わたしの知らない子どもたち

西川美和監督・原案・脚本による最新作
少年として生きる孤児の少女はどこへ――
戦後を生き抜く人々の波乱と再生を丁寧に描く

  • 2026/10/21
  • イベント
  • シネマ
わたしの知らない子どもたち©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

『すばらしき世界』『永い言い訳』の西川美和監督(原案・脚本)が、戦後の混乱を生き抜く子どもたちの姿を描く最新作。W主演を務めるのは、11歳の時にオーディションで約500人から選出された新人・小八重葵美と、『遠い山なみの光』の二階堂ふみ。共演は役所広司、田中裕子、岡田准一、吉田羊、北村有起哉ほか豪華な顔合わせが実現。戦争で家族と日常を奪われた12歳の少女・琴子は、生き延びるために自らの性別を隠し、“少年”として生きることを選ぶ。戦争孤児の少年として生きる少女、元同級生や同じ境遇の仲間の子どもたち、そして敗戦により信念も立場も失った元教師、孤児たちの面倒をみる裏社会の親分。子どもたちはさまざまな大人と出会い、混迷の期代をそれぞれのやり方で生きるなか、人生が交わってゆく。必死に生きるなかで起きるさまざまな出会いと別れ、むごい出来事、変わっていくこと、それでも続いていくこと。取材や調査に基づきフィクションとして練り上げられ、“わたしたちの知らない”戦後を生き抜く人々の姿を今に伝える大切な作品である。

1945年、終戦。戦争で家族と日常を奪われた12歳の少女・琴子は、生き延びるために自らの性別を隠し、「吉田茂男」と名乗ってほかの戦争孤児たちと共に“少年”として生きることを選ぶ。進駐軍相手の慰安施設や路上売春が広がる時代の中で、少女であること自体が危険となる現実から逃れるための決断だった。
 一方、かつて琴子が疎開した学校の教師・曽根もまた、戦時中は軍国主義教育に加担していた側だったが、敗戦によって信念も立場も失い、過去の責任と向き合いながら生きることを余儀なくされていた。加害と被害、そのどちらにも割り切れない現実の狭間で揺れ動きながら、それでも今日を生き延びようとする。
 茂男として生きる琴子、教師ではなくなった曽根。彼らは戦後の混乱のなか、別々の場所でひたすらに今を生きていくが……。

小八重葵美,ほか

戦争で家族も家も亡くし、路上で自活を目指す子どもたち、彼らとつながる大人たちが、戦後の混乱を生きる姿を描く。キャラクターそれぞれの思い、育ってゆく関係性、ひとりひとりが何を選択してどのように生きていくのかが丁寧に描かれ、群像劇としても強く引きつける作品だ。また少女の体の変化とそれに関わる誤解や揉め事、年長者から教えてもらうことなど、女性として生きるなかで欠くことのできない、煩わしさを伴う重要なことも描かれ、共感や親しみが深く伝わる内容となっている。
 西川監督は広島出身であるため、子どもの頃から身近だった「戦争」というテーマについて、キャリアの初期は逃れていたい気持ちがあったという。しかし2020年の前作『すばらしき世界』の原案となった佐木隆三の著書『身分帳』の主人公が、母に捨てられ、戦後の混乱の中で孤児として街を彷徨い、やがて裏社会に取り込まれていく人物だったことから、そうした“名もなき子どもたち”が戦後に12万人以上いたと知り、この企画が始まったそうだ。西川監督はその時の思いについて、「時間をかけてこの題材と真摯に向き合い、映画として描き出したいと考えた」と話し、戦争を知らない世代として、「戦争とは何だったのかを描き直すことは、作り手が果たすべき役割ではないか」と語っている。そして調査や取材を重ねて脚本を執筆していた時、監督はこのように考えていたという。「日本の戦後と、そこに生きた子ども。それを実写映画で描くのは、とても重たいことです。戦争の惨禍を知らない私がそんな題材をあつかうことに絶えずためらいもありました。いっぽうで、どうせやるならなるべく新しいトーンで、かならず今を生きる人に届く語り口にしよう、これから大人になる人たちにも観てもらえるものにしようと、ものを調べ、長い時間をかけて脚本を書いてきました」

