シュウゴアーツ(六本木6-5-24 complex665 2F)
画家・小林正人の画集『MK』の出版を記念した個展がシュウゴアーツで開催中。
『MK』は、小林にとって初めてとなる包括的な画集だ。東京藝術大学在学中の初期作品から国立、ベルギーのゲントを経て鞆の浦(とものうら)と取手で制作した40年間にわたる、小林絵画の一貫性のある展開を追うことができる。
床置きの絵が描かれるようになったゲント時代の作品や、カンヴァスを木枠に張りながら、擦り込むようにして色を載せ、小林独自の手法で絵画を立ち上げていく様子などを垣間見ることができ、小林の世界を読み解くヒントとなる。
3章だてとなる本書の中でも印象的だったのは、2004年にスウェーデンのテンスタ・コンストハルで開催された個展の最終日に、作品を切り裂いた時の写真と、そこに書かれている「テンスタのクロージングの日、この画を切ったのは 終わりにするためじゃない!」。
その言葉のとおり、絵の一部は20年ほど時を経て、2023年にシュウゴアーツで開催された個展「自由について」で発表された《画家》という作品に生まれ変わった。
《画家》に描かれているのは、絵筆をくわえた馬。小林はこの5年来取り組んでいる「画家の肖像」シリーズで、絵筆をくわえた馬のモチーフを描いており、本展でも観ることができる。
会場では手前の空間に4点の《画家の肖像》が展示されている。優しい目の馬、ひらめきを得た瞬間のように輝いて見える馬など、それぞれ小林の自画像なのだろうか。キャンバスを張りながら手や指を使って描くという独自の制作スタイルで、絵筆を使わない小林と、画家の象徴としての絵筆をくわえる馬。その対比を考えながら観るのも楽しい。
高さ3メートルを超える作品、《画家とモデル》が展示されている奥のスペースは、少し薄暗い。この作品を、なるべく小林が自身のアトリエで見ている光に近い環境で、来場者に観てほしいという小林の願いにより、窓から差し込む自然光で鑑賞するスタイルをとっている。
実物のサラブレッドほどの大きさで描かれている馬の姿と、目に宿る強い光に、この姿が一番小林に似ているような気がした。
小林は親指を使い「ほぼ、一発勝負」で馬の目を描くそうだ。絵に魂を吹き込むその一瞬に、全身全霊の力をこめるのだろうと、アトリエでの姿を想像した。
馬に乗る「モデル」は、カウガールの姿で描かれているが、本作では消えているように描かれているのも印象的だ。
時間帯によって変化する光で、観え方が変わってくるその姿をぜひ会場で観てほしい。
小林の画集『MK』は、シュウゴアーツで実際に手に取って、購入することも可能。通常版のほか、描き下ろしドローイングがついた限定40セットの特装版は、ファン垂涎の的だ。
【会期】2024年12月7日(土)〜2025年2月1日(土)(当初より会期が延長されました)
【休廊日】日月祝(年末年始は、2024年12月28日〜2025年1月6日まで休廊)
【時間】11:00〜18:00
【画像】小林正人 画家の肖像 ―『MK』出版記念展 展示風景, シュウゴアーツ, 2024 Copyright the artist, Courtesy of ShugoArts
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