A・イニャリトゥ監督×トム・クルーズ主演
風刺とコメディと芸術性の絶妙なバランスで
地球滅亡の危機を引き起こした男の顛末を描く
※本記事は映画本編のネタバレを含みます。未鑑賞の場合はご注意ください。
© 2026 WBEI and Legendary『バベル』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『レヴェナント: 蘇えりし者』のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督が、トム・クルーズを主演に迎えて放つ最新作。共演は、『The Long Goodbye』のリズ・アーメッド、『アーティスト』のジョン・グッドマン、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のザンドラ・ヒュラー、『シェイプ・オブ・ウォーター』のマイケル・スタールバーグ、『ブゴニア』のジェシー・プレモンスほか。強大な力をもつ男ディガーは、自ら引き起こした災厄により地球滅亡の危機に陥る。しかし自分こそ人類の救世主であることを証明しようと、常軌を逸した任務に乗り出すが……。傲慢な権力者が招いた恐ろしい災厄に、人々は右往左往するばかり。張本人のディガーは何をどうしようというのか、周囲の人々は地球滅亡に立ち向かえるのか、政治家たちはどんな決断を下すのか、そしてディガーの年老いた愛猫マギーの行く末とは。環境、天候、人々、政治、経済、私たちの暮らす現実世界の要素を強く想起させながらも、フィクションとしてくっきりと線を引き、物語の構造の中へとどんどん引き込んでゆく。誠実かつ切実な風刺、コメディと芸術性の絶妙なバランスで引きつける、ドラマティックな物語である。
石油採掘会社CEOにして、大金持ちで傲慢な権力者ディガー。利益しか頭にない彼の欲深い行動がきっかけで、地球は破滅の危機に陥る。ディガーは大統領から事態の収拾を命じられ、世界を救うべく立ち上がるが……。果たして、この男は地球を救うことができるのか?

噛み合わない不毛な会話、一斉に鳴るスマートフォン、各所に確認しながら呆然と立ち尽くす人々。災厄の経過が非常に生々しく描かれ、学者や関係者があまりの事態に衝撃を受けるなか、ディガーは自社の経済的損失をあげつらって苛立つ、その意識の乖離に愕然とさせられる。悲惨な状況のなかで追い詰められてゆく人々のどうしようもない言動、やるせなさや衝動や焦燥感がダークなユーモアとなり、先鋭的かつ社会派のストーリーとなっている。この映画の始まりは、2017年にイニャリトゥ監督が共同脚本のサビーナ・バーマンと共に脚本を書き始めたことから。監督が「“現実と想像力”のどこかで始まった」と語るこの物語は、目まぐるしく変化する現実に呼応して、9年間にわたり脚本の修正が重ねられたという。史実に残る政治家や経済人、そして混迷するアメリカ社会を彷彿とさせるこの内容は、メキシコ出身の巨匠イニャリトゥ監督だからこそ、臆することなく鮮烈に描き出せるのだろう。監督はこのストーリーとの心理的距離感について、「サビーナも私も米国出身ではありません。私たちは少し距離のある場所にいます。そこで行われている闘いの本質を理解できる程度には近く、しかし、それを笑うことができる程度には遠い場所です」とコメントしている。さらにこの映画の本質について監督は語る。「『DIGGER/ディガー』はディザスター映画ですが、その災厄とは、私たち人間です。だからこそ、本作はコメディでなければなりませんでした。不条理で、切迫していて、ばかばかしく、そして今という時代そのものを映したコメディです」

米国大統領に直接進言できる立場にあるテキサスの石油王ディガー・ロックウェル役はトム・クルーズが、権力と利益を至上のものとする傲慢な大金持ちとして。トムの特殊メイクは日系アメリカ人のビジュアル・アーティスト、カズ・ヒロが担当し、白髪に太鼓腹の風貌を6時間かけて作り上げたそうだ。トムは今回の役作りについて、これまでにないほどの大きな挑戦だったとコメント。「この人物を演じ、この映画の野心に見合う演技をするためには、長年の経験、長い年月をかけて学んできたすべて、そして、これまでに作ってきたすべての映画から力を引き出す必要がありました。長い時間をかけて身につけた技術を活用してはいますが、これは一つの方法ですべてに対応できるような仕事ではありません」