小八重葵美,田中裕子

かつては音楽家の父のもとで、ピアノを楽しみながら学んでいた12歳の茅野琴子役は小八重葵美が、戦争で家族も家も亡くし、戦争孤児の少年として食らいつくように生きる姿を全身で表現。小八重は今回の抜擢についてとても驚き、「夢じゃないか」と思ったとも。そして不安もあるなか精一杯頑張ろうと決意し、このように考えて役に臨んだという。「資料館や原爆ドームを見学した時、平和が当たり前ではないということを実感しました。今も世界のどこかで戦争が起きていて、戦争を軽い気持ちで見てはいけないと思いました。私は、戦争を経験していないからこそ、『もし家族がこうなったらどう思うんだろう』といろいろなことを深く考えて、琴子という役を大切に演じました。この経験を通して、これからも歴史を学び続け、自分にできることを考えていきたいです」
 琴子の疎開先の元教師・曽根文美子役は二階堂ふみが、戦後の混乱のなか乳飲み子を抱えて希望を見失いながらも、生徒だった子どもたちの行方を探し始める女性として。二階堂は役作りについて、カナダのトロントで開催された第51回トロント国際映画祭で2026年9月11日(現地時間)に行われた上映後のQ&Aにて、このように語った。「私の祖母が沖縄戦を経験していたということもあり、第二次世界大戦、太平洋戦争で起こったことについては非常に多くのことを学ばせていただく機会がありました。その中でも戦後の女性がどのように生きていたか、ということにあまり触れられていないケースも多かったので、資料や当時を知る方たちの証言などを元に演じさせていただきました」
 孤児たちをしばらく世話する老夫婦、漁師の山井甚平役とけい役は役所広司と田中裕子が、孤児たちを父親のような大きな愛で受け容れる新興ヤクザの組長・菊沢徹役は岡田准一が、孤児院「隣相館」の館長・鷹間乃生役は吉田羊が、子どもたちの理解者になろうと心を砕く新聞記者・諸積京一郎役は坂東龍汰が、音楽家である琴子の父親・茅野孝一役は竹野内豊が、琴子の兄でヴァイオリン奏者でもある茅野律朗役は櫻井海音が、日本と朝鮮の抗争を焚き付ける刑事役は北村有起哉が、琴子の靴磨きの仲間のひとりを花瀬琴音が、それぞれに表現している。さらに赤間麻里子、岩谷健司、つみきみほ、マキタスポーツ、プチ鹿島、サンキュータツオ、井上肇ほかの出演も。また本作の音楽を担当する原摩利彦が音楽家役で映画初出演(カメオ出演)をしている。
 西川監督は出演した子どもたちの演技を称え、この映画への思い入れについて、2026年10月5日に行われた公開直前イベントにてこのように語った。「子どもたちが非常に愛らしくて素晴らしい存在だなというのを、見事に子どもたちが演じ切ってくれました。苦境に立った子どもたちを少しでも助けたいという大人たちの思いがリレーのように繋がっていく映画でもあります。一人でも多くの方、特に若い世代にも伝わる作品になっていると思います」

この映画には戦争孤児となった子どもたちが多数登場する。ただ、孤児を演じる現代の日本の子どもたちにとって戦争は身近なものではない。そのため撮影前に歴史や当時の生活に関する勉強会やワークショップなどを実施。西川監督は週末に子どもたちと集まり、彼ら自身が当時の価値観や感情に対する理解を深める環境づくりに取り組んだ。西川監督はこの映画の制作のきっかけとなった思いについて、大阪・箕面自由学園高等学校で2026年9月28日に開催されたティーチインイベントにて学生たちに向けてこのように話した。「戦争から今年で81年経っていますが、だんだん若い人が見られる戦争映画が少なくなっているなと思ったんですね。ぜひこの映画は子どもたち、小学生、中学生、高校生にも見てもらいたいなと思って、そういう映画を作れるかチャレンジしてみようと思ったのがこの作品です」
 また劇中の音楽は、『国宝』の原摩利彦が担当。エンディングテーマなど一部の楽曲にて、坂本龍一が創設に携わった復興支援プロジェクト、東北ユースオーケストラが演奏に参加。その楽曲もオリジナル・サウンドトラックに収録されている。原は、劇中で琴子が音楽をやりたくてもできなくなった状況が、東北ユースオーケストラの子どもたちの存在と重なると考えて、彼らの参加を提案したとのこと。原はこの映画について、このようにコメントを寄せている。「この映画で描かれている子どもたちと同じような経験をする子どもたちがこの先いないように。今そういう状況にいる世界中の子どもたちが守られ、やりたいことに挑戦できる自由が与えられますように。この映画が多くの人たちのもとへ届くことを願っています」

吉田羊,ほか

戦後の混沌のなか、子どもたち、大人たちは、どこへ向かっていくのか。孤児の少年としてがむしゃらに生きる琴子が、信頼という概念をほんのわずかずつでも取り戻していけるかもしれないこと、戦後の波乱に打ちひしがれ呑み込まれかけた曽根が、少しずつ再生へと向かっていくさまは、観る者の胸を震わせ、あたたかな余韻を残す。
 そして戦後に生まれ、戦争を知らない私たちにできることとは何だろうか。西川監督は子どもと大人、両方の目線からとらえた、当時の記憶を伝える映画を作った。一方で、そうした大きな創作ができない私たちは無力なのかというと、おそらくそうではない。伝えるとは、「自分はそれを知らない」と自覚して知ろうとする姿勢を、次の誰かに手渡すことでもある。受け取った人が自分なりに考え、その思いをまた別の誰かへ渡していく。その応答が次に受け取る人にとっての新たな問いになるのだとしたら。伝承とは、問いの連鎖とも言えるのかもしれない。
 小八重は観客へのメッセージを、2026年10月16日に行われた公開記念舞台挨拶にてこのように伝えた。「戦争と聞くと、重くて、あまり子ども向けじゃないと思う方もいると思うんですけど、この映画は、どの年代の人でも観ることができます。そらじ(小学3年生)も観られたし(笑)、私の小学5年生の友達も長文の感想をくれたり、作品に向き合ってくれたのが嬉しかったです。同世代の人にこそ見てほしい映画だなって思っているので、たくさんの人に教えて映画館に観に来てください」
 そして二階堂は2026年10月5日に行われた公開直前イベントにて、このように呼びかけた。「戦後80年以上が経ち、当時を知る方も減っていくなかで、このような作品を作り続けて平和への想いを寄せ続けていくことが大切なんだと思いました。素晴らしい作品になっていると思いますので、多くの方々に届けるお手伝いをしていただけたら嬉しいです」
 西川監督はカナダ・トロントにて開催された、第51回トロント国際映画祭で2026年9月10日(現地時間)に行われたワールドプレミアにて、この映画の企画を考え始めたのが世界がコロナ禍からの回復に向き合っていた2020年春であり、2022年にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、世界各地で武力衝突が続く情勢に、西川監督は「まるで世界が逆行しているように感じた」とも。そしてこの映画に込めた強い思いと観客へのメッセージを監督はこのように伝えた。「今、世界中で、この映画に登場する子どもたちと同じような境遇に置かれる子どもが増えています。これ以上、どこであっても、子どもたちをこのような状況に置いてはならない。その思いを、この映画からのメッセージとして、皆さんの心に持ち帰っていただければと思います」

作品データ

公開 2026年10月16日より全国公開
制作年/制作国 2026年 日本
上映時間 2:30
配給 K2 Pictures
英題 Children Untold
原案・脚本・監督 西川美和
音楽 原摩利彦
出演 小八重葵美
二階堂ふみ
�虫R由一郎
小林丞之介
岩田龍門
渋谷そらじ
武内ひなた
櫻井海音
花瀬琴音
竹野内豊
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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