六本木ヒルズ A/Dギャラリー
アート・コレクティブ「パープルーム」の初期メンバーである画家、安藤裕美の個展が開催中。
安藤は、日々の出来事を絵画、ドローイング、版画、マンガ、アニメーションという手法を用いて記録している。本展では「つくる人々」をテーマに、新作絵画、版画など20余点を展示する。
「パープルーム」は、2014年に結成された美術の共同体。主宰の梅津庸一氏を中心に、美術を志す若い人たちが全国各地から集まり、ともに活動してきた。2018年には相模原市にパープルームギャラリーがオープンし、数々の展覧会を開催してきたが、建物の老朽化により2023年に旧パープルームギャラリーは閉鎖となり、現在は移転先にて活動が続いている。
本展では、身近な人々を描いてきた安藤が描いた、パープルームやその他の場所で活動し、生活する「ものをつくる人々」を観ることができる。
自身の身近にあるものをテーマとする安藤は、パープルームに通ううちに、そこの作家たちを描きたいと思うようになった。
『ものをつくるひとは誰かの影響を受けている。教わる者だけでなく、教える方も教えた相手から影響を受け、絵の様式や作風も伝播する。ものをつくるということは、影響の積み上げによるものではないか』と、安藤は考える。
「私はいわゆる『作家の固有性』が重視されるのを疑問視しています。パープルームでいろいろな人が集まり、影響し合うことで、その人の考えや作風が変わったりする様子を見ていくうちに、何もないところからではなく、人と関わって考えて、研究した結果が作家性になるのではと思うようになりました。ものをつくるひとを描くことで、ものをつくることを考えているという感じです。
ここに描かれているのは、パープルームで実際に見たシーンですが、(絵の登場人物である)梅津さんからは、作風に大きな影響を受けていますし、わきもとさきさんは作家としての姿勢を尊敬しています。人とのやり取りの中で自分の作家性が形成されるなど、ただの人間関係ではなく、作品どうしの人間関係が絵の中に宿っています」。
身近な人を見つめ、描く安藤の絵からは、対象に対する愛情や深い尊敬、あたたかい眼差しが感じられる。
「描かれた場面のドキュメント性も大事にしていますが、ドキュメント性だけだと『写真でいいじゃない』となってしまうので、絵画的な造形性とドキュメント性の狭間で描いてます」。
日常の一瞬を切り取るとき、どのような手法を取るのだろうかとの質問には、
「スケッチをすることもあれば、写真を基に描くことも。でも、写真をそのまま写し取るのではなく、ネガポジを反転するなど、意識的に絵画の色彩と実物とのせめぎ合いのようなものを意識しています。
この座談会の風景を描いた絵は、ゆっくりスケッチする時間があったのですが、このような場では発言の多い人とそうでない人に分かれますよね。絵の中の5人のうち、よく話して印象に残っていた人の顔は、はっきりと描いていますが、あまり話さなかった2人は少しぼんやりと描くなどの解釈を入れています」。
パープルームの日常を絵画で記録し続け、まさにパープルームそのものと言える存在の安藤にとって、旧パープルームの取り壊しには大きな喪失感があったのではないだろうか。
「はい、ありました。この作品は旧パープルームを引っ越しながら手がけたのですが、描き始めた頃はこの絵のような状態でした。でも、描いているうちに物がどんどん無くなって、目の前の風景が絵の中と変わっていって。完成した時は新しいパープルームでしたから、寂しさを感じました」と、会場入口に飾られている《旧パープルームの生活と美術》を指し示した。
ただ、移転とともに心機一転というわけではないかもしれないが、安藤は別のテーマを見つけつつあり、パープルーム以外のものも描いていく予定だという。
会場内では、安藤の幅広い作品が観られるほか、入口の展覧会タイトル文字も自身で青みのあるグレーに調色し、レタリングで描いたという。絵の邪魔をせず壁と一体化して見え、絵画性を帯びる、作品の一つでもあるというこだわりだ。
「今はアニメーションを作るのが楽しい」と語る多彩な安藤の動向に、今後も目が離せない。
【会期】1月10日(金)〜1月26日(日)※会期中無休
【時間】12:00〜20:00
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