イニャリトゥ監督はトムを称賛して語る。「ディガーは騒々しく、周囲を疲れさせる人物です。それは私たちが生きている、人を疲弊させる世界そのものでもあります。トムが幅広い演技力をもっていることを知っていましたが、それでも驚かされました。この騒々しく、才気にあふれ、不条理な男へ、彼は繊細さ、もろさ、そして本物の力を与えました」
何度もディガーや大統領に警告を試みる科学者ガネシュ役はリズ・アーメッドが、環境関連事業を進めるディガーの妹エマ役はザンドラ・ヒュラーが、ディガーに事態の収拾を命じるコンプソン大統領役はジョン・グッドマンが、フライマン副大統領役はマイケル・スタールバーグが、ディガーのアシスタントリナ役はエマ・ダーシーが、ハンナ役はソフィー・ワイルドが、演劇の支援者ケニー役はジェシー・プレモンスが、それぞれに演じている。
劇中で独特の存在感を放っているのは、ディガーの年老いた愛猫、38歳(人間の年齢だと200歳超え)のマギーだ。片方の目は視力を失い、体には癒えることのない傷が残る。ディガーがマギーを洗うシーンで、しおしおとのびるような姿が目を引く。監督はマギーへのこだわりについて語る。「CGで作った猫や、単なる人形の猫では成立しませんでした。本物で、愛らしく、しかし奇妙な存在でなければならなかったのです。老いて病気になったマギーを正しく作り上げるため、そのデザインに何か月も費やしました。さらに、最高のパペティアたちと撮影上の課題をどう解決するかを見つけるため、何か月にもわたってリハーサルを行いました。観客が『これは本物なのだろうか?』と疑問を抱くようなトーンです。そして、マギーは非常に重要な存在です。なぜなら、彼女はディガーを感情的に現実へつなぎ留める、唯一の存在だからです。マギーの存在によって、ディガーも人間であり、誰かを愛することのできる人間なのだと、私たちは理解できます」
劇中の見せ場の一つがディガーの約10分の演説シーンであり、数週間をかけて撮影された。自らの思想を主張するディガーの圧がこれでもかと描かれる。トムは2026年10月5日に行われた来日記者会見にて、今年で45年となる俳優人生のなかでも一番の長台詞だったのでは、という質問に、笑顔でこのように答えた。「最も長く、それだけではなく肉体的にも動きも多くて、とても楽しい経験でした。ただ唯一の問題は、もう一度やりたくても監督が『これでよし』と。『これでいいの?』と聞いても、『これでいいんだ』と言われてしまったことです。台詞を覚えるのは簡単で、ただ暗記するだけ。ただ私たちがやっているのはそれではなくて、私たちはコミュニケーションを、監督が指揮者で、役者はジャズの演奏をしているかのような形で作り上げていきます。何を伝えているのかというのをともに探求しています」

中盤で明かされるミニチュアの背景の仕掛けは、個人的に強く印象に残った。「そうだったのか」という思いがけない発見の驚きと、さらに一歩踏み込む展開への期待があり、作品に軽やかなユーモアを添えている。監督は、ミニチュアは古典的な技術でありながら、目の錯覚によりCGよりも豊かな質感をもたらすという考えから採用。劇中で使用されている美しい庭園や自然の眺望など18点のミニチュアはすべてサイモン・ヴァイスによりベルリンで制作され、イギリスのパインウッド・スタジオに空輸し撮影された。居間、キッチン、石油リグのデッキはスタジオに実物大で建設され、石油リグ全体については、それを正確に再現したミニチュアも作られたという。ミニチュアに本物の景色のようなリアリティがあるのは、精巧に作られていることに加え、イニャリトゥの35年来の盟友である撮影監督エマニュエル・“チーボ”・ルベツキが光を非常に精密に扱うことができるためだ。ミニチュアの撮影は、主要撮影が終了したあとに2週間かけて実施。ミニチュアの一つひとつを独立したセットのように照明を調整し、実物大の室内セットのトーンと光に一致させたという。そのため光の方角や陰影やタイミングにより、本物の景色や背景のような生き生きとした質感が感じられる。この美術セットの美しさと視覚効果の丁寧さは、オスカー受賞は確実ではと想像するほどだ。
色彩については、監督が古典絵画の画家たちから着想を得たとコメント。ハマスホイ、マクニール・ホイッスラー、フェルメール、レンブラント、ベラスケスの『ラス・メニーナス』など。実際、ディガーの邸宅の窓から見える神秘的な景色は、非常に絵画的な繊細さに満ちている。
