ナギで暮らす寄子のもとへ身を寄せた友梨は
穏やかな休暇のなか、新たな出会いに揺らぐ
“孤独だけど孤立していない”暮らしとは
© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.ナギの町でつながる人と人、ふれあう心の機微を繊細かつ前向きな強さをたたえて描く物語。出演は『ファーストキス 1ST KISS』の松たか子、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』の石橋静河、『ロストケア』の松山ケンイチほか。監督・脚本は、岡山県奈義町に断続的に長期滞在を重ねて取材し、脚本を執筆。8年かけて作品を完成させた深田晃司監督が手がける。故郷の町ナギで暮らす彫刻家・寄子のもとに、東京と台湾で建築家として活躍してきた友梨が来訪。数日の休暇をおだやかに過ごすなか、新たな出会いが小さな揺らぎとなり……。喪失を抱えながらも創作に力を注ぎ続ける寄子、少年たち、寄子の幼馴染、異なる世代や立場の人と関わるなか、東京で焦燥を抱えていた友梨の内面が変化してゆく。静かでありながらしなやかな強さもあり、ナギという町の気配や暮らしの手ざわりからも伝わるものがある、優しい余韻の広がる物語である。
近くの山から切り出される木でひとり作品を作る彫刻家の寄子。彼女のもとへ、東京と台湾で建築家として活躍してきた友梨が数日間の休暇をとってやってくる。寄子は友梨が別れた夫の姉であり、2人は元義理の姉妹という間柄だ。都会とは異なるナギでの穏やかな生活のなか、妻を亡くした寄子の幼なじみの好浩、彼の息子の春樹とその親友の圭太、人々との出会いは、日常に小さな揺らぎをもたらしていく。やがて、彫刻のモデルを毎晩つとめるなかで寄子の知られざる喪失に触れ、友梨にも変化が起きていく。

第39回岸田國士戯曲賞を受賞した平田オリザ氏の小説『東京ノート』に着想を得て、深田監督が脚本を執筆。町の全面協力のもと、2017年の企画の立ち上げから9年かけて完成した。豊かな自然、現代アートの美術館、酪農、代々継いできた墓を守ること、自衛隊の駐屯地の存在──地域と共に生きることが、ある種の諦観を含みつつも気負うことなくさらりと描かれているのも味わい深い。2017年に奈義町の「教育・文化のまちづくり監」を務めていた平田オリザ氏から町の魅力を聞いた、東京生まれ東京育ちの深田監督は実際に奈義町へ。そこでどこか懐かしさがあり、「多層的で不思議な魅力を持つ町」だと感じたという。そして監督は2019年から3年にわたり岡山県奈義町に断続的に長期滞在しながら取材をしていくなか、ある問いが浮かんだと語る。「取材を重ねながら様々な出会いや発見がありましたが、一方で気づいたことは、セクシュアルマイノリティの方の姿が見えてこないということです。統計的に考えれば、どの地域にもそういった方がいないなんてことは考えられません。だからこそ、この映画では描くべきだと思いました。そしてそんな寄子の前に、自身のセクシュアリティに向き合いはじめた中学生たちが現れる。この子たちに対して、寄子ならどう反応するのか。まさに彫刻家があれこれと迷い試しながら粘土をこねるように、物語を構築していきました。撮影に入る前に、俳優の皆さんはもちろん、制作陣も含めてLGBTQ+についての事前講習を受けていただきました」

