川上一彦個展「続・奇禍グラフ」

六本木ヒルズ A/Dギャラリー

  • 2025/10/31(金)
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川上一彦個展「続・奇禍グラフ」

 大正・昭和初期の印刷物を素材にしたコラージュ作品を中心に、ストーリー性と神話的な世界観を重ね合わせた独自の表現を追求する作家、川上一彦の個展が開催中。
本展ではダイナミックな掛け軸に仕立て上げた作品を中心に、ストーリー性のある大胆な作品が並ぶ。

 本展のタイトルは、昭和という時代が幕を開けてから100年を迎えた今もなお続く「奇禍」の意味を見つめ直す意味でつけられた。川上は作品の素材となった古いポストカードを片手に
「これは大正時代から昭和初期にかけてのポストカードや写真です。よく見ると、戦争や水害などの災禍を題材としたものが多いのです。昭和、特に初期の頃は、戦争や災害など数多くの災禍に見舞われた時期で、多くの人に傷を残しましたが、それを忘れてはいけないという気持ちと、それを和らげたいという気持ちがあります。近年ではコロナ禍や世界各地での戦争など、奇禍は今もなお続いています。その中でも希望を見出したくましく生きる人々の生命力や命の輝きのようなものを表現したいと、制作しました」と本展への想いを語った。

 もともと昔の絵ハガキや印刷物をコレクションするのが好きだった川上は、集めた素材を再構築し、コラージュした作品を制作するようになった。写真を見てインスピレーションを得るのか、それとも表現したいものに合わせて写真などを探すのだろうか。
「両方ですね。例えばこの作品のもとはこちらの絵ハガキの読み物を読む女性です。写真の女性を見ているうちに、『この人はヒーローだ。人々を助ける方法を読み物で覚えている最中だ』とひらめいて、ヒーローの象徴としての仮面を被せて大きく配置し、まわりにはヒーローにピッタリな素材を組み合わせてコラージュし、一つの作品にしました」。

 会場の中央には神輿のインスタレーションが鎮座しており、昔の銀座の街の風景に神輿が浮かび上がるなど、作品の中にも神輿が登場するものが多い。
「この神輿は古道具屋でたまたま見つけたもので、購入後眺めているうちに『そもそもお神輿とはどのようなものだろう』と気になりお神輿について調べました。そのうち、神様の乗り物である神輿をくぐることでご利益があるといわれていることを知り、神輿を高いところにあげれば皆がくぐってご利益を受けられるのではと考えて、また、お神輿が街を回ることで厄災を払い清めてくれるといわれるので、作品に登場させています」。

 多彩な素材で構成されている作品を観ると、これほどの素材を集めることはさぞかし大変だろうと思われる。
「神保町あたりを自分の足で探しに出かけることが好きなのですが、たしかに集めることが一番大変ですね。制作時間全体の5割は素材を探して集める時間、全体の構成や素材の組み合わせなどのアイデア出しが4割、残りの1割で組み合わせていくという感じです」。

 本展の作品の中で、子どもが描いたような絵と組み合わせたものがあるのも印象的だ。
「これは子どもの頃に書いた絵の中の怪獣が、大人になってから現実に現れて街を破壊しているというイメージの作品です。タイトルの《メガ怪獣現る。ご利益Wポイントのチャンス》は、この怪獣を倒せばゲームの世界のようにボーナスポイントが出ますよ、という意味でつけました」。
絵の中の怪獣は意外と小さく描かれ、お神輿や山車の戦闘機と戦っている。奇禍は怪獣が引き起こしたものですよとして描き、これを倒せばボーナスポイントがもらえて良いことがあるよと、希望も見える世界観だ。

 「子どものころから、いろいろ想像するのが好きで、テレビでウルトラマンが負けてしまった時には友人と数日間『おい、この後どうしよう…』と真剣に悩んでいました。今でも電車に乗って外の景色を見ながら『ここで怪獣が現れたら』と想像することもあります。これまではイメージをコラージュ作品などで表現していましたが、今後は5メートルぐらいあるような大きなインスタレーション作品に取り組んでみたいですね。展示する場所が難しいかもしれませんが」。
と笑顔で話す川上の、ユニークな発想あふれる作品の不思議な世界観をぜひ会場で楽しんでみたい。

【会期】10月31日(金)〜11月16日(日)※会期中無休
【時間】12:00〜20:00

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