吉村靖孝展 マンガアーキテクチャ――建築家の不在

TOTOギャラリー・間(南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F)

  • 2024/1/15(月)
  • イベント
  • フォトニュース
吉村靖孝展 マンガアーキテクチャ――建築家の不在

 新しい住まい方や暮らしのあり方を模索し、多角的な視点で現代社会における建築の可能性に取り組む建築家・吉村靖孝の展覧会が開催中。
吉村が手がけた7つのプロダクトと、7人の漫画家とのコラボレーションで、建築家の作家性を問う。

 吉村は建築活動の初期の頃より、建築が人びとのふるまいなどの自発的な動きと、社会制度や状況など多様な社会的条件との架け橋になれるよう、両者のさまざまな関係構築を試みてきた。
 既成のテント倉庫で木造建築を覆うことで、大きな一室空間の下で子どもがのびのびと過ごせる子育て支援施設を実現した「フクマスベース」(2016年)や、人間だけでなく動物もともに幸せな人生を送れるアニマル・ウェルフェア社会を構想した「滝ヶ原チキンビレジ」(2021年)など、これから日本が直面する人口減少社会における、新しい住まいや暮らしのあり方を模索している。

 本展では、吉村が探究するこれら現代社会における建築の拡張性をさらに進めるために、仮に建築家個人の作家性を「不在」にしたら何が起きるのか? 吉村が自らの作品を題材に、7人の漫画家にゆだねた作品を通して問いかける。

 吉村は2年前のこの時期に、脳出血で倒れた。回復の時期と展覧会・出版の時期と重なり、どのような形で行えるのか模索する中、早稲田大学 吉村研究室の学生と話し合い、学生からの「漫画で行うのはどうか」という意見を採用。学生が自ら主体となって開催へと働きかけた。

 本展を主催する、「TOTOギャラリー・間」の代表・筏久美子氏は、プレスカンファレンスの挨拶にて、
「吉村さんは、建築をいかに社会に開くのか、一歩先を見据え、建築が仕組みとして、どのように社会に組みこまれるとより良い社会の基盤になれるのか、を提案してきました。漫画家の方たちには、その次にあり得る世界を描いていただけました。吉村さんの建築に触発されて自然に出てきた物語には、未来を志向するようなことがたくさん漫画に出ているので、ぜひ読んでいただきたい」と語った。

 吉村は、「建築家の不在というテーマは、僕が不在となることが必然となってしまったので、学生がたくさん参加してくれて成立しました。でも、建築家のクリエイティビティが全くなくなったかというと、そうでもないということを感じてほしい」と語り、展示会場ツアーにて作品の解説を行った。

 展覧会会場は2フロアに分かれ、3Fでは7つの漫画作品と、その世界観にあわせた展示を観ることができる。
漫画は拡大版で展示されており、どの作品も独自の世界が展開された内容で、読んでいて引き込まれてしまう。拡大されていることで、通常版では見落としてしまいそうな細部まで丁寧に描かれていることがわかる。
 また、作品と連動した展示は、それぞれの見せ方が面白い。
例えば横浜の「Red Light Yokohama」を題材に描かれた漫画「緑の光線」とリンクした展示では、漫画の登場人物が見た世界を追体験できる。
どのようなものが見えてくるのか、ぜひ会場で漫画を読み、体験してみてほしい。

 4Fの展示「建築のフロア」では、漫画と同じ番号がふってある吉村の7つの作品の模型や設計図をみることができ、漫画のもとになっている建築について詳しく知ることができる。また、二つのフロアをつなぐ中庭では、パースを描く時に使われたスケールフィギュアが、吉村の学生時代に使っていたものから最近の作品のものまで展示されている。

 2FのBookshop TOTOでは、漫画と建築を図面や写真・論考で紹介する建築作品集「MANGARCHITECTURE(マンガアーキテクチャ) 建築家の不在」も購入できるので、手に取ってゆっくり楽しんでみるのも良いだろう。

 建築家の自己表現が問われる舞台で、あえて作家性を消し「漫画」というメディアに注目した本展は、建築に造形の深い人はもちろん、そうでない人も楽しめる内容となっている。
事前申し込み不要のナイトツアーのある日は、開館時間が20時まで延長されるので、仕事終わりに観ることも可能だ。

【会期】1月16日(木)〜3月23日(日)
【休館日】月曜・祝日 ※2023年2月23日(日・祝)は開館 ※TOTOギャラリー・間ウェブサイトにて最新情報をご確認ください
【時間】11:00〜18:00 ※入場無料

記事を探す

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。