。4頭は外見がとてもよく似ているものの、完全に同じではないことから、メイクなどにより外見を統一。オーディンの義肢などは特殊メイクとCGIで表現されている。
 愛犬家のブラッドは、撮影を通じて改めて実感した人と犬の関わりについて語る。「犬にはものすごく強い忠誠心がある。でも同時に、おどけていて面白い存在でもある。結局のところ、犬たちがいることで、僕たちはこの世界で孤独ではなくなるんだ」
 そもそもこの物語に惹かれたのは、彼らの関係性にあるとブラッドは語る。「僕にとっては、ジェームズそのものというより、彼とオーディンの関係のほうが大きかったんだと思う。人間と犬、犬と人間の間にある絆は、本当に素晴らしいものだよ。僕が犬たちと過ごしてきた中で感じた愛情や喜び、そして時には苛立ちも、否定できないし、この関係ならではのものだと思う。それに敬意を表する作品を作りたかった。自分の犬たちと、彼らが僕に与えてくれたものへの賛辞としてね。犬の愛は本当に無条件だし、そこから学べることはたくさんある」

ブラッド・ピット,ほか

アラスカの森の撮影は、ニュージーランドの南島各地やオークランドのスタジオなどにて。ニュージーランド政府からそれまで一度も撮影されたことのない場所での撮影を許可され、撮影に関わるさまざまな問題をクリアするための支援も受けたという。エアー監督は南島での撮影の際に、先住民であり土地を尊ぶマオリの人々と丁重に対話をしたそうだ。「準備の初期段階でマオリの長老たちと会い、撮影の許可を求める儀式に招いてもらった。<中略>そして撮影初日には、伝統的な祝福も受けた」
 実際の森での撮影は、密林や切り立った峡谷などアクセスが困難な場所もあり、長時間の徒歩移動やヘリコプターでの移動など厳しい環境だった。そうした撮影にニュージーランドのクルーたちが重い機材を人力で運ぶなど献身的な尽力をして、スタッフもキャストも大いに感動し感謝したそうだ。そして恐ろしい森のいくつかのパートは、オークランドのスタジオで撮影。実際に撮影した森の景観から着想を得て作られている。
 エアー監督は「原始を感じる」ほどの環境のなかでの厳しい撮影により、映像に迫力と緊張感が自然に宿っていると語る。「肉体的に過酷な環境だったからこそ、より素晴らしいものになった。ほとんどの時間、僕たちは濡れて、寒くて、疲れていて、悲惨な状態だった。ああやって環境の中に身を置いていたことが、映像にも伝わっているし、そこに真実味を与えているんだ」
 ブラッドも「どんな天候でも撮影を続けた」という制作について、「この経験を通して、現場の全員が口をそろえて言っていた。“もう二度と味わえない、特別な体験だった”」とコメント。そうした撮影現場での大変さと同時に、自然の美しさに大いに魅せられたとも。ブラッドはオザーク地方で育ち、子どもの頃から自然と親しんできたことから、ニュージーランドの風景は「自分にとって非常に居心地が良く、心まで穏やかになれた」という。そしてその美しさについて、楽しそうに雄弁に語っている。「圧倒されたよ。苔に覆われた深い幻想的な森、素晴らしい木々、岩の造形や川。そして氷河まで行ったら、本当にすごかった……。大自然そのものが、この映画の登場人物のひとつなんだ。作品全体の体験を形作り、色づけている。僕たちは間違いなく、自然の力に翻弄されていたよ」

森の奥深く、彼らは歩き続ける。ジェームズはオーディンを気遣い、オーディンはジェームズの心の揺らぎを察して寄り添い、互いに支え合う。それはどこか根源的な関係性を示唆しているようにも感じられる。人は自分のためだけに生きる時よりも、他者のために生きる時に最大の力を発揮できることがある。その他者が言葉をもたない存在であっても、そこに確かな愛情と信頼があれば、人は驚くほどの強さを得られるのかもしれない。
 エアー監督はこの作品がもたらす感情について、このように語っている。「(この映画は)もう一歩先へ進むことができること、そして決して自分を哀れに思わないことについての物語なんだ。そこには何か、憧れを抱かせるものがある。観客を、これまで想像するだけだった場所へ連れていって、これまで感じたことのない感情を感じさせる。強烈に響く映画だよ。感情を揺さぶられる。その感情の旅の中には、アクションも、アドベンチャーも、楽しさもある。ある時点で映画に引き込まれて、気がついたら終わっていて、エンドクレジットが流れ、目には涙が浮かんでいる。そんな映画なんだ」
 ブラッドはジェームズとオーディンの深い愛情と信頼関係こそがこの物語の真価だと話し、観客へのメッセージをこのように伝えた。「僕にとって、これはサバイバル・ストーリーを超えたラブストーリーだった。そのことが感じられて、体験できる作品になっていることを願っているよ」

作品データ

公開 2026年9月25日より全世界同時公開
制作年/制作国 2026年 アメリカ
上映時間 1:41
配給 東和ピクチャーズ・東宝
英題 Heart of the Beast
監督 デヴィッド・エアー
脚本 キャメロン・アレクサンダー
出演 ブラッド・ピット
J・K・シモンズ
アンナ・ラム
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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