TIGER MOUNTAIN(虎ノ門)
虎ノ門ヒルズ駅と神谷町駅のちょうど間に2025年にオープンしたユニークな古本屋がある。日本の戦後の出版文化が生み出した、優れた装丁、ユニークな編集の本を1960〜90年代を中心に約3,800冊セレクトした書店スペースのほか、デザインや編集に焦点をあてた展示を行うギャラリースペースも設け、店内で定期的に開催するイベントなども通じて日本の出版文化の豊さを紹介していく新しい複合文化施設「TIGER MOUNTAIN」だ。
店名はブライアン・イーノの名盤の由来ともなった中国の革命現代京劇『智取威虎山』に由来する同書店は、企画・運営を手がける出版社「黒鳥社」のコンテンツディレクター若林恵氏が、古本の買い付け、売り場づくり、書籍のキャプション作成までを担当している。黒鳥社が出版する新刊以外はすべて古本。横尾忠則、杉浦康平、平野甲賀、真鍋博、原弘、田中一光、江島任、田名綱敬一、栃折久美子、芹沢_介をはじめ、デザイナー/装丁者ごとに書棚を作成。アートやデザイン関連の本から、小説、エッセイ、インタビュー集、人文書、漫画から辞書までジャンルも体裁も多岐にわたる本が並ぶ。
運営する黒鳥社のエディターの鈴木理利子氏に約3,800冊ある古本の仕入れに関して話を聞くと、すべて若林氏が行っているという。「60〜90年代の本は裏表紙にバーコードの印字がなく、全面をデザインに使えます。ですのでその時代のデザインはバリエーションが豊富でバラエティに富んでいます。中の装丁や目次だけ見ていてもおもしろいです」。
黒鳥社のエディターで、同店を担当している鈴木氏改めてこの施設を始めたきっかけを聞くと「日本の出版文化を発信していく場所を作ったのですが、デザイナーごとに書棚をまとめて見せるというのはほかの書店でもやっている所はない。また戦後の日本は分業化が進んでいなくて、音楽家や作家、芸術家など様々なジャンルで才能のある方たちの中心になっていたのがデザイナーだと言われているので、この時代において重要な存在でした。デザイナーごとの書棚を作ってみると、著者は違うけれど同じような字体や装丁などデザイナーの特徴が浮かび上がって見えるのが面白いかなと」。紙もいいものを使っていて、出版が盛んであると同時にデザイナーのこうしてくれないと出版ができないと言う要望に応えるために印刷の技術も上がっていったそうだ。
壁一面に飾られた「平凡パンチ」などの雑誌群。これ以外にも50年代の「装苑」や79年発売の「anan」などがあり、今とは全然違う様式に驚くオープンから1年たち、店舗の客層について尋ねると、「編集者やデザイナー、写真家など本作りに携わる方々がインスピレーションを求めて多く訪れますね。インスピレーションを求めてやってくる方が多いです」。またオープン時から意識していた日本文化に興味を持つ外国人観光客も多いのだという。「『平凡パンチ』などの雑誌がよく売れます」と意外な事実も語ってくれた。また古本が並ぶ神保町では外国人客から横尾忠則の本が人気とのこと。横尾の装丁はレトロかわいいものが多く、外国人客に人気なのも頷ける。
横尾はコラージュや色彩の美しさなどビジュアルに目が行きがちだが、中の文字組や中身の構成がうまいという特徴があるのだとか3,800冊の中から、鈴木さんおすすめの本3冊を選んでもらった。
「絵草紙 うろつき夜太」作 柴田錬三郎 画・デザイナー 横尾忠則
「21世紀への旅行・宇宙篇」装丁・挿画 手塚治虫
「うつろ舟」澁澤龍彦 装丁 菊地信義
「柴田さんと横尾さんは2人でホテルに缶詰めになって制作したとの裏話も。横尾さんのイラストなどは実は描ききれていないところもあり、絶妙なところで終わります」。こだわりが強く、締め切りに間に合わなかったようだ。「62年に科学技術庁と手塚治虫が制作した本は装丁も手塚治虫が手掛けています」。本につけられているスリップには詳しい作品情報と英文訳も記されている。菊地の装丁は中身の装丁も渋くて鈴木氏の好きなデザインだと言う。「今、中々こういうデザインは見かけません。菊地さんの装丁は書棚に並んでいても目を惹きます」。
