諸大名が力を結集した江戸時代265年の礎に触れる

史跡 江戸城外堀跡石垣(霞ヶ関)

  • 2013/07/30
  • カルチャー
  • 博物館
史跡 江戸城外堀跡石垣

文部科学省や霞が関ビルなどが建ち並ぶ霞が関コモンゲート。行政や経済の中枢としてワーカーの姿が途切れることがないこの地に、徳川幕府の府城として日本最大規模を誇った江戸城の外堀が眠る。2008年の文部科学省庁舎の新庁舎落成に合わせて、敷地内の外堀跡石垣が展示公開。意外な歴史スポットとなっている。

江戸の城下町を取り囲む広大な外堀の石垣は、寛永13年(1636年)に、家康の代から続いた江戸城整備の総仕上げとして三代将軍徳川家光が命じたもの。いわゆる天下普請(幕府が全国の諸大名に行わせた土木工事)の一つだ。60家の大名を6組に分け、それぞれ区域を分担し、現在のほぼ外堀通りに相当する全長14kmを積み上げた。関東では石垣に相応しい花崗岩が採掘できないため、遥か伊豆から石を船で運んだという。また、八重洲は湿地、神田は山、溜池は沼地であったため、台地と低地の高低差を利用していたという。

一番総合的なのは地下展示室。銀座線「虎ノ門」駅から11番出口の庁舎連絡通路を進むと、案内板が見えてくる。石垣解説や外堀の水位を説明したパネル、素材となった花崗岩の標本があり、奥のオープンエアに堂々とした石垣がそびえる。どれも60〜80cm四方に切断されたものがきれいに乱積みされる姿は美しい。規格に沿って粗く切った石と間詰石で固定していく“打込みハギ”という築石技法だ。虎ノ門から溜池までの区間は、岡山藩(池田家)を頭とする組が担当し、この石垣は佐伯藩毛利家(大分県佐伯市)が築いている。工事区域の分担は大名の石高によって分かれ、区分けを示すために刻印が彫られた。

文部省の新旧庁舎の間にある石垣は摂津三田藩九鬼家が担当。対面には、石垣発掘調査の報告が詳細に綴られている。アネックス前の石垣、虎の門三井ビルの櫓台跡も併せてたどれば、歴史のパズルを組み立てるような面白さも。庁舎や近隣のビルに仕事で出かけたワーカーが帰りにふらりと見ていくのもうなずける。今も変わらぬ行政の中枢で、かつての礎に触れて過去を顧み、未来へと思いをつなげてみたい。

江戸城外堀跡地下展示室オープンエアの展示室。突き当りに石垣が見え、横に解説パネルが並ぶ。博物館という箱に収められた形ではなく、今も生きる遺構の中でその成立経緯を知ることで、意識がタイムスリップして江戸時代の人々の息吹を隣で聞いているような錯覚に陥る。
外堀水位の表示地下展示室へ向かう階段の途中から展示室内にかけて、外堀の水位を示すために壁に御影石が使われている。上側は外堀水面、下側は外堀堀底の表記があり、1.5m位の深さが体感できる仕組み。
地下展示室からの眺め地下展示室から眺めた江戸城外堀の石垣。粗く砕かれた石垣は同じくらいの大きさで、割と緩く積み上げられ、隙間に細かな石が詰められて補強されている様子がよく分かる。隅にライトが設置されており、夜間は点灯。ライトアップされた石垣は雰囲気がグッと増す。
矢穴や藩の刻印良く見ると、一部の石には石を切り出す際に打ち込んだ矢穴や、工事を担当した藩の刻印が彫り込まれている。矢筈の刻印は豊後佐伯藩毛利家(大分県佐伯市)の家紋。この石垣を築いた担当として記したものだ。
霞が関コモンゲートアネックス前歩道の石垣霞が関コモンゲートアネックス前の歩道にも石垣の一部がお目見え。こちらは備中松山藩池田家が担当した部分だ。上に植栽があるため、一見生垣のように見える。
文部科学省新庁舎と旧文部省庁舎の中庭文部科学省新庁舎と旧文部省庁舎の中庭、ラウンジ前にも石垣が一般公開されている。虎ノ門駅11番出口から向かうと一段下がった半地下にあるために見つけにくい。
ラウンジ前の石垣ラウンジ前の石垣は地下展示室よりも間近。石垣の形を整えるのに楔を打ち込んで切り出すだけでなく、細部をノミで削った跡なども良く見える。日本一の広さを誇る江戸城外堀、その数も相当だったに違いない。
発掘調査報告のパネルラウンジ前の石垣とともに、江戸城外堀跡の発掘調査報告がパネルでまとめられている。現在の地図、江戸時代の地図、写真などを見比べながら読み込むと、新宿区、港区、千代田区にまたがるその大きさが実感できる。
虎の門三井ビル前の櫓台跡文部科学省と道路を挟んで向かいに立つ、虎の門三井ビルの前の歩道には、因幡鳥取藩が築いた外堀唯一の櫓台跡が残る。道路側からは植え込みにしか見えないが、回り込むと角を突き出すような形で石垣があらわに。

基本情報

名称 史跡 江戸城外堀跡石垣
所在地 千代田区霞が関3-2-2 文部科学省構内
※地下展示室は銀座線「虎ノ門駅」11番出口付近
電話番号 文化庁記念物課 03-5253-4111
アクセス 千代田線「霞ヶ関駅」徒歩5分
銀座線「虎ノ門駅」直結
公式サイト https://www.mext.go.jp/b_menu/soshiki2/ishigaki/

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