港区界隈の個性派 博物館

広告から時代を覗く!見て触れて聴いて、その“時”を体感!アドミュージアム東京

汐留シオサイトにある「アド ミュージアム東京」。2002(平成14)年に開館した広告専門の博物館で、コレクションは江戸時代から現代まで30万点を超える。小学生からリタイアメント層まで1日に約600人が訪れ、専門学校生や高校生がコミュニケーションについて学ぶ、大学のゼミで広告やマーケティングについて調べるといった学校単位での見学も多い。

副館長の中村優子氏。2017年のリニューアルに際し、広告業界だけでなく、広く一般の人々が楽しめる、明るく開かれたミュージアムを目指した

地下2Fにあるインフォメーションを抜けて展示室に入ると、吹き抜けの広い空間に不思議な形をしたモニュメントが4つ釣り下がり、中央には55インチのモニターが5台点在。壁伝いに、江戸時代から現代までの広告史が紹介されている。まずは歴史からスタートしよう。
 各時代の冒頭の解説がアニメーションで新鮮。ポップなアニメキャラが時代背景や広告に至るストーリーなどを、分かりやすく解説してくれる。展示の中の解説もユニークで、“世界初!?の天才マーケター”や“今も昔もアイドルは広告の主役”といった1つのまとまりごとに見出しがある。「コピーライターに依頼し、見出しだけを読んでも概要が分かるように作ってもらいました。本文もストレスなく読めるように200字でまとめています」と、広報の澤田タッカー美子氏。分かりやすさを追求するところはとても広告らしい。

あめ、筆、櫛、かつら、鍵などの看板は、江戸時代に使われていた実物。下のモニターでは、豆腐屋、冷水売りなどの物売りの独特な言い回しも体験できる

歌川国貞による錦絵『駿河町越後屋 店頭美人図』(レプリカ)は、新作の着物を来た女性の錦絵が持ち帰られることでファッションが流行していくファッション誌の役割を担っていたことを表したもの。背景に富士山や江戸城を描くことで日本一の店を誇張している点など、解説を見ながら一見普通の絵の中に隠された意図を探るのも面白い。
 歌舞伎の幕間に役者が商品の口上を述べる姿を描いた役者絵や、実際のお店や商品を載せた双六なども興味深く、じっくり見入ってしまう。双六『江都名物当時流行双六』に載っている“隅田川の桜餅”は「長命寺 桜もち」として、今も同じ場所で営業している点も驚きだ。江戸時代に広告分野で活躍した平賀源内、式亭三馬、蔦屋重三郎、十返舎一九、山東京伝の5人がインタビュー形式のアニメーションで紹介されているコーナーもインパクト大。売れる商品の秘密、文章で食べていく秘密、才能を見抜く秘密など、思わず聞きたくなるキャッチに加え、親しげな口調も楽しい。広告史の中で江戸時代が一番長く皆が足を止めているのも納得だ。

十返舎一九や式亭三馬らを、江戸のクリエーターとして捉え、その仕事をインタビュー形式で紹介。『東海道中膝栗毛』などがヒットした背景や生まれた経緯などが分かりやすく解説されている

明治から戦前にかけてはポスターや新聞広告が中心。錦絵の世界からガラリと洋風のレイアウトに変貌していく。「1872(明治5)年に初めて新聞で「広告」という言葉が使われたのですが、これが中国に渡って、中国でも広告という言葉が使われるようになりました」と、澤田タッカー氏。漢字の場合、中国から来た言葉が定着しているイメージがあるが、逆パターンというのが意外だ。
 印刷技術の発達により大判でカラフルな広告が多く生まれた大正時代のポスターは、スライド式の壁に112点展示されている。セーラー万年筆、森永製菓、カルピスなど、今もある会社のポスターが現れると何となく親しみがフツフツと。優しいタッチでアールヌーボーの要素を取り入れた杉浦非水、日本初の写真ヌードポスターを制作した片岡敏郎、ほぼ毎日掲載されたグリコ豆文広告を手掛けた岸本水府の3人のスタークリエイターについても解説されている。赤玉ポートワインのヌードポスターのモデルとなった女性はこの件が原因で勘当されたのだとか。

味の素、福助、森下仁丹、三越など、見知った企業が多い、大正時代のポスター。赤玉ポートワインのヌードポスターの赤ワインの色は当時の技術の結晶
戦時中のポスター「何がなんでもカボチャを作れ」は、ショップでポストカードとして販売

1950年代、1960年代、1970〜80年代、1990年代と、戦後の高度成長期から平成にかけては4つに区切って展示。1953(昭和28)年、NHKや日本テレビが放送を開始しており、当時のCMも見られる。90年代には、エコ関連の広告も登場。ラジオ、太陽の塔、リカちゃん、ファミコン、iBook、AIBOなどの実物がポスターなどに交じってコラージュされ、その年代の人にとっては懐かしい気分に浸れること間違いなし。特に1966年に制作された資生堂のBEAUTY CAKEのキャンペーンポスターや、1964年の東京オリンピック公式ポスターは、今見てもパッと目につく強さがある。澤田タッカー氏は、BEAUTY CAKEのキャンペーンポスターの背景を次のように説明してくれた。「小麦色の肌の女性が水着で寝そべっている姿がポスターになるのは当時としてはセンセーショナルで、当時の日本女性の美人像を変えたと言われています。海外ロケをして撮影したことも珍しかったようです」。確かに、戦後のコーナーに展示されていた1946年制作の原節子が見上げているポスターでは、襟付きブラウスで白い肌が清楚なイメージだった。年表として眺めるとあっさり通り過ぎる20年の月日も、よく見ると大きく人の意識の変化が見られるのかと、その重みともども自分の20年も振り返って感慨にふけってしまう。