故郷のナギにてひとりで暮らす彫刻家・遠藤寄子役は松たか子が、喪失を抱えながらも創作に力を注ぎ、地に足をつけて故郷の町で生きる姿を実直に体現。松たか子は寄子の孤独のこと、そして劇中でのセリフの広がりについて、2026年9月26日に東京で行われた公開記念舞台挨拶にてこのように語った。「生きていると皆さん孤独になる瞬間がそれぞれにあるかと思いますが、孤立は自分から作り出してしまっているのではないかなと思います。でも、孤立せずに孤独に立ち向かう生き方はあるのかな、と想像しながら演じました。この作品では、何気ない言葉(台詞)が相手に思いがけない影響を与えたりとささやかな瞬間がたくさんありますが、それを友梨さんが受け止めてくれたことで寄子の言葉の意味が広がるなと思いながらセリフを言った記憶があります」
また深田監督は今回が初タッグとなる松たか子について、寄子役を担えるのは、松さんしかいない、という意見があったと話し、彼女の役へのアプローチを称えてこのように語っている。「いつかご一緒したいと思っていた方ですし、松さんとの映画づくりは毎日が非常に刺激的でした。とても自由な方で、お芝居が良い意味で動物的だと思いました。だから、テイクを重ねてもつねに新鮮で。俳優というのは複雑で難しい職業です。自分の演じる人物が次に何を言うか、相手が何を言うか、お互いの運命さえも全部知ったうえで、あたかも何も知らないかのように演じなければなりません。松さんはあたかも脚本なんてないかのように、一瞬一瞬を寄子として生きてくださいました」
都市で活躍している建築家の坂下友梨役は石橋静河が、寄子の弟の元妻=元義理の妹であり、寄子を信頼し影響を受けていく存在として。寄子の幼馴染・井口好浩役は松山ケンイチが、好浩の息子でさっぱりとした気質の少年・井口春樹役は川口和空が、春樹の親友で繊細な少年・東圭太役は藤原聖が、好浩の他界した妻・井口早苗役は藤間爽子が、圭太の父で自衛隊員の東太一役は水間ロンが、ナギの美術館の学芸員・歌見役は実際に奈義町在住である申瑞季が、それぞれに演じている。
劇中には、寄子の彫刻作品がいくつか登場。それは実際に彫刻家として活動する吉田愛美氏の既存の作品に加え、映画のために新たに制作された作品もあるとのこと。松たか子は吉田氏の撮影現場でのサポートと、彫刻家としての役作りについて、2026年8月29日に東京で行われたジャパンプレミアにてこのように語った。「彫刻家の吉田愛美さんにサポートしていただいて、制作過程を教えていただきデッサンや粘土をやりました。繊細な作業なようで、大胆だったり、寄子を知る手がかりになりました。吉田さんがずっと現場で寄り添っていてくれたのでとても心強かったです」
そして監督も吉田氏の参加に感謝し、このように語っている。「今回は吉田さんの既存の作品をお借りするだけでなく、本作にあわせて新たに制作していただく必要がありました。そこでは一つひとつの作品に、吉田さんの解釈を通じて寄子のキャラクターが反映されることになります。また、撮影現場にはベタづきで、撮影の進行に合わせてリアルタイムで彫塑を行って下さって、彫刻家として演技の指導にも入っていただきました。吉田さんの彫刻たちは、この映画の陰の主役といえる存在です」
映画のエンディングテーマは、詞の原案を深田監督が制作。その詩を台湾語に翻案したのは、「台湾語の詩人歌手」と称されるシェ・ミンヨウ(謝銘祐)。そして歌唱は台湾のシンガーソングライター、イーノ・チェン(鄭宜農)が、作曲は台湾出身の気鋭の作曲家リー・ペイチン(李沛芩)が手がけている。

映画では、奈義町に実在する場所が架空の町ナギとして生き生きと映されている。特に建築家・磯崎新による奈義町現代美術館 Nagi MOCAは、鑑賞者がアートに能動的に関わることができる仕掛けに満ちたインスタレーションが印象的だ。またナギ山の撮影は、北の日本海、南の瀬戸内海までを一望できる、国定公園に指定されている那岐山(標高1,254m)にて。深田監督は映画を撮影する際に、制作期間の間だけ特定の土地に滞在して去ってゆくことに、どこか土地を消費しているような感覚を抱き続けていたという。そして今回の撮影に満足していると話し、感謝と喜びと共にこのように語っている。「今回はいくばくかでも異邦人である私が奈義町に滞在し、この地に根を張って暮らす人々との交流を重ねたうえで、映画づくりに臨むことができたことに満足しています。『ナギダイアリー』は奈義町の人々と一緒につくった作品です。心から感謝しています」
「孤独だけど孤立はしていない」
孤独と孤立をわけるものとはなんだろうか。人は誰もが自分だけの人生を生きている。その意味で、孤独からは逃れられない。ただ自分を気にかけてくれる誰かの存在が感じられる時、あるいは地域の人々と共生するように過ごすことで、孤立せずにいられるのかもしれない。また、私たちは他者と完璧に理解し合うことはできないけれど、理解しきれない余白があるからこそ、他者への関心をもち続け、関係が続いていくとも考えられる。
深田監督は寄子と友梨がナギで過ごす9日間を丁寧に描くこの作品への思いについて、2026年9月26日に東京で行われた公開記念舞台挨拶にてこのように語った。「物語を作ろうとすると大きな出来事を描かなければならないと思いがちですが、普通に生きていることが既に大きな出来事で。『孤独であること』、『人はいずれ死んでしまうこと』など、生きているだけで巨大な葛藤と向き合っているので、あえて大きな出来事を描くわけではなく、なるべく生きている過程の9日間を描きたいと思っていました」
そして松たか子は観客へのメッセージを、2026年8月29日に東京で行われたジャパンプレミアにてこのように伝えた。「何かあるかもしれないし、何もないかもしれない。でも、ナギの人の心の中では何かが起きているお話だと思います。目に見えた刺激を求めた方がどう思われるかはわからないけど、かすかな明日のことを考えることができるように、小さな希望をもって生きている人たちの姿を見守って、最後まで観ていただけたら嬉しいです」
| 公開 | 2026年9月25日より新宿ピカデリー、ユーロスペースほかにて全国ロードショー |
|---|---|
| 制作年/制作国 | 2026年 日本 |
| 上映時間 | 1:50 |
| 配給 | スターサンズ |
| 監督・脚本 | 深田晃司 |
| 出演 | 松たか子 石橋静河 川口和空 藤原聖 藤間爽子 水間ロン 申瑞季 松山ケンイチ |

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