当時は子供向けだった手塚治虫の本も。リボンや「メリークリスマス&ハッピーニューイヤー」の文字があり、プレゼントを想定していたのだろうか?また誰もが知るベストセラーや名著でも初版時の装丁は今と全然デザインが違っていたりして、それを見つけるのもおもしろい。
72年に194万部のベストセラーとなった有吉佐和子の「恍惚の人」。中身は同じでも今とは装丁が違う。見比べてみても楽しいのでは店内のディスプレイにもこだわりが。本が一冊売れると色味やデザインのバランスが変わってしまうので、並び直す。こちらにもセンスが要求されるという。デザインへのこだわりが詰まった店内だ。カウンター横にあるシリーズものや有名作家の全集も豊富。
左から「悪魔の手毬唄」横溝正史、「獄門島」横溝正史。デザイナーは日本人初の国連公式認定画家に選任された宮田雅之併設されたギャラリースペースでは、注目のブックデザイナーの個展を中心に、雑貨やブランド、骨董品などの企画展も年8回程度開催。中国・上海を拠点に活動する新進気鋭のカートゥーニストでイラストレーターの我是白(ウォシバイ)氏の書籍刊行の記念展や文筆家の佐久間裕美子氏がホストとなり、佐久間氏を指導する渡辺みなみ氏と共に編み物を楽しむ講座が開催されるなど様々な企画が行われている。2026/3/18〜4/12には小橋陽介氏の写真展「DOLPHIN SAHARA」が開催される。
小橋陽介氏の写真展「DOLPHIN SAHARA」の展示風景今後の展開については様々な方向性を模索。音楽と古本の親和性が高いと考え、音楽フェスへの出店も行った。元々若林氏はこちらのお店をレコードショップにすることも考えていたといい、実際にレコードも数点取り扱っている。確かに音楽のジャケ買い感覚で本も見るのもおもしろい。映画のパンフレットや昔の喫茶店のマッチなどもあり、デザインのインスピレーションを得るには最適。
山口百恵や高橋幸宏、遠藤賢司のレコードが並ぶ。すでに売れてしまったがYMOが人気だったとのこと最後に鈴木氏に同店の一番の見どころを尋ねた。「神保町の方に行くと、すごくデザインが綺麗なのに、大量の本の中で埋もれているものがたくさんあるのですが、そういう本を1冊1冊ピックアップして見せているお店です。ここに来て約3,800冊程の本を手に取ってゆっくり見ていただけると、本作りされている方は特にクリエイティブの幅が広がり、自分の創作にも奥行きがかなり出ると思います。書棚にはデザイナーについて書かれたポップや、古本には紹介文が差し込まれており、本に詳しくない方でも見方が一気に広がります。こちらは外国の方に向けて英語でも書かれています。書店スペースの方に来ていただいてもいいですし、ギャラリーの方でもジャンル問わず企画を展開しているので、何か接点を持ってきていただけるとおもしろいかと思います。こちらでも音楽フェスやイベントがあったら出て行ったりもしますので、お店の方にも来てもらえると楽しいと思います」。
古本屋のイメージを覆すおしゃれな店内で、本好きな人もそうではない人もワクワクした気持ちになれるだろう。ぜひ一度覗いてみたらいかがだろうか。

| 名称 | TIGER MOUNTAIN |
|---|---|
| 所在地 | 港区虎ノ門3-7-5 虎ノ門RooTs21ビル1階 |
| 電話番号 | 03-6809-1105(黒鳥社) |
| 営業時間 |
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| 定休日 | 月、火曜日 |
| 公式サイト | https://tigermountain.jp/ |
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