1950〜2000年代までの代表的な広告がズラリ。「男は黙ってサッポロビール」の前でビジネスマンが見入る姿もちらほら
2000〜2016年まででインパクトのあったCMをまとめたコーナー。BOSSの宇宙人ジョーンズシリーズや、ソフトバンクのホワイト家族24シリーズなどが入っている

フロアの中央にある55インチのモニターや不思議な形のCM視聴ブースも要チェック。モニターはコレクションテーブルと呼ばれ、1950年代〜現在までのテレビCMやポスターなどを自由に閲覧できるスグレモノ。日本のものだけでなく海外のものも入っていて、約2000点が収まっている。気になる画像をタッチするとそのCMやポスターが見られ、横には作品名、商品、広告主などの関連情報も表示。出演者やシリーズなど、キーワードでつながっていて関連のほかのCMや広告もチェックできるほか、年表で時事ネタの確認も可能。毎年、いくつもの広告が生まれてくる中で、検索のタグ付けをしながら、アーカイブ化していく作業は、ミュージアムの作業の中でも大変なものの一つだという。
 一例として、澤田タッカー氏がオーストラリアの鉄道会社の広告「Dumb Ways to Die(おバカな死に方)」を紹介してくれた。歌に合わせて、不思議なキャラクターが、宇宙空間でヘルメットを外すなどのひたすらおバカな方法で死んでいく。鉄道とどう結びつくのかと見ていたら、最後にプラットフォームの端に立つ、踏切を強行突破しようとするシーンが出てきて、おバカな死に方と同列で扱うことで、鉄道周辺での行動に警鐘を鳴らすCMだったと分かる。「カンヌで行われた国際広告賞で28部門の受賞を収め、世界中で話題になりました。ネガティブな内容を歌とイラストでポップに表現して、興味がなくても見てしまうような形に仕上げてある点がポイントです」。

展示室の中ほどに点在するコレクションテーブル。不思議な形状の視聴ブース「4つのきもち」では、元気がでる、ビックリする、心あたたまる、考えさせられるの4つの感情をテーマにしたCMが楽しめる

ハート、泡、岩のように見える、CM視聴ブース「4つのきもち」。元気がでる、ビックリする、心あたたまる、考えさせられるCMを5〜6点ずつ集めたもので、何も考えなくても不思議と狙い通りの気持ちが湧いてくるものばかり。古い時代のCMもあり、取材時は心あたたまるCMの一つとして、1990年の松下電器産業の扇風機1/fゆらぎCM「夢ごこち」が流れていた。扇風機のそよ風に吹かれて乳児がうたた寝するシーンが続くキュートな広告だ。ビックリするCMには、接着剤を付けた柱にオートバイがくっつく1988年の東亜合成化学工業のアロンアルファCM「トライアル」や、地面に手をつかずに空転する2003年のサントリーの燃焼系アミノ式CM「グッバイ、運動。回転少女」など、確かに驚くものばかりが集う。紹介されるCMは、広告史やコレクションテーブルも含め、年に1〜2回ランダムに入れ替えられていく予定のため、次回に訪れた時には違うものが楽しめるかもしれない。

江戸時代の錦絵、番付、引札、有名なCMの絵コンテなどのレプリカが置かれた“アナログテーブル”も点在。一世を風靡したCM「タンスにゴン」の絵コンテも!
インフォメーションにある葉書に順番にスタンプを押していくと、画像左のような広告が出来上がる。子どもに大人気だ

常設展を見学した後は、企画展へ。1カ月から1カ月半の期間で年7回実施。世界三大広告賞であるCANNES LIONS、D&AD、ONE SHOWと、消費者が選んだ広告を表彰するJAA広告賞、日本で最も歴史ある総合広告賞である広告電通賞、コピーを中心としたTCC賞の6つの広告賞を取り上げたものと、独自企画で構成されている。今年度のオリジナル企画展は「ひと・人・ヒトを幸せにする広告」。2016年5〜7月に実施した企画展の続編で、広告が持つコミュニケーションの力を用いて、社会課題を広告で解決しようとする試みだ。同展と連動して、人が本となって人生を語り、読者からの質問に回答することで、マイノリティに対する理解を深める「ヒューマンライブラリー」のイベントや、広告会社数社が共同でセミナーを行うワークショップなども予定されている。

その時代を懸命に生きた人の想いや日々の出来事から、トレンドが生まれ、それを捉えた広告が生まれてくる。歴史と表裏一体の広告から過去の生活を垣間見て、今と対比させたり、類似点を見つけたり、背景を探ったりしながら、違う視点や価値観、コミュニケーションの取り方を考えるのは、今の生活をより豊かにするのに役立ちそうだ。

B1Fは約2万8000点の蔵書を誇る広告とマーケティング専門のライブラリー。特集コーナーは、銀座蔦屋書店が選書協力を行っている
アドミュージアム東京(汐留)
外観
港区東新橋1-8-2 カレッタ汐留B1・2F
03-6218-2500
入場無料
火〜土 11:00〜18:00
休館日
日曜、月曜、年末年始、展示替え期間
JR・銀座線「新橋駅」徒歩5分、
大江戸線「汐留駅」徒歩2分
webサイト
2018年4月取材/2018年5月更新