また撮影には、35ミリフィルムによるヴィスタビジョン方式を採用。撮影監督ルベツキはこの映画のために特別に設計されたワイドタイプのヴィンテージ・ライカレンズを用いている。ただカメラ自体が大きく、作動音も大きく、フィルムは約10分で交換になることから、デジタルカメラも併用。イニャリトゥ監督はラージフォーマットを採用したことについて、このように語っている。「ヴィスタビジョンを通すと、すべてのものが違って見えます。そのため、撮影は挑戦的で複雑なものになりました」
ディガーの傍若無人ぶりにあぜんとしながら、とんでもない災厄の顛末が描かれ、本当に起こりうるのではないかという戦慄が走り、中盤で明かされる物語の構造により観る者にさらに強く問いかけてくる厚みのある物語。さて、映画を観ている私たちは、本当に物語の外にいるのだろうか。私たちは世界を眺めているだけではなく、その世界を形づくっている当事者でもある。だからこそ『DIGGER/ディガー』はひとりひとりが自身を見つめ直すことにもつながるのかもしれない。巨匠と大スター、そして演技派俳優たちが結集した上質なエンターテインメントという世界中に広く届く手段により、「あなたは本当に傍観者でいられるのか」という問いが伝播してゆく狙いは成就されるのではないだろうか。イニャリトゥ監督はたとえ敬遠されるようなテーマであってもコメディだと人は受けとめやすくなると話し、観客への思いをこのように語っている。「本作を観たあと、私たちが一緒に考え、議論し、笑うことができればと願っています。それこそが、おそらく唯一、交わす価値のある議論なのかもしれません」
トムはこの作品への思いを監督への敬意と共に、2026年10月6日に行われたレッドカーペットイベントにてこのように語った。「監督は唯一無二の方で、人としても素晴らしいです。この作品を観ていただくと分かると思いますが、何世代も語り継がれるような作品だと思います。私自身映画が大好きですが、この映画のように独創的な、また感動的な作品はこれまで作ったことがないと思っています」
そして同日のジャパンプレミアでも、観客へのメッセージとしてこのように伝えた。「皆さんはこれから、非常に独特な映画体験をすることになります。イニャリトゥ監督が成し遂げたことは尋常ではなく、あらゆる要素が異彩を放っています。登場人物や物語の構成・構造、脚本、キャスト陣の演技、そして私が演じたディガーのメイクアップに至るまで素晴らしい出来映えです。音響や楽曲もこだわり抜かれており、鳥や動物の鳴き声を実際に音楽として組み込んでいます。劇中に登場するミニチュアもすべて手作業で作られたものであり、監督は10年をかけてこれらを築き上げました。ストーリーテラーとして、映画監督として唯一無二の彼に、私は絶大な敬意を抱いています」
イニャリトゥ監督は作品への思い入れをジャパンプレミアでこのように語った。「この映画は、持てるすべてのハートを注ぎ込み、10年の歳月をかけて作り上げた作品です。トムが“変身”を遂げる姿を目の当たりにするのも素晴らしい体験でした。本作は現代という時代や人間を描いており、今観るべき意味や風刺、そしてユーモアに富んだ作品となっています」
そしてレッドカーペットイベントにて、観客へのメッセージをこのように伝えた。「今の世界の不条理さを反映し、非常に人間的で、今こそ観て欲しい作品です。若い世代の方にも笑いながら楽しんでいただき、考えるきっかけになったら嬉しいです。監督人生でもベストと言える素晴らしいパフォーマンスを、トムが見せているので、『うわあ、やられたな』となると思います」
| 公開 | 2026年10月9日より全国ロードショー |
|---|---|
| 制作年/制作国 | 2026年 アメリカ、イギリス、メキシコ共同制作 |
| 上映時間 | 2:09 |
| 配給 | 東和ピクチャーズ・東宝 |
| 原題 | DIGGER |
| 監督 | アレハンドロ・G・イニャリトゥ |
| 製作 | トム・クルーズ アレハンドロ・G・イニャリトゥ |
| 出演 | トム・クルーズ リズ・アーメッド ジョン・グッドマン ザンドラ・ヒュラー ジェシー・プレモンス マイケル・スタールバーグ |

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