みちのく いとしい仏たち

厳しい風土を生きるみちのくの人々を支えた、愛らしい仏像・神像たち

  • 2023/11/28
  • イベント
  • アート

東京ステーションギャラリーにおいて初めて仏像・神像を紹介する展覧会。青森・岩手・秋田の北東北のくらしのなかで、人々の悩みや祈りに耳をかたむけてきた個性派ぞろいの木像約130点を紹介し、日本の信仰のかたちについて考える。

江戸時代、幕府や諸藩によって、寺院が「本山ほんざん」とそれに属する「末寺まつじ」に整理された近世以降、日本各地の寺院本堂の形状や荘厳(仏壇の装飾など)は宗派ごとに均一化され、同時に大阪・京都・江戸・鎌倉などの高い技術をもつ工房で制作された端正な仏像・神像が祀られるようになった。
 一方で、地方の小さな村々では十王堂(地蔵堂、閻魔堂)や観音堂など集会所を兼ねた場所が人々の拠り所。こうした場所や民家の神棚に祀られた十王、地蔵、観音、大黒天・恵比須などの木像は、仏師でも造仏僧でもない大工や木地師の手によるもので、これらを「民間仏」という。ご本尊と違って、煌びやかな装飾はないが、粗末な素材を使って簡略に表現され、日常のささやかな祈りの対象として大切にされてきた。
 その彫りの拙さやプロポーションのぎこちなさは、単にユニークなだけではなく、特に厳しい風土を生きるみちのくの人々の心情を映した祈りのかたちそのものといえる。

本展は、「ホトケとカミ」、「山と村のカミ」、「笑みをたたえる」、「いのりのかたち 宝積寺六観音像」、「ブイブイいわせる」、「やさしくしかって」、「大工 右衛門四良えもんしろう」、「かわいくて かなしくて」の8つのセクションで、バラエティ豊かな仏像・神像を紹介。
 本展のメインビジュアルにも選出された《山神像やまかみぞう》は、林業に携わる人々に今もあつく信仰されている山神様。大きな顔にちょこんとした目鼻、狭い肩幅とみごとな三頭身、そして控えめすぎる合掌ポーズは、本展のメインビジュアルにふさわしい風格。丸い頭部と四角い弁当箱のような上半身の組み合わせがたまらない。
 地獄で亡者の罪を責め苛む鬼(獄卒)が、左手に女性を引きずり、得意満面でポーズを決めるという、文面ではいかにも恐ろしそうな《鬼形像きぎょうぞう》は、なぜか頬かむりをして、それでも隠しきれない大きな耳、胸・ヘソ・すねの毛まで表されていて滑稽。罪深い行為への戒めの意味をもつ一方で、地獄にまつわるお像が楽しい姿で表されているのは、つらい今世を笑い飛ばしたいという願いが込められているからかもしれない。

その他にもまだまだ個性的な仏像・神像が満載。素朴でユニークな造形と表情が、ほっこりとした温かい気持ちにさせてくれるだろう。

  1. 《山神像》江戸時代 兄川山神社/岩手県八幡平市
    《山神像》江戸時代
    兄川山神社/岩手県八幡平市
  2. 《十王像》江戸時代 黒石寺/岩手県奥州市
    《十王像》江戸時代
    黒石寺/岩手県奥州市
  3. 《鬼形像》江戸時代 正福寺/岩手県葛巻町
    《鬼形像》江戸時代
    正福寺/岩手県葛巻町
  4. 《鬼形像》右衛門四良作 江戸時代(18世紀後半) 法蓮寺/青森県十和田市
    《鬼形像》右衛門四良作
    江戸時代(18世紀後半)
    法蓮寺/青森県十和田市
  5. 《六観音立像》江戸時代 宝積寺/岩手県葛巻町
    《六観音立像》江戸時代 宝積寺/岩手県葛巻町
  6. 《不動明王二童子立像》江戸時代 洞圓寺/青森県田子町
    《不動明王二童子立像》
    江戸時代
    洞圓寺/青森県田子町
  7. 《童子跪坐像》右衛門四良作 江戸時代(18世紀後半) 法蓮寺/青森県十和田市
    《童子跪坐像》
    右衛門四良作
    江戸時代(18世紀後半)
    法蓮寺/青森県十和田市

開催概要

展覧会名 みちのく いとしい仏たち
会期 2023年12月2日(土)〜2024年2月12日(月・振休)
休館日 月曜日(ただし1月8日、2月5日・12日は開館)、12月29日(金)〜2024年1月1日(月)、1月9日(火)
時間 10:00〜18:00(金曜日は20:00まで)
※入館は閉館時間の30分前まで
会場 東京ステーションギャラリー
千代田区丸の内1-9-1
入館料 一般 1,400円、高大生 1,200円、中学生以下無料
※詳細はこちらをご確認ください
公式サイト https://www.ejrcf.or.jp/gallery/
問合せ 03-3212-2